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第二章:断罪決行
断罪決行 5
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八月一日、午後二時五十九分。
お兄ちゃんに頼まれて、川辺さんが全員を談話室へ集まるよう呼びに行ったのが、二時三十分を少し過ぎた頃。
そして今、その談話室には笠島さん以外のメンバーが既に集合している。
笠島さんは隣にあるシャワールームで汗を流していた最中だったらしく、こっちに来るのは少しだけ遅くなるかもしれないということだった。
「笠島さん、遅いですね。何をしているのかしら」
部屋の入口を見つめそう呟いたのは、木ノ江さん。
既に状況を把握している川辺さんと木ノ江さん以外、ここへ集められた理由をまだ誰も理解していない。
大切な話があるから至急集まってほしいと告げられ、訳もわからぬまま座っているだけ。
ただ、花面さんだけは何となく嫌な予感を感じているはずだろう。
その証拠に強張った顔であたしやお兄ちゃんのことを見てくるけれど、自分から何かを訊ねてくる気配はない。
きっと、それを確かめることで今起きていることを明確にしてしまうのが怖いのかもしれない。
「つーか、これ何で集められてんだ? いよいよ招待主のお出ましか?」
部品製造をしていると名乗った伊藤さんが、期待とつまらなさが入り混じったような微妙な表情で口を開く。
「あ、いえ。主様はまだ姿を見せてはいないのですが、ただちょっと――」
「まったく、一体何の用だ? 夕食までは自由にしていろと言ったくせに、話が違うだろう!」
困ったように質問へ応じる川辺さんの声を遮って、笠島さんが部屋の中へと姿を現した。
シャワーを浴びていたはずなのに、きっちりと髪はオールバックにまとめられている。
それを見て、あたしは彼が遅れた理由に大体の見当がついた。
「申し訳ありません。実は、ちょっと問題が発生しまして。皆様にお伝えしなくてはならないと思い、集まっていただきました」
笠島さんが席に着くのを待って、川辺さんはそう言葉を作り直す。
「問題? どうされました、ガスか水道にでもトラブルが起きましたか?」
これは、音楽指揮者の美九佐さんの問い。
「いえ、そういったことではないのですが……。その……」
どう説明をしたら良いものかと悩むように、川辺さんはチラリとお兄ちゃんへ視線を向ける。
それを受けて、お兄ちゃんは仕方がないと言いたげに小さくため息を吐くと、あくまでも冷静な口調で説明を引き継いだ。
「はっきりと言おう。オレと一緒にここへ来た絵馬 詩織が、自室で死んでいた。正確な検死ができる環境ではないが、木ノ江医師に調べてもらった結果死因は毒殺。つまり、殺人である可能性が高い」
集まる人たちの顔が、瞬時に強張った。
一瞬にして室内に充満する空気の質が変わったような、そんな錯覚を感じてしまう。
「お……おいおいおい、ちょっと待ってくれ。突然何を喋りだしたかと思えば、殺人? 絵馬と言うのは、確かあの髪の長い綺麗な娘さんだったね。死んでいたとはどういうことなんだ? ここへ着いたときは、特に変わった様子はなかったと記憶しているが」
元料理長の貴道さんが、引きつった笑みを浮かべてお兄ちゃんを見る。
「島に到着したときはな。その後、オレたちは全員ここへ集められ簡単な自己紹介と今後についての説明を受けたわけだが、その際に配られていたアイスコーヒー……」
言いながら、お兄ちゃんは問題のコップをみんなに見えるよう頭上へと掲げた。
「そのコーヒーが入っていたこのコップに、毒が盛られていたことが判明している。僅かに残っていた中身をそこの金魚鉢に入れてみたんだが、結果がそれだ」
「結果?」
お兄ちゃんが指差した先、金魚鉢へと葵さんが近づき覗き込む。
「……え? これ、みんな死んでるんですか?」
絶命し、水面に浮かぶだけの存在に成り果てた金魚を目視した葵さんは、戸惑ったように振り返り眉を寄せた。
八月一日、午後二時五十九分。
お兄ちゃんに頼まれて、川辺さんが全員を談話室へ集まるよう呼びに行ったのが、二時三十分を少し過ぎた頃。
そして今、その談話室には笠島さん以外のメンバーが既に集合している。
笠島さんは隣にあるシャワールームで汗を流していた最中だったらしく、こっちに来るのは少しだけ遅くなるかもしれないということだった。
「笠島さん、遅いですね。何をしているのかしら」
部屋の入口を見つめそう呟いたのは、木ノ江さん。
既に状況を把握している川辺さんと木ノ江さん以外、ここへ集められた理由をまだ誰も理解していない。
大切な話があるから至急集まってほしいと告げられ、訳もわからぬまま座っているだけ。
ただ、花面さんだけは何となく嫌な予感を感じているはずだろう。
その証拠に強張った顔であたしやお兄ちゃんのことを見てくるけれど、自分から何かを訊ねてくる気配はない。
きっと、それを確かめることで今起きていることを明確にしてしまうのが怖いのかもしれない。
「つーか、これ何で集められてんだ? いよいよ招待主のお出ましか?」
部品製造をしていると名乗った伊藤さんが、期待とつまらなさが入り混じったような微妙な表情で口を開く。
「あ、いえ。主様はまだ姿を見せてはいないのですが、ただちょっと――」
「まったく、一体何の用だ? 夕食までは自由にしていろと言ったくせに、話が違うだろう!」
困ったように質問へ応じる川辺さんの声を遮って、笠島さんが部屋の中へと姿を現した。
シャワーを浴びていたはずなのに、きっちりと髪はオールバックにまとめられている。
それを見て、あたしは彼が遅れた理由に大体の見当がついた。
「申し訳ありません。実は、ちょっと問題が発生しまして。皆様にお伝えしなくてはならないと思い、集まっていただきました」
笠島さんが席に着くのを待って、川辺さんはそう言葉を作り直す。
「問題? どうされました、ガスか水道にでもトラブルが起きましたか?」
これは、音楽指揮者の美九佐さんの問い。
「いえ、そういったことではないのですが……。その……」
どう説明をしたら良いものかと悩むように、川辺さんはチラリとお兄ちゃんへ視線を向ける。
それを受けて、お兄ちゃんは仕方がないと言いたげに小さくため息を吐くと、あくまでも冷静な口調で説明を引き継いだ。
「はっきりと言おう。オレと一緒にここへ来た絵馬 詩織が、自室で死んでいた。正確な検死ができる環境ではないが、木ノ江医師に調べてもらった結果死因は毒殺。つまり、殺人である可能性が高い」
集まる人たちの顔が、瞬時に強張った。
一瞬にして室内に充満する空気の質が変わったような、そんな錯覚を感じてしまう。
「お……おいおいおい、ちょっと待ってくれ。突然何を喋りだしたかと思えば、殺人? 絵馬と言うのは、確かあの髪の長い綺麗な娘さんだったね。死んでいたとはどういうことなんだ? ここへ着いたときは、特に変わった様子はなかったと記憶しているが」
元料理長の貴道さんが、引きつった笑みを浮かべてお兄ちゃんを見る。
「島に到着したときはな。その後、オレたちは全員ここへ集められ簡単な自己紹介と今後についての説明を受けたわけだが、その際に配られていたアイスコーヒー……」
言いながら、お兄ちゃんは問題のコップをみんなに見えるよう頭上へと掲げた。
「そのコーヒーが入っていたこのコップに、毒が盛られていたことが判明している。僅かに残っていた中身をそこの金魚鉢に入れてみたんだが、結果がそれだ」
「結果?」
お兄ちゃんが指差した先、金魚鉢へと葵さんが近づき覗き込む。
「……え? これ、みんな死んでるんですか?」
絶命し、水面に浮かぶだけの存在に成り果てた金魚を目視した葵さんは、戸惑ったように振り返り眉を寄せた。
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