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第四章:決壊する絆
決壊する絆 8
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「……ふぅー」
一月三十一日。時刻は夕方の四時半を少し過ぎたばかり。
授業が全て終わり、九条先輩を除く活字愛好倶楽部のメンバー全員が部室へと集合していた。
室内の空気は張り詰め、全員が真剣な面持ちを浮かべて黙り込んでいる中で、妃夏が試合直前のスポーツ選手みたいな緊張したオーラを放ちながら、長いため息を吐き出した。
「やっぱり、緊張するものなの?」
そんな妃夏の様子を窺いながら、守草が遠慮がちに声をかけた。
「そりゃあね。……見てよこれ。部室に来てからずっと手が震えてるよ。どうすんのこれ」
俺たちに見えるよう顔の前にかざして見せてきた妃夏の両手は、本人が言う通りまるで痙攣を起こしたかのように小刻みに震えていた。
「まぁ、普通はそうなるよな。ずっと頑張って追い続けてきた夢が叶うかもしれない瞬間なんだし、平然としていられる方がおかしいわ。俺だってそうなると思う」
震える妃夏が座る席には、スマホが一台置かれている。
二年前から妃夏の愛用している白いスマホ。今からそのスマホで、最終選考まで残った小説賞の、最終結果を全員で確認しようということになっているのだが、妃夏本人の決心がなかなかつかず、かれこれ二十分は膠着した時間が流れていた。
「自信持ってください、先輩なら絶対受賞してるはずです。きっと大丈夫です!」
両手を胸の前で握り締めファイトのポーズを取りながら、泉が励ましの言葉をかけた。
「ん……絶対なのかきっとなのか、どっちなのぉ」
一瞬、泉の励ましに勇気づけられそうになった妃夏だったが、またすぐに意気消沈したように吐息を漏らす。
「今日は一日中、そわそわしてたもんな。授業も上の空だっただろ?」
「当たり前でしょ。もう何度結果見ちゃおうかと思ってスマホ触りそうになったことか。でも、いざ見ようとすると緊張しちゃうんだよねぇ」
ぎこちない笑みを浮かべ俺の言葉に応じた妃夏は、そこでようやく意を決したようにスマホを手に取り電源を押した。
「とは言え、ずっとグズグズはしていられないよね。覚悟を決めるよ」
硬い声で呟きながら、慎重な手つきでスマホの操作をしていく妃夏は、それほどの時間をかけることなく小説賞の最終結果を表示するページへと到達する。
「あぁ、込み上げてきそう」
一旦休憩するように再び机にスマホを置くと、俺を含めた全員がその机の周囲へと集まり置かれたスマホを覗き込む。
「わかります。集大成の結果が、ここにあるんですもんね。色んな感情が込み上げてきますよね」
「いや、緊張で胃液が……」
「あ、そっちでしたか」
泉と会話をしつつ、妃夏はスマホへ指を滑らせゆっくりと表示された画面を下へスクロールさせ始める。
最終結果発表の文字の下に、小説賞における全体の講評文が暫く続いた。
「取りあえず、先に結果見ちゃう? 講評読んじゃったら、ネタバレみたいになることあるよね?」
「ああ、そうだな」
妃夏の提案に頷き、読みかけていた講評から意識を逸らし、更に画面がスクロールされていくのを静かに見守る。
「……ふぅー」
一月三十一日。時刻は夕方の四時半を少し過ぎたばかり。
授業が全て終わり、九条先輩を除く活字愛好倶楽部のメンバー全員が部室へと集合していた。
室内の空気は張り詰め、全員が真剣な面持ちを浮かべて黙り込んでいる中で、妃夏が試合直前のスポーツ選手みたいな緊張したオーラを放ちながら、長いため息を吐き出した。
「やっぱり、緊張するものなの?」
そんな妃夏の様子を窺いながら、守草が遠慮がちに声をかけた。
「そりゃあね。……見てよこれ。部室に来てからずっと手が震えてるよ。どうすんのこれ」
俺たちに見えるよう顔の前にかざして見せてきた妃夏の両手は、本人が言う通りまるで痙攣を起こしたかのように小刻みに震えていた。
「まぁ、普通はそうなるよな。ずっと頑張って追い続けてきた夢が叶うかもしれない瞬間なんだし、平然としていられる方がおかしいわ。俺だってそうなると思う」
震える妃夏が座る席には、スマホが一台置かれている。
二年前から妃夏の愛用している白いスマホ。今からそのスマホで、最終選考まで残った小説賞の、最終結果を全員で確認しようということになっているのだが、妃夏本人の決心がなかなかつかず、かれこれ二十分は膠着した時間が流れていた。
「自信持ってください、先輩なら絶対受賞してるはずです。きっと大丈夫です!」
両手を胸の前で握り締めファイトのポーズを取りながら、泉が励ましの言葉をかけた。
「ん……絶対なのかきっとなのか、どっちなのぉ」
一瞬、泉の励ましに勇気づけられそうになった妃夏だったが、またすぐに意気消沈したように吐息を漏らす。
「今日は一日中、そわそわしてたもんな。授業も上の空だっただろ?」
「当たり前でしょ。もう何度結果見ちゃおうかと思ってスマホ触りそうになったことか。でも、いざ見ようとすると緊張しちゃうんだよねぇ」
ぎこちない笑みを浮かべ俺の言葉に応じた妃夏は、そこでようやく意を決したようにスマホを手に取り電源を押した。
「とは言え、ずっとグズグズはしていられないよね。覚悟を決めるよ」
硬い声で呟きながら、慎重な手つきでスマホの操作をしていく妃夏は、それほどの時間をかけることなく小説賞の最終結果を表示するページへと到達する。
「あぁ、込み上げてきそう」
一旦休憩するように再び机にスマホを置くと、俺を含めた全員がその机の周囲へと集まり置かれたスマホを覗き込む。
「わかります。集大成の結果が、ここにあるんですもんね。色んな感情が込み上げてきますよね」
「いや、緊張で胃液が……」
「あ、そっちでしたか」
泉と会話をしつつ、妃夏はスマホへ指を滑らせゆっくりと表示された画面を下へスクロールさせ始める。
最終結果発表の文字の下に、小説賞における全体の講評文が暫く続いた。
「取りあえず、先に結果見ちゃう? 講評読んじゃったら、ネタバレみたいになることあるよね?」
「ああ、そうだな」
妃夏の提案に頷き、読みかけていた講評から意識を逸らし、更に画面がスクロールされていくのを静かに見守る。
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