Lv.

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
22 / 84
第一章:偽りの招待状

偽りの招待状 19

しおりを挟む
 財布、免許証、ハンカチ、ポケットティッシュ、化粧品やコンパクトサイズの鏡、ここへ来るきっかけを生み出した招待状入りの封筒。

 次々と取り出され床に並べられていく絵馬さんの私物を、あたしは少し後ろめたい気持ちで見つめる。

 これは既に、亡くなった人の遺品。

 ほんのちょっと前までは、そんな呼び方をするものたちじゃなかったのに。

「……薬のようなものは無いな。マリネ、詩織の服を調べてみてくれ。ポケットとかに何か入っていないか?」

「はぁ?」

 いきなり下された突飛でもない指示に、あたしはこの場にそぐわないような素っ頓狂な声を上げてしまった。

「調べろって……だって絵馬さん、死んじゃってるんでしょ? 勝手に触ったりなんてできないよ!」

「男のオレが触るよりはマシだろう。もし問題がないのなら自分で調べても構わないが」

「……う~」

 そもそも、どうしてあたしたちが警察や探偵の真似事みたいなことをしなくてはいけないのか。

 下手にいじくりまわして、万が一後から警察の人たちにお叱りをいただいたら、ごめんなさいでは済まないかもしれないのに。

 だけど、お兄ちゃんのことだからここであたしが断れば、本気で絵馬さんの身体をまさぐることは確実っぽい。

 妹として、できることならそれはさせたくない。

 絵馬さんだって嫌だろう。

「……ポケット調べるだけだよね?」

「ああ。何か入っていたら全部出してくれ」

 渋々承諾するあたしへ、お兄ちゃんは無感情に言葉を返してくる。

「……はぁ」

 服だけとは言え死んだ人の身体を調べるなんてした経験はないし、する日が来るなんても思ってもいなかった。

 心の中でごめんなさいと謝りながらいくつかあるポケットの中を確かめるも、特に何も見つけることはできず。

 ほんのりと服越しに体温が伝わってくる絵馬さんの身体は、本当に死んでいるのかと疑いたくなる。

「何も入ってないよ……」

 調べ終え、振り向くあたしに

「わかった」

 とだけ頷いたお兄ちゃんは、例の招待状が入った封筒を開き中からトランプ型のカード取りだし見つめていた。

 <知識>

 そうプリントされた、一枚のカード。

 部屋の入口に貼られているものと同じカード。

「Lv.1、というのはどういうことなんだろうな……」

「え?」

 まるで独り言のように呟くお兄ちゃんの声に、あたしは小首を傾げて訊き返す。

「ドアに貼られていたカードには、Lv.1という新たな記載がされていた。あれが一体どういう意味なのか気になってな。そして、何故辞書の切れ端が添えられていたのかも。あれは詩織が自分でやったのか?」

「うーん? 理由はわからないけど、たぶんそうかもしれないよ? あんなことをする必要誰にもないはずだし、いたずらって考えても、ちょっとピンとこないもん」

「一理はある。だが、そう考えるといくつかおかしい」

 あたしの単純な発想に首肯して、そっと自分の顎に手を当てるお兄ちゃん。

「詩織がわざわざあんな送られてきたカードと類似したものを作成し、ここへ持ってきた意図がわからない。それと、辞書だ。詩織の荷物の中にそんな物はない。あらかじめ破いて持参したならわかるが、ドアに貼られているやつは皺も折り目もなく綺麗だった。クリアファイル等に挟んで保管しなければ、あそこまできちんとした状態は保てないはずだ」

 お兄ちゃんが並べた絵馬さんの荷物には、クリアファイルみたいなプリントをしまえるような物はない。

「大体、荷物の整理はおろか、施錠すらする余裕もなく身を投げ出すようにベッドへ倒れ込むほど酷い状態だった詩織が、ドアの外に無意味な張り紙をするなんてことがあり得るか? それに、あの世話人はさっきまでこんなものはなかったと、そう言っていた。つまり、元々そこに貼りつけられていたわけでもないということにもなる」

 そうなると――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔法使いが死んだ夜

ねこしゃけ日和
ミステリー
一時は科学に押されて存在感が低下した魔法だが、昨今の技術革新により再び脚光を浴びることになった。  そんな中、ネルコ王国の王が六人の優秀な魔法使いを招待する。彼らは国に貢献されるアイテムを所持していた。  晩餐会の前日。招かれた古城で六人の内最も有名な魔法使い、シモンが部屋の外で死体として発見される。  死んだシモンの部屋はドアも窓も鍵が閉められており、その鍵は室内にあった。  この謎を解くため、国は不老不死と呼ばれる魔法使い、シャロンが呼ばれた。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

時計の歪み

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、推理小説を愛する天才少年。裕福な家庭に育ち、一人暮らしをしている彼の生活は、静かで穏やかだった。しかし、ある日、彼の家の近くにある古びた屋敷で奇妙な事件が発生する。屋敷の中に存在する不思議な時計は、過去の出来事を再現する力を持っているが、それは真実を歪めるものであった。 事件を追いかける葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共にその真相を解明しようとするが、次第に彼らは恐怖の渦に巻き込まれていく。霊の囁きや過去の悲劇が、彼らの心を蝕む中、葉羽は自らの推理力を駆使して真実に迫る。しかし、彼が見つけた真実は、彼自身の記憶と心の奥深くに隠された恐怖だった。 果たして葉羽は、歪んだ時間の中で真実を見つけ出すことができるのか?そして、彼と彩由美の関係はどのように変わっていくのか?ホラーと推理が交錯する物語が、今始まる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

贄の探偵 騎士団長殺害及び死体損壊事件

雪之
ミステリー
「この事件、必ず三日で解決します」 帝国騎士団本部にて、床に磔にされた騎士団長の遺体が発見された。 事件の解決に向かったのは帝国調査団の調査官・クリシュナと監視官・フィオナ。 絶対的な権力を持たされ、たった二人で事件に挑まなければならない。 民の尊敬を集める人物が残虐に殺害された事件を解決できるのか。 そして、三日で解決することの本当の意味とは。 中世ヨーロッパ風の世界観で送る本格ミステリー。

「次元迷宮のレゾナンス」 超難解な推理小説

葉羽
ミステリー
天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)は、幼馴染の望月彩由美と平穏な日常を送っていた。しかし、街で発生した奇妙な密室殺人事件を境に、彼の周囲は不可解な現象に包まれていく。事件の謎を追う葉羽は、現実と虚構の境界が曖昧な迷宮へと迷い込み、異次元の恐怖に直面する。多層虚構世界に隠された真実とは? 葉羽は迷宮から脱出し、事件の真相を解き明かすことができるのか? ホラーと本格推理が融合した、未体験の知的興奮が幕を開ける。

処理中です...