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【 出会いと別れ 】
青空 後編
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「おおーい」
もうこれで全てが終わった。そんな気分をぶち壊す呑気な声。
相和義輝は一段下にあった空間に落ちていた。周囲はさらに深くまで落ち込み、ここで止まらなかったら死んでいただろう。近くにいた数人の兵士、そしてカルターもまたここにいた。
「本当にしぶといね」
そんな王様に、青い鎧の青年が上から声をかける。
同時に亜麻色の髪の少女がが鞄からロープを取り出している様子が僅かに見えた。救助は簡単に出来そうだ。
だが、その瞬間地面に微細な振動が走る。
「カルター!」
「分かっている!」
壁から飛び出してきた蛸足を大斧で切り飛ばす。だがやはり、切られた断面からは新しい触手が生えてくる。これではキリが無い。
生き残った兵士も応戦するが、戦力彼我は圧倒的だ。巻きつかれた兵士の体は砕け、奈落の穴へと落ちて行く。
魔法使いは!? そう思い見渡すと、頭を押さえながらふらふらと立ち上がっているところだ。そして、その後ろから迫る一本の触手。
「危ない!」
相和義輝は本能で飛び出していた。そして手近にあった、落ちている誰かの巨大な剣を掴む。が――ガクンと体勢が崩れ、肩から地面に激突する。掴んだ剣は刃渡り170センチほど。刀身幅も18センチはある。その重量は、到底易々と持ち上がる物ではなかった。
「何やってんだ、馬鹿野郎!」
頭の上を王様の斧が飛び、緑の髪の魔法使いを狙っていた触手に当たる。だが当たっただけで切断には至らない。しかしそれで怯んだのだろうか? 殺戮を謳歌していた触手たちは出てきた穴から引っ込んでいった。
「お前、武器も持てねぇのか!」
「いや、持つも何も……」
王様に怒鳴られあれこれしてみるが、剣は押しても引いてもビクともしない。
いやなんなのこの人達!? どうやってこんなもの持ってるの? 相和義輝としては不平の一つも言いたいところだ。
すまねぇな、こいつは俺の剣だ。
そう言って、一人の兵士が剣を持つ。その腕に、一瞬だけ銀の鎖が浮かび霧散する。
兵士の身長は相和義輝と同じくらいだろうか。だが両肩の筋肉は異様なほどに盛り上がり、並の人間では無い事が見て取れる。
黒交じりの真紅の髪に、目じりの下がった青い瞳。見た目は18歳から19歳程か。顔は優しそうに見え、筋肉とのギャップが凄い。
何か問題が起きたら、にっこり笑って握り潰す――物理で。そんなイメージの男だった。
王様と同じような赤紫の全身鎧だが、左の手甲には3本の鋭い爪跡があり、胸元の中央には大きな凹み。さらに右は肩から上腕、手甲まで鎧が引き裂かれている。
先ほどの戦闘の跡だけでは無いだろう。ここに来るまでに、いったいどれほどの死線を潜って来たのか。
「こいつは魔力を入れる事でようやく扱える。魔力が強ければ、それだけ軽く硬くなるわけさ。鎧も同じだ」
そう言いながら、軽々と持ち上げ鞘に納める。そして――
「さっき見たお前の魔力じゃ、精々小剣程度だな」――そう付け加えた。
どうやら、この世界の俺の魔力は相当に弱いらしい。
鍛えることは出来るのだろうか?
何とか登り切った先には、澄み渡る青空と……何だこの状態。
下を流れる溶岩は池のようであり、そこに何があったのかは判別できない。遠くに噴煙は確認できるが、火山弾が飛んでいない所を見ると噴火は収まっているのだろう。
周りでは王様他が空を見ながら歓喜の涙を流しているが、やはりその波に乗れない。
ぽつん……この世界に、一人取り残されているような気がする。
「それで、これからどうするよ。進むにしても引き返すにしても決めるべき指針がねぇ。このままじゃじり貧だぞ」
多少苛立ちと焦るを感じる王様の言葉。だが青い鎧の青年は、さほど気にした風も無く飄々と「飛甲騎兵を使いましょう」と言った。
飛甲騎兵――一瞬興味が湧くが、まるで誰かがかき消したようにそれは消える。
あれ? と思っている内に、もう向こうの話は先に進んでしまっていた。
やはり変だな……聞きたいことは山ほどあり、言いたいことも山ほどある。しかしそれは一瞬で霧のように消え、後には聞こうと思っていたんだけどな、言おうと思っていたんだけどな、そんな感覚しか残らない。不思議な気分だ……。
だけど今は考えても仕方が無い。彼らと一緒にいる以外の選択肢が無いのだから。
もうこれで全てが終わった。そんな気分をぶち壊す呑気な声。
相和義輝は一段下にあった空間に落ちていた。周囲はさらに深くまで落ち込み、ここで止まらなかったら死んでいただろう。近くにいた数人の兵士、そしてカルターもまたここにいた。
「本当にしぶといね」
そんな王様に、青い鎧の青年が上から声をかける。
同時に亜麻色の髪の少女がが鞄からロープを取り出している様子が僅かに見えた。救助は簡単に出来そうだ。
だが、その瞬間地面に微細な振動が走る。
「カルター!」
「分かっている!」
壁から飛び出してきた蛸足を大斧で切り飛ばす。だがやはり、切られた断面からは新しい触手が生えてくる。これではキリが無い。
生き残った兵士も応戦するが、戦力彼我は圧倒的だ。巻きつかれた兵士の体は砕け、奈落の穴へと落ちて行く。
魔法使いは!? そう思い見渡すと、頭を押さえながらふらふらと立ち上がっているところだ。そして、その後ろから迫る一本の触手。
「危ない!」
相和義輝は本能で飛び出していた。そして手近にあった、落ちている誰かの巨大な剣を掴む。が――ガクンと体勢が崩れ、肩から地面に激突する。掴んだ剣は刃渡り170センチほど。刀身幅も18センチはある。その重量は、到底易々と持ち上がる物ではなかった。
「何やってんだ、馬鹿野郎!」
頭の上を王様の斧が飛び、緑の髪の魔法使いを狙っていた触手に当たる。だが当たっただけで切断には至らない。しかしそれで怯んだのだろうか? 殺戮を謳歌していた触手たちは出てきた穴から引っ込んでいった。
「お前、武器も持てねぇのか!」
「いや、持つも何も……」
王様に怒鳴られあれこれしてみるが、剣は押しても引いてもビクともしない。
いやなんなのこの人達!? どうやってこんなもの持ってるの? 相和義輝としては不平の一つも言いたいところだ。
すまねぇな、こいつは俺の剣だ。
そう言って、一人の兵士が剣を持つ。その腕に、一瞬だけ銀の鎖が浮かび霧散する。
兵士の身長は相和義輝と同じくらいだろうか。だが両肩の筋肉は異様なほどに盛り上がり、並の人間では無い事が見て取れる。
黒交じりの真紅の髪に、目じりの下がった青い瞳。見た目は18歳から19歳程か。顔は優しそうに見え、筋肉とのギャップが凄い。
何か問題が起きたら、にっこり笑って握り潰す――物理で。そんなイメージの男だった。
王様と同じような赤紫の全身鎧だが、左の手甲には3本の鋭い爪跡があり、胸元の中央には大きな凹み。さらに右は肩から上腕、手甲まで鎧が引き裂かれている。
先ほどの戦闘の跡だけでは無いだろう。ここに来るまでに、いったいどれほどの死線を潜って来たのか。
「こいつは魔力を入れる事でようやく扱える。魔力が強ければ、それだけ軽く硬くなるわけさ。鎧も同じだ」
そう言いながら、軽々と持ち上げ鞘に納める。そして――
「さっき見たお前の魔力じゃ、精々小剣程度だな」――そう付け加えた。
どうやら、この世界の俺の魔力は相当に弱いらしい。
鍛えることは出来るのだろうか?
何とか登り切った先には、澄み渡る青空と……何だこの状態。
下を流れる溶岩は池のようであり、そこに何があったのかは判別できない。遠くに噴煙は確認できるが、火山弾が飛んでいない所を見ると噴火は収まっているのだろう。
周りでは王様他が空を見ながら歓喜の涙を流しているが、やはりその波に乗れない。
ぽつん……この世界に、一人取り残されているような気がする。
「それで、これからどうするよ。進むにしても引き返すにしても決めるべき指針がねぇ。このままじゃじり貧だぞ」
多少苛立ちと焦るを感じる王様の言葉。だが青い鎧の青年は、さほど気にした風も無く飄々と「飛甲騎兵を使いましょう」と言った。
飛甲騎兵――一瞬興味が湧くが、まるで誰かがかき消したようにそれは消える。
あれ? と思っている内に、もう向こうの話は先に進んでしまっていた。
やはり変だな……聞きたいことは山ほどあり、言いたいことも山ほどある。しかしそれは一瞬で霧のように消え、後には聞こうと思っていたんだけどな、言おうと思っていたんだけどな、そんな感覚しか残らない。不思議な気分だ……。
だけど今は考えても仕方が無い。彼らと一緒にいる以外の選択肢が無いのだから。
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