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【 史上最高の番犬であり忠犬 】
強制中断
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中条陽々路がそんな事を考えている間、オーキスは完全に窮していた。
前ではこちらを試すように見定めているクラウシェラ公爵令嬢。
後ろには、それを見守っているエルダーブルグ公爵。
このまま沈黙が続けば、無能か相性の悪さを理由に別の地へと送られるだろう。
何年もの間、血の滲むような訓練をしてきた。同じ様に集められた同期の仲間と共に。
しかしそれも減って行った。
戦闘訓練で、自ら減らしたこともある。
去勢までされた。
それも全ては、クラウシェラ公爵令嬢に仕えるために。
自分の意志でそうなったわけではない。
ただ命令のままに。そして、それしか生きる道が無かったという事もある。
他の地で生きるのも悪くはないだろう。ある意味、どうせ公爵様に集められた時点でオーキス・ドルテとしての人生は終わったのだ。
しかし、それでは他の皆に顔向けできない。
誰に言われたからなど関係ない。実際に学んでしまったのだ。友を殺してしまったのだ。だから、これはやめることは出来ない。
クラウシェラ公爵令嬢の従者となる事が、自分が今ここにいる意味なのだ。
時間はない。
クラウシェラは気まぐれな方と聞く。この謁見も、いつ打ち切られるか分からない。
公爵様はもっと現実的だ。娘が気に食わないと判断すれば、迷わず決断を下すだろう。
これまでの我らの苦労など、虫けらほどの価値すら与えられはしない。
そんな中、クラウシェラ様の右手に指輪が見えた。
全体的に褒めるところが難しい服装であったが、その指輪だけは服装とは比較にならないほど豪華なものだ。
金のベースに、美しくカットされた緑の宝石。形は日本で言えば柏の刃のような形と言えるだろう。
しかも何度か見せつけるような動きをしていた。これに注目してほしいに違いない。
何の疑いもなく、救いの様に差し出された蜘蛛の糸にオーキスは飛びついた。
「その指輪は実に素晴らしいです。クリーフの葉ですね。病魔を払うとされる葉ですが、それ以上に宝石の加工が見事です。硬いけれど繊細。それをそれほどまで美しく加工するのは並大抵の技術では不可能だと。さすがはクラウシェラ様が御身に付けるだけの品だと感服いたします」
その言葉を聞くと、クラウシェラは初めて満面の笑みをその瞳に浮かべたのだった。
――終わったわね。
勝ち誇ったその声が、確かに頭に響いた。
彼女のこれからの行動が分かる。これは性格のせい。
公爵令嬢として、感情的な暴言など許されない。だから全部頭の中でこれからの言葉を全て用意する。
その性格が幸いした。
目の前に、1枚だけ残った思考の紙。
それは結論が出たという事に他ならない。
彼女がこれからする展開はこう。
『そうね、確かに薬草として高い効果があるし生命力も強い。我が領内にも沢山生えているわ。春に咲く美しい黄色い花も華麗で人気があるわね。あの大きく気高い花は私も好きよ』
それに彼が何と答えても関係ない。どうせ迎合するような美辞麗句だろう。
だから続く言葉は決まっている。
『それ故に、かつてアゾール王国では国花に制定されていたそうね。確か……なんといったかしら』
おそらくこの時点で、オーキスは声すら発することは出来ないだろう。
『そうそう、クリーフ。クリーフの花と呼ばれていたわ。もっとも、我が領内では昔からシフォレの花と呼ばれているわ。由来は知っているかしら?』
そんなこと、もはや意味はないだろう。
『お父様。身元は確かとおっしゃいましたが、我が国においてシフォレの葉をクリーフの葉などと呼ぶものはおりませんわ。それは今は無きエンティオーラ王国も同じ事。たった1つ、滅んだあの国の者だけがその名で呼ぶのですわ』
オーキスは必死に弁明をするだろう。
あたしは知っている。かつて彼の友が行商人で、アゾール王国にも出入りしていた。
だから国花も知っていたし、より高貴な名で褒めようとして咄嗟に口に出てしまったのだろう。
だけどそんな事は関係ない。後は彼女が衛兵を呼び、彼を他国の工作員と決めつけ、散々な拷問の末に殺すのだ。
何度殺してくれと懇願しても、決して許さずに。
「そうね――」
『それ以上はダメ―!』
「うあああああああああ!」
突然鳴り響く激痛を伴う轟音。それはまるで、自らの頭蓋骨が砕け散ったかのように錯覚させるほど。
クラウシェラは、白目を剥いてその場に倒れ込んでしまった。
当然父親であるエルダーブルグ公爵は大慌て。
顔合わせなど当然中止。
すぐさま主治医のロベールが呼ばれ、大勢の侍女によってふたたび自室へと運ばれていった。
※ ※ ※
何とか今回は乗り切ったけど、どうにかしないと。
目覚めたら絶対に続きをやる。
ううん、多分だけど、あの通りにはやらない。警戒している。
機を失うほどの頭痛の原因。それを確認するまでは迂闊には動かないと思うの。
でもそれだけじゃだめ。
試しながら、オーキスを処刑する手段を模索する。それは変えない。だってあのクラウシェラ・ローエス・エルダーブルグ伯爵令嬢だもの。信念は決して揺るがないわ。
良い悪いは別としてね。
将来的には本来のヒロインに移って本筋に戻るべきだろうけど、そもそも何であたしはこんな事になっている訳?
理由も分からないし、他の人に移れるかも当然不明。
試してみたいとは思うけど、あたしの知識はゲームの中だけ。
でもこの世界の人間は、見た限り確かに生きて存在している。
たとえ他の人に移れたとしても、クラウシェラの不興を買えば即放逐。
ううん、悪ければ処刑ね。
ましてやヒロインなんて、彼女の中ではもう100パーセント処刑が確定しているし。
そう考えると、何だかんだで彼女の中が一番安全なのが皮肉だわ。
そしてそのためには、オーキスは絶対に守らないといけない。
100回もクリアすればいやでも分かる。
先ず彼を攻略しないとヒロインに活路は無い。
逆に彼との信頼が確実になれば、彼女の破滅がグッと遠くなる。
でもその方法は?
なんとなく、心当たりというか、出来そうな気がするのよね。
二度目に彼女が気を失う時にあたしも感じた。彼女の感じた頭痛を。
確実に、一体化が進んでいる気がする。
だからこそ……。
前ではこちらを試すように見定めているクラウシェラ公爵令嬢。
後ろには、それを見守っているエルダーブルグ公爵。
このまま沈黙が続けば、無能か相性の悪さを理由に別の地へと送られるだろう。
何年もの間、血の滲むような訓練をしてきた。同じ様に集められた同期の仲間と共に。
しかしそれも減って行った。
戦闘訓練で、自ら減らしたこともある。
去勢までされた。
それも全ては、クラウシェラ公爵令嬢に仕えるために。
自分の意志でそうなったわけではない。
ただ命令のままに。そして、それしか生きる道が無かったという事もある。
他の地で生きるのも悪くはないだろう。ある意味、どうせ公爵様に集められた時点でオーキス・ドルテとしての人生は終わったのだ。
しかし、それでは他の皆に顔向けできない。
誰に言われたからなど関係ない。実際に学んでしまったのだ。友を殺してしまったのだ。だから、これはやめることは出来ない。
クラウシェラ公爵令嬢の従者となる事が、自分が今ここにいる意味なのだ。
時間はない。
クラウシェラは気まぐれな方と聞く。この謁見も、いつ打ち切られるか分からない。
公爵様はもっと現実的だ。娘が気に食わないと判断すれば、迷わず決断を下すだろう。
これまでの我らの苦労など、虫けらほどの価値すら与えられはしない。
そんな中、クラウシェラ様の右手に指輪が見えた。
全体的に褒めるところが難しい服装であったが、その指輪だけは服装とは比較にならないほど豪華なものだ。
金のベースに、美しくカットされた緑の宝石。形は日本で言えば柏の刃のような形と言えるだろう。
しかも何度か見せつけるような動きをしていた。これに注目してほしいに違いない。
何の疑いもなく、救いの様に差し出された蜘蛛の糸にオーキスは飛びついた。
「その指輪は実に素晴らしいです。クリーフの葉ですね。病魔を払うとされる葉ですが、それ以上に宝石の加工が見事です。硬いけれど繊細。それをそれほどまで美しく加工するのは並大抵の技術では不可能だと。さすがはクラウシェラ様が御身に付けるだけの品だと感服いたします」
その言葉を聞くと、クラウシェラは初めて満面の笑みをその瞳に浮かべたのだった。
――終わったわね。
勝ち誇ったその声が、確かに頭に響いた。
彼女のこれからの行動が分かる。これは性格のせい。
公爵令嬢として、感情的な暴言など許されない。だから全部頭の中でこれからの言葉を全て用意する。
その性格が幸いした。
目の前に、1枚だけ残った思考の紙。
それは結論が出たという事に他ならない。
彼女がこれからする展開はこう。
『そうね、確かに薬草として高い効果があるし生命力も強い。我が領内にも沢山生えているわ。春に咲く美しい黄色い花も華麗で人気があるわね。あの大きく気高い花は私も好きよ』
それに彼が何と答えても関係ない。どうせ迎合するような美辞麗句だろう。
だから続く言葉は決まっている。
『それ故に、かつてアゾール王国では国花に制定されていたそうね。確か……なんといったかしら』
おそらくこの時点で、オーキスは声すら発することは出来ないだろう。
『そうそう、クリーフ。クリーフの花と呼ばれていたわ。もっとも、我が領内では昔からシフォレの花と呼ばれているわ。由来は知っているかしら?』
そんなこと、もはや意味はないだろう。
『お父様。身元は確かとおっしゃいましたが、我が国においてシフォレの葉をクリーフの葉などと呼ぶものはおりませんわ。それは今は無きエンティオーラ王国も同じ事。たった1つ、滅んだあの国の者だけがその名で呼ぶのですわ』
オーキスは必死に弁明をするだろう。
あたしは知っている。かつて彼の友が行商人で、アゾール王国にも出入りしていた。
だから国花も知っていたし、より高貴な名で褒めようとして咄嗟に口に出てしまったのだろう。
だけどそんな事は関係ない。後は彼女が衛兵を呼び、彼を他国の工作員と決めつけ、散々な拷問の末に殺すのだ。
何度殺してくれと懇願しても、決して許さずに。
「そうね――」
『それ以上はダメ―!』
「うあああああああああ!」
突然鳴り響く激痛を伴う轟音。それはまるで、自らの頭蓋骨が砕け散ったかのように錯覚させるほど。
クラウシェラは、白目を剥いてその場に倒れ込んでしまった。
当然父親であるエルダーブルグ公爵は大慌て。
顔合わせなど当然中止。
すぐさま主治医のロベールが呼ばれ、大勢の侍女によってふたたび自室へと運ばれていった。
※ ※ ※
何とか今回は乗り切ったけど、どうにかしないと。
目覚めたら絶対に続きをやる。
ううん、多分だけど、あの通りにはやらない。警戒している。
機を失うほどの頭痛の原因。それを確認するまでは迂闊には動かないと思うの。
でもそれだけじゃだめ。
試しながら、オーキスを処刑する手段を模索する。それは変えない。だってあのクラウシェラ・ローエス・エルダーブルグ伯爵令嬢だもの。信念は決して揺るがないわ。
良い悪いは別としてね。
将来的には本来のヒロインに移って本筋に戻るべきだろうけど、そもそも何であたしはこんな事になっている訳?
理由も分からないし、他の人に移れるかも当然不明。
試してみたいとは思うけど、あたしの知識はゲームの中だけ。
でもこの世界の人間は、見た限り確かに生きて存在している。
たとえ他の人に移れたとしても、クラウシェラの不興を買えば即放逐。
ううん、悪ければ処刑ね。
ましてやヒロインなんて、彼女の中ではもう100パーセント処刑が確定しているし。
そう考えると、何だかんだで彼女の中が一番安全なのが皮肉だわ。
そしてそのためには、オーキスは絶対に守らないといけない。
100回もクリアすればいやでも分かる。
先ず彼を攻略しないとヒロインに活路は無い。
逆に彼との信頼が確実になれば、彼女の破滅がグッと遠くなる。
でもその方法は?
なんとなく、心当たりというか、出来そうな気がするのよね。
二度目に彼女が気を失う時にあたしも感じた。彼女の感じた頭痛を。
確実に、一体化が進んでいる気がする。
だからこそ……。
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