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【 史上最高の番犬であり忠犬 】

オーキス・ドルテ

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 要するに、彼女にとってのオーキス・ドルテはただの役立たず。
 それどころか、裏切る可能性もある獅子身中の虫。
 ついさっき戦争を起こして王族皆殺しを命令しようとした彼女の事だ。この処刑しようという考えは嘘偽りのない事実。
 しかもその為のシミュレーションを頭の中で繰り返し、幾つものパターンを考えている。
 ここまでの憎しみなんてどうしたら根付くの……なんて、あたしが原因です。てへっ!
 じゃないわよね。

 こちらがそんな馬鹿な事を考えている間に、彼女は数ある一つに応接室に入っていった。
 思考がバサバサと流れて来るから分かるけど、今日この部屋でオーキスと出会うのよね。

 中には実にご立派なスーツを身にまとった、男性が座っていた。
 短く切り揃えられた髪は黒く、髭も口ひげが左右に少し伸びている程度。
 スーツの上からでも分かる鍛え上がられた筋肉は、まるで武闘家の様。
 しかしその一方で溢れ出す気品。ああ、生で見ると目が潰れてしまうわ。

 彼こそが、この国――というか地域か。
 エルダーブルグ公爵領を治めるエルダーブルグ地方を治める公爵、ジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵その人だ。
 ええと、ゲームでの搭乗時は44歳だったから、今は39歳ね。
 とてもそうは見えないほど若いわー。

 でもクラウシェラの感情はそうではない。
 はい、あたし彼を使って彼女を破滅させたこともありまーす。
 ヤバいわー。なんかこの空間、殺意しか|溢__あふ__#れていない?
 だけど、クラウシェラはずっと笑顔を絶やさない。
 今はまだその時ではない。そんな思いが流れ込んで来る。
 今はって事は、絶対にいつかはやるのよね、復讐を。

「大丈夫かね、クラウシェラ。先ほど次女から倒れたと聞いたが。もし体調がすぐれない様だったら――」

「いえ、ただの頭痛ですわ。大げさに騒いだ侍女たちには、後できちんと言い聞かせておきましょう」




 うわ、今の瞬間だけで名前も知らない侍女たちの運命が決められたわ。
 というより追放から罪をでっちあげての処罰まで色々。どんな基準で決めたのかは分からないけど、あたしの思考じゃ追い付かないほどの速さだったわ。
 これでも話術や頭の回転には自身があったのだけど、さすがはクラウシェラ。




「それよりも、そちらの背の高い方がお話にあった新しい近習ですか?」

「うむ、お前は話が早くていつも助かるよ。彼はオーキス・ドルテ。これからお前の近習として、警護と家庭教師をやってもらう」





 やっぱり彼がそうなんだ。でも随分印象が違うかな。
 クラウシェラよりも頭2つ分くらい背が高く、痩せているのにしっかりとした引き締まった肉体をしている。
 髪は少し長めの茶髪。瞳は灰茶とでもいえば良いのか、茶色ではあるが色素が薄く、グレーの色調が強い。
 ただそれよりも、その瞳に強い意志のようなものは感じられず、表情も無い。
 でもこういった席に連れて来られるだけに服装はきちんと整えられている。白いシャツに紺色のジャケット。それに黒に近い紫のズボン。
 どれも造りも素材も庶民が身に付けるレベルではない。
 それだけに、まるで疲れ切った奴隷のような無表情が逆に際立っているのが不気味。





「庶民がわたくしの家庭教師? お父様、一体何をお考えで?」

「ふむ、確かに帝王学を始めとした勉学、宮廷作法、ダンスや楽器、絵画などは続ける。しかしお前はこの屋敷の外を知らない」

「確かにそうですわね」




 今、頭の中でほくそ笑んだな—。
 そりゃもう何度も外に出ているものねー。
 そしてどれだけどの場所で破滅したのやら。
 王宮の塔の最上階でのドラマは素晴らしかったわー……て、それどころじゃない。




「それに知っても通り、近年アゾールとエンティオーラの残党が活発化している。その点も考え、お前に付いていても違和感のない年齢の警護を用意したという訳だ。当然腕は立つし、社会情勢にも精通している。一通りの勉学も教え込んだ。お前を失望させる事は無いだろう」




 アゾールとエンティオーラは、両方共にここ公爵領に隣接している王国……だった。
 だけどゲームが始まった時点で、どちらの国も公爵軍によって滅ぼされているのよね。
 かなりの国民が奴隷や流民、盗賊なんかになったって設定から始まるの。

 あ、この国はティルスロン王国って国がメインの舞台で、結構普通の貴族制。
 国や時代によって爵位の意味は変わるけど、ここではエルダーブルグ公爵領っていう土地全体を治める人が公爵様。目の前にいる人ね。
 その公爵領が国境の小競り合いからアゾール王国に侵攻して、救援に入ったエンティオーラ王国もまた滅んでしまったという訳。

 こうして公爵領は一気に拡大して、今や軍も財政も王家よりも上。
 そんな訳で、これから成長していくクラウシェラは王家をも凌ぐ権勢を生まれながらに持っているって訳。
 それにしても、さっきから頭の中が不穏だわ。
 まだ具体的な形にはなっていないようだけど……。




「それでお父様。そのような社会情勢ですもの。当然、その男の身元は確かなのですわよね」

「神に誓って、嘘偽りなど――」

「誰が口をきいてよいと言ったか! 不埒もの!」

「……」

 無言のまま、跪いて数歩下がる。
 しかし自分より年下の少女に罵倒されたにもかかわらず、最初に紹介された時と変わらず無表情のままだ。
 下を向いたままの灰茶の瞳にも、何の感情も無いように見えた。
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