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第三章:罪人の記し
罪人の記し 13
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「だが、事実だ」
呻くように返したぼやきにきっぱりと告げられながら、その木ノ江さんが使用していた二〇三号室の前へ。
そこで、お兄ちゃんの足が止まった。
つられて、並んでいたあたしも歩くのを止めて立ち止まる。
「……予感的中、か」
「え?」
あたしは目の前のドアに向けていた視線をまず最初にお兄ちゃんへ向け、それからその瞳が見つめる先――前方にある二〇四号室のドアへ移動させた。
そして、そこから網膜へと映り込んでくる物を認識した瞬間、息を飲むはめになった。
「そんな……」
そこに貼りつけられている、一枚のカード。
今となっては、それが何かを疑うのも馬鹿馬鹿しい。
「……」
戸惑うことなく歩みを再開したお兄ちゃんがドアへ近づき、貼られたカードを剥がした。
「……Lv.4。静謐のカードだ」
<静謐>
そのカードの持ち主は、二○四号室の主である花面 京華さん。
呆然とするあたしの前で、お兄ちゃんはドアノブへ手を伸ばしそっと引いた。
「……鍵はかかっていないな」
木ノ江さんのときとは違い、何の抵抗もなく開かれたドアの先を慎重に覗き込んだお兄ちゃんだったけれど、すぐに顔を引っこめてこちらを見る。
「マリネはちょっと待っていろ」
「え? あ、ちょ……」
それだけ告げ、今度は身体ごと室内に入っていくお兄ちゃんを制止しようとするも失敗し、あたしはその場に立ち尽くした。
廊下を見回すも誰の気配もなく、静まり返っているのが何とも不気味だ。
まるで、一人で山奥の廃墟に迷い込んだようなシチュエーションを想像し、無意味に心細くなる。
「トイレの中も見てみたが、誰もいないな。争ったような感じもないし、血痕なども見受けられなかった。……どこか別の場所に移されたのか?」
時間にすれば僅か二分くらいで、お兄ちゃんは廊下へと戻ってきた。
嫌な予感が、あたしたち兄妹に絡みつく。
貼られたカードと、消えた花面さん。
何もないわけがない。
「どうするの?」
「探すしかないだろう。だが、その前に残りのドアも調べる」
萎縮したようになるあたしの声にそう答え、お兄ちゃんは更に廊下を奥へと進む。
伊藤さん、美九佐さん、そして絵馬さん。
全ての客室の前を通り過ぎて、目立った異常がないことを確認したあたしたちは、そのまま階段へ向かい一階へと下りる。
「どこに何があるかわからない、ここは一部屋ずつ見ていこう。ただ、食堂と調理場は世話人が既に入っていることだろうから、まずはその先の――」
スッと前方を指差し何かを告げようとしたお兄ちゃんは、突然食堂の入口から飛び出してきた川辺さんを見て動きを止めた。
慌てた様子でドアを開け廊下に出てくる川辺さんを、あたしも見ていた。
まるで何かから逃げるような、鬼気迫る雰囲気をまとうその様子は、つい今しがたまでの川辺さんとは別人のように感じた。
瞳孔が開いているのではと疑いたくなるような瞳をこちらに向け、あたしたちの存在に気づくや否や
「白沼様、大変です!」
大声を上げながら駆け寄ってくる。
「どうした。新たな死体でも増えていたのか?」
苦笑すらできないような台詞を吐いて、川辺さんを見つめ返すお兄ちゃん。
だけど、そんな台詞に不快感を示すことなく、川辺さんは大きく首を縦に振って見せてきた。
「は、はい。し、食材を出そうと下の冷凍室へ行きましたら、そこに……」
「冷凍室だな?」
震える腕で自分が今出てきた入口を指し示し川辺さんが告げると、お兄ちゃんは即座にそちらへ歩きだす。
狼狽するように立つ川辺さんを一度だけ見てから、あたしもすぐに食堂へ向かった。
調理場にはまだあの死体があるけれど、今はシーツがかけられ見えないはずだ。
視線を逸らしておけば、どうにか耐えられる。
食堂から開け放たれたままの中扉を抜け、調理場へ。
呻くように返したぼやきにきっぱりと告げられながら、その木ノ江さんが使用していた二〇三号室の前へ。
そこで、お兄ちゃんの足が止まった。
つられて、並んでいたあたしも歩くのを止めて立ち止まる。
「……予感的中、か」
「え?」
あたしは目の前のドアに向けていた視線をまず最初にお兄ちゃんへ向け、それからその瞳が見つめる先――前方にある二〇四号室のドアへ移動させた。
そして、そこから網膜へと映り込んでくる物を認識した瞬間、息を飲むはめになった。
「そんな……」
そこに貼りつけられている、一枚のカード。
今となっては、それが何かを疑うのも馬鹿馬鹿しい。
「……」
戸惑うことなく歩みを再開したお兄ちゃんがドアへ近づき、貼られたカードを剥がした。
「……Lv.4。静謐のカードだ」
<静謐>
そのカードの持ち主は、二○四号室の主である花面 京華さん。
呆然とするあたしの前で、お兄ちゃんはドアノブへ手を伸ばしそっと引いた。
「……鍵はかかっていないな」
木ノ江さんのときとは違い、何の抵抗もなく開かれたドアの先を慎重に覗き込んだお兄ちゃんだったけれど、すぐに顔を引っこめてこちらを見る。
「マリネはちょっと待っていろ」
「え? あ、ちょ……」
それだけ告げ、今度は身体ごと室内に入っていくお兄ちゃんを制止しようとするも失敗し、あたしはその場に立ち尽くした。
廊下を見回すも誰の気配もなく、静まり返っているのが何とも不気味だ。
まるで、一人で山奥の廃墟に迷い込んだようなシチュエーションを想像し、無意味に心細くなる。
「トイレの中も見てみたが、誰もいないな。争ったような感じもないし、血痕なども見受けられなかった。……どこか別の場所に移されたのか?」
時間にすれば僅か二分くらいで、お兄ちゃんは廊下へと戻ってきた。
嫌な予感が、あたしたち兄妹に絡みつく。
貼られたカードと、消えた花面さん。
何もないわけがない。
「どうするの?」
「探すしかないだろう。だが、その前に残りのドアも調べる」
萎縮したようになるあたしの声にそう答え、お兄ちゃんは更に廊下を奥へと進む。
伊藤さん、美九佐さん、そして絵馬さん。
全ての客室の前を通り過ぎて、目立った異常がないことを確認したあたしたちは、そのまま階段へ向かい一階へと下りる。
「どこに何があるかわからない、ここは一部屋ずつ見ていこう。ただ、食堂と調理場は世話人が既に入っていることだろうから、まずはその先の――」
スッと前方を指差し何かを告げようとしたお兄ちゃんは、突然食堂の入口から飛び出してきた川辺さんを見て動きを止めた。
慌てた様子でドアを開け廊下に出てくる川辺さんを、あたしも見ていた。
まるで何かから逃げるような、鬼気迫る雰囲気をまとうその様子は、つい今しがたまでの川辺さんとは別人のように感じた。
瞳孔が開いているのではと疑いたくなるような瞳をこちらに向け、あたしたちの存在に気づくや否や
「白沼様、大変です!」
大声を上げながら駆け寄ってくる。
「どうした。新たな死体でも増えていたのか?」
苦笑すらできないような台詞を吐いて、川辺さんを見つめ返すお兄ちゃん。
だけど、そんな台詞に不快感を示すことなく、川辺さんは大きく首を縦に振って見せてきた。
「は、はい。し、食材を出そうと下の冷凍室へ行きましたら、そこに……」
「冷凍室だな?」
震える腕で自分が今出てきた入口を指し示し川辺さんが告げると、お兄ちゃんは即座にそちらへ歩きだす。
狼狽するように立つ川辺さんを一度だけ見てから、あたしもすぐに食堂へ向かった。
調理場にはまだあの死体があるけれど、今はシーツがかけられ見えないはずだ。
視線を逸らしておけば、どうにか耐えられる。
食堂から開け放たれたままの中扉を抜け、調理場へ。
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