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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 20
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言いながら、お兄ちゃんはまた絵馬さんの側へと近づいていく。
「詩織以外の誰かが、後から貼りつけたと考察できる。もちろん、オレはやっていないしずっと一緒にいたマリネにも不可能。ここにいる三人以外の誰かの仕業、というわけだな」
三人。亡くなった絵馬さんも含んでの数か。
「……誰がいったい何のためにこんなことをしたのか、どうにも嫌な予感がしてならな――」
「絵馬さん、どうかされたんですか!?」
突然入口が開き、お兄ちゃんの話を遮るようにして慌てた様子の木ノ江さんが駆け込んできた。
そのすぐ背後には川辺さんもいる。
「わからない。オレたちが来たときには既にこの状態だった。悪いが調べてもらうことはできるか?」
「ええ。できることは限られますから、最低限のことしかできませんけど」
絵馬さんの眠るベッドへ近づき、手にしていた小さなバッグを木ノ江さんは開く。
中には、救急セットと思われるような道具が入っているのが一瞬見えた。
「……お兄ちゃん、どこ行くの?」
そんな木ノ江さんの作業を見守ることもせず、お兄ちゃんはベッドに背を向け部屋を出ようと歩きだす。
「どこにも行かない。ドアに貼られた紙を確かめるだけだ」
肩越しに答えて、そのまま廊下へ消えていく。
あたしは慌てて追いかけた。
「ちょっと、勝手に剥がしたりして大丈夫なのかな?」
画鋲で留められた二枚の紙を乱暴にむしり取って、お兄ちゃんはまじまじと見つめる。
「辞書の方は……ただの辞書だな。どこの出版社のものかは知らないが、特に不審な点はない。むしろ、気になるのはこっちのカードだ」
言って、<知識>と書かれたカードを掲げて見せてきた。
「裏に何か書いてある。Lv.1の文字同様、絵馬のカードには無かったものだ」
「裏?」
何だろうと思い、お兄ちゃんからカードを受け取り裏返す。
そこには、赤い文字で<CONVICT>と記されていた。
「こんびくと?」
文字を素直に読み上げて、あたしは頭に疑問符を浮かべる。
Lv.1とCONVICT。送られてきたカードには無い、追加された二つの謎。
「何これ? カードゲームじゃあるまいし」
「さっぱりわからないが、気にはなる。辞書の切れ端と知識のカード。確か、絵馬は高校で国語を教えていると言っていた。国語教師、辞書、知識。何か、繋がっているようにも思えないか?」
「ああ……、連想ゲームみたいな?」
「そう。別の言い方に変えるならば……見立て、とも言える」
意味深なニュアンスでポツリと言って、お兄ちゃんはドアを開け部屋の中を、木ノ江さんが調べている最中の絵馬さんの死体を見やる。
「見立て……って?」
「あの医師の報告を待たなければはっきりしないことだが、万が一これら全ての事象が何者かの仕業だとするのならば、見立てという推測は成り立つ」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん。何者かによる仕業って、そんな変なこと――」
「なら、はっきりと告げるべきか?」
喋りかけるあたしの声をぶつ切りにするように、お兄ちゃんの声が被さる。
「体調が急変した詩織やこの貼られていたカードなどを客観的に見ると、どうにも不自然な感覚が拭えない。最悪の事態として、第三者が関わっている可能性、つまりは殺人ということもあり得るというわけだ。それも、計画的に実行された可能性がな」
殺人。
お兄ちゃんの口から出てきたその不穏な言葉に、あたしは漠然とした寒気を覚える。
こんな突然言われても、実感の湧く単語じゃない。
絵馬さんが死んだっていう事実だって受け入れきれず、こうして目の当たりにしていても半信半疑な自分がいるくらいなのに。
「世話人」
「はい、何でしょうか?」
「この研究所には電話やネットはあるのか? 外部と連絡を取る手段を知っておきたい」
「詩織以外の誰かが、後から貼りつけたと考察できる。もちろん、オレはやっていないしずっと一緒にいたマリネにも不可能。ここにいる三人以外の誰かの仕業、というわけだな」
三人。亡くなった絵馬さんも含んでの数か。
「……誰がいったい何のためにこんなことをしたのか、どうにも嫌な予感がしてならな――」
「絵馬さん、どうかされたんですか!?」
突然入口が開き、お兄ちゃんの話を遮るようにして慌てた様子の木ノ江さんが駆け込んできた。
そのすぐ背後には川辺さんもいる。
「わからない。オレたちが来たときには既にこの状態だった。悪いが調べてもらうことはできるか?」
「ええ。できることは限られますから、最低限のことしかできませんけど」
絵馬さんの眠るベッドへ近づき、手にしていた小さなバッグを木ノ江さんは開く。
中には、救急セットと思われるような道具が入っているのが一瞬見えた。
「……お兄ちゃん、どこ行くの?」
そんな木ノ江さんの作業を見守ることもせず、お兄ちゃんはベッドに背を向け部屋を出ようと歩きだす。
「どこにも行かない。ドアに貼られた紙を確かめるだけだ」
肩越しに答えて、そのまま廊下へ消えていく。
あたしは慌てて追いかけた。
「ちょっと、勝手に剥がしたりして大丈夫なのかな?」
画鋲で留められた二枚の紙を乱暴にむしり取って、お兄ちゃんはまじまじと見つめる。
「辞書の方は……ただの辞書だな。どこの出版社のものかは知らないが、特に不審な点はない。むしろ、気になるのはこっちのカードだ」
言って、<知識>と書かれたカードを掲げて見せてきた。
「裏に何か書いてある。Lv.1の文字同様、絵馬のカードには無かったものだ」
「裏?」
何だろうと思い、お兄ちゃんからカードを受け取り裏返す。
そこには、赤い文字で<CONVICT>と記されていた。
「こんびくと?」
文字を素直に読み上げて、あたしは頭に疑問符を浮かべる。
Lv.1とCONVICT。送られてきたカードには無い、追加された二つの謎。
「何これ? カードゲームじゃあるまいし」
「さっぱりわからないが、気にはなる。辞書の切れ端と知識のカード。確か、絵馬は高校で国語を教えていると言っていた。国語教師、辞書、知識。何か、繋がっているようにも思えないか?」
「ああ……、連想ゲームみたいな?」
「そう。別の言い方に変えるならば……見立て、とも言える」
意味深なニュアンスでポツリと言って、お兄ちゃんはドアを開け部屋の中を、木ノ江さんが調べている最中の絵馬さんの死体を見やる。
「見立て……って?」
「あの医師の報告を待たなければはっきりしないことだが、万が一これら全ての事象が何者かの仕業だとするのならば、見立てという推測は成り立つ」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん。何者かによる仕業って、そんな変なこと――」
「なら、はっきりと告げるべきか?」
喋りかけるあたしの声をぶつ切りにするように、お兄ちゃんの声が被さる。
「体調が急変した詩織やこの貼られていたカードなどを客観的に見ると、どうにも不自然な感覚が拭えない。最悪の事態として、第三者が関わっている可能性、つまりは殺人ということもあり得るというわけだ。それも、計画的に実行された可能性がな」
殺人。
お兄ちゃんの口から出てきたその不穏な言葉に、あたしは漠然とした寒気を覚える。
こんな突然言われても、実感の湧く単語じゃない。
絵馬さんが死んだっていう事実だって受け入れきれず、こうして目の当たりにしていても半信半疑な自分がいるくらいなのに。
「世話人」
「はい、何でしょうか?」
「この研究所には電話やネットはあるのか? 外部と連絡を取る手段を知っておきたい」
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