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第三章:不鮮明な苦悩
不鮮明な苦悩 9
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告げて、有野先生は自虐にも似た笑みを湛える。
「そっか、確かに先生としては頼ってもらえないと複雑な気分にはなりますよね。でも、昨日は先生と話をしたとき、九条先輩は進路のことを仄めかすくらいのことしていなかったんですか?」
有野先生の言い分をうんうんと頷きながら肯定する妃夏は、しかし何かが腑に落ちないといった風に顎へ右手を当てそんな疑問を放った。
「そう、ね。昨日は執筆が忙しくて余裕がないって、そんな内容のことしか話してくれなかったわ。言われてみれば、どうしてかしら? 私、そんなに頼りないのかな……」
眉を顰めて妃夏の指摘に応じた有野先生は、不安そうな眼差しで俺たちを一瞥するような視線を投げかけてくる。
「いや、そんなことはないと思いますよ。たぶん、有野先生は美術担当だから他の教科のことを言っても仕方がないとか、そんな風に考えて何も言わなかっただけかもしれません」
フォローする気持ちでそう俺が言うと、有野先生は複雑な表情で俯き
「……ちょっとくらいなら、他の授業のこともわかるんだけどな」
と、不服そうに呟きをこぼした。
「ま、まぁ取りあえず、九条先輩の悩みがはっきりしたんですし、ひとまずは一歩前進じゃないですかね? 先輩だって、本気で焦れば先生に相談くらいするでしょうし、応募用の原稿ができあがるまでは大変ってだけで、俺たちがあれこれ騒ぐ内容じゃなかったんですよ。そういうことだよな?」
先生を慰めるように告げてから、俺は最後に妃夏へと向き直る。
「うーん。そうなる、のかなぁ。ひとまずは様子見で、距離を置きながら九条先輩を見守る方向に作戦をシフトするしかないかぁ」
「作戦て何だよ。ミッション攻略してんじゃねーんだからよ」
おかしな発言を返す幼馴染へ呆れながらそう言いつつ、妃夏が何かしらの違和感を覚えているような、腑に落ちない表情を露わにしていることを見逃さなかった。
九条先輩と直接話をして、何かしら感じたことがあるのかもしれない。
気にはなったが、それを今ここで訊いたとしても、恐らくはまだ妃夏自身がうまく言葉にまとめられないだろうと察して、俺はひとまず様子見という意見に賛同し、ジワリと漏れだす雨水のような一抹の疑念を抑え込んだ。
「そっか、確かに先生としては頼ってもらえないと複雑な気分にはなりますよね。でも、昨日は先生と話をしたとき、九条先輩は進路のことを仄めかすくらいのことしていなかったんですか?」
有野先生の言い分をうんうんと頷きながら肯定する妃夏は、しかし何かが腑に落ちないといった風に顎へ右手を当てそんな疑問を放った。
「そう、ね。昨日は執筆が忙しくて余裕がないって、そんな内容のことしか話してくれなかったわ。言われてみれば、どうしてかしら? 私、そんなに頼りないのかな……」
眉を顰めて妃夏の指摘に応じた有野先生は、不安そうな眼差しで俺たちを一瞥するような視線を投げかけてくる。
「いや、そんなことはないと思いますよ。たぶん、有野先生は美術担当だから他の教科のことを言っても仕方がないとか、そんな風に考えて何も言わなかっただけかもしれません」
フォローする気持ちでそう俺が言うと、有野先生は複雑な表情で俯き
「……ちょっとくらいなら、他の授業のこともわかるんだけどな」
と、不服そうに呟きをこぼした。
「ま、まぁ取りあえず、九条先輩の悩みがはっきりしたんですし、ひとまずは一歩前進じゃないですかね? 先輩だって、本気で焦れば先生に相談くらいするでしょうし、応募用の原稿ができあがるまでは大変ってだけで、俺たちがあれこれ騒ぐ内容じゃなかったんですよ。そういうことだよな?」
先生を慰めるように告げてから、俺は最後に妃夏へと向き直る。
「うーん。そうなる、のかなぁ。ひとまずは様子見で、距離を置きながら九条先輩を見守る方向に作戦をシフトするしかないかぁ」
「作戦て何だよ。ミッション攻略してんじゃねーんだからよ」
おかしな発言を返す幼馴染へ呆れながらそう言いつつ、妃夏が何かしらの違和感を覚えているような、腑に落ちない表情を露わにしていることを見逃さなかった。
九条先輩と直接話をして、何かしら感じたことがあるのかもしれない。
気にはなったが、それを今ここで訊いたとしても、恐らくはまだ妃夏自身がうまく言葉にまとめられないだろうと察して、俺はひとまず様子見という意見に賛同し、ジワリと漏れだす雨水のような一抹の疑念を抑え込んだ。
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