13 / 425
【 出会いと別れ 】
二人の出会い 後編
しおりを挟む
「きゃあ!」
「メリオ!」
触手の一本が、小柄な、亜麻色の髪の少女の肩を貫いた。だが幸い砕けたのは鎧だけ。だが金属で出来ているはずのそれはガラスの様に砕け散り、更なる触手が上から彼女と青い鎧の青年に襲い掛かる。
「やめろぉぉぉ!」
相和義輝思わず叫んだ。だが、触手の動きは止まらない。少女を庇った青年は、上から襲来した触手を転がって躱したかに見えた。だがそれは途中でヒトデのように5本に分裂し、その内の一本が彼の右足を捕らえる。
「クソ!」
手に持った剣で足に巻き付いた触手を刺すが、それはまるで鋼のようにビクともしない。この硬度にも関わらず、これ程の柔軟性。上位の魔族だ。リッツェルネールは死を覚悟する。
「ドウリャアアァァァァァ!」
だがその瞬間、耳をつんざくような怒声と共に一人の男が飛び込んでくる。
筋肉質の、ゴリラのような巨大な体躯。身長は196センチとかなりの上背だ。
掘りの深い顔は精悍で整っているが、新旧様々な傷跡が走り、どちらかと言えば凶悪な面構えだ。少し癖のある炎の様な真っ赤な長髪に、自信に満ちた青色の瞳。
全身を赤紫の全身鎧で包んでいるが、兜は無い。手にはとても人間が使うようなサイズではない、 柄の長さが2メートル、刃渡り1メートル60センチ、刀身最大幅58センチの両刃斧を持っている。
その巨大な凶器が振り落とされると、青い鎧の青年に巻き付いていた触手が根元から切断される。体液のようなものは出ない。斬られた触手はすぐに動きを止め、白い骨のような質感に変化していった。
「カルター!」
「リッツェルネールか。お前も大概しぶといな」
そう言いながら、大男の斧が一閃。巻き込まれた数本の触手が断たれ、ゴトゴトと墜ちていく。
だが斬られた部分からは新たな触手が生えてくる。状況は何も変わらない。
「おいおい、こいつが魔王じゃないだろうな?」
「魔王が蛸でしたなんて言ったら、僕は一生笑ってやるよ」
ようやく青い鎧の青年と亜麻色の髪の少女も立ち上がるが、周りは既に触手で包まれている。絶対絶命だ。だがそこへ、大男と似た赤紫色の鎧を着た兵士達が飛び込んで来た。
「陛下、ご無事ですか!」
「陛下を御守りしろ!」
――陛下? 相和義輝は少し不思議に思う。ここはどう見ても王宮や迎賓館ではない。しかも完全武装し、考えられないような巨大な武器を持って、見た事も無い化け物と戦っている。それは彼が思い描く王様とは、全くかけ離れたものだった。
「廊下も駄目です! 触手がああぁぁ!」
唯一の出入り口から叫び声がすると共に、真っ赤な飛沫が爆ぜたのが見える。
新たに来た兵士達も、触手の前に成す術無しだ。唯一陛下と呼ばれた大男だけが何とか奮戦している状況で、このままではそう長くはもたないだろう。
幸い檻の中には攻撃してこないが、それは遅かれ早かれの差だと思われる。おそらく、動くものを優先して攻撃しているのだろう。
来るのが味方とは限らない――そんなことを言われた気がするが、これはもう敵だ味方の状況じゃない。相和義輝は、初めて見る殺戮の現場にも関わらず、冷静にそんな事を考えていた。
「埒があかん! エンバリ―」
乱戦の中、それが誰に向けられた言葉なのかは分からない。だが一つ、この戦場に一つの変化が現れた。
その人――いや、女性は金属板を張り合わせた、ミノムシの様な鎧を着ていた。手に持つのは、王様の得物と比べても引けを取らない巨大槌。両の先端が尖っており、見た目は削岩機の様だ。
身長は170センチか少し低い。バストは140センチを越えそうな程に豊満で、ウエストはそれより少し太いだろうか。ヒップもバストと負けず劣らずの超巨漢。ビア樽……そんな言葉が頭に浮かぶ。
丸い顔には、細い切れ長の瞳に団子のような鼻。そして大きな口。だが何より目を惹いたのは、その鮮やかな薄緑の髪だった。
その彼女の手に幾重にも光で作れらた銀の鎖が浮かび、消える。そのたびに彼女の足元から轟々と風が渦を巻き、次第にそれは部屋全体を包み込む。
余りの強風で目を開けていられない――普通ならそれほどの風だ。だがその時、相和義輝は目を離すことが出来なかった。初めて見た人間の起こす奇跡――魔法。それを目の当たりにし、彼は自分の心が子供の様に湧き立つのを感じていた。
渦巻く風は意思があるかのように辺りの触手に巻き付くと、それを捻じり切断していく。その様子を一言で現すのなら、『信じられない』という光景だった。
風が過ぎ去った後、捻じ切られた触手の根元は地面へと戻って行く。それらが全て視界から消えた時、部屋にもまた、ようやく静寂が訪れた。
助かった……そう考えて良いのだろうか。だが――
「おい、こいつは何だ」
間髪入れず、王様の青い冷たい瞳がこちらを睨んでいた。
「メリオ!」
触手の一本が、小柄な、亜麻色の髪の少女の肩を貫いた。だが幸い砕けたのは鎧だけ。だが金属で出来ているはずのそれはガラスの様に砕け散り、更なる触手が上から彼女と青い鎧の青年に襲い掛かる。
「やめろぉぉぉ!」
相和義輝思わず叫んだ。だが、触手の動きは止まらない。少女を庇った青年は、上から襲来した触手を転がって躱したかに見えた。だがそれは途中でヒトデのように5本に分裂し、その内の一本が彼の右足を捕らえる。
「クソ!」
手に持った剣で足に巻き付いた触手を刺すが、それはまるで鋼のようにビクともしない。この硬度にも関わらず、これ程の柔軟性。上位の魔族だ。リッツェルネールは死を覚悟する。
「ドウリャアアァァァァァ!」
だがその瞬間、耳をつんざくような怒声と共に一人の男が飛び込んでくる。
筋肉質の、ゴリラのような巨大な体躯。身長は196センチとかなりの上背だ。
掘りの深い顔は精悍で整っているが、新旧様々な傷跡が走り、どちらかと言えば凶悪な面構えだ。少し癖のある炎の様な真っ赤な長髪に、自信に満ちた青色の瞳。
全身を赤紫の全身鎧で包んでいるが、兜は無い。手にはとても人間が使うようなサイズではない、 柄の長さが2メートル、刃渡り1メートル60センチ、刀身最大幅58センチの両刃斧を持っている。
その巨大な凶器が振り落とされると、青い鎧の青年に巻き付いていた触手が根元から切断される。体液のようなものは出ない。斬られた触手はすぐに動きを止め、白い骨のような質感に変化していった。
「カルター!」
「リッツェルネールか。お前も大概しぶといな」
そう言いながら、大男の斧が一閃。巻き込まれた数本の触手が断たれ、ゴトゴトと墜ちていく。
だが斬られた部分からは新たな触手が生えてくる。状況は何も変わらない。
「おいおい、こいつが魔王じゃないだろうな?」
「魔王が蛸でしたなんて言ったら、僕は一生笑ってやるよ」
ようやく青い鎧の青年と亜麻色の髪の少女も立ち上がるが、周りは既に触手で包まれている。絶対絶命だ。だがそこへ、大男と似た赤紫色の鎧を着た兵士達が飛び込んで来た。
「陛下、ご無事ですか!」
「陛下を御守りしろ!」
――陛下? 相和義輝は少し不思議に思う。ここはどう見ても王宮や迎賓館ではない。しかも完全武装し、考えられないような巨大な武器を持って、見た事も無い化け物と戦っている。それは彼が思い描く王様とは、全くかけ離れたものだった。
「廊下も駄目です! 触手がああぁぁ!」
唯一の出入り口から叫び声がすると共に、真っ赤な飛沫が爆ぜたのが見える。
新たに来た兵士達も、触手の前に成す術無しだ。唯一陛下と呼ばれた大男だけが何とか奮戦している状況で、このままではそう長くはもたないだろう。
幸い檻の中には攻撃してこないが、それは遅かれ早かれの差だと思われる。おそらく、動くものを優先して攻撃しているのだろう。
来るのが味方とは限らない――そんなことを言われた気がするが、これはもう敵だ味方の状況じゃない。相和義輝は、初めて見る殺戮の現場にも関わらず、冷静にそんな事を考えていた。
「埒があかん! エンバリ―」
乱戦の中、それが誰に向けられた言葉なのかは分からない。だが一つ、この戦場に一つの変化が現れた。
その人――いや、女性は金属板を張り合わせた、ミノムシの様な鎧を着ていた。手に持つのは、王様の得物と比べても引けを取らない巨大槌。両の先端が尖っており、見た目は削岩機の様だ。
身長は170センチか少し低い。バストは140センチを越えそうな程に豊満で、ウエストはそれより少し太いだろうか。ヒップもバストと負けず劣らずの超巨漢。ビア樽……そんな言葉が頭に浮かぶ。
丸い顔には、細い切れ長の瞳に団子のような鼻。そして大きな口。だが何より目を惹いたのは、その鮮やかな薄緑の髪だった。
その彼女の手に幾重にも光で作れらた銀の鎖が浮かび、消える。そのたびに彼女の足元から轟々と風が渦を巻き、次第にそれは部屋全体を包み込む。
余りの強風で目を開けていられない――普通ならそれほどの風だ。だがその時、相和義輝は目を離すことが出来なかった。初めて見た人間の起こす奇跡――魔法。それを目の当たりにし、彼は自分の心が子供の様に湧き立つのを感じていた。
渦巻く風は意思があるかのように辺りの触手に巻き付くと、それを捻じり切断していく。その様子を一言で現すのなら、『信じられない』という光景だった。
風が過ぎ去った後、捻じ切られた触手の根元は地面へと戻って行く。それらが全て視界から消えた時、部屋にもまた、ようやく静寂が訪れた。
助かった……そう考えて良いのだろうか。だが――
「おい、こいつは何だ」
間髪入れず、王様の青い冷たい瞳がこちらを睨んでいた。
1
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説

異世界遺跡巡り ~ロマンを求めて異世界冒険~
小狸日
ファンタジー
交通事故に巻き込まれて、異世界に転移した拓(タク)と浩司(コウジ)
そこは、剣と魔法の世界だった。
2千年以上昔の勇者の物語、そこに出てくる勇者の遺産。
新しい世界で遺跡探検と異世界料理を楽しもうと思っていたのだが・・・
気に入らない異世界の常識に小さな喧嘩を売ることにした。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる