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エピローグ
エピローグ 3
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先を越されたという気持ちが、若干俺の心に芽生えたが、それ以上に妃夏なら当然だろうという納得の方が強かった。
高校二年の初秋に最終選考に残る経験をしてから、妃夏の創作におけるレベルアップは傍から見ていてもわかるほどのものであったし、間違いなく夢を手にする人間のオーラを感じることができていた。
それが刺激になり、俺もそれまで以上に執筆を頑張ることができ、確実に技術が向上したと自惚れ抜きで思えるようにはなったけど、それでも未だに最終選考にも残れずに燻ぶっている。
お互い、才能の差みたいなものが明確になってしまったなと、たまに悲しくなったりしつつも、それでもやはり仲間が成功するのは嬉しいし、俺自身もまだまだ夢を諦めていない。
「そろそろ着くよ」
言われて、考え事に耽りかけていた思考を現実へと引き戻して窓の外を見れば、前方にゲームショップの看板が見えていることが確認できた。
「……まだ入荷してないとか言われたら、ガクッとくるな」
「大丈夫でしょ。そうなったら別の店に行くよ」
俺の言うことに苦笑しながら、守草の運転する車が駐車場へと入る。
平日の午前ということもあってか、車の数もまばらでそれほど客が入っている気配は窺えない。
これなら、売り切れなんて心配はないなと少し安心しながら停車すると同時に車を降りると、守草と並ぶようにして店の入口へと歩きだす。
「――おっそい! 開店して三十分以上経ってるじゃん」
「え?」
自動ドアを潜り、店内へ足を踏み入れた俺の耳に、突然久しぶりに聞く声が流れ込んできた。
「何分待たせるのよ。開店したらすぐに行くって言ってたのに、全然来ないから連絡入れようかと思ってたよ」
少し怒ったような顔で来店した俺たちを出迎えたのは、妃夏だった。
就職してからイメチェンにと少しだけ茶に染めた髪意外、高校時代とほとんど変わらぬ姿で俺たちを見つめて立つ幼馴染を、狐にでも摘ままれたような心地で見つめ返しつつ言葉をかけた。
「妃夏、お前何でここにいるんだ?」
今日は、守草意外と会う予定は立てていない。
平日だし、妃夏は普通に仕事へ行っているだろうと思っていたし、だからこそ声もかけずにおいたのだが。
「何でって、人を邪魔者みたに言うなぁ……。守草くんが教えてくれたの。今日は、九条先輩の記念すべき日でしょ? だから、才樹と二人でゲームを買いにデートするって言うから、それならあたしも一緒に行こうかなって」
「マジか。てか、デートって何だよ、気持ち悪ぃな。仕事はどうしたんだ?」
「社会人にはね、有給っていう素敵なお休みがあるの」
「へぇ。なるほど、使ったのか」
問題なしと言う風ににっこりと笑う妃夏に納得し、俺はそこで隣に立つ守草へと視線をスライドさせる。
「お前も、声かけてるなら教えてくれよ」
「ごめん、もう星咲さんから連絡入ってるだろうなって思ってたから。知らなかったんだね」
「寝耳に水だよ」
「ちょうど良いじゃない、水なら夏だし涼しいでしょ。ほら、早く行こ。新作コーナー、あそこだよ。あたしもまだ見てないから」
呻く俺の肩をポンポンと叩いて、妃夏が店の奥を指差してきた。
図らずも、活字愛好倶楽部の三人が揃うかたちとなりながら、今日一番の目的である新作ゲームソフトが並ぶ一角へ歩きだすと、不意に妃夏が思い出したというように「あ、そうだ」と声を上げ俺を見つめてきた。
高校二年の初秋に最終選考に残る経験をしてから、妃夏の創作におけるレベルアップは傍から見ていてもわかるほどのものであったし、間違いなく夢を手にする人間のオーラを感じることができていた。
それが刺激になり、俺もそれまで以上に執筆を頑張ることができ、確実に技術が向上したと自惚れ抜きで思えるようにはなったけど、それでも未だに最終選考にも残れずに燻ぶっている。
お互い、才能の差みたいなものが明確になってしまったなと、たまに悲しくなったりしつつも、それでもやはり仲間が成功するのは嬉しいし、俺自身もまだまだ夢を諦めていない。
「そろそろ着くよ」
言われて、考え事に耽りかけていた思考を現実へと引き戻して窓の外を見れば、前方にゲームショップの看板が見えていることが確認できた。
「……まだ入荷してないとか言われたら、ガクッとくるな」
「大丈夫でしょ。そうなったら別の店に行くよ」
俺の言うことに苦笑しながら、守草の運転する車が駐車場へと入る。
平日の午前ということもあってか、車の数もまばらでそれほど客が入っている気配は窺えない。
これなら、売り切れなんて心配はないなと少し安心しながら停車すると同時に車を降りると、守草と並ぶようにして店の入口へと歩きだす。
「――おっそい! 開店して三十分以上経ってるじゃん」
「え?」
自動ドアを潜り、店内へ足を踏み入れた俺の耳に、突然久しぶりに聞く声が流れ込んできた。
「何分待たせるのよ。開店したらすぐに行くって言ってたのに、全然来ないから連絡入れようかと思ってたよ」
少し怒ったような顔で来店した俺たちを出迎えたのは、妃夏だった。
就職してからイメチェンにと少しだけ茶に染めた髪意外、高校時代とほとんど変わらぬ姿で俺たちを見つめて立つ幼馴染を、狐にでも摘ままれたような心地で見つめ返しつつ言葉をかけた。
「妃夏、お前何でここにいるんだ?」
今日は、守草意外と会う予定は立てていない。
平日だし、妃夏は普通に仕事へ行っているだろうと思っていたし、だからこそ声もかけずにおいたのだが。
「何でって、人を邪魔者みたに言うなぁ……。守草くんが教えてくれたの。今日は、九条先輩の記念すべき日でしょ? だから、才樹と二人でゲームを買いにデートするって言うから、それならあたしも一緒に行こうかなって」
「マジか。てか、デートって何だよ、気持ち悪ぃな。仕事はどうしたんだ?」
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「へぇ。なるほど、使ったのか」
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「お前も、声かけてるなら教えてくれよ」
「ごめん、もう星咲さんから連絡入ってるだろうなって思ってたから。知らなかったんだね」
「寝耳に水だよ」
「ちょうど良いじゃない、水なら夏だし涼しいでしょ。ほら、早く行こ。新作コーナー、あそこだよ。あたしもまだ見てないから」
呻く俺の肩をポンポンと叩いて、妃夏が店の奥を指差してきた。
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