100回破滅した悪役令嬢と、100回破滅させたあたし~二人で始める破滅回避への道

ばたっちゅ

文字の大きさ
上 下
20 / 45
【 心を黒く塗りつぶす悪夢のような逃避行 】

怒りと憎しみの炎

しおりを挟む
 命を捨てた騎兵の足止め。
 それでも、敵の勢いは止まらない。
 遠くから微かに侍女たちの悲鳴が聞こえてくる。
 だけど馬車は止まらない。止まるわけにもいかない。
 そして遂に、カーナンの町へと突入した。
 門番はいたが、公爵家の馬車だ。それに20騎とはいえ護衛もいる。そりゃ通すわよね。

 けど、それは考えが甘かった。
 いきなり射抜かれる御者。
 制御を失って、暴走した馬のせいで馬車は横転。
 いきなり視界が回って吐きそうになる。
 だけどクラウシェラはそれどころじゃないわよね。
 でもオーキスがしかりと抱きかかえている。これなら何とか大丈夫そう。
 だけと、オーキスの骨が折れた音がハッキリと聞こえた。

「……予想は……していたわよ」

「お逃げ……ください。まだ、サリウスらがいます」

 右足があらぬ方向に曲がっているが、それでも剣を杖にして立ち上がる。

「私はここまでです。ですが、1秒でも時を稼ぎましょう」

 ちょちょちょっと待って!
 ここでオーキスが死んだら、これからの未来はどうあるのよ!?
 あたしが介入したから?
 それで歴史が変わっちゃったの?

 外では激しい戦闘が行われている。
 見た事があるマークの付いた鎧を着た兵士達。
 あれはこの街のシンボルだ。
 じゃあ、もうここは敵地だったって事!?

 サリウスはさすがに5武行典。ほとんど溜めも無く、一度に3本の矢で3人の兵士を射ている。
 あれで騎乗しての動きながらなんだからすごい。

 一方で、弓はサリウスに当たらない。
 これは別に特殊能力って訳ではなくて――というか、もう5武行典って時点で特殊能力みたいなものなんだけど、自分周囲、それもかなりの広範囲にある矢は全て把握している。
 誰が射て、どんな軌道でどう飛んでどこに当たるか。
 だから、彼に当てる事は出来ない。通常の手段では。

 だけど味方の騎兵はじわじわと削られていく。
 そりゃそうよね。
 どう見ても、相手は数百。それに左右からも、傭兵らしい集団が迫って来る。
 そうよね。裏切って、ここまでの計画に加担していたのなら、準備は万端だわ。
 この様子だと、完全に四面楚歌。北や南はもちろん、西も東も結局敵だらけ。
 でもいったい誰なんだろう。これほどの準備ができるほどの人間は。
 多分言われれば分かる……と思う。伊達にこのゲームはやり込んでない。
 だけど今はもうそんな次元じゃないかも。
 ああ、結局あたし、彼女と一緒に破滅する運命だったのね。

 オーキスに庇われていた事もあるけど、クラウシェラには異様なほど怪我はない。
 だが馬車から出ると同時に無数の矢が降り注ぐ。
 だがそれを全て矢で撃ち落とす弓のサリウス。
 あまりの神業に、敵軍に動揺が走る。
 そして彼はクラウシェラの前まで来ると、

「背に乗ってください。いざという時、貴方だけは城へと取れていって欲しいとケルジオス騎士候から頼まれています」

「さすがに予想していたのね。まあ違和感程度でしょうけど。貴方も貧乏くじを引かされたものね。ではわたくしからもお願いよ。代わりにオーキスと残存兵を連れて、この町を脱出して頂戴」

「生き残りは我ら3名だけです。それに彼はもう……」

「オーキスは死なないわよ。わたくしの番犬ですもの」

「だとしても、今馬に乗るべきは――」

「くどい! わたくしを誰だと思っているか! お前たちがいる方が満足に戦えないのよ」

 ――そうだった。
 今まで普通に生活していたから忘れていた。
 彼女は最強のラスボスにして――、

「貴方は決して自らの命を諦めないでしょう。そして誰かのために死ぬこともないし、許される立場にもありません。そのことを一番よく知っているのは貴方だ。その言葉を信じましょう。では」

 そう言いながらも迫って来る多数の敵兵を射抜くと、怯んだ隙に気を失っていたオーキスを馬の背に乗せた。
 うん、本当に生きている。良かったー。

 こうして、サリウスが走り去っていく中、クラウシェラだけが残された。
 当然サリウスの方にも少しの兵は行ったが、いかんせん彼を倒しても何の手柄にもならない。
 公爵家の部下ではなく、ただの求道者であることを皆が知っている。
 馬の背にズタ袋のように括り付けられている兵士も、どう見たって瀕死だ。
 それ以前にサリウス相手にどれほどの被害を出したか。
 さすがにもうまともには追えないだろう。

 その分、ほぼすべての敵が殺到する。
 後ろから追ってきた騎兵たちも、とっくに町に入っている。
 味方は誰もいない。全方位が敵。だからこそ、彼女は全ての力を開放できる。

 全身から噴き出す黒いオーラ。
 それは幾つにも別れた渦のように彼女の体の周りをまわる。
 そして、その先端はまるで竜の様。ううん、見えるというか、本当にそうなのよね。
 ただまだゲームの段階まで成長していないから曖昧な姿だけど。
 将来、彼女はこう呼ばれる事になる。
 残虐なる破壊者。冷酷無比の魔女。邪竜令嬢と。

 その姿を見て動揺する敵兵たち。
 実際に知らなかったのだろうと思う。
 あたしも初めて見た時は驚いたわ。即ゲームオーナーになったもの。
 ゲームの時点ではその異名自体は轟いていたけど、そりゃそう呼ばれるきっかけがあるはずよね。
 でもそれが今だったなんて。

 渦を巻いていた黒い幻影のような竜――といって良いのかな? 頭以外の胴体は長い蛇のような感じだけど。
 でもそれに巻き込まれた兵は一瞬にして真っ黒い炭となって崩れ落ちる。
 武器も鎧も溶け、近くにあった建物や行商のテントに火をつけ、ほんの一瞬で町は阿鼻叫喚に包まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

処理中です...