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【 出会いと別れ 】
それぞれの道へ 前編
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白い大地を、黒き巨体が駆け抜ける。
「うぐえ……えぐっ、ぐぅぅぅぅえっぇぇぇぇぇ……」
――ムカデは真っすぐ走らない。
「うえぇっ、えっえっ、ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
相和義輝は後悔していた。今まさにこの状態について。
白き苔の領域を疾走する巨大ムカデ。頭を振りながら、地形に合わせて右へ左、上へ下へと駆け巡る。
「ここは魔王の体には毒かな。もう少ししたら一度外に出て休憩するから、それまで我慢するかな。人生はままならないって誰かが言っていたよ」
どのくらい走ったのかは判らない。正確には最初に魔人スースィリアが暴れだした瞬間、首からゴキッっという音がして気を失った。
それ以降、こうして目を覚めるたびに吐き、また気を失うという行為を、壊れたジェットコースターの様な魔人スースィリアの上で繰り返している。
「少し呼吸が減ってきたかな。これならもう少し行けそうだね」
――それは死にかけてるって事じゃないのか。
ようやく緑が見える場所で止まったのは、もう辺りが少し暗くなってきたころだった。
転がるように落ち――そうになるが、魔人スースィリアの上に撒き散らされた自分の吐瀉物が目に入る。
随分汚してしまったものだ。
持ってきた小さな布では拭ききれる量じゃない。シャツの上を脱ぎ、それで魔人スースィリアの体を拭く。
巨大ムカデの魔人スースィリアはその間ピクリとも動かなかったが、全てが終わると白き苔の領域へと消えていった。
何処へ行くんだろう。そんな事を考えると――
「スースィリアは食事に行ったかな」
何も言わないのに少女が答える。
君は……俺の心が読めるのか? そう考える――
「無理かな?」
――どっちだよ!
「そういえば名乗ってなかったな。俺は相和義輝、日本から来た。君の名は?」
聞いてみるが、答えは返ってくる前に分かっていた。その姿、その命、それらが作るカタチが一つの文字となって読めていたからだ。
「私はエヴィア、魔人エヴィアかな。よろしく、魔王」
相変わらずの無表情に自然体。だが嬉しそうに魔人エヴィアは答えた。
「そういえば、魔王は本当に人間と話し合うのかな? 難しいと思うよ」
確かにその通りだ。話し合いなんてのは互いに聞く気が無ければ成立しない。そして人類の魔王や魔族に対する憎しみも十分に肌で感じた。今こんにちはと言ってもすぐさま武力で返されるだけだろう。
「覚悟は出来てるみたいかな」
そう、必要なのは覚悟だ。だが魔人エヴィアが自分のために人間達を殺した時、それは完全に定まっていた。あれは、自分が殺させたのだと判っている。次は本当の意味で、自分自身で行わなければならない。
「先ずは人間が作った壁までの魔族領を全て取り戻す。わざわざ向こうが引いた境界線だからな。その上で交渉の場を設けたいと思う。それでなんだが――」
空を見上げる。そこには相変わらず油絵の具の空、俺の魔力、俺の一部が広がっていた。
「あれはいつ戻るんだ?」
「消えるかな……」
おい、ちょっと待て! 見ると魔人エヴィアは相変わらずの様相だが、目だけが泳いでいる。
「消えられると困るんだが。おい、ちゃんとこっちを見て話せ」
そういえば体から立ち上っていた煙のようなものが消えている。これは自分の体に収まった、そんな感覚がするが………
ポーチから出かけに持ってきた二重円の周囲にひし形を並べたような模様の石を取り出す。魔力のようなものを調べる、その認識で合っているはずだ。
手に握りしめると、黒い煙が僅かに出る。初めて握った時と量は同じくらい。違いは色だけだ。
「それが今の魔王の魔力かな。残っただけマシだよ。夢も希望もないって誰かが言ってたよ」
がっくりとうなだれる。
「それで消えるって、ポンと消滅しちゃうのか?」
――俺の一部が。
「んー少しづつだけど戻るかな。でも繋ぎとめる力が弱いからやっぱり結構消えちゃうね。でも完全に無くなっちゃうわけじゃないんだよ。この世界に溶け込んでいくだけだから、繋ぐ力が強くなってくればいつかは回収できるかな」
そうか――完全消滅ではなくこの世界に溶け込んでゆくだけ。いつかは戻るのならゆっくり待てばいいか。
「それでどの位で戻りそうだ?」
「5000年くらいかな。夢はいつか叶うって誰かが言ってたよ」
叶う前に絶望しそうですよ……。
暫くして、戻ってきた魔人スースィリアの頭の上に乗る、いや乗せられる。
「この辺りはまだ人間が居るから、いない所まで行くかな。今日は夜通しになるけど頑張ってね。人間諦めが肝心って誰かが言ってたよ」
――いっそ殺してくれ。
「うぐえ……えぐっ、ぐぅぅぅぅえっぇぇぇぇぇ……」
――ムカデは真っすぐ走らない。
「うえぇっ、えっえっ、ぐえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
相和義輝は後悔していた。今まさにこの状態について。
白き苔の領域を疾走する巨大ムカデ。頭を振りながら、地形に合わせて右へ左、上へ下へと駆け巡る。
「ここは魔王の体には毒かな。もう少ししたら一度外に出て休憩するから、それまで我慢するかな。人生はままならないって誰かが言っていたよ」
どのくらい走ったのかは判らない。正確には最初に魔人スースィリアが暴れだした瞬間、首からゴキッっという音がして気を失った。
それ以降、こうして目を覚めるたびに吐き、また気を失うという行為を、壊れたジェットコースターの様な魔人スースィリアの上で繰り返している。
「少し呼吸が減ってきたかな。これならもう少し行けそうだね」
――それは死にかけてるって事じゃないのか。
ようやく緑が見える場所で止まったのは、もう辺りが少し暗くなってきたころだった。
転がるように落ち――そうになるが、魔人スースィリアの上に撒き散らされた自分の吐瀉物が目に入る。
随分汚してしまったものだ。
持ってきた小さな布では拭ききれる量じゃない。シャツの上を脱ぎ、それで魔人スースィリアの体を拭く。
巨大ムカデの魔人スースィリアはその間ピクリとも動かなかったが、全てが終わると白き苔の領域へと消えていった。
何処へ行くんだろう。そんな事を考えると――
「スースィリアは食事に行ったかな」
何も言わないのに少女が答える。
君は……俺の心が読めるのか? そう考える――
「無理かな?」
――どっちだよ!
「そういえば名乗ってなかったな。俺は相和義輝、日本から来た。君の名は?」
聞いてみるが、答えは返ってくる前に分かっていた。その姿、その命、それらが作るカタチが一つの文字となって読めていたからだ。
「私はエヴィア、魔人エヴィアかな。よろしく、魔王」
相変わらずの無表情に自然体。だが嬉しそうに魔人エヴィアは答えた。
「そういえば、魔王は本当に人間と話し合うのかな? 難しいと思うよ」
確かにその通りだ。話し合いなんてのは互いに聞く気が無ければ成立しない。そして人類の魔王や魔族に対する憎しみも十分に肌で感じた。今こんにちはと言ってもすぐさま武力で返されるだけだろう。
「覚悟は出来てるみたいかな」
そう、必要なのは覚悟だ。だが魔人エヴィアが自分のために人間達を殺した時、それは完全に定まっていた。あれは、自分が殺させたのだと判っている。次は本当の意味で、自分自身で行わなければならない。
「先ずは人間が作った壁までの魔族領を全て取り戻す。わざわざ向こうが引いた境界線だからな。その上で交渉の場を設けたいと思う。それでなんだが――」
空を見上げる。そこには相変わらず油絵の具の空、俺の魔力、俺の一部が広がっていた。
「あれはいつ戻るんだ?」
「消えるかな……」
おい、ちょっと待て! 見ると魔人エヴィアは相変わらずの様相だが、目だけが泳いでいる。
「消えられると困るんだが。おい、ちゃんとこっちを見て話せ」
そういえば体から立ち上っていた煙のようなものが消えている。これは自分の体に収まった、そんな感覚がするが………
ポーチから出かけに持ってきた二重円の周囲にひし形を並べたような模様の石を取り出す。魔力のようなものを調べる、その認識で合っているはずだ。
手に握りしめると、黒い煙が僅かに出る。初めて握った時と量は同じくらい。違いは色だけだ。
「それが今の魔王の魔力かな。残っただけマシだよ。夢も希望もないって誰かが言ってたよ」
がっくりとうなだれる。
「それで消えるって、ポンと消滅しちゃうのか?」
――俺の一部が。
「んー少しづつだけど戻るかな。でも繋ぎとめる力が弱いからやっぱり結構消えちゃうね。でも完全に無くなっちゃうわけじゃないんだよ。この世界に溶け込んでいくだけだから、繋ぐ力が強くなってくればいつかは回収できるかな」
そうか――完全消滅ではなくこの世界に溶け込んでゆくだけ。いつかは戻るのならゆっくり待てばいいか。
「それでどの位で戻りそうだ?」
「5000年くらいかな。夢はいつか叶うって誰かが言ってたよ」
叶う前に絶望しそうですよ……。
暫くして、戻ってきた魔人スースィリアの頭の上に乗る、いや乗せられる。
「この辺りはまだ人間が居るから、いない所まで行くかな。今日は夜通しになるけど頑張ってね。人間諦めが肝心って誰かが言ってたよ」
――いっそ殺してくれ。
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