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【 戦争 】
コンセシール商国
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翌日――コンセシール商国首都ヤハネバ
高級そうな家具、壁に賭けられて見事な絵画、飾られた彫刻や陶器はどれも素人が見ても解る程の名品であり、敷かれた絨毯も大きく、そして豪勢だ。
見るからに贅を尽くした豪華な執務室といった部屋。ただ金銀といった派手な装飾は無く、主の気質がうかがえる。その窓際に置かれた椅子に座る一人の男の背後には、丸々としたメイド達が控えている。
男の身長は182センチ、真っ白いモヒカンに野心が光となって溢れ出しているような輝きを放つ緋色の瞳。一糸まとわぬ上半身の筋肉は山の様に盛り上がり、まるで鎧を纏っているとさえ錯覚させる。
下は赤茶色の無地のスラックスに高級そうな毛皮の黒い靴。
褐色に染まった背中から腕にかけて彫られている黒い入れ墨は、三つの星に七本線。コンセシール商国の紋章だ。
ビルバック・アルドライト。515歳。コンセシール商国最高意思決定評議委員長。商国唯一の階位1にして、事実上の国家元首である。
「ふぅむ……また妙な揺さぶりをかけてきたものだな」
商国には様々な情報が入る。それこそ大小様々な情報が。
その中でも魔族領侵攻軍の、実質司令官の動向や人間関係は逐一報告される。
『リッツェルネール・アルドライトに新恋人!? 今度のお相手は下級身分の兵士。お名前はカリオン・ハイマー男性92歳』
別に戦地の高官が、夜の寝所に恋人を連れ込むなど珍しい事ではない。
だが、男女平等に戦地で消費される世界では男色というものが極めて珍しい。
そしてカリオン・ハイマー。自分の商家も建てられない一般市民。しかもかなり下級の出だ。細かく小さな功績は幾つか立てているが、大きな戦功は無く特別技能も無し。
この貧相な男に情欲を駆り立てられた……世界が魔族に降伏したとしても、それはあり得ない。
「何かの偽装にしてはお粗末だ。こいつはダミーだな。狙いは別だろうが、一応3点に繋がる人物を探せ、物でも良い。一番重要なのは、この重要な時期を狙って奴が動いたと言う事だ。その理由を重点的に調べろ」
「かしこまりました、当主様」
丸々としたメイドの一人が一礼して下がっていく。
その動きに合わせるかのように、同じく丸々と太ったメイドが進みだし、一枚の書状を党首に差し出す。それは、世界連盟準備会合開催予定の知らせであった。
「それで我らが主人殿は何と言ってきた」
「ティランド連合王国は会合の前に詳細を詰めたいとの事で、7月29日に中央までお越しくださいとのことです」
ビルバックの問いに対し、片眼鏡を付け通信機を持ったメイドが報告する。
「はっ! どうせいつもの金の無心だろう。好きなだけくれてやれ。どんな猛獣も餌を食っている間だけは大人しいものだ」
コンセシール商国。全長1976キロメートル、最大幅356キロメートルに渡る細長い国土を持つ商業国家。
コンセシールの名は血族や土地によるものではなく、あくまでブランド名だ。
北の細い国境はアイオネアの門を守護するランオルド王国に接し、南の細い境界線は海だ。
そして東西に長い国境線の東を現盟主であるティランド連合王国軍に、西を軍事大国とも呼ばれるムーオス自由帝国に接していた。
国内はアルドライト商家、アンドルスフ商家、ファートウォレル商家の三大商家とフォースノー商家、アーウィン商家、マインハーゼン商家、キスカ商家、ペルカイナ商家、ズーニック商家、コルホナイツ商家の七商家を中心に運営され、その他に様々な小さな商家、それに自らの商家を建てられない平民で構成される。
国民は全て、産まれた商家の家柄と、軍政様々な功績などによって付けられた階位と呼ばれるランクにより分類される。商売の国であると同時に、明確に区分けされた階級社会でもあった。
国土から算出される適正人口は2000万人程度だが、魔族領攻略で相当数の人間が減った今でも尚、人口5300万人を抱える事が出来る経済大国。
過去3回ティランド連合王国と戦い勝利したが、現当主ビルバック・アルドライトの代に政治的降伏。以後はティランド連合王国に正式に加盟しない属国扱いとなる。
完全に併合されないのは商国が他国との太いパイプを持っているためであり、また戦争自体には1度も負けていないという実績と名声、それに保有する戦力によるものである。
だが、ティランド連合王国と戦いで多大な功績をあげたリッツェルネールと、降伏を決定したビルバックとの間には大きな溝があるとされてきた。
かつては、それぞれの持つ権力の違いから大した問題は無いとされてきた。それが今や、リッツェルネールはいつの間にか魔族領侵攻軍の実質的なトップに立っている。
軍事と政治、周囲はいつこの二人が大きな火災を起こし、商国を焼き尽くすのではないかと危惧していた。
高級そうな家具、壁に賭けられて見事な絵画、飾られた彫刻や陶器はどれも素人が見ても解る程の名品であり、敷かれた絨毯も大きく、そして豪勢だ。
見るからに贅を尽くした豪華な執務室といった部屋。ただ金銀といった派手な装飾は無く、主の気質がうかがえる。その窓際に置かれた椅子に座る一人の男の背後には、丸々としたメイド達が控えている。
男の身長は182センチ、真っ白いモヒカンに野心が光となって溢れ出しているような輝きを放つ緋色の瞳。一糸まとわぬ上半身の筋肉は山の様に盛り上がり、まるで鎧を纏っているとさえ錯覚させる。
下は赤茶色の無地のスラックスに高級そうな毛皮の黒い靴。
褐色に染まった背中から腕にかけて彫られている黒い入れ墨は、三つの星に七本線。コンセシール商国の紋章だ。
ビルバック・アルドライト。515歳。コンセシール商国最高意思決定評議委員長。商国唯一の階位1にして、事実上の国家元首である。
「ふぅむ……また妙な揺さぶりをかけてきたものだな」
商国には様々な情報が入る。それこそ大小様々な情報が。
その中でも魔族領侵攻軍の、実質司令官の動向や人間関係は逐一報告される。
『リッツェルネール・アルドライトに新恋人!? 今度のお相手は下級身分の兵士。お名前はカリオン・ハイマー男性92歳』
別に戦地の高官が、夜の寝所に恋人を連れ込むなど珍しい事ではない。
だが、男女平等に戦地で消費される世界では男色というものが極めて珍しい。
そしてカリオン・ハイマー。自分の商家も建てられない一般市民。しかもかなり下級の出だ。細かく小さな功績は幾つか立てているが、大きな戦功は無く特別技能も無し。
この貧相な男に情欲を駆り立てられた……世界が魔族に降伏したとしても、それはあり得ない。
「何かの偽装にしてはお粗末だ。こいつはダミーだな。狙いは別だろうが、一応3点に繋がる人物を探せ、物でも良い。一番重要なのは、この重要な時期を狙って奴が動いたと言う事だ。その理由を重点的に調べろ」
「かしこまりました、当主様」
丸々としたメイドの一人が一礼して下がっていく。
その動きに合わせるかのように、同じく丸々と太ったメイドが進みだし、一枚の書状を党首に差し出す。それは、世界連盟準備会合開催予定の知らせであった。
「それで我らが主人殿は何と言ってきた」
「ティランド連合王国は会合の前に詳細を詰めたいとの事で、7月29日に中央までお越しくださいとのことです」
ビルバックの問いに対し、片眼鏡を付け通信機を持ったメイドが報告する。
「はっ! どうせいつもの金の無心だろう。好きなだけくれてやれ。どんな猛獣も餌を食っている間だけは大人しいものだ」
コンセシール商国。全長1976キロメートル、最大幅356キロメートルに渡る細長い国土を持つ商業国家。
コンセシールの名は血族や土地によるものではなく、あくまでブランド名だ。
北の細い国境はアイオネアの門を守護するランオルド王国に接し、南の細い境界線は海だ。
そして東西に長い国境線の東を現盟主であるティランド連合王国軍に、西を軍事大国とも呼ばれるムーオス自由帝国に接していた。
国内はアルドライト商家、アンドルスフ商家、ファートウォレル商家の三大商家とフォースノー商家、アーウィン商家、マインハーゼン商家、キスカ商家、ペルカイナ商家、ズーニック商家、コルホナイツ商家の七商家を中心に運営され、その他に様々な小さな商家、それに自らの商家を建てられない平民で構成される。
国民は全て、産まれた商家の家柄と、軍政様々な功績などによって付けられた階位と呼ばれるランクにより分類される。商売の国であると同時に、明確に区分けされた階級社会でもあった。
国土から算出される適正人口は2000万人程度だが、魔族領攻略で相当数の人間が減った今でも尚、人口5300万人を抱える事が出来る経済大国。
過去3回ティランド連合王国と戦い勝利したが、現当主ビルバック・アルドライトの代に政治的降伏。以後はティランド連合王国に正式に加盟しない属国扱いとなる。
完全に併合されないのは商国が他国との太いパイプを持っているためであり、また戦争自体には1度も負けていないという実績と名声、それに保有する戦力によるものである。
だが、ティランド連合王国と戦いで多大な功績をあげたリッツェルネールと、降伏を決定したビルバックとの間には大きな溝があるとされてきた。
かつては、それぞれの持つ権力の違いから大した問題は無いとされてきた。それが今や、リッツェルネールはいつの間にか魔族領侵攻軍の実質的なトップに立っている。
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