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第二章:断罪決行
断罪決行 23
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やがて、十分近くの時間が経過した頃に。
「白沼様!」
いなくなるとき同様に慌てたような足音を響かせながら、川辺さんが引き返してきた。
「鍵を持ってくるだけで随分遅かったな」
血相を変えて近寄ってきた川辺さんへ冷ややかな視線を向け、お兄ちゃんが言う。
「いえ……それが、無いのです」
「ん?」
ぜぇぜぇと息を切らしつつ吐き出す川辺さんの声に、あたしと伊藤さんも意識を集中する。
「保管されていたマスターキーが、無くなっているのです。……専用の保管庫に入れてロックされていたのですが、いつの間にか解除されていたようで、中が空になっていました」
「は? 何だそりゃ、誰かが持ち出したって言うのかよ?」
「そう、なりますかね。昨日の夜に確認したときは、異常なかったのですが……」
「その鍵を保管していた場所のロックと言うのは?」
「保管庫の鍵が六桁の数字を組み合わせるダイヤルになっていまして、それが解かれていたのです」
そう答える川辺さんに頷いて、お兄ちゃんは木ノ江さんの部屋へ視線を戻す。
「となると、ここを外から開けるのは不可能というわけか。……仕方ない。おい、悪いが手伝ってくれないか?」
「あ? どうするつもりだ?」
ポンと肩を叩かれた伊藤さんが、訝し気にお兄ちゃんを見やる。
「どうするも何もない。無理矢理ドアを開けるだけの話だ」
しれっとしながら告げられるその言葉に、伊藤さんだけでなくあたしと川辺さんまでもが、驚いたような顔になってしまった。
「いや、おいおいそれはまずいだろ。いくらなんでも、壊しちまうのは後から弁償とかになったりしないか? 木ノ江さんだって、ただ寝てるだけかもしれないんだ。いきなりドアをぶち破って侵入したら、驚くで済む話じゃないぞ」
ドアとお兄ちゃんの間に立ち塞がるようにして移動しながら、伊藤さんは考え直せと言いたげに腕を広げる。
「問題ない。驚かせてしまうことは申し訳ないが、今はあくまでも緊急事態だ。ドアが壊れても空き部屋に移ってもらえば済む話だし、こんな状況に陥っての判断だ。弁償する必要だってない」
それに、と言ってお兄ちゃんは、伊藤さんの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「万が一、木ノ江医師の身にも何かあったとしたなら、悠長なことは言っていられない」
「万が一って……」
絶句して背後のドアを振り返る伊藤さんの表情が、ホラー漫画の一コマみたいに見えた。
「もたもたしていても埒があかない。やるぞ」
「……あ、ああ」
まだ躊躇う気持ちを残しているように見受けられるも、渋々了承したように伊藤さんはお兄ちゃんと並ぶ。
「マリネは少し離れていろ」
「あ、うん……」
言われるまま後ろへ下がるあたしを守るように、川辺さんが側に寄り添ってくれた。
大人二人がドアに向かって体当たりを繰り返す、大きな音が廊下中に鳴り響く。
これで木ノ江さんの身に何もなかったとしたなら、今頃ドアを見つめながら怯えてるのではないだろうか。
数十回に及ぶ体当たりの末に、鈍い音を立ててドアが外れた。
「よ、良し――っ!」
痛めたらしい右肩を擦りながら伊藤さんは呟き、そのまま三歩ほど中へと足を進める。
そのすぐ後ろにお兄ちゃんが続き、あたしと川辺さんもドアの前まで移動して中の様子を窺った。
「……?」
これだけ大きな音を立てていたにも関わらず、室内はしんと静まり返っている。
無人なのかと言うとそうでもないようで、ベッドには人が寝ているのが一目でわかるような、大きな膨らみができていた。
だけど。
――何、あれ?
そのベッドから出ている頭が、あまりにも不自然に見えあたしは眉を顰めた。
顔は反対側を向いているため、見ることができない。
できないんだけれど、その頭部が木ノ江さんのものとは、どうしても考えにくい。
何故なら、その頭部には髪の毛が生えていないから。
剃ったとか、そんな次元の話じゃない。
「白沼様!」
いなくなるとき同様に慌てたような足音を響かせながら、川辺さんが引き返してきた。
「鍵を持ってくるだけで随分遅かったな」
血相を変えて近寄ってきた川辺さんへ冷ややかな視線を向け、お兄ちゃんが言う。
「いえ……それが、無いのです」
「ん?」
ぜぇぜぇと息を切らしつつ吐き出す川辺さんの声に、あたしと伊藤さんも意識を集中する。
「保管されていたマスターキーが、無くなっているのです。……専用の保管庫に入れてロックされていたのですが、いつの間にか解除されていたようで、中が空になっていました」
「は? 何だそりゃ、誰かが持ち出したって言うのかよ?」
「そう、なりますかね。昨日の夜に確認したときは、異常なかったのですが……」
「その鍵を保管していた場所のロックと言うのは?」
「保管庫の鍵が六桁の数字を組み合わせるダイヤルになっていまして、それが解かれていたのです」
そう答える川辺さんに頷いて、お兄ちゃんは木ノ江さんの部屋へ視線を戻す。
「となると、ここを外から開けるのは不可能というわけか。……仕方ない。おい、悪いが手伝ってくれないか?」
「あ? どうするつもりだ?」
ポンと肩を叩かれた伊藤さんが、訝し気にお兄ちゃんを見やる。
「どうするも何もない。無理矢理ドアを開けるだけの話だ」
しれっとしながら告げられるその言葉に、伊藤さんだけでなくあたしと川辺さんまでもが、驚いたような顔になってしまった。
「いや、おいおいそれはまずいだろ。いくらなんでも、壊しちまうのは後から弁償とかになったりしないか? 木ノ江さんだって、ただ寝てるだけかもしれないんだ。いきなりドアをぶち破って侵入したら、驚くで済む話じゃないぞ」
ドアとお兄ちゃんの間に立ち塞がるようにして移動しながら、伊藤さんは考え直せと言いたげに腕を広げる。
「問題ない。驚かせてしまうことは申し訳ないが、今はあくまでも緊急事態だ。ドアが壊れても空き部屋に移ってもらえば済む話だし、こんな状況に陥っての判断だ。弁償する必要だってない」
それに、と言ってお兄ちゃんは、伊藤さんの目を真っ直ぐに見つめ返す。
「万が一、木ノ江医師の身にも何かあったとしたなら、悠長なことは言っていられない」
「万が一って……」
絶句して背後のドアを振り返る伊藤さんの表情が、ホラー漫画の一コマみたいに見えた。
「もたもたしていても埒があかない。やるぞ」
「……あ、ああ」
まだ躊躇う気持ちを残しているように見受けられるも、渋々了承したように伊藤さんはお兄ちゃんと並ぶ。
「マリネは少し離れていろ」
「あ、うん……」
言われるまま後ろへ下がるあたしを守るように、川辺さんが側に寄り添ってくれた。
大人二人がドアに向かって体当たりを繰り返す、大きな音が廊下中に鳴り響く。
これで木ノ江さんの身に何もなかったとしたなら、今頃ドアを見つめながら怯えてるのではないだろうか。
数十回に及ぶ体当たりの末に、鈍い音を立ててドアが外れた。
「よ、良し――っ!」
痛めたらしい右肩を擦りながら伊藤さんは呟き、そのまま三歩ほど中へと足を進める。
そのすぐ後ろにお兄ちゃんが続き、あたしと川辺さんもドアの前まで移動して中の様子を窺った。
「……?」
これだけ大きな音を立てていたにも関わらず、室内はしんと静まり返っている。
無人なのかと言うとそうでもないようで、ベッドには人が寝ているのが一目でわかるような、大きな膨らみができていた。
だけど。
――何、あれ?
そのベッドから出ている頭が、あまりにも不自然に見えあたしは眉を顰めた。
顔は反対側を向いているため、見ることができない。
できないんだけれど、その頭部が木ノ江さんのものとは、どうしても考えにくい。
何故なら、その頭部には髪の毛が生えていないから。
剃ったとか、そんな次元の話じゃない。
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