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第三章:罪人の記し
罪人の記し 7
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八月二日。午後十時十三分。三階、三〇六号室前。
最低限の片付けや研究所内の戸締りを全て確認し、川辺さんは新しく使う部屋の前までやってきた。
側には、生き残っているメンバーが本当に川辺さんが隔離されるのかを見届けるために集まっている。
お兄ちゃんの手には、その辺で拾ってきたらしい頑丈そうな長い木の棒。
長さ的には廊下の幅より少し長めで、つっかえ棒として使うにはちょうど良いサイズではあると思う。
「それでは、どうかよろしくおねがいします」
それほど多くはない手荷物を持って、小さく頭を下げる川辺さん。
「予定通り、明日の朝は五時過ぎくらいにここを開ける。問題ないな?」
「はい、もちろんでございます」
確認を取るお兄ちゃんへ頷き、川辺さんは部屋のドアを開けて中へと消える。
ドアに鍵のかかる小さな音が聞こえ、それからお兄ちゃんがつっかえ棒をセットした。
「はっ、これで一件落着だな。後はこのまま迎えが来る日まで我慢して過ごせば済む。殺人爺め、どうせ何らかの事情で殺した三人に恨みを持っていたとか、そんなオチがあるんだろう。殺す奴は殺して、後はこうして被害者ぶりをアピールして疑いの目を薄めようとか企んでるんじゃないのか」
引っかけたばかりの棒を触って確かめながら、笠島さんはニヤつきながら大声で告げる。
たぶん、中にいる川辺さんへの皮肉だろうけれど本当に性格が悪い人だ。
「この後はどうする? 俺たちも部屋に戻るのか?」
困ったような様子でそう意見を求めたのは、伊藤さんだった。
「どうにでもすれば良い。別に就寝時間が決まっているわけではない、談話室に戻り雑談をしようと、部屋に戻り一人になろうと自由だ」
「いや、そうじゃなくてよ。今夜は全員で過ごした方が良いんじゃないかって意味だよ。また何かあったらヤバイだろ?」
的外れなお兄ちゃんの応答に、伊藤さんはじれったそうに言葉を訂正する。
「そうですね。もうこれ以上被害を拡大させたくはない。ここからは慎重に且つ適切な判断をしていくべきだと思います」
美九佐さんも頷きお兄ちゃんを見るけれど、真面目に聞いているのかいないのか、お兄ちゃんは暗くなった窓の外へ目をやりどこかつまらなそうに口を開いた。
「正直、この島に閉じ込められている以上は安全などどこにも保障されることはない。全員で固まっていれば安心できることは確実だろうが、それで命が守られることを確約されることにはならないしな。難しいところだ」
「おれは今日も部屋に戻るぞ。他人と同じ部屋に固まって残りの日数を過ごすなんざ、精神力が持たん。どうせ、これ以上死ぬ奴は現れんだろうし、鍵だけかけて堂々としていれば良い」
そう言ってヒラヒラと手を振ると、笠島さんは一人あたしたちから離れ自分の部屋へと歩いていってしまう。
その姿が三〇一号室に消えるのを全員が眺め、誰かがため息をつくのを聞く。
何とはなしに視線を移動させ周囲を探るように窺うと、花面さんがぼんやりしたように目を細めているのに気がついた。
「花面さん、大丈夫ですか?」
彼女の容態に気がついていたらしい葵さんが気遣って声をかけると、花面さんは申し訳なさそうに苦笑してみせた。
「すみません。昨夜は不安で眠りが浅かったから、少し睡眠不足で……」
「ああ……仕方ないですよ。こんな状況じゃ。まして、今日も一日ずっと気を張って過ごしてましたし。どうします? 一階に下りて休みますか? なんなら、あたし側に付き添いますよ?」
「…………いえ、ご迷惑はおかけしたくないので。自分の部屋に戻ります」
葵さんの申し出に少し躊躇う仕草をみせるも、花面さんは小さく首を振ってそれを拒否してしまう。
「でも……もし何かあったら……」
それでも、心配そうに言葉を重ねようとする葵さんだったけど、花面さんの恐縮するような表情に諦めた様子で口を閉ざした。
八月二日。午後十時十三分。三階、三〇六号室前。
最低限の片付けや研究所内の戸締りを全て確認し、川辺さんは新しく使う部屋の前までやってきた。
側には、生き残っているメンバーが本当に川辺さんが隔離されるのかを見届けるために集まっている。
お兄ちゃんの手には、その辺で拾ってきたらしい頑丈そうな長い木の棒。
長さ的には廊下の幅より少し長めで、つっかえ棒として使うにはちょうど良いサイズではあると思う。
「それでは、どうかよろしくおねがいします」
それほど多くはない手荷物を持って、小さく頭を下げる川辺さん。
「予定通り、明日の朝は五時過ぎくらいにここを開ける。問題ないな?」
「はい、もちろんでございます」
確認を取るお兄ちゃんへ頷き、川辺さんは部屋のドアを開けて中へと消える。
ドアに鍵のかかる小さな音が聞こえ、それからお兄ちゃんがつっかえ棒をセットした。
「はっ、これで一件落着だな。後はこのまま迎えが来る日まで我慢して過ごせば済む。殺人爺め、どうせ何らかの事情で殺した三人に恨みを持っていたとか、そんなオチがあるんだろう。殺す奴は殺して、後はこうして被害者ぶりをアピールして疑いの目を薄めようとか企んでるんじゃないのか」
引っかけたばかりの棒を触って確かめながら、笠島さんはニヤつきながら大声で告げる。
たぶん、中にいる川辺さんへの皮肉だろうけれど本当に性格が悪い人だ。
「この後はどうする? 俺たちも部屋に戻るのか?」
困ったような様子でそう意見を求めたのは、伊藤さんだった。
「どうにでもすれば良い。別に就寝時間が決まっているわけではない、談話室に戻り雑談をしようと、部屋に戻り一人になろうと自由だ」
「いや、そうじゃなくてよ。今夜は全員で過ごした方が良いんじゃないかって意味だよ。また何かあったらヤバイだろ?」
的外れなお兄ちゃんの応答に、伊藤さんはじれったそうに言葉を訂正する。
「そうですね。もうこれ以上被害を拡大させたくはない。ここからは慎重に且つ適切な判断をしていくべきだと思います」
美九佐さんも頷きお兄ちゃんを見るけれど、真面目に聞いているのかいないのか、お兄ちゃんは暗くなった窓の外へ目をやりどこかつまらなそうに口を開いた。
「正直、この島に閉じ込められている以上は安全などどこにも保障されることはない。全員で固まっていれば安心できることは確実だろうが、それで命が守られることを確約されることにはならないしな。難しいところだ」
「おれは今日も部屋に戻るぞ。他人と同じ部屋に固まって残りの日数を過ごすなんざ、精神力が持たん。どうせ、これ以上死ぬ奴は現れんだろうし、鍵だけかけて堂々としていれば良い」
そう言ってヒラヒラと手を振ると、笠島さんは一人あたしたちから離れ自分の部屋へと歩いていってしまう。
その姿が三〇一号室に消えるのを全員が眺め、誰かがため息をつくのを聞く。
何とはなしに視線を移動させ周囲を探るように窺うと、花面さんがぼんやりしたように目を細めているのに気がついた。
「花面さん、大丈夫ですか?」
彼女の容態に気がついていたらしい葵さんが気遣って声をかけると、花面さんは申し訳なさそうに苦笑してみせた。
「すみません。昨夜は不安で眠りが浅かったから、少し睡眠不足で……」
「ああ……仕方ないですよ。こんな状況じゃ。まして、今日も一日ずっと気を張って過ごしてましたし。どうします? 一階に下りて休みますか? なんなら、あたし側に付き添いますよ?」
「…………いえ、ご迷惑はおかけしたくないので。自分の部屋に戻ります」
葵さんの申し出に少し躊躇う仕草をみせるも、花面さんは小さく首を振ってそれを拒否してしまう。
「でも……もし何かあったら……」
それでも、心配そうに言葉を重ねようとする葵さんだったけど、花面さんの恐縮するような表情に諦めた様子で口を閉ざした。
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