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第三章:依因家の因果
依因家の因果 10
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「……それで? 何がいったいどうなって、いきなりうちに泊めてくれなんて話になったのよ?」
部屋へ案内され、お母さんがクッキーとオレンジジュースを持ってきてくれたのを見届けた後、そんな言葉で最初に話を切り出してきたのは美都羽だった。
親の許可が取れたせいか、玄関で対応したときのような迷惑を含ませた表情は消え去り、今はどこか私たちの訪問を喜んでいるような雰囲気を滲ませている。
「そうね。きちんと説明をしなくてはいけないことはわかっているけれど、どう説明するのがわかりやすいのか、それが悩みどころなのよ」
目の前に置かれた丸いクッキーを見つめながら、私はこれまでの経緯を頭の中で反芻する。
美都羽は、私たちが霊能力者であることは既に理解してくれてるから、その辺りのことは端折って説明できるのはありがたいが、それを踏まえても、今回遭遇したあれは形容するのが困難だ。
「ひとまず、簡単に言わせてもらうのなら……」
「うん」
「私たちにも、何が起きているのかわからない。ということかしらね」
「うん?」
言われた意味がわからなかったのだろう、美都羽は即座に首を傾げる。
「何があったのかわからないのに、うちに来たの? どういうこと?」
「ええと……つまりね――」
なるべく詳細に語るにはどう話を紡げば良いのか。それを必死に考えながら、私は改めてここに来るまでの経緯をまとめ言葉へと変換していく。
それでも結局は話せる内容など微々たるもので、どうにか形にした説明はほんの三分程度で済んでしまった。
「……はぁー、なるほどね。全然わかんないけど、流れだけはわかったわ。とにかく、その突然家の中に現れた黒い幽霊? それから逃げてる最中って感じなんだよね? で、今夜は動きようがないから私の家でやりすごしたいと」
「まぁ、そういう感じね。別に、逃げているつもりはないけれど」
大雑把には理解を示してくれた友人へ頷き、私はジュースを飲んで一度大きく息をつく。
「お父さんが何かしら知っているのは明らかだけれど、夜間は面会ができないし、もどかしいところなのよ」
「でも泉仍のお父さん、家に異変が起きているのに気がついたから無理してまで電話かけてきたってことでしょ? それってどういうことなのかな。客観的に聞いてて、おかしい感じがするんだけど」
苦手な授業を受けているときと全く同じ顔で美都羽は言い、ポリポリとクッキーを咀嚼する。
「そこは私たちも気になっている部分ね。恐らくだけれど、その辺りを明確にできれば、一気に事態の全容が掴めるような気はしてる」
「お父さんが家からいなくなった途端にあいつが出てきたのも、タイミング的に不自然だよね。そもそもお父さんとあいつって、何かしら接点があったりするんじゃないの?」
私の言葉を引き継ぐように、無言で座っていた夢愛が口を開いた。
夢愛だけはお菓子もジュースにもまだ口をつけておらず、部屋へ案内されてからずっと床に敷かれたピンクのカーペットを見つめ思案顔をしていた。
その顔を今ゆっくりと上げ、私の方へと向けてくる。
「ひょっとしたらかもしれないけどさ、お父さんが馬鹿みたいに買い漁ってたあの呪具、あれも絡んでる可能性なくない?」
「呪具?」
「うん。だって、あいつ絶対に呪具の力取り込んでたじゃん」
「それはどうかしら。確かに呪具の力は吸収していたみたいだけれど、それは単にあの霊が持つ性質というだけかもしれないわよ?」
「……それで? 何がいったいどうなって、いきなりうちに泊めてくれなんて話になったのよ?」
部屋へ案内され、お母さんがクッキーとオレンジジュースを持ってきてくれたのを見届けた後、そんな言葉で最初に話を切り出してきたのは美都羽だった。
親の許可が取れたせいか、玄関で対応したときのような迷惑を含ませた表情は消え去り、今はどこか私たちの訪問を喜んでいるような雰囲気を滲ませている。
「そうね。きちんと説明をしなくてはいけないことはわかっているけれど、どう説明するのがわかりやすいのか、それが悩みどころなのよ」
目の前に置かれた丸いクッキーを見つめながら、私はこれまでの経緯を頭の中で反芻する。
美都羽は、私たちが霊能力者であることは既に理解してくれてるから、その辺りのことは端折って説明できるのはありがたいが、それを踏まえても、今回遭遇したあれは形容するのが困難だ。
「ひとまず、簡単に言わせてもらうのなら……」
「うん」
「私たちにも、何が起きているのかわからない。ということかしらね」
「うん?」
言われた意味がわからなかったのだろう、美都羽は即座に首を傾げる。
「何があったのかわからないのに、うちに来たの? どういうこと?」
「ええと……つまりね――」
なるべく詳細に語るにはどう話を紡げば良いのか。それを必死に考えながら、私は改めてここに来るまでの経緯をまとめ言葉へと変換していく。
それでも結局は話せる内容など微々たるもので、どうにか形にした説明はほんの三分程度で済んでしまった。
「……はぁー、なるほどね。全然わかんないけど、流れだけはわかったわ。とにかく、その突然家の中に現れた黒い幽霊? それから逃げてる最中って感じなんだよね? で、今夜は動きようがないから私の家でやりすごしたいと」
「まぁ、そういう感じね。別に、逃げているつもりはないけれど」
大雑把には理解を示してくれた友人へ頷き、私はジュースを飲んで一度大きく息をつく。
「お父さんが何かしら知っているのは明らかだけれど、夜間は面会ができないし、もどかしいところなのよ」
「でも泉仍のお父さん、家に異変が起きているのに気がついたから無理してまで電話かけてきたってことでしょ? それってどういうことなのかな。客観的に聞いてて、おかしい感じがするんだけど」
苦手な授業を受けているときと全く同じ顔で美都羽は言い、ポリポリとクッキーを咀嚼する。
「そこは私たちも気になっている部分ね。恐らくだけれど、その辺りを明確にできれば、一気に事態の全容が掴めるような気はしてる」
「お父さんが家からいなくなった途端にあいつが出てきたのも、タイミング的に不自然だよね。そもそもお父さんとあいつって、何かしら接点があったりするんじゃないの?」
私の言葉を引き継ぐように、無言で座っていた夢愛が口を開いた。
夢愛だけはお菓子もジュースにもまだ口をつけておらず、部屋へ案内されてからずっと床に敷かれたピンクのカーペットを見つめ思案顔をしていた。
その顔を今ゆっくりと上げ、私の方へと向けてくる。
「ひょっとしたらかもしれないけどさ、お父さんが馬鹿みたいに買い漁ってたあの呪具、あれも絡んでる可能性なくない?」
「呪具?」
「うん。だって、あいつ絶対に呪具の力取り込んでたじゃん」
「それはどうかしら。確かに呪具の力は吸収していたみたいだけれど、それは単にあの霊が持つ性質というだけかもしれないわよ?」
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