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第一章:偽りの招待状
偽りの招待状 12
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九十九研究所の入口は一階のちょうど真ん中。
そして、その入口を入った真正面には談話室と思われる少し広めの部屋が用意されていた。
そこへ案内され、まずあたしたちがしたことは簡単な自己紹介。
最初に川辺さんが改めて挨拶をして、その後に葵さん、伊藤さんと続き絵馬さんがあたしたち兄妹のことも含めて紹介をしてくれた。
「ほぉ、学校の先生をしていらっしゃるのですか。ご立派ですな」
絵馬さんの職業を聞いた老紳士の人が、目尻に皺を寄せて微笑む。
「いえ、そんなことありません。まだ新米ですし」
「教師として教壇に立てている時点で、十分立派ですよ。謙遜するようなことじゃない。……それじゃあ、次は私が自己紹介しますかな。私は香川県から参りました、美九佐 行典と申します。音楽の指揮をしておりまして、今回はここで一部の著名人を集めた演奏会があると手紙を貰い足を運んだ次第ですが、どうやらそんなイベントはなさそうな雰囲気ですね」
老紳士の美九佐さんは、自己紹介をしながら困ったという風に肩を竦める。
「美九佐 行典……どこかで聞いたことがある名前ですね。以前、テレビか何かにご出演されたことはありませんか?」
三十代くらいの女性が、少し驚いた様子で問いを発した。
「あぁ……、ええ。二年ほど前にテレビの取材を受けたことはありますよ。それをご覧になって下さったのでしょうかね?」
「やっぱり。確か、海外でもご活躍されているそうで。有名な方に出会えて光栄です」
「それほど有名でもないですが、そう言ってもらえると悪い気はしませんね。貴女は?」
気を良くした美九佐さんに問われ、女性は自己紹介のタイミングを得たとばかりににこりと微笑む。
「わたしは木ノ江 明日香と言います。これでも、東京で医師をしているんですよ。立食パーティーを兼ねた勉強会があるということで来たんですけれど……。本当に皆さん、ここへ来られた理由がばらばらですね」
仕事柄なのか、木ノ江さんは話ながら人当たりの良さそうな笑顔を全員に向ける。
若干ぽっちゃりした体型をしているけど、それもこの笑顔とセットになると不思議と愛嬌が湧く感じがした。
「え? あの、待って下さい。えっと、木ノ江さんは勉強会を理由にここへ呼ばれたんですか?」
だけど、そんな木ノ江さんの向ける笑みに慌てたような表情を返す女性が一人。
「ええ、一応そうですけど」
きょとんとしながら木ノ江さんが頷くと、その女性は自分を指し示す仕草をしながら少し早口で言葉を紡ぐ。
「それ、あたしも同じです。医学の勉強会で最新のことが学べるからって、それでここへ来たんです。結構有名な人が集まるようなことが書かれていて、色々学べるかなと思って」
「……ひょっとして、あなたもわたしと同業者?」
「あ……、ちょっと違います。あたしは心理カウンセリングをしています、花面 京華です。大分から来ました」
「まぁ、心理カウンセリングを? すごく若く見えるけど、おいくつ?」
「今年で二十五になりました」
「若いわね。向上心があるのは感心だわ。でも、あなたとわたしが同じ理由で呼ばれたと言っても、それでも参加者は二人だけ。主催者の姿もないところを見ると、やっぱり誰かの悪質ないたずらに巻き込まれてしまったのかもしれないわね」
ため息混じりに吐き出された木ノ江さんの言葉を聞いて、花面さんの顔に陰りが差す。
「いたずら、ですか。こんな手の込んだいたずらをする人なんてそうそういるとは思えないんですが……。ここまでの用意をするのには沢山お金がかかるはずですし、それを赤の他人相手に使ってまでなんて、普通に考えたらあり得ませんよ」
「わからんだろ、そんなことは」
まるで切り捨てるような口調で花面さんの言葉へ返答を返したのは、木ノ江さんではなく別の声。
きっちりとスーツを着込んだ、オールバックの中年。
九十九研究所の入口は一階のちょうど真ん中。
そして、その入口を入った真正面には談話室と思われる少し広めの部屋が用意されていた。
そこへ案内され、まずあたしたちがしたことは簡単な自己紹介。
最初に川辺さんが改めて挨拶をして、その後に葵さん、伊藤さんと続き絵馬さんがあたしたち兄妹のことも含めて紹介をしてくれた。
「ほぉ、学校の先生をしていらっしゃるのですか。ご立派ですな」
絵馬さんの職業を聞いた老紳士の人が、目尻に皺を寄せて微笑む。
「いえ、そんなことありません。まだ新米ですし」
「教師として教壇に立てている時点で、十分立派ですよ。謙遜するようなことじゃない。……それじゃあ、次は私が自己紹介しますかな。私は香川県から参りました、美九佐 行典と申します。音楽の指揮をしておりまして、今回はここで一部の著名人を集めた演奏会があると手紙を貰い足を運んだ次第ですが、どうやらそんなイベントはなさそうな雰囲気ですね」
老紳士の美九佐さんは、自己紹介をしながら困ったという風に肩を竦める。
「美九佐 行典……どこかで聞いたことがある名前ですね。以前、テレビか何かにご出演されたことはありませんか?」
三十代くらいの女性が、少し驚いた様子で問いを発した。
「あぁ……、ええ。二年ほど前にテレビの取材を受けたことはありますよ。それをご覧になって下さったのでしょうかね?」
「やっぱり。確か、海外でもご活躍されているそうで。有名な方に出会えて光栄です」
「それほど有名でもないですが、そう言ってもらえると悪い気はしませんね。貴女は?」
気を良くした美九佐さんに問われ、女性は自己紹介のタイミングを得たとばかりににこりと微笑む。
「わたしは木ノ江 明日香と言います。これでも、東京で医師をしているんですよ。立食パーティーを兼ねた勉強会があるということで来たんですけれど……。本当に皆さん、ここへ来られた理由がばらばらですね」
仕事柄なのか、木ノ江さんは話ながら人当たりの良さそうな笑顔を全員に向ける。
若干ぽっちゃりした体型をしているけど、それもこの笑顔とセットになると不思議と愛嬌が湧く感じがした。
「え? あの、待って下さい。えっと、木ノ江さんは勉強会を理由にここへ呼ばれたんですか?」
だけど、そんな木ノ江さんの向ける笑みに慌てたような表情を返す女性が一人。
「ええ、一応そうですけど」
きょとんとしながら木ノ江さんが頷くと、その女性は自分を指し示す仕草をしながら少し早口で言葉を紡ぐ。
「それ、あたしも同じです。医学の勉強会で最新のことが学べるからって、それでここへ来たんです。結構有名な人が集まるようなことが書かれていて、色々学べるかなと思って」
「……ひょっとして、あなたもわたしと同業者?」
「あ……、ちょっと違います。あたしは心理カウンセリングをしています、花面 京華です。大分から来ました」
「まぁ、心理カウンセリングを? すごく若く見えるけど、おいくつ?」
「今年で二十五になりました」
「若いわね。向上心があるのは感心だわ。でも、あなたとわたしが同じ理由で呼ばれたと言っても、それでも参加者は二人だけ。主催者の姿もないところを見ると、やっぱり誰かの悪質ないたずらに巻き込まれてしまったのかもしれないわね」
ため息混じりに吐き出された木ノ江さんの言葉を聞いて、花面さんの顔に陰りが差す。
「いたずら、ですか。こんな手の込んだいたずらをする人なんてそうそういるとは思えないんですが……。ここまでの用意をするのには沢山お金がかかるはずですし、それを赤の他人相手に使ってまでなんて、普通に考えたらあり得ませんよ」
「わからんだろ、そんなことは」
まるで切り捨てるような口調で花面さんの言葉へ返答を返したのは、木ノ江さんではなく別の声。
きっちりとスーツを着込んだ、オールバックの中年。
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