47 / 425
【 戦争 】
ホテルに行こう 前編
しおりを挟む
相和義輝は放心していた。初めての体験に、初めてを失った事に。
「俺、汚されたんだね……」
「大丈夫かな。お腹の中にあった汚いのは全部捨てたから」
「やめてお願いだからそれ以上言わないで!」
追い打ちをかけてくる魔人エヴィアの言葉に心が折れる。本人に悪意はないが、それだけに刺さる。
――カプ。
何かを察したのか、魔人スースィリアがエヴィアの頭を噛み、そのままポーーーイっと放り投げた。
「うわ、1キロくらい飛んでったな……」
あまりの事に唖然としエヴィアに目を取られた瞬間、いつの間にかスースィリアが口を開いてすぐ横に来ていた。
え!? 俺を食うの??
不思議と恐怖は感じないのに体は動かない。だが――
わしゅわしゅわしゅわしゅ……わしゅわしゅわしゅわしゅ……。
スースィリアは甘噛み……いや、甘咀嚼をしてくる。
ああ、何だろう。くすぐったい様な指圧されているような、とても落ち着いた感じになる。
慰めてくれているのだろうか? そういえば、家で飼ってたちこたんも、俺が落ち込んでいる時はこうやって慰めてくれたっけなぁ……。
――かぷ。
「いっでえっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
何か怒らせたのだろうか、噛まれてしまった。さっきからブシュブシュ蒸気を噴出しているし、頭の上も硬いままで尻が痛い。噛まれた部分は傷こそないが、真っ赤なあざになっている。
うーむ………謝った方がいいと思うけど、何が原因で怒らせたのかがわからない。心の機微だけで考えが伝わる相手に表面上の謝罪など無意味だろう。
仕方がないので、ひたすら頭を撫で続ける……。
(あ、少し柔らかくなった。機嫌が戻ってきたのかな?)
しかし奇妙な廃墟だ。蔦に絡まれた四角い建物には四角い窓があり、そこからは中に木のイスやテーブル、陶器らしい食器も見える。しかし人がいた気配が無い。道路もコンクリート舗装だが、車や自転車と言った移動手段が見当たらない。
「なあ、ここには昔、どんな人が住んでいたんだ?」
かつては人間がここにいたのか――そう思い聞いてみるが。
「ここは最初からこうかな。誰かが住んだ事は無いと思うよ。でも魔人ウラーザムザザがずっと住み続けてた気がするよ」
へえ魔人が……いやそっちも気になるが――
「誰も住んだことが無いってどういう事さ。どう見ても廃墟だろ? じゃあ誰が作ったんだ?」
「言った通りかな。一番最初からこの形に作ったから、ここはずっとこのままかな。作ったのはエヴィアだよ。昔はエヴィアじゃなかったけど」
言われた言葉を理解するのに手間がかかる。今のエヴィアになる前の魔人が作ったのか、この形に。最初から廃墟として……。
「魔人はどうして別の魔人になるんだ?」
エヴィアの昔はどうだったのだろうか? なぜ今の姿になったのだろうか? 聞きたい事が多すぎて、逆にシンプルな質問になる。
「生き方を変えたい時にかな。山で暮らしたいと海で暮らしたい、そんな、どっちも選べないって時に分裂するよ。それで、また出会った時に融合すれば、互いの記憶も知識も一つに合わさるよ」
それは……便利だ。一部の共有でなく全部纏めて一人になるのか。王様と乞食、それぞれ別の人生を歩んで融合する。そうすると王様だった頃の記憶も乞食だった頃の記憶も共有される。お互いの良かった点も、苦しかった点も正しく知れる。ならどんな苦しい境遇に生きても、幸せだった相手と融合すればすべて解決。
社会問題など一気に無くなるな。
「魔人が世界を支配した方が良いんじゃないか?」
本気でそう思った……だが――、
「人間はそれを嫌がったかな……」
少し寂しそうな言葉が返ってきた。
そうか……その辺りの事は詳しい魔人に聞かなければ判らない。だが色々あったのだろう。
「あれ? ふと考えてみればエヴィアとスースィリアも元は同じだった頃があるのか?」
「あるかな。大昔は魔人一人だったから、みんなそこから分かれたかな。エヴィアは人間に興味があったからこの姿にしたけど、逆にスースィリアは人間が嫌いだったからこの姿になったよ。姿を見れば、人間への興味の度合も分かるよ」
言葉を持たないスースィリア。威嚇するような姿になって人間から距離を置いた魔人。それでも、こうして俺を運んでくれるのか。
「ありがとうな、スースィリア」
堪らない感謝の気持ちが溢れて頭を撫でまくる。
あ、なんかものすごく柔らかくなってフワフワクッションに戻った。完全に機嫌が直ったと言う事なんだろう。この際だから、道中ずっと撫でていよう。
でもそうか、そうなると魔人ってのは詰まる所一人なのか。様々な姿になって、その間だけは個人のような個性を持つ。だが実質的には一人。どんなに別れても結局は一人……。
人間も何もいなかった頃からいるとエヴィアは言った。この広い世界に魔人だけ。分裂と融合を繰り返せば、世界の知識なんてすぐに尽きてしまうだろう。
方法は解らない。だが異世界召喚、魔王、人間、領域……次第に繋がってきている気がした。
「俺、汚されたんだね……」
「大丈夫かな。お腹の中にあった汚いのは全部捨てたから」
「やめてお願いだからそれ以上言わないで!」
追い打ちをかけてくる魔人エヴィアの言葉に心が折れる。本人に悪意はないが、それだけに刺さる。
――カプ。
何かを察したのか、魔人スースィリアがエヴィアの頭を噛み、そのままポーーーイっと放り投げた。
「うわ、1キロくらい飛んでったな……」
あまりの事に唖然としエヴィアに目を取られた瞬間、いつの間にかスースィリアが口を開いてすぐ横に来ていた。
え!? 俺を食うの??
不思議と恐怖は感じないのに体は動かない。だが――
わしゅわしゅわしゅわしゅ……わしゅわしゅわしゅわしゅ……。
スースィリアは甘噛み……いや、甘咀嚼をしてくる。
ああ、何だろう。くすぐったい様な指圧されているような、とても落ち着いた感じになる。
慰めてくれているのだろうか? そういえば、家で飼ってたちこたんも、俺が落ち込んでいる時はこうやって慰めてくれたっけなぁ……。
――かぷ。
「いっでえっぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
何か怒らせたのだろうか、噛まれてしまった。さっきからブシュブシュ蒸気を噴出しているし、頭の上も硬いままで尻が痛い。噛まれた部分は傷こそないが、真っ赤なあざになっている。
うーむ………謝った方がいいと思うけど、何が原因で怒らせたのかがわからない。心の機微だけで考えが伝わる相手に表面上の謝罪など無意味だろう。
仕方がないので、ひたすら頭を撫で続ける……。
(あ、少し柔らかくなった。機嫌が戻ってきたのかな?)
しかし奇妙な廃墟だ。蔦に絡まれた四角い建物には四角い窓があり、そこからは中に木のイスやテーブル、陶器らしい食器も見える。しかし人がいた気配が無い。道路もコンクリート舗装だが、車や自転車と言った移動手段が見当たらない。
「なあ、ここには昔、どんな人が住んでいたんだ?」
かつては人間がここにいたのか――そう思い聞いてみるが。
「ここは最初からこうかな。誰かが住んだ事は無いと思うよ。でも魔人ウラーザムザザがずっと住み続けてた気がするよ」
へえ魔人が……いやそっちも気になるが――
「誰も住んだことが無いってどういう事さ。どう見ても廃墟だろ? じゃあ誰が作ったんだ?」
「言った通りかな。一番最初からこの形に作ったから、ここはずっとこのままかな。作ったのはエヴィアだよ。昔はエヴィアじゃなかったけど」
言われた言葉を理解するのに手間がかかる。今のエヴィアになる前の魔人が作ったのか、この形に。最初から廃墟として……。
「魔人はどうして別の魔人になるんだ?」
エヴィアの昔はどうだったのだろうか? なぜ今の姿になったのだろうか? 聞きたい事が多すぎて、逆にシンプルな質問になる。
「生き方を変えたい時にかな。山で暮らしたいと海で暮らしたい、そんな、どっちも選べないって時に分裂するよ。それで、また出会った時に融合すれば、互いの記憶も知識も一つに合わさるよ」
それは……便利だ。一部の共有でなく全部纏めて一人になるのか。王様と乞食、それぞれ別の人生を歩んで融合する。そうすると王様だった頃の記憶も乞食だった頃の記憶も共有される。お互いの良かった点も、苦しかった点も正しく知れる。ならどんな苦しい境遇に生きても、幸せだった相手と融合すればすべて解決。
社会問題など一気に無くなるな。
「魔人が世界を支配した方が良いんじゃないか?」
本気でそう思った……だが――、
「人間はそれを嫌がったかな……」
少し寂しそうな言葉が返ってきた。
そうか……その辺りの事は詳しい魔人に聞かなければ判らない。だが色々あったのだろう。
「あれ? ふと考えてみればエヴィアとスースィリアも元は同じだった頃があるのか?」
「あるかな。大昔は魔人一人だったから、みんなそこから分かれたかな。エヴィアは人間に興味があったからこの姿にしたけど、逆にスースィリアは人間が嫌いだったからこの姿になったよ。姿を見れば、人間への興味の度合も分かるよ」
言葉を持たないスースィリア。威嚇するような姿になって人間から距離を置いた魔人。それでも、こうして俺を運んでくれるのか。
「ありがとうな、スースィリア」
堪らない感謝の気持ちが溢れて頭を撫でまくる。
あ、なんかものすごく柔らかくなってフワフワクッションに戻った。完全に機嫌が直ったと言う事なんだろう。この際だから、道中ずっと撫でていよう。
でもそうか、そうなると魔人ってのは詰まる所一人なのか。様々な姿になって、その間だけは個人のような個性を持つ。だが実質的には一人。どんなに別れても結局は一人……。
人間も何もいなかった頃からいるとエヴィアは言った。この広い世界に魔人だけ。分裂と融合を繰り返せば、世界の知識なんてすぐに尽きてしまうだろう。
方法は解らない。だが異世界召喚、魔王、人間、領域……次第に繋がってきている気がした。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる