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【 出会いと別れ 】
人間世界へ向けて 後編
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「すみません、お待たせしました」
「何、急にどうしたの? アレ? もしかしてアレ? さっきので? いやー、アンタ元気すぎるでしょ。あはははははは。それであの兵隊さんに? あーはっはっはっはっはっ!」
「絶対に違います!」
とりあえず、最初に聞きたかった質問に戻る。
「領域とか解除とかって何ですか?」
「領域ってのは魔族が生む土地さ」
彼女は続ける。
「魔族領ってのはでたらめな土地でね、燃える大地の隣に氷の平野がある、滝を下ったら砂漠だった、そんな感じに無茶苦茶に土地がくっついてんのさ。そんで、それらの土地をそれぞれ何々の領域って呼んでるわけ。アンタが居たところが炎と石獣の領域、ここが腐肉喰らいの領域の跡地さ」
「跡地?」
「そう、跡地。領域は粗方の魔族を倒し終わったら解除士って連中が解除するんだよ。大体20年くらいかけてね。そうすると、こうした普通の土地になるんだ。もう今までの魔族は環境が合わなくて住めない、人間の土地さね。」
人間の土地か――もちろん新しい土地は欲しいのだろう。だが、この地を追われた生き物はどうしたのだろう。ひっそりと生きているのか、それとも死滅してしまうのか……。
だが、部外者である自分にそれを口にする権利は無い。魔族領の広さも、人類圏の広さも、この世界の人口も社会も、まだ何も知らないのだ。
「壁を作る前は、人間領も領域だらけでね。そりゃもう酷かったそうだよ。壁様々だねぇ」
「もう人間の世界に領域ってのは残っていないの?」
「あぁ、まだ東の方には少しだけ残ってるそうだよ、宗教の違いてやつかねぇ。だからかねぇ、病気も災害も無くなりゃしないのさ。でも壁の中が全部終わったら、最後はそこさ。世界中の軍隊がぜーんぶ押し寄せて、全部きれいさっぱり無くしてくれるよ。あはははははは」
まだ戦うんだ……多くの人が傷つき、あれほどの白骨の山を築き、悪い魔王とやらも死んで、それでもまだ殺し合うのか。
それに、生物の多様性は元いた世界では基本中の基本だ。魔族って言われても、それがどんな生き物なのかも分からない。だが、そうやって殺し尽くした結果残ったのが、この荒れ地と骨だけなんじゃないのか……。
下乳のお姉さんは気さくで豪快、話しやすく親しみやすく、下手をすれば殺される危険は別として楽しい道中であった。
そうこうするうちにやたら広い、だだっ広いという表現がふさわしい場所に出る。
そこには大小無数のテントや土で出来た建築物が立ち並び、単なる駐屯地というより大きな町の様相だった。
「着いたよ。ここが本日の終点、リアンヌの丘さね」
建物は土造りの1階建てから3階建てで、兵舎や野戦病院として用いられているようだった。
負傷兵の搬送を手伝い中に入った時も、床も壁も石を混ぜ込んだ、漆喰よりもなお土っぽい風合いである。建築物の技術はさほど高くないのだろうか?
話にちょくちょく出てきた壁も城壁みたいなものを想像していたが、この様子だと日干し煉瓦を積んだような粗末なものかもしれない。
一方で駐屯地としては壮観だった。
見たことも無い鎧を着、武器を持った兵士が各所を行軍している。
数も規模も活気も、出発地点とは比べ物にならない。
特に目を引いたのは白銀に青の鎧、それに人の背丈よりも大きな巨大盾や長大な長槍を持った一団であった。数も多く、それがここの主力部隊のように見える。
女性の兵士が思ったよりも多いことも驚いた。皆一様に若い外見だが、自分が知るような華やかさは無い。全員鋭い目つきで動きにも無駄が無く、兵士なんだなと感じさせる。
男女比は2:1位だろうか。有利不利で考えれば、男が多くなるのは当たり前だ。だから普通は兵士ってのは男ばっかりだ。なのにこの比率……
消耗品……赤紫の鎧を着た兵士が言っていた言葉。どうせ死ぬなら、男も女も関係無いのかもな……。
「そういえばオルコス、なんでリアンヌの丘って名前なの?」
素朴な疑問を訪ねる。
「ああ、以前ここが領域だった頃にエメラルドドラゴンってのが住み着いていたんだよ。それを退治して死んだのがリアンヌって訳さ。英雄的な行為で死ぬと、その名が地名になる。兵士全員の憧れさ。自分が生きた証がこの世界に残ることになるんだ」
オルコスもやはり憧れているんだろうか……そして自分は、この世界に何を残すのだろうか。
頭がぼんやりする。考えるな、係わるな、静かに生きろと誰かに言われているような気がする……。
夕飯は固く小さなパンとほうれん草のような野菜、それに足が6本の斑模様の蛙が丸のまま入ったスープであった。
見た目はアレだが、うん、骨が少なくて意外と食べやすい。
周りの兵士達も黙々と食べている。これが普通の食事なのか、それとも戦場だから仕方がないのかはわからなかった。
◇ ◇ ◇
夜、夢を見た。
目の前には小さな丸い窓。その向こうには幸せそうな自分がいる。
晴れの日も雨の日も、春も夏も秋も冬も、ずっとずっと幸せそうに笑っている自分がいる。
後ろにも小さな丸い窓。そこから誰かが聞いてくる。
――幸せかい?
誰が? 窓の向こうの俺かい? ああ、彼は幸せそうだ。何も考えず何も知らず、いつでもずっと笑っている。
だけど……あれは俺じゃないだろ?
「何、急にどうしたの? アレ? もしかしてアレ? さっきので? いやー、アンタ元気すぎるでしょ。あはははははは。それであの兵隊さんに? あーはっはっはっはっはっ!」
「絶対に違います!」
とりあえず、最初に聞きたかった質問に戻る。
「領域とか解除とかって何ですか?」
「領域ってのは魔族が生む土地さ」
彼女は続ける。
「魔族領ってのはでたらめな土地でね、燃える大地の隣に氷の平野がある、滝を下ったら砂漠だった、そんな感じに無茶苦茶に土地がくっついてんのさ。そんで、それらの土地をそれぞれ何々の領域って呼んでるわけ。アンタが居たところが炎と石獣の領域、ここが腐肉喰らいの領域の跡地さ」
「跡地?」
「そう、跡地。領域は粗方の魔族を倒し終わったら解除士って連中が解除するんだよ。大体20年くらいかけてね。そうすると、こうした普通の土地になるんだ。もう今までの魔族は環境が合わなくて住めない、人間の土地さね。」
人間の土地か――もちろん新しい土地は欲しいのだろう。だが、この地を追われた生き物はどうしたのだろう。ひっそりと生きているのか、それとも死滅してしまうのか……。
だが、部外者である自分にそれを口にする権利は無い。魔族領の広さも、人類圏の広さも、この世界の人口も社会も、まだ何も知らないのだ。
「壁を作る前は、人間領も領域だらけでね。そりゃもう酷かったそうだよ。壁様々だねぇ」
「もう人間の世界に領域ってのは残っていないの?」
「あぁ、まだ東の方には少しだけ残ってるそうだよ、宗教の違いてやつかねぇ。だからかねぇ、病気も災害も無くなりゃしないのさ。でも壁の中が全部終わったら、最後はそこさ。世界中の軍隊がぜーんぶ押し寄せて、全部きれいさっぱり無くしてくれるよ。あはははははは」
まだ戦うんだ……多くの人が傷つき、あれほどの白骨の山を築き、悪い魔王とやらも死んで、それでもまだ殺し合うのか。
それに、生物の多様性は元いた世界では基本中の基本だ。魔族って言われても、それがどんな生き物なのかも分からない。だが、そうやって殺し尽くした結果残ったのが、この荒れ地と骨だけなんじゃないのか……。
下乳のお姉さんは気さくで豪快、話しやすく親しみやすく、下手をすれば殺される危険は別として楽しい道中であった。
そうこうするうちにやたら広い、だだっ広いという表現がふさわしい場所に出る。
そこには大小無数のテントや土で出来た建築物が立ち並び、単なる駐屯地というより大きな町の様相だった。
「着いたよ。ここが本日の終点、リアンヌの丘さね」
建物は土造りの1階建てから3階建てで、兵舎や野戦病院として用いられているようだった。
負傷兵の搬送を手伝い中に入った時も、床も壁も石を混ぜ込んだ、漆喰よりもなお土っぽい風合いである。建築物の技術はさほど高くないのだろうか?
話にちょくちょく出てきた壁も城壁みたいなものを想像していたが、この様子だと日干し煉瓦を積んだような粗末なものかもしれない。
一方で駐屯地としては壮観だった。
見たことも無い鎧を着、武器を持った兵士が各所を行軍している。
数も規模も活気も、出発地点とは比べ物にならない。
特に目を引いたのは白銀に青の鎧、それに人の背丈よりも大きな巨大盾や長大な長槍を持った一団であった。数も多く、それがここの主力部隊のように見える。
女性の兵士が思ったよりも多いことも驚いた。皆一様に若い外見だが、自分が知るような華やかさは無い。全員鋭い目つきで動きにも無駄が無く、兵士なんだなと感じさせる。
男女比は2:1位だろうか。有利不利で考えれば、男が多くなるのは当たり前だ。だから普通は兵士ってのは男ばっかりだ。なのにこの比率……
消耗品……赤紫の鎧を着た兵士が言っていた言葉。どうせ死ぬなら、男も女も関係無いのかもな……。
「そういえばオルコス、なんでリアンヌの丘って名前なの?」
素朴な疑問を訪ねる。
「ああ、以前ここが領域だった頃にエメラルドドラゴンってのが住み着いていたんだよ。それを退治して死んだのがリアンヌって訳さ。英雄的な行為で死ぬと、その名が地名になる。兵士全員の憧れさ。自分が生きた証がこの世界に残ることになるんだ」
オルコスもやはり憧れているんだろうか……そして自分は、この世界に何を残すのだろうか。
頭がぼんやりする。考えるな、係わるな、静かに生きろと誰かに言われているような気がする……。
夕飯は固く小さなパンとほうれん草のような野菜、それに足が6本の斑模様の蛙が丸のまま入ったスープであった。
見た目はアレだが、うん、骨が少なくて意外と食べやすい。
周りの兵士達も黙々と食べている。これが普通の食事なのか、それとも戦場だから仕方がないのかはわからなかった。
◇ ◇ ◇
夜、夢を見た。
目の前には小さな丸い窓。その向こうには幸せそうな自分がいる。
晴れの日も雨の日も、春も夏も秋も冬も、ずっとずっと幸せそうに笑っている自分がいる。
後ろにも小さな丸い窓。そこから誰かが聞いてくる。
――幸せかい?
誰が? 窓の向こうの俺かい? ああ、彼は幸せそうだ。何も考えず何も知らず、いつでもずっと笑っている。
だけど……あれは俺じゃないだろ?
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