2 / 425
【 出会いと別れ 】
始まりの物語 後編
しおりを挟む
「お疲れ様でございます、魔王よ」
そこは、眩しい光に包まれた半円形の巨大なホール。
直系は、おおよそ200メートルはあるだろうか。光源は天井全体の発光によるものか。
壁近くの中央には黄金の玉座が置かれ、その背後には2つの扉。
他にも丸い穴が無数に空き、それらは天井にも広がっている。
輝く光の中には、一人の男と5体の異形の者がいた。
魔王と呼ばれた男――先ほどまで相和義輝と話していた少年は、ゆっくりと黄金の玉座に腰かけると静かに息を吐く。
「いや、疲れてなどいないよ。新しい魔王の召喚は無事に終わった。名は相和義輝だ。よろしく頼むよ」
疲れてはいない――そう言った彼だが、その見た目にはハッキリと疲労の色が残る。
そんな彼の正面に立つ異形。
その姿は石のような八角柱の頭に、下から延びるのは多数のタコのような触手。
足はうねうねと忙しなく動くが、頭に口のようなものは見受けられない。いや、それどころか目すらない。
そんな奇妙な姿の異形が、ホールに響く様な言葉を発する。
「新しい魔王を人類に委ねる。それで何かが変わるのでしょうか?」
「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。もしかしたら、彼は魔王ではなく人類として、君達と戦う道を選ぶかもしれないね」
その言を受け、今度は三角錐の体に大豆のような頭、それに四本の手を持つ異形が発言する。
「相変わらず、中々いい加減な人デスネ。イエ、もちろん賛成いたしマスヨ。ソレが魔王の決定でアレバ、我等は意を挟みマセン」
タコの足を持つ異形とは違い、両手を広げ、仰々しく大げさな動き。だがその声には一切の抑揚が無く、いかなる感情も感じられなかった。
「心配せずとも大丈夫だよ。今度の魔王は僕自身が選んだ。義理堅く、人情味があり、何より生きる事に真剣な男だ。能力は足りないかもしれないが、その点は皆が支えてやればいい」
黄金の玉座に張り付いていた異形――大きさは1メートル程か。見た目は灰褐色の大きな尺取虫だ。それが体を曲げ、魔王の耳元へとやって来る。
「ですが、本当によろしいのですか? 魔王の考えは少し理解が出来ません。少なくとも魔王としての教育を施し、力の継承はさせるべきではないでしょうか?」
それは幼い子供の様に可愛らしい囁き声であったが、同時にある種の鋭さを秘めていた。
「それをした結果が、今までの結末だろう」
魔王はゆっくりと玉座から立ち上がり、周りを見渡す。
「この世界には寿命が無い。生きようと思えば、千年だって一万年だって生きることが出来る。だが代々の魔王は皆短命だ。その最後は皆も知っての通りだよ。それを変えたいのだろう? なら僕に任せてもらおう」
それはまるで、子供に言い聞かせるかの様なやさしく静かな言葉。
「心配ないよ。僕はどの魔王よりも長く生きた。その分、より多くの事を視てきている。君たちの損にはならないはずだ。さあ、もうじきお客さんが到着する頃だよ。歓迎の準備をしよう」
そう言いながら左手を天空に伸ばすと、その手には銀の鎖のようなものが幾重にも巻かれ、そして霧のように消える。
同時に彼らの眼前には、遥か遠くの景色が浮かび上がる。
荒れ地を浮遊しながら疾走する板のような乗り物。その上には中世のような金属の鎧を纏い、剣や槍などの白兵戦用の武器を持った兵士達が満載されている。
それが十、百、いや千、万と数を増やしながら一点を目指して進軍している姿だ。
「思ったよりも早かったデシ。デシが、これも予定通りデシか……」
ブクブクと泡立つ影のような異形は、その言葉を残すとやはり影のように消えていった。
「さて、皆も準備に入ってくれ。僕も最後の務めを果たすとするよ」
そう言って魔王が立ち上がると、4体の異形は闇の中へと消えていった。
――相和義輝……僕の次の魔王。人を、そして世界を知るといい。僕にできなかった事、思いつかなかった事――世界を変える事。君になら出来ると、確信しているよ)
玉座を降りた魔王の前に、最後の一体の異形が残る。
青い表紙の本を抱えた30センチほどの、二足歩行の蛙。
それは魔王の横にペタペタと歩み寄ると、その横にひっそりと並ぶ。
「イヤンカイクの仕事は魔王付き。それは最後まで魔王と共にあるという事」
「そうだね。嫌な仕事を任せてすまないと思うよ」
少し自嘲気味だが、決心の決まっている声。
「では行こう。そうそう、あの子も来ているね。少し時間を作って会う事にしよう」
一人の魔王と一体の異形が消えた後、巨大ホールの光は消え、闇だけが残された。
そこは、眩しい光に包まれた半円形の巨大なホール。
直系は、おおよそ200メートルはあるだろうか。光源は天井全体の発光によるものか。
壁近くの中央には黄金の玉座が置かれ、その背後には2つの扉。
他にも丸い穴が無数に空き、それらは天井にも広がっている。
輝く光の中には、一人の男と5体の異形の者がいた。
魔王と呼ばれた男――先ほどまで相和義輝と話していた少年は、ゆっくりと黄金の玉座に腰かけると静かに息を吐く。
「いや、疲れてなどいないよ。新しい魔王の召喚は無事に終わった。名は相和義輝だ。よろしく頼むよ」
疲れてはいない――そう言った彼だが、その見た目にはハッキリと疲労の色が残る。
そんな彼の正面に立つ異形。
その姿は石のような八角柱の頭に、下から延びるのは多数のタコのような触手。
足はうねうねと忙しなく動くが、頭に口のようなものは見受けられない。いや、それどころか目すらない。
そんな奇妙な姿の異形が、ホールに響く様な言葉を発する。
「新しい魔王を人類に委ねる。それで何かが変わるのでしょうか?」
「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。もしかしたら、彼は魔王ではなく人類として、君達と戦う道を選ぶかもしれないね」
その言を受け、今度は三角錐の体に大豆のような頭、それに四本の手を持つ異形が発言する。
「相変わらず、中々いい加減な人デスネ。イエ、もちろん賛成いたしマスヨ。ソレが魔王の決定でアレバ、我等は意を挟みマセン」
タコの足を持つ異形とは違い、両手を広げ、仰々しく大げさな動き。だがその声には一切の抑揚が無く、いかなる感情も感じられなかった。
「心配せずとも大丈夫だよ。今度の魔王は僕自身が選んだ。義理堅く、人情味があり、何より生きる事に真剣な男だ。能力は足りないかもしれないが、その点は皆が支えてやればいい」
黄金の玉座に張り付いていた異形――大きさは1メートル程か。見た目は灰褐色の大きな尺取虫だ。それが体を曲げ、魔王の耳元へとやって来る。
「ですが、本当によろしいのですか? 魔王の考えは少し理解が出来ません。少なくとも魔王としての教育を施し、力の継承はさせるべきではないでしょうか?」
それは幼い子供の様に可愛らしい囁き声であったが、同時にある種の鋭さを秘めていた。
「それをした結果が、今までの結末だろう」
魔王はゆっくりと玉座から立ち上がり、周りを見渡す。
「この世界には寿命が無い。生きようと思えば、千年だって一万年だって生きることが出来る。だが代々の魔王は皆短命だ。その最後は皆も知っての通りだよ。それを変えたいのだろう? なら僕に任せてもらおう」
それはまるで、子供に言い聞かせるかの様なやさしく静かな言葉。
「心配ないよ。僕はどの魔王よりも長く生きた。その分、より多くの事を視てきている。君たちの損にはならないはずだ。さあ、もうじきお客さんが到着する頃だよ。歓迎の準備をしよう」
そう言いながら左手を天空に伸ばすと、その手には銀の鎖のようなものが幾重にも巻かれ、そして霧のように消える。
同時に彼らの眼前には、遥か遠くの景色が浮かび上がる。
荒れ地を浮遊しながら疾走する板のような乗り物。その上には中世のような金属の鎧を纏い、剣や槍などの白兵戦用の武器を持った兵士達が満載されている。
それが十、百、いや千、万と数を増やしながら一点を目指して進軍している姿だ。
「思ったよりも早かったデシ。デシが、これも予定通りデシか……」
ブクブクと泡立つ影のような異形は、その言葉を残すとやはり影のように消えていった。
「さて、皆も準備に入ってくれ。僕も最後の務めを果たすとするよ」
そう言って魔王が立ち上がると、4体の異形は闇の中へと消えていった。
――相和義輝……僕の次の魔王。人を、そして世界を知るといい。僕にできなかった事、思いつかなかった事――世界を変える事。君になら出来ると、確信しているよ)
玉座を降りた魔王の前に、最後の一体の異形が残る。
青い表紙の本を抱えた30センチほどの、二足歩行の蛙。
それは魔王の横にペタペタと歩み寄ると、その横にひっそりと並ぶ。
「イヤンカイクの仕事は魔王付き。それは最後まで魔王と共にあるという事」
「そうだね。嫌な仕事を任せてすまないと思うよ」
少し自嘲気味だが、決心の決まっている声。
「では行こう。そうそう、あの子も来ているね。少し時間を作って会う事にしよう」
一人の魔王と一体の異形が消えた後、巨大ホールの光は消え、闇だけが残された。
21
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる