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【 親友の住む砦と新たな自分 】
少し早い両者の出会い
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翌日、目が覚めると……というのとは少し違う。気が付くと一人でいつもの暗い空間にいた。
まあ暗いと言っても周りに様子は分かるのだけれども。
「わたくしもなんとなく感じるようになってきましたわ。今起きたわね」
『えっと、ご名答。普段は寝るって感覚は無いんだけど、昨日はクラウシェラの体だったからかな』
「そこから聞かないとね。昨日はお説教の最中に疲れが限界に来てしまったけど、改めて聞くわ。何が起こったの?」
『うーん、説明がちょっと難しいのだけど、貴方の力を抑えるアイテムの影響か、貴方の意識が沈みこんじゃったのよ』
「それは分かるわ」
『それで代わりにあたしが体を動かしたって訳。その辺りは自覚していたんでしょう?』
「全然なかったわ。ただ何とかして欲しいって気持ちだったわね。それが本音よ」
頼みごと自体が少ない事もあって、少し気まずそうね。
『まあこちらもこちらでいきなりクラウシェラを引き継いだから、もう大変だったのよ』
「オーキスは何をしていたのよ」
『偽の伝令に呼び出されたみたい。でもその事は侍女に伝言を頼んでいたし、他にも公爵家の護衛が何人かいたから大丈夫と思ったみたい。でも仕方ないんじゃない? ここでの襲撃なんて警戒するなら、それこそ王宮のトイレにだって付いて行かなくっちゃいけないわ』
「まあ……そうね。そもそも、ケルローン騎士候に配慮してうちの護衛を減らしたのはわたくしだわ。それに実際にこの砦に所属していた兵士から呼び出されたら、いかない訳にはいかないものね」
あら、話が分かる。助かるわー。
『それで侍女の方はやっぱり……』
「当然すぎて聞く必要も無いわね。もう敵は中に入り込んでいたのでしょう。そして護衛も倒された。剣戟の音がしなかった事を考えれば、やはり弩弓兵が多数いたのね」
『お察しの通り。でもって話は戻すけど、例のアイテムでクラウシェラの意識が消えちゃったせいで、あたしと体の所有権が入れ替わっちゃったのよね』
「へえ。すると精霊の魔法か何かで撃退したの? でも炭? 溶けた?」
『それに関してはまあ、そこの鏡をご覧ください』
「鏡ねえ……あ、あった――って何よこれ! あたしの左目、どうなっているのよ! 貴方の入れ替わった結果? でも貴方の瞳って黒よね?」
青くなっているのよねー。
『よく分からないのだけど、一緒になっているせいかな? あたしにはクラウシェラの竜は使えなかったけど、1匹……っていうのはおかしいけど、とにかく1つだけ違うのを使えたの。その時に目から黒い色素が出た感じでね』
「赤から黒を抜いたら青になるの」
『普通は白くなると思うけど、その辺りは全然わからないわねー』
「はあ、気楽でいいわね。まあいいわ、襲撃のせいでこうなったとでも周りには説明しておきましょう。ただお父様にはきちんと話しておかないとね」
あ、そうだ。お父さんのジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵も、クラウシェラ程じゃないにせよ使えるのよね。
ただトカゲのしっぽ程度だけど。
けれど公爵家の力を封じるアイテムの事は、当然共有しないといけない問題よね。
「それでどんな形でしたの?」
なんとなく、そこに込められた意味は分かるけど――、
『なんだか腕輪だったわ。そこから力を感じだから間違いない』
「精霊が言うのだから、疑っても仕方ないわね」
安堵を感じる。もし王家に保管されているワンドだったら、当然全面戦争だものね。
ゲームの頃の彼女なら、王家を打倒する好機と見て絶対に攻め込んだわ。
エルダーブルグ公爵もまた、それを支持するわね。
ゲームと違って、クラウシェラは暴虐の限りを尽くしていない。暴走もしていない。
もちろん婚約だって破棄されていないわ。
というか結んだばっかりじゃない。
その状態で王家が使ったら、それは騙し討ちで自分たちを滅ぼそうとしたって事になるのだもの。
でもそうなると、ここが戦場になる事は避けられない。
今の彼女は、それをよしとしない……うん、間違いなく良い事だわ。
オーキスの時はハラハラしたけど、今までの出来事が全て、無駄じゃなかったって思える。
きっと学園でだって、ゲームとは全然違った展開になるに違いないわ。
▼ ▲ ▼
こうして、色々な事はあったけどあたしたちは騎士領を出て帰路についた……はずだったのだけど。
『ねえ、これ帰り道と違わない? というか、王国領に戻ってない』
「あら、公爵領も王国領に違いないわよ」
『いやそうじゃなくって』
「分かっているわよ。わたくしもあのまま帰ろうと思ったのだけど、やっぱり気になったのよ。せっかくここまで来たのだから、会ってみたいじゃない」
その相手が誰なのか、すぐにピンときた。
正直会わせたくはなかったけど、今のクラウシェラなら大丈夫だ。
それに敵意もない。何よりあたしが興味津々。
もし人畜無害の聖女であるのなら、それでいい。
たとえ婚約が破棄されても、今のクラウシェラはさほど気にしない……は無いわね。
分かっていながらも物凄く怒ると思うけど、切り替えて前に進めると思う。
戦争や粛清とかをさせなければ、とりあえず破滅はしないはず。
一方で聖女エナ・ブローシャは、メインストーリー通りに王子と結婚してめでたしめでたしかな。
それかバッドエンドね。
本来プレイヤーが何もしなければ、当然バッドエンドになるのよ。
ただもうこの時点で色々変わっている。
クラウシェラの片目の色が変わったとか物凄く分かりやすい変化だわ。
それにゲームにはいなかった暗躍する勢力。
こんな状態だもの。聖女を知っておきたいわ。
クラウシェラにとっては静かな宣戦布告程度だけど、あたしからすればこれは今後を決める重要な問題だもの。
▼ ▲ ▼
こうして、あたしたちは粗末な修道院に到着した。
王国領の端の方だから2日もかかったわ。
ついでに言うと、護衛はオーキス以外は置いて来た。
オーキスも、周囲の警戒のために今は別行動。
そしてあたしたちというかクラウシェラは、一人で修道院に入った。
中では天井のステンドグラスに照らされ、正面の祭壇に向けて祈りを捧げる金髪の少女の姿はあった。
ああ、間違いない。彼女こそが、このゲームのヒロインにして主人公、聖女エナ・ブローシャその人だわ。
まあ暗いと言っても周りに様子は分かるのだけれども。
「わたくしもなんとなく感じるようになってきましたわ。今起きたわね」
『えっと、ご名答。普段は寝るって感覚は無いんだけど、昨日はクラウシェラの体だったからかな』
「そこから聞かないとね。昨日はお説教の最中に疲れが限界に来てしまったけど、改めて聞くわ。何が起こったの?」
『うーん、説明がちょっと難しいのだけど、貴方の力を抑えるアイテムの影響か、貴方の意識が沈みこんじゃったのよ』
「それは分かるわ」
『それで代わりにあたしが体を動かしたって訳。その辺りは自覚していたんでしょう?』
「全然なかったわ。ただ何とかして欲しいって気持ちだったわね。それが本音よ」
頼みごと自体が少ない事もあって、少し気まずそうね。
『まあこちらもこちらでいきなりクラウシェラを引き継いだから、もう大変だったのよ』
「オーキスは何をしていたのよ」
『偽の伝令に呼び出されたみたい。でもその事は侍女に伝言を頼んでいたし、他にも公爵家の護衛が何人かいたから大丈夫と思ったみたい。でも仕方ないんじゃない? ここでの襲撃なんて警戒するなら、それこそ王宮のトイレにだって付いて行かなくっちゃいけないわ』
「まあ……そうね。そもそも、ケルローン騎士候に配慮してうちの護衛を減らしたのはわたくしだわ。それに実際にこの砦に所属していた兵士から呼び出されたら、いかない訳にはいかないものね」
あら、話が分かる。助かるわー。
『それで侍女の方はやっぱり……』
「当然すぎて聞く必要も無いわね。もう敵は中に入り込んでいたのでしょう。そして護衛も倒された。剣戟の音がしなかった事を考えれば、やはり弩弓兵が多数いたのね」
『お察しの通り。でもって話は戻すけど、例のアイテムでクラウシェラの意識が消えちゃったせいで、あたしと体の所有権が入れ替わっちゃったのよね』
「へえ。すると精霊の魔法か何かで撃退したの? でも炭? 溶けた?」
『それに関してはまあ、そこの鏡をご覧ください』
「鏡ねえ……あ、あった――って何よこれ! あたしの左目、どうなっているのよ! 貴方の入れ替わった結果? でも貴方の瞳って黒よね?」
青くなっているのよねー。
『よく分からないのだけど、一緒になっているせいかな? あたしにはクラウシェラの竜は使えなかったけど、1匹……っていうのはおかしいけど、とにかく1つだけ違うのを使えたの。その時に目から黒い色素が出た感じでね』
「赤から黒を抜いたら青になるの」
『普通は白くなると思うけど、その辺りは全然わからないわねー』
「はあ、気楽でいいわね。まあいいわ、襲撃のせいでこうなったとでも周りには説明しておきましょう。ただお父様にはきちんと話しておかないとね」
あ、そうだ。お父さんのジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵も、クラウシェラ程じゃないにせよ使えるのよね。
ただトカゲのしっぽ程度だけど。
けれど公爵家の力を封じるアイテムの事は、当然共有しないといけない問題よね。
「それでどんな形でしたの?」
なんとなく、そこに込められた意味は分かるけど――、
『なんだか腕輪だったわ。そこから力を感じだから間違いない』
「精霊が言うのだから、疑っても仕方ないわね」
安堵を感じる。もし王家に保管されているワンドだったら、当然全面戦争だものね。
ゲームの頃の彼女なら、王家を打倒する好機と見て絶対に攻め込んだわ。
エルダーブルグ公爵もまた、それを支持するわね。
ゲームと違って、クラウシェラは暴虐の限りを尽くしていない。暴走もしていない。
もちろん婚約だって破棄されていないわ。
というか結んだばっかりじゃない。
その状態で王家が使ったら、それは騙し討ちで自分たちを滅ぼそうとしたって事になるのだもの。
でもそうなると、ここが戦場になる事は避けられない。
今の彼女は、それをよしとしない……うん、間違いなく良い事だわ。
オーキスの時はハラハラしたけど、今までの出来事が全て、無駄じゃなかったって思える。
きっと学園でだって、ゲームとは全然違った展開になるに違いないわ。
▼ ▲ ▼
こうして、色々な事はあったけどあたしたちは騎士領を出て帰路についた……はずだったのだけど。
『ねえ、これ帰り道と違わない? というか、王国領に戻ってない』
「あら、公爵領も王国領に違いないわよ」
『いやそうじゃなくって』
「分かっているわよ。わたくしもあのまま帰ろうと思ったのだけど、やっぱり気になったのよ。せっかくここまで来たのだから、会ってみたいじゃない」
その相手が誰なのか、すぐにピンときた。
正直会わせたくはなかったけど、今のクラウシェラなら大丈夫だ。
それに敵意もない。何よりあたしが興味津々。
もし人畜無害の聖女であるのなら、それでいい。
たとえ婚約が破棄されても、今のクラウシェラはさほど気にしない……は無いわね。
分かっていながらも物凄く怒ると思うけど、切り替えて前に進めると思う。
戦争や粛清とかをさせなければ、とりあえず破滅はしないはず。
一方で聖女エナ・ブローシャは、メインストーリー通りに王子と結婚してめでたしめでたしかな。
それかバッドエンドね。
本来プレイヤーが何もしなければ、当然バッドエンドになるのよ。
ただもうこの時点で色々変わっている。
クラウシェラの片目の色が変わったとか物凄く分かりやすい変化だわ。
それにゲームにはいなかった暗躍する勢力。
こんな状態だもの。聖女を知っておきたいわ。
クラウシェラにとっては静かな宣戦布告程度だけど、あたしからすればこれは今後を決める重要な問題だもの。
▼ ▲ ▼
こうして、あたしたちは粗末な修道院に到着した。
王国領の端の方だから2日もかかったわ。
ついでに言うと、護衛はオーキス以外は置いて来た。
オーキスも、周囲の警戒のために今は別行動。
そしてあたしたちというかクラウシェラは、一人で修道院に入った。
中では天井のステンドグラスに照らされ、正面の祭壇に向けて祈りを捧げる金髪の少女の姿はあった。
ああ、間違いない。彼女こそが、このゲームのヒロインにして主人公、聖女エナ・ブローシャその人だわ。
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