霊媒姉妹の怪異事件録

雪鳴月彦

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第二章:口渇の原因

口渇の原因 13

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 そう説明をしてくる穂奈江さんの前には、少しだけ水の残ったコップが置かれていた。

「あまり飲み過ぎると、お腹を壊してしまうのでなるべくは我慢しようとは思うんですけど、どうしても駄目なんです。すぐに渇きが限界になってしまう感覚に襲われてしまって、自制心がきかなくなってしまうんです」

「……熱があるっていうのは、どれくらいですか?」

「わたしの平熱は三十六度くらいのはずなのですが、今は三十七度六分ほど。夜になると三十八度前後までは上がります。でも、咳や吐き気などはないので、風邪とは思えないんです」

 先生の身体にまとわりついていた残滓から、熱のイメージは一番強く伝わってきていた。

 故に、穂奈江さんが受けている霊障も、それに準ずるものだろうと確信を持っていたが、間違えてはいなかったようだ。

「因みにですけど、その症状が出始める直前、何か普段の生活では取らないような行動……例えば、初めての場所へ旅行に行ったとか、興味のないお店に足を運んだとか、そういうことはしていませんでしたか?」

 あたしが口にしたその問いかけに、穂奈江さんの目元がピクリと引きつった。

「どこか、行ったんですか?」

 何か心当たりがあるなと直感し、あたしはほんの少しだけ声のトーンを落として言葉を重ねる。

「……一ヶ月半くらい前に、姫納鬼ひめなきダムへ観光に。昔からの友達と四人で行って、その後は近くの旅館で一泊して帰ってきました」

「姫納鬼ダム。聞いたことがあるわね。確か……」

 穂奈江さんの返答を聞いて、お姉ちゃんが顎へ手を当てながら呻くような呟きを漏らしてきた。

「そう、確か数年前に女性が一人焼身自殺をした場所じゃなかったかしら? テレビのニュースで一時的に話題になっていたのを思い出したわ」

「……ああ、そう言えばそんなのあったような。そっか、じゃあ穂奈江さんに憑いてる霊は、その自殺した女性ってことかな。そのダムで自殺があったことは、知ってたんですか?」

 お姉ちゃんの呟きで、あたしの脳裏にも当時のニュースが蘇った。

 冬の早朝に、ダムの駐車場で灯油を被り火をつけて亡くなった、三十代の女性に関するニュース。

 市役所に勤めていたということと、自殺する一年くらい前からうつわずらっていたらしいという情報は、今でもあたしの脳に記憶されている。

「はい、知っていました。と言うより、知っていたから行ったというのが、正しいです」

「知っていたから……ああ、つまり肝試しみたいなノリでってことですか。それじゃあ尚更、リスクが大きくなってもおかしくなかったってことか」

 過去に人が自殺をした場所。それを知っていながら、遊びや冷やかし目的で足を運んで得をすることなんてあり得ない。

 何もなければそれで良しだが、そうでなければ自殺した相手の怒りを買うか、自分を知る存在だと認識され、救いを求めて憑きまとわれる羽目に陥る可能性が高い。

 恐らく、今回穂奈江さんが直面しているのは後者。

 自殺者のことを強く意識し過ぎて、そのまま霊を引っ張り寄せてしまったのだろう。

「その旅行から帰ってきてすぐに、今のおかしな症状が出始めたんですね?」
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