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【 出会いと別れ 】
天幕 前編
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”キャーーーーーーーーーーー!”
声の無い悲鳴が上がり、自然と腹が凹み、心臓他の臓器が全部口から飛び出したような錯覚を覚える。
「あははぁ、冗談よぉ~。びっくりした?」
背後から緑の髪の魔法使いエンバリ―が現れる。
あんた王様と一緒に行ったんじゃなかったのかい!
眼だけで抗議するが、当然ながら聞いちゃ――いや、見ちゃいない。
「コンセシール商国の最高意思決定評議会からの通達よ。貴方も、これからはこちらですって」
そう告げられると、二人は急いで懐から金属板を取り出す。
あれ? 青い鎧を着ていた青年は自然に金属板の下部分を隠しているが、亜麻色の少女は親指と人差し指でちょこんと摘まんでいるだけで裏面は見放題だ。それに――書いてある内容が違う。
正確には青い鎧を着ていた青年が隠している部分には別の文言が描かれていた。
まあ他言無用。命を掛けてまで理由を聞くつもりは無かった。
金属板に刻印されていた文字は、別の文字に変化していた。
”コンセシール商国アルドライド商家42-941-10-40-1-71-0。侵攻軍最高意思決定評議委員長。階位6”
肩書など随分簡単に変わるものだとリッツェルネールは思うが、システムとはこんなものだとも思う。
前回の侵攻軍最高意思決定評議委員長はエンゼラス・ファートウォレル。
アルドライド商家、アンドルスフ商家に並ぶ三大商家ファートウォレル商家の血族。
我らの頂く3つ星の一つだ。
確かその地位になったのは1か月ほど前で、その時にはこちらも祝辞を送ったものだが……そうか、死んだのか――それしか感慨は湧かなかった。
特定の誰かが死んだらといって、空白になるだの全てが終わるだなんて事は無い。社会がそれを許しはしない。
空白になった席はすぐに誰かが埋め、その業務を引き継ぐのだ。そしてそれが、ついに自分に回ってきた……ただそれだけの事でしかない。
「君はどうだい?」
「階位8に上がりましたよ。遂に議員資格を取得です」
メリオに尋ねると、そう嬉しそうに答えた。
◇ ◇ ◇
天幕に入ると、そこには近隣に展開していた各国の代表や代理人が集まっていた。
中央には長いテーブルが置かれ、奥に一脚、左に3脚、右に4脚のイスが配置されている。
そこに座る4人の国王、一人の公爵、一人の司祭、そして一人の大臣が、この地域近隣の攻略を受け持っている最重要人物達だ。
一番奥、中央に座るのはディランド連合王国国王カルター・ハイン・ノヴェルド、ティランド。
我らが元首でもある。
その一つ手前、右にはゼビア王国代理のクランピッド・ライオセン大臣。
左にはユーディザード王国国王マリクカンドルフ・ファン・カルクーツ。
その手前の右にはディランド連合王国所属、マリセルヌス王国国王ロイ・ハン・ケールオイオン。
同じくディランド連合王国所属、ハーノノナート公国大公ユベント・ニッツ・カイアン・レトーが左に座る。
更に手前右にはナルナウフ教団司祭サイアナ・ライナア。
そして左側はスパイセン王国国王シコネフス・ライン・エーバルガット。
自分はナルナウフ教団司祭サイアナ・ライナアの隣に席を設けられていた。
――コンセシール商国は正式にはディランド連合王国属国コンセシール商国、正式に連合に加盟していない属国だ。妥当なところだろう……。
自分より下位に座るものは無いが、天幕の中には各国の将軍が数人控えている。
本来であればリッツェルネールは彼らより格下で、ここに座るような立場にはない。それが認められたという事は、それだけ魔王討伐に参加し生き残ったことが大きかったのだろう。
リッツェルネールは座りつつ、改めて集まったメンツを見渡す。
――もうこれしか残っていないのか……。
前世紀、黒き永遠を打倒する前進歴997年5月1日、魔族領大進行決議が世界連盟で発足した。
そこからは食料を備蓄し、なおかつ人口制限を部分解除するという無茶な政策が取られた。
国家同士は持て余す人口を選別するような戦争を繰り返しつつも徐々に纏まり、碧色の祝福に守られし栄光暦155年1月1日、遂に全人類総力を投じての魔族領への大侵攻が開始された。
出陣式の際にはまた意思決定評議委員の一人であったリッツェルネールは、首脳の集まるような場には参加していない。しかし当時は、城の大ホールからも溢れるほどの人がいたという。
まだまだ人類は十分な人口を保持している。だが、第一次から第八次までの侵攻戦で、優秀な人間達は次々と死んでいった。今は何処も、国内での立て直しを図っている時期だ。
「まずは恐悦至極でございます、カルタ―国王陛下。そしてリッツェルネールコンセシール商国侵攻軍最高意思決定評議委員長殿」
身長185センチ、白灰の長髪に深い緑の目。彫りの深い顔立ちに長身だが16歳程度に見える若い顔、痩せたひ弱な体、その外見からは似つかわしくない羊の毛のような豊かな髭を蓄えた、“有能ではないが無能でもない”の異名を持つスパイセン王国のシコネフス王が戦勝のあいさつを行うと、他の面々も一斉に立ち上がり口々に謝辞を述べる。
だが当のカルターは、煩わしいと言わんばかりに手を挙げて制すると、
「よい――それよりもだ、我々が炎と石獣の領域に突入している間に何があった」
「はっ! 国王陛下! それにつきましては私から報告させていただきます!」
身長160センチと小柄ながら、幅広で筋肉質。甲虫を思わせる厚い赤紫の全身鎧に、一本角の兜を左手で小脇に抱えている。
団子の様な顔に赤い短髪。一言で表すのなら『丸』、そんなイメージの男だ。黄色い真摯な瞳からは、まさに忠臣といった印象を受ける。
カルタ―の後ろに控えていた、ティランド連合王国軍のミュッテロン将軍だ。
「既に先にいらした皆様に報告したように――」
長々と調査結果を報告したが、要点は部隊の壊滅と原因不明の2点だけである。
総司令部跡地の惨状は見てのとおりであり、他の4つの司令部もまた同様にやられていた。
「おそらく魔族の仕業でしょう」――最後はこう結んだが、これは人類がどうしようもない現状になった時に使う定例句みたいなものだ。
リッツェルネールとしては、そんな報告を受けるくらいならカンザヴェルト分隊長から自国の軍勢の状態を一刻も早く聞きたいものだと思う。
声の無い悲鳴が上がり、自然と腹が凹み、心臓他の臓器が全部口から飛び出したような錯覚を覚える。
「あははぁ、冗談よぉ~。びっくりした?」
背後から緑の髪の魔法使いエンバリ―が現れる。
あんた王様と一緒に行ったんじゃなかったのかい!
眼だけで抗議するが、当然ながら聞いちゃ――いや、見ちゃいない。
「コンセシール商国の最高意思決定評議会からの通達よ。貴方も、これからはこちらですって」
そう告げられると、二人は急いで懐から金属板を取り出す。
あれ? 青い鎧を着ていた青年は自然に金属板の下部分を隠しているが、亜麻色の少女は親指と人差し指でちょこんと摘まんでいるだけで裏面は見放題だ。それに――書いてある内容が違う。
正確には青い鎧を着ていた青年が隠している部分には別の文言が描かれていた。
まあ他言無用。命を掛けてまで理由を聞くつもりは無かった。
金属板に刻印されていた文字は、別の文字に変化していた。
”コンセシール商国アルドライド商家42-941-10-40-1-71-0。侵攻軍最高意思決定評議委員長。階位6”
肩書など随分簡単に変わるものだとリッツェルネールは思うが、システムとはこんなものだとも思う。
前回の侵攻軍最高意思決定評議委員長はエンゼラス・ファートウォレル。
アルドライド商家、アンドルスフ商家に並ぶ三大商家ファートウォレル商家の血族。
我らの頂く3つ星の一つだ。
確かその地位になったのは1か月ほど前で、その時にはこちらも祝辞を送ったものだが……そうか、死んだのか――それしか感慨は湧かなかった。
特定の誰かが死んだらといって、空白になるだの全てが終わるだなんて事は無い。社会がそれを許しはしない。
空白になった席はすぐに誰かが埋め、その業務を引き継ぐのだ。そしてそれが、ついに自分に回ってきた……ただそれだけの事でしかない。
「君はどうだい?」
「階位8に上がりましたよ。遂に議員資格を取得です」
メリオに尋ねると、そう嬉しそうに答えた。
◇ ◇ ◇
天幕に入ると、そこには近隣に展開していた各国の代表や代理人が集まっていた。
中央には長いテーブルが置かれ、奥に一脚、左に3脚、右に4脚のイスが配置されている。
そこに座る4人の国王、一人の公爵、一人の司祭、そして一人の大臣が、この地域近隣の攻略を受け持っている最重要人物達だ。
一番奥、中央に座るのはディランド連合王国国王カルター・ハイン・ノヴェルド、ティランド。
我らが元首でもある。
その一つ手前、右にはゼビア王国代理のクランピッド・ライオセン大臣。
左にはユーディザード王国国王マリクカンドルフ・ファン・カルクーツ。
その手前の右にはディランド連合王国所属、マリセルヌス王国国王ロイ・ハン・ケールオイオン。
同じくディランド連合王国所属、ハーノノナート公国大公ユベント・ニッツ・カイアン・レトーが左に座る。
更に手前右にはナルナウフ教団司祭サイアナ・ライナア。
そして左側はスパイセン王国国王シコネフス・ライン・エーバルガット。
自分はナルナウフ教団司祭サイアナ・ライナアの隣に席を設けられていた。
――コンセシール商国は正式にはディランド連合王国属国コンセシール商国、正式に連合に加盟していない属国だ。妥当なところだろう……。
自分より下位に座るものは無いが、天幕の中には各国の将軍が数人控えている。
本来であればリッツェルネールは彼らより格下で、ここに座るような立場にはない。それが認められたという事は、それだけ魔王討伐に参加し生き残ったことが大きかったのだろう。
リッツェルネールは座りつつ、改めて集まったメンツを見渡す。
――もうこれしか残っていないのか……。
前世紀、黒き永遠を打倒する前進歴997年5月1日、魔族領大進行決議が世界連盟で発足した。
そこからは食料を備蓄し、なおかつ人口制限を部分解除するという無茶な政策が取られた。
国家同士は持て余す人口を選別するような戦争を繰り返しつつも徐々に纏まり、碧色の祝福に守られし栄光暦155年1月1日、遂に全人類総力を投じての魔族領への大侵攻が開始された。
出陣式の際にはまた意思決定評議委員の一人であったリッツェルネールは、首脳の集まるような場には参加していない。しかし当時は、城の大ホールからも溢れるほどの人がいたという。
まだまだ人類は十分な人口を保持している。だが、第一次から第八次までの侵攻戦で、優秀な人間達は次々と死んでいった。今は何処も、国内での立て直しを図っている時期だ。
「まずは恐悦至極でございます、カルタ―国王陛下。そしてリッツェルネールコンセシール商国侵攻軍最高意思決定評議委員長殿」
身長185センチ、白灰の長髪に深い緑の目。彫りの深い顔立ちに長身だが16歳程度に見える若い顔、痩せたひ弱な体、その外見からは似つかわしくない羊の毛のような豊かな髭を蓄えた、“有能ではないが無能でもない”の異名を持つスパイセン王国のシコネフス王が戦勝のあいさつを行うと、他の面々も一斉に立ち上がり口々に謝辞を述べる。
だが当のカルターは、煩わしいと言わんばかりに手を挙げて制すると、
「よい――それよりもだ、我々が炎と石獣の領域に突入している間に何があった」
「はっ! 国王陛下! それにつきましては私から報告させていただきます!」
身長160センチと小柄ながら、幅広で筋肉質。甲虫を思わせる厚い赤紫の全身鎧に、一本角の兜を左手で小脇に抱えている。
団子の様な顔に赤い短髪。一言で表すのなら『丸』、そんなイメージの男だ。黄色い真摯な瞳からは、まさに忠臣といった印象を受ける。
カルタ―の後ろに控えていた、ティランド連合王国軍のミュッテロン将軍だ。
「既に先にいらした皆様に報告したように――」
長々と調査結果を報告したが、要点は部隊の壊滅と原因不明の2点だけである。
総司令部跡地の惨状は見てのとおりであり、他の4つの司令部もまた同様にやられていた。
「おそらく魔族の仕業でしょう」――最後はこう結んだが、これは人類がどうしようもない現状になった時に使う定例句みたいなものだ。
リッツェルネールとしては、そんな報告を受けるくらいならカンザヴェルト分隊長から自国の軍勢の状態を一刻も早く聞きたいものだと思う。
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