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第一章:憎愛の浄化
憎愛の浄化 8
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待ち合わせに利用したカフェは、家からそう遠いわけでもないけれど年に数回くらいしか利用することがない、馴染みの薄い店だった。
チェーン店というわけではなく、五十代くらいの夫婦が個人で経営しているお店で、前にお父さんから聞かされた情報が確かなら、既に二十年は営業を続けていることになる。
新規のお客を狙うよりも、完全に地元の馴染み客をメインに商売をしているといった感じの、コンビニよりも少し広い静かで落ち着いた店だと私は勝手に評価している。
実際、店の前を通る度に中にいるのは常連客風の客ばかりで、店主であろう旦那さんと気心が知れた感じで雑談をしているのを目撃している。
店の名前である〈ギャザリング〉に相応しく、それなりに繫盛していて評判も良いカフェであるため、待ち合わせ場所として選ぶには無難なお店と言えるだろう。
「いらっしゃいませ」
美都羽が先頭に立ち入口のドアを開けると、カウベルの音と共に店主の優しい声が私たちを出迎えた。
元旦の午前中だというのに、こうして営業をしていることに感謝をしつつ、四人掛けのテーブルへと移動し腰を下ろす。
「さすがに、お正月だとお客さんは少ないね」
席へ座りながらぐるりと店内を見回した美都羽が、僅かに身体を私へ近づけ囁くように告げてくる。
「ええ。静かに話ができるから、好都合だったんじゃないかしら」
「だね。理彩はまだっぽいから、先にわたしたちだけ何か注文しちゃおうか」
反対する理由もなく美都羽の提案に頷くと、まるで会話を聞いていたかのようなタイミングで、店主が私たちの元へと寄ってきた。
「ご注文は何になさいますか?」
柔和な笑みと口調で訊ねてくる店主へ、私たちはそれぞれ飲み物を注文し、もう一人遅れてやってくる旨を伝える。
店主はかしこまりましたと丁寧なお辞儀をしてカウンターの中へと戻り、慣れた手つきで飲み物を作り始める。
その光景を数秒だけ眺めてから、私は小さく息をつきつつ居住いを正すと、正面に座る美都羽へ改めて視線を戻した。
「それじゃあ、今のうちに少しだけその水科さんって人のことを教えてもらえるかしら? どんなことを相談しようとしているのか、美都羽は知っているんでしょう?」
「あ、うん……」
話が本題へと切り替わったことを理解すると同時に、美都羽の頬が硬くなる。
軽い内容ではないんだなとその表情の機微から察しながら、私は友人の口が動くのを待つ。
ほんの数秒、特に何もないテーブルの上へ視線を泳がせた美都羽は、話すべき言葉がまとまったのか、自分へ言い聞かせるような小さい頷きをみせてから、するりと私へ目線を戻し依頼人である水科理彩という人物について語り始めた。
「さっきも言った通り、理彩はわたしのいっこ下の後輩なの。見た目は、身長が小さいせいで中学一年生くらいと勘違いされることがあるみたいなんだけど、頭は良いし愛嬌もあるから、男女誰からでも好かれてる子なんだよね」
吐き出す言葉を慎重に選ぶような口調で話す美都羽を、私は黙したまま見つめて耳に意識を傾ける。
隣に座る夢愛も、背中を椅子へもたれかける体勢になりながら、ジッと話に集中している様子だった。
待ち合わせに利用したカフェは、家からそう遠いわけでもないけれど年に数回くらいしか利用することがない、馴染みの薄い店だった。
チェーン店というわけではなく、五十代くらいの夫婦が個人で経営しているお店で、前にお父さんから聞かされた情報が確かなら、既に二十年は営業を続けていることになる。
新規のお客を狙うよりも、完全に地元の馴染み客をメインに商売をしているといった感じの、コンビニよりも少し広い静かで落ち着いた店だと私は勝手に評価している。
実際、店の前を通る度に中にいるのは常連客風の客ばかりで、店主であろう旦那さんと気心が知れた感じで雑談をしているのを目撃している。
店の名前である〈ギャザリング〉に相応しく、それなりに繫盛していて評判も良いカフェであるため、待ち合わせ場所として選ぶには無難なお店と言えるだろう。
「いらっしゃいませ」
美都羽が先頭に立ち入口のドアを開けると、カウベルの音と共に店主の優しい声が私たちを出迎えた。
元旦の午前中だというのに、こうして営業をしていることに感謝をしつつ、四人掛けのテーブルへと移動し腰を下ろす。
「さすがに、お正月だとお客さんは少ないね」
席へ座りながらぐるりと店内を見回した美都羽が、僅かに身体を私へ近づけ囁くように告げてくる。
「ええ。静かに話ができるから、好都合だったんじゃないかしら」
「だね。理彩はまだっぽいから、先にわたしたちだけ何か注文しちゃおうか」
反対する理由もなく美都羽の提案に頷くと、まるで会話を聞いていたかのようなタイミングで、店主が私たちの元へと寄ってきた。
「ご注文は何になさいますか?」
柔和な笑みと口調で訊ねてくる店主へ、私たちはそれぞれ飲み物を注文し、もう一人遅れてやってくる旨を伝える。
店主はかしこまりましたと丁寧なお辞儀をしてカウンターの中へと戻り、慣れた手つきで飲み物を作り始める。
その光景を数秒だけ眺めてから、私は小さく息をつきつつ居住いを正すと、正面に座る美都羽へ改めて視線を戻した。
「それじゃあ、今のうちに少しだけその水科さんって人のことを教えてもらえるかしら? どんなことを相談しようとしているのか、美都羽は知っているんでしょう?」
「あ、うん……」
話が本題へと切り替わったことを理解すると同時に、美都羽の頬が硬くなる。
軽い内容ではないんだなとその表情の機微から察しながら、私は友人の口が動くのを待つ。
ほんの数秒、特に何もないテーブルの上へ視線を泳がせた美都羽は、話すべき言葉がまとまったのか、自分へ言い聞かせるような小さい頷きをみせてから、するりと私へ目線を戻し依頼人である水科理彩という人物について語り始めた。
「さっきも言った通り、理彩はわたしのいっこ下の後輩なの。見た目は、身長が小さいせいで中学一年生くらいと勘違いされることがあるみたいなんだけど、頭は良いし愛嬌もあるから、男女誰からでも好かれてる子なんだよね」
吐き出す言葉を慎重に選ぶような口調で話す美都羽を、私は黙したまま見つめて耳に意識を傾ける。
隣に座る夢愛も、背中を椅子へもたれかける体勢になりながら、ジッと話に集中している様子だった。
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