この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 戦争 】

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 だが何とかしようにも、裸一貫、無位無官の一文無し。そして下手すりゃ子供より弱い。一応魔王の特性か、死にそうな時が判るのと言葉が解るのだけは誇って良い能力だろう。しぶとさだけは一人前ってね。しかし、言葉の理解力は何のためについているんだろう?

「それは魔人と話すためかな」

 どこかでエヴィアの声がする……上流だ。ざぶーん、ざぶーんと音を立てて近づいて来ている。
 だが違う、この音はもっと巨大な生物だ。まさか巨大キリギリスとか持ってきたんじゃないだろうな! もう喰わないぞ!!!

 湯煙を割って表れたのは魔人エヴィアだ、それは間違いない。それも全裸!
 だがまぶたれ、横幅は広くなり、腕も足も膨れ上がっている。それはまさに水死体、いや遮光器土偶のようだ。

 余りの驚きに声も出ない。口を鯉のようにパクパクさせ全身がひきつる。
 互いの間に走る緊張と沈黙。いったいエヴィアに何があったというのか!
 しかし――、

 ざばあああぁぁぁぁぁぁぁ……という水の音と共に魔人エヴィアから大量の水が流れ落ち、その体はみるみる元に戻っていく。
 水で膨らんでたのかよ!

「疲れてる魔王にサービスしてあげたかな。でも魔王は少し特殊性癖?」

 そういや脂肪がついている方が美しいんだったな、この世界。だがあれは土左衛門っていうんだ。
 元に戻った全裸のエヴィアが横に座るが、先ほどのインパクトが強すぎてエロさを欠片も感じない。
 いや元々そう言った感情は無いな。なんか自分の一部みたいな、そんな気分すらある。

「ああ、そうだ。魔人と話すためってどういう意味だ?」

 あまりの衝撃に忘れそうになった話に戻す。

「言葉通りかな。魔人は知識を必要とするの。他の魔人の知らない事、知らない生き物、知らない世界。そう云ったのを求めるの」

 いつの間にかエヴィアが近い!
 隣に座っていたのに、今は俺の右足腿を両足で挟んで座っている――

「そうやって知識を沢山持っている相手を求めるかな。魔王はとても魅力的だよ」

 両手を肩に置き、ぴったりと体をくっつけてくる。瞳は怪しい光を放ち怪しい神秘性を漂わせる。
 む、胸が! 小さな胸が! ―――だが思ったような感触では無い。
 互いの胸が合わさっている部分はまるで張り付いているような、浸透しているような、そんな不思議な感覚に包まれる。

「私たち魔人はこうやって一つの魔人になるかな。でも魔王は魔人じゃないからムリかな。だから言葉で……ごめんね、こんな事して……」

 次第に魔人エヴィアはその輪郭を失い、ゆっくりと、まるで白い大きな餅のように変化していく。

 ああ、こうやって……次第に理解してゆく。エヴィアになって700年くらい、単独行動が魅力のためってこういう意味か。
 魔人は知らない知識を求めて魔人同士で融合し、新しい魔人になるのだ。

 魔人エヴィアの体は溶け、徐々に俺の肌に沿って広がっていく。
 ぴったり合わさった互いの胸から、首、肩、背中、腹……吸いつくように、舐めるように、肌に沿って俺を包んでいく。
 だが、エヴィアは俺一つになることは出来ない。魔王と魔人――それぞれ違う生き物なのだから。

 俺からもまた、その体は白い塊となり、何処が顔で何処が手や足なのかもわからない。想像したこともない、初めて触れる不思議な命。
 だがなぜだろう。この顔も形も解らない生命に慈しみを感じる。

 異性として……いやそれは違う。今エヴィアは人の形をしていない。
 では小動物などに向ける愛玩の心……それも違う。俺はエヴィアに何の優位性も感じていない。むしろ保護されているのは俺の方だ。

 魔人エヴィアの体はどんどん柔らかく溶けて肌の上を進む。もう水をすくっているような感覚でエヴィアを掴むことは出来ない。一方でエヴィアも俺と融合する事は無い。
 互いに決して交わる事の無い関係……

 だけど理由は解らないが、この生命がたまらなく愛おしい――そう心の底で感じる。


 ん、ちょっと待って!
 皮膚を浸透していくエヴィアが次第に下へと延びてゆく。
 だが俺の口の部分は空けてある、理性は残っているはずだ。

「ちょっとストップ! エヴィアストップ! その先はまずい!」

 だがエヴィアは止まらない。ゆっくりと張り付くように下半身に到達すると、さらなる皮膚を求めてついにある一点に集中する。

「エヴィアストップ! そこはダメ、絶対ダメ! やめてやめてやめてやめて! エヴィアステイ! ステーーーーイ!」

 だが叫びは届かない。エヴィアの動きは止まらない。

「そこはお尻のあ……あっ! あああぁぁァァァァァ――!」


 ――初めてを……失った
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