この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

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【 戦争 】

針葉樹詰蔓草の森 前編

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 気を失う――目覚める――「蜜蟻の蜜かな」と甘い物が口に流し込まれる――吐く。
 地獄のようなループを廻り、ようやく緑豊かな場所へと到着した。
 この世界に来てから、山中、溶岩、荒れ地、市街、白一色の世界と来ただけに、緑の眩しさと雄大な大自然を前にして、意識が覚醒していくのを感じる。

 辺り一面に大きな針葉樹が生い茂り、下には蔓科の様な草が大量に生えているようだ。
 久々に嗅ぐ、強い自然の香りが心地いい。
 地表近くは微妙にひんやりとした緩やかな空気だが、針葉樹の上の方は強い風が吹いている。

「もう急がなくてもいいかな。魔王が意外と頑丈で驚いたよ。人間死ぬ気になれば何でも出来るって誰かが言ってたよ」

「先ずは逃げ切ったという事かー」

 大の字になって、柔らかな緑の上にゴロリと転がる。
 ひとまず落ち着けるという事は良い事だ。特に今までが今までだっただけに。
 まだ頭がふらふらして立つ事も出来ないが、時間が出来たのならじっくり聞きたい事が幾つもある。

「なあ、魔人って何なんだ?」

 上半身だけ上げてエヴィアに聞いてみる。

「魔人かな」

 魔人エヴィアが答える。

「魔族って何なんだ?」

「魔族かな」

 魔人エヴィアが答える。

「馬鹿なの?」

「それは魔王の聞き方が良くないかな。含まれる意味が多すぎて返答出来ないよ」

 目と声でしか感情が分からないが、少しむくれているようだ。
 具体的、明確な答えが無い質問はダメって事か。
 ――なら、もっとハッキリと聞こう。

「人間と魔王はいつから戦っているんだ?」

「しっかりとは覚えていないほどの昔かな」

「何人くらい殺したんだろうな」

「数千億かな? もっとかな? 細かい数は解らないかな」

 あいつ! あんな優しそうな顔して何してくれてたんだ!
 檻で出会った、と言うより俺を檻に入れた男を思い出す。今ならハッキリ判るが、やはり彼が前魔王で間違いはないと本能が告げている。

「どっちが先に始めたんだ?」

「人間だったかな? 魔王だったかな? 詳しいことはその辺に興味がある魔人に聞いて欲しいかな。エヴィアはそんな昔の事は記憶に留めてないの」

 昔の事か……一体どれだけ長い間戦っているのやら。
 いやまて、今――

「なあ、エヴィアは今何歳なんだ?」

「エヴィアはずっと昔から。人間も何も居なかった時から居るよ。でもエヴィアになったのは700年位前かな」

 イマイチ意味が分からない。
 “産まれた“のではなく“なった“。ではその前は別の存在だったという事か。

「魔人って増えたり減ったりするのか?」

「増えもするし減りもするけど魔人は結局魔人だよ」

 質問攻めはどうだろうかとも危惧するが、案外魔人エヴィアは質問に答える事が楽しいといった様子だ。だがこれ以上は質問する側、つまり俺の知識が足りなすぎる。

「魔族って――」

 いや、ついつい同じ質問をしてしまうところだった。同じことを聞きたいにしても、もっと具体的に聞かないとだめだな。

「人間の言う魔族ってのは何なんだ?」

「人間にとって都合の悪いもの全てかな」

 言ってから『それは人間が言う魔族だよ』と答えられそうな気がしたが、帰っていた答えは少し意外だった。

「人間に役に立つ生き物は家畜。人や家畜を襲う生き物は魔族。病気も魔族が広めたものだし怪我も魔族が起こしたかな。大雨や噴火も魔族の仕業って言ってるよ」


 それはまた……笑うしかない。
 自分の居た世界に魔族なんていない。それでも病気も事故も天災だって起こる。それらには何の関係性も無いのだ。
 だがそれは、魔族がいなかったから分かるのだとも言える。魔族や悪魔と言った存在を立証で出来なかったから、違う視点で研究出来たのだ。

 だが、目の前に明確な敵がいて、悪い事の元凶はこいつだと言われたら信じる信じないでは無い。それを排除しなければ次に進めないのだろう。
 勿論、研究の結果、それは違うのではないかと考える者も居たかもしれない。だが証拠を示せなかったか? それとも世界を動かすほどの力がなかったか?
 どちらにせよ、今の人類が魔王と魔族を倒さなければその先を考えられない事は理解した。

「今、人間と魔族はどっちが強いんだ? いや違うな。どちらの世界の方が広いんだ?」

 すると魔人エヴィアは太い木の幹にゴリゴリと図を描き始める。普通にか細い指でやってるのがちょっと怖い。
 そこには菱形上の大きなものが一つ。そしてその菱形の中、左上の方に小さな丸が一つ。

「これが世界かな。それでここが壁で囲まれた世界かな」

 えっ! ――絶句する。
 世界全体から見ればとても小さな円の世界。そこが魔属領? 世界のこれ程を支配しながら、まだこんな小さな土地を奪うためにあんなに死んでいるのか。

 またゴロリとなって考える。
 いや結局土地の広さじゃないんだろう。魔王がいて魔族がいる。絶滅させなければいけない、その使命感がさせているのだ。
 そして魔王は死んだ。人類の目的は一つ果たされたのだ。
 だけど……今俺がいる。


「結局、魔王ってなんだ? 立場的なものとか、力的なものとか、世界の意義的なものを教えてくれ」

「魔王は知識を運ぶもの……かな」

 突然雰囲気が変わる。
 ゆっくりと近づいてきた魔人エヴィアの手がピタリと肩に触れる。
 ただでさえ表情がないのに、抑揚の無い言葉で言われると、本気で何を考えているかわからない。
 神秘的な瞳、整った顔立ち、白い肌……魔人エヴィアの小さな躰が触れそうなほどに近くなる。
 元々着ていたシャツはゲロ拭き布にしてしまい今は着ていない。魔人エヴィアの服も布一枚、いや上下で2枚体に巻いただけだ。お互いの肌が静かに、そしてゆっくりと……、

 ――カプ。

 今まで静観していた魔人スースィリアがいきなり魔人エヴィアの頭をその巨大な牙――いや、顎肢で噛む。

「いだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 響き渡る魔人エヴィアの悲鳴――いや絶叫!
 そしてブンッッッという大きな音を立てて上にスウィングすると、そのまま勢いよく地面に叩きつけた。

 いやいやいやいやまてまてまてまて!
 叩きつけられたエヴィアは深々と地面に埋まっている。いくら下が柔らかいからといってもこれはどうなの!?
 というより、今その顎肢貫通してたよね、頭に。

 だがそんな心配をよそに魔人スースィリアはブシュゥゥゥゥゥと蒸気のような息を吐いただけで微動だにしない。

「うん、ちょっと驚いたかな」

 魔人エヴィアも何事もなかったかのように起き上がってくる。
 貫通したはずの頭の穴も無い。一体どうなっているんだ。

「質問の答えに戻るかな。立場は人類の敵かな。確か最初の魔王がそう決めたんだよ。あれ、違ったかな? 詳しい事は他の誰かに聞いて欲しいかも」

 今の出来事が全くなかったかのように話が進められていく。

「力的って難しいけど、今の魔王がわかる範囲が全部だよ。」

 ……じゃあこのチョロチョロ魔力で剣も扱えず魔法も使えず、この世界一般に普及しているらしい機械も使えず、叩かれると痛くて斬られれば死にムカデに運ばれればゲロを吐くのが俺の力の全てか。
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