この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 戦争 】

世界は

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 中央――人類の意思決定機関がそんな事になっているなど、相和義輝あいわよしきには知る由もない。

 日が暮れかかる頃、突然景色が一変する。
 相変わらず緑は多い、しかしの植生は大きく変わり広葉樹や花などが広く分布している。
 だがそれ以上に大きな変化。そこには四角い、相和義輝あいわよしきの良く見知った、しかしどことなく違うコンクリート製の建築物が草花や木に包まれて廃墟のように乱立していた。

 翼竜、そうとしか言えない様な巨大な飛行生物が飛び、大型の爬虫類が建物に張り付きうごめいている。
 植物だけでなく動物にも違いが大きい。気候も変わり、ここは春のように暖かかった。領域を越えたのだ。

「うおおぉぉぉ! 水だ! きれいな水だぁ!」

 だが相和義輝あいわよしきを大いに喜ばせたのは水だった。
 廃墟の中には至る所に水路が張り巡らされ、そこには美しい湧水が流れている。まさに水の都と言った景観だ。
 それを見た途端、迷わず水路の中に飛び込んでいた。

「やっぱりこれだよこれ、ああうめえーー!」

 今までの道中も水はあったが、殆どが土交じりの泥水。後はつたを切って中の水を失敬する程度であった。そんな彼にとって、ここはまさに楽園だ。

「そんなに気に入ったのなら、今日はここで休むかな」

 魔人エヴィアが宣言すると、魔人スースィリアは何時もの様に食事へと向かう。

「あと、これも使うといいかな。魔王はこういうの好きだと思ったよ」

 そう言うと、水路の上流にポイっと何かを投げ入れる。
 そこから白い蒸気が上り、グツグツと水が沸騰する。
 水路の水流はそれほど強くなく、相和義輝あいわよしきの周囲を流れる水は温かいお湯へと変化していった。

「それはいったいなんだ?」

 質問しつつも、ざぶざぶと水を切って確認に行く。そこには金属の小さな矢じりのようなものが沈んでおり、それが周囲の水を沸騰させていたのだ。水路全体から見れば少し温まるくらいだが、矢じり周辺は相当に熱そうだ。

「それは人間が使う武器かな。矢の先端に使うよ。水分に当たると高熱を発するんだよ」

「必殺兵器じゃねぇか!」

 よく見れば返しも付いている。どこに刺さろうが周囲の毛細血管を破裂させ、沸騰した血液は一瞬で心臓を止める。
 これから戦う相手を考えると、お湯は温かいのに体全体は冷えたような感覚がする。

「人間は戦う為に生きてるかな。戦う為に生まれて、より強くなる為に戦う為の社会を作ったんだよ」

「社会のリソース全部戦争にぶち込んで、殺しあってきたってわけか」

 どうしてそうなったのだろう。前魔王が遥かな時をかけて何千億人も殺してきたからか?
 それともこの世界の人間が異常に長寿で、そうしないと社会がパンクしてしまうからだろうか。
 そういやこの世界……人は何年生きるのだろう。魔力が戻るまで5000年、遠いなーとは感じたが、そこまで生きてないと思わなかったのはなぜだろうか。

「じゃあ夕食を取りに行ってくるかな」

 ――そう言って魔人エヴィアも廃墟へと消えていく。どうせ蜜蟻の蜜だろう……そう考えながらも思考へ別の方へと飛んでいく。

 タイミングはベストだった……何千億人も殺した悪い魔王が死んで、世界に平和が訪れました。めでたしめでたし。そこに新たな魔王が誕生し、人類との和平を申し込む。戦争が終わる、たとえ一時的にでも。
 お互いの事はそれから歩み寄っていけばよかった。

 だが終わらなかった。自分が悪だからか? いや違う、まだ魔族とその領域が残っているからだ。まだ人類に戦争を継続する意思と余力があったからだ。

 しかし……オルコスの事を悪く思いたくはないが、別の人物だったらどうだったのだろう。一介の部隊長などではなく、例えばカルター王、或いはリッツェルネール、そう言った国家の中枢にいる人物との交渉だったとしたら? 事態は変わっていたのだろうか。

「そもそも魔王というネーミングが悪い!」

 誰が聞くわけでもなく叫ぶ。
 いや確かに、前の魔王はその名にふさわしい所業だったのだろう。だがそんな名を継ぐ必要はなかったではないか!
 例えば……そう、救世主。そんな感じの名前であれば、事態はもっと別の方向に……。

 湯に頭を浸ける。だめだ、何を考えているんだ俺は。
 まだ空に残っている油絵の具の雲、自分の魔力。それは魔王の証ではないか。
 おそらく魔王の顔や姿、種族、性別、性格……どれもどうでもいいのだ。あの魔力を持っている者を倒す、それだけなのだろう。

 だけど、俺は殺されてやるわけにはいかない。それに、あんなに沢山の人間が死ぬ社会を認めるわけにはいかない。
 考えながら辺りを見渡せば、沢山の種類の植物が見える。そして水路には、小魚やイモリが泳いでいる。

 腐肉喰らいの領域跡……ただの荒れ地だった。リアンヌの丘も、元は何という領域だったのだろう。道中も、門の近くも全て荒れ地。領域を解除するという事は、小さな生き物までも全て殺し尽くし、ただの荒野にするという事なのか……。
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