この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
16 / 425
【 出会いと別れ 】

互いの考え

しおりを挟む
「どうです?」

 青い鎧の青年が王様に尋ねる。




「ふむ……」

 これはショック性の記憶喪失だな――カルターはそう確信した。
 多くの戦場で、魔族領で、こういった症状になる兵士は決して少なくはなかった。

 ――見たところ、身長は175センチ。黒い髪に黒い目……東方の上か下か。服はカルネス森林同盟の物に似ているが、どう見ても軍服ではないか。筋肉はそこそこあるが、戦闘で付いたものではないな。

 そして檻を見る。
 魔族に捕らえられた人間が食料として、または玩具おもちゃとしてなぶりモノにされる例もまた、決して少ないわけではない。
 見たところ水や食料が与えられた形跡もない。

 仲間が決して来ないであろう魔王の本拠地で、孤立し慰み者になる。
 それがどれほど精神的な負荷を与えたのか。

 ――魔族どもめ、卑劣な真似を……。

 それにしてもと、リッツェルネールを見る。

 ――あいつもそう思っているのだろうな。だから助け舟を出した。博愛主義の奴らしい。

「檻を上げてやれ!」

 カルターは部下たちにそう命じた。




「ヨイッショォォォ!」

 檻は6人がかりでようやく落ちあがり、ガシャンと耳障りな音を立てて横に落とされる。
 その間、相和義輝あいわよしきは頭を抱えて小さくうずくまっていた。

 その様子を見ながらリッツェルネールは思う――これは記憶操作だなと。
 情報を聞き出したら即殺す――それは下の下策だ。
 真偽を確かめなければならないし、真実だったら更に先、その情報の枝葉まで聞き尽くす。
 そうして相手よりもこちらの情報が上回った時点で処分すればいいのだ。

 だが、こちらが知った情報を誰かに別の人間に知られてしまったら、それはもう意味を失う。相手からすれば、何を知って何を知らないか――それ自体が大きな武器になるからだ。
 だから利用価値があるうちは記憶操作をして、一部の記憶を封じるのだ。
 コンセシール商国に属する彼にとっては常識であった。

 それに彼は認識票の裏を読んだ。
 表には大した情報は無い。誕生日や血族――いわゆる一族の等級と人数、それに肩書程度であり、共通語で描かれたそれは、誰にでも読む事が出来る。

 だが裏はコンセシール商国の文字だ。こちらは商国関係者か、それなりの勉強をしないと読むことが出来ない。しかも彼の目はその下まで……暗号化された、一見するとただの模様。だがそこまで読んでいたように見えた。
 その辺りが魔族に捕まっていた理由であろうか……。

 それにしても冷静過ぎる。
 普通ならもっとパニックを起こし、こちらの質問など遮って当然聞いてしかるべきことを聞いてくる。
 リッツェルネールはここまで自然な形での記憶封鎖を見たことが無かった。

 ――だが、こう云ったものは元々が魔族の技術だ。魔法魔術は魔族の範疇はんちゅう、ここに上手が居たとしてもおかしくはないな。

 そしてカルターを見る。

 ――色々聞いてみたが、この状態で役に立つ人間ではない。これから安全に戻れるという保証もないのに、足手まといを確保する理由は一つ。いざという時の囮……そして餌。正直、その位しか役には立たないだろうが、殺すために、生かして連れて行くというのも皮肉なものだ。

 自分にはまだそこまでは割り切れない――そう考えていた。




 さようなら檻。こんにちは自由。
 これでようやく体を伸ばせる!
 そう思い立ち上がるが、すぐに立ち眩みが起きて再びへたり込んでしまう。

「あらあら、もう少し安静にしていないとだめでよぉ~」

 そうだ、後ろから聞こえてきた声!
 急いで振り向いた先には、先ほどのビア樽……いや、魔法を使っていた女性だ。

 改めて見ると、やはりすごい迫力だ。こちらを上から覗き込んでいる姿勢なので、どうしても恐怖を感じる。熊とかに出会ったら、こんな感じを受けるのだろうか。しかも首に掛けられた、黒い髑髏ドクロの首飾りが更なる威圧感を醸し出す。
 だが、何よりも目を惹いたのはその髪。
 肩までかかる緩くカールしたそれは、鮮やかな緑色をしていた。

「あんまり美人だからって、ジロジロ見るのは失礼ですよ!」

 思わずハァ!? と言いそうになる。

 見ると、亜麻色あまいろの髪の少女が少し怒ったような顔をしてこちらを見ている。
 先ほどの青い鎧を着た青年と同じ鎧だが、左肩の部分が破壊されている。触手がもう少しずれていたら、間違いなく死んでいただろう。
 緋色の大きな瞳に褐色の肌。それに水晶で出来たような、美しい装飾が施された片眼鏡に肩掛けの大きなカバン。
 身長は150センチもない。鎧で分からないが、胸は確実に平らと予想できた。

 どう見てもこちらの方が美少女と思えるが、イヤミを言っているようには見えない。

「うふふ~、わたしは気にしてないわよ」

 男性の視線には慣れている、そういった感じの余裕だった。
 やっぱりあれ、この世界では美人なのか。そもそもいきなり檻の中では別の世界も何もあったものではなかったが、こう見たことも無い人間、装備、価値観に触れると日本じゃないと実感してくる。

「い、いや、髪の色が気になって……」

 慌てて答えると――、

「真実です」

 胸の髑髏ドクロがそう答えた。お前かよ!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...