この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
41 / 425
【 戦争 】

針葉樹と蔓草の森 後編

しおりを挟む
 「ここはなんて領域なんだ?」

「何かの領域って言葉は人間が作ったかな。名前は無いかな」

「じゃあ普段はどうやって伝えてるんだ?」

 そう言うや否や、魔人エヴィアは手を『ぶすっ』と魔人スースィリアの頭に突っ込む。
 表情が無い分、いきなりこういう事をされると心臓に悪い。
 あたふたするこちらを他所に――

「複雑な事はこうやって必要な記憶や考えを渡すかな。魔人に言葉は無いかな。簡単な事なら渡さなくても仕草や波長で判るよ」

 手を引き抜くと、そこには穴どころか傷一つすらついてはいなかった。
 言われてみれば、意思疎通しているように見えるのに、魔人エヴィアと魔人スースィリアが会話しているのを見たことが無い。

 しかし知的生命体として、これ程に有利な生き物を見たことが無いな。どの生物も言葉やフェロモンなど、意思を伝えるのに四苦八苦しているのだ。記憶のやり取りなんて出来たら誤解や間違いなんて生まれようがない。
 あれ……? 少し気になったが後にしよう。

「今のは痛くなかったのか?」

 こちらの方が気になったので、魔人エヴィアが手を突っ込んだあたりをさすりながら聞く。
 勿論、魔人スースィリアが答える事は無く、魔人エヴィアが「大丈夫だよ」と言っただけだった。


 その日の夕飯は蜜蟻の蜜であった。

 そして翌日――。

「蜜蟻の蜜かな。栄養補給は大事だって誰かが言ってたよ」

 またもや葉っぱの上に、たっぷりの蜜を乗せて持ってくる。

 またか! いやもうお願いしますから何か別のものを食べさせて!
 確かに甘い、旨い、そして栄養満点だ。だがそれだけしか食べてないぞ。
 そろそろ他のものが食べたい! 肉とか肉とか肉とか!!

「そういや休憩の度にスースィリアが食事に行ってるけど、何を食べてくるんだ?」

「肉かな」

 魔人エヴィアは簡潔にスパッと答える。

「肉!?」

 これは聞き逃せない!
 というか、今まで蜜蟻の蜜に不平不満を言っていたのに肉があることを黙っていたのはちょっと感心しないぞ。

「すまないスースィリア。余分に採れそうだったら少し分けてくれないか?」

 火が使えそうな環境ではないが、干すという手もある。いや、最悪ナマでも構わない。
 こちらの意図を察したのか察していないのか、魔人スースィリアは森の奥へと消えていった。

「なあエヴィア、君が持っていない記憶をスースィリアが持ってるって事はあるのか?」

 昨日疑問に思ったことを聞いてみる。

「あるかな。でも魔王からの質問には、ちゃんとお互いの記憶を合わせて答えているから、解らない事は解らないよ。古いほど曖昧になるから、昔の事は沢山の魔人が集まらないとだめかな」

 そうか……やはり不明な点等は他の魔人、特に前魔王に近かったという魔人を探すしかないようだ。

「魔人同士で互いが何処にいるかは判るのか? 匂いとかで感知したりは?」

「お互いの位置を知る事は無理かな。魔人は基本的に単独で行動して、あまり他の魔人とは係わらないかな。魅力を上げる? そういう感じ。スースィリアが付いて来てくれてるのは、エヴィアが頼りないからなのだ」

 それ自慢げに言う事じゃないぞ、と話していると魔人スースィリアが戻ってくる。口には足が20本以上ある2メートルはあろうかという巨大なキリギリスを咥えて……

 わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ……。

 ああ凄いな。こうやって食べるんだ。

 わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ……。

 多足のキリギリスらしき生き物は見る見るうちに肉団子へと変わっていく。

 わっしゃわっしゃわっしゃわっしゃ……。

 うわー、器用だなー。
 だが現実逃避の時間は終わり、魔人スースィリアはホイと目の前に巨大多足のキリギリスであった緑色の塊を差し出してくる。

 解っている。スースィリアは、決して嫌がらせをしているのではない。
 まだそれほど長い付き合いではないが、なんというか優しく包み込むような――実際移動中は優しく包まれているが――いやそうじゃなくて、もっとこう心が安らぐような、そんな雰囲気を纏っている。

 一方で魔人エヴィアは表情や姿勢には出さないが、ホレ食ってみろホレホレという空気を全身から醸している。
 こいつめ……。

 ああそうさ、これは俺が望んだ事だ。そしてスースィリアはそれに答えてくれたんだ。
 ならば、それには答える義務がある!

 はむ……。

「臭ぁ! それに草ぁぁ!」

 草味の肉だこれ! しかも固い! 器用に団子にしてあるが外皮は骨よりも固く、筋繊維には歯が立たない。なんかぶよぶよしている部分も固い! それに凄い草臭の汁が手にべっとりと付く。
 無理です……ごめんなさい。

 心の中でギブアップすると、スースィリアは上を向いてゴクンと飲み干した。
 本当にすまない、もう贅沢は言いません。

 昼も夜も、やっぱり蜜蟻の蜜だった……。


「なあ、それで結局どこへ向かっているんだ?」

 翌日も、二人の魔人は迷うようなそぶりは見せずに進み続ける。だが目的地を言った覚えはない。なら魔人達には俺を連れていくべき所があるってことだ。

「最終的には判らないかな。でもとりあえずホテルに連れて行くよ。」

 は? ホテルですと?
 そりゃ宿泊できるところはありがたいし大歓迎だが、この世界でこれからの目的地に設定されると本気で訳が分からない。大体、誰が経営して誰が泊まるのさ。
 謎だらけだが、明日には着くという。ここは楽しみにして待つとしよう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...