遠い空のデネブ

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
29 / 76
第三章:不鮮明な苦悩

不鮮明な苦悩 9

しおりを挟む
 告げて、有野先生は自虐にも似た笑みを湛える。

「そっか、確かに先生としては頼ってもらえないと複雑な気分にはなりますよね。でも、昨日は先生と話をしたとき、九条先輩は進路のことを仄めかすくらいのことしていなかったんですか?」

 有野先生の言い分をうんうんと頷きながら肯定する妃夏は、しかし何かが腑に落ちないといった風に顎へ右手を当てそんな疑問を放った。

「そう、ね。昨日は執筆が忙しくて余裕がないって、そんな内容のことしか話してくれなかったわ。言われてみれば、どうしてかしら? 私、そんなに頼りないのかな……」

 眉をしかめて妃夏の指摘に応じた有野先生は、不安そうな眼差しで俺たちを一瞥するような視線を投げかけてくる。

「いや、そんなことはないと思いますよ。たぶん、有野先生は美術担当だから他の教科のことを言っても仕方がないとか、そんな風に考えて何も言わなかっただけかもしれません」

 フォローする気持ちでそう俺が言うと、有野先生は複雑な表情で俯き

「……ちょっとくらいなら、他の授業のこともわかるんだけどな」

 と、不服そうに呟きをこぼした。

「ま、まぁ取りあえず、九条先輩の悩みがはっきりしたんですし、ひとまずは一歩前進じゃないですかね? 先輩だって、本気で焦れば先生に相談くらいするでしょうし、応募用の原稿ができあがるまでは大変ってだけで、俺たちがあれこれ騒ぐ内容じゃなかったんですよ。そういうことだよな?」

 先生を慰めるように告げてから、俺は最後に妃夏へと向き直る。

「うーん。そうなる、のかなぁ。ひとまずは様子見で、距離を置きながら九条先輩を見守る方向に作戦をシフトするしかないかぁ」

「作戦て何だよ。ミッション攻略してんじゃねーんだからよ」

 おかしな発言を返す幼馴染へ呆れながらそう言いつつ、妃夏が何かしらの違和感を覚えているような、腑に落ちない表情を露わにしていることを見逃さなかった。

 九条先輩と直接話をして、何かしら感じたことがあるのかもしれない。

 気にはなったが、それを今ここで訊いたとしても、恐らくはまだ妃夏自身がうまく言葉にまとめられないだろうと察して、俺はひとまず様子見という意見に賛同し、ジワリと漏れだす雨水のような一抹の疑念を抑え込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

【完結】碧よりも蒼く

多田莉都
青春
中学二年のときに、陸上競技の男子100m走で全国制覇を成し遂げたことのある深田碧斗は、高校になってからは何の実績もなかった。実績どころか、陸上部にすら所属していなかった。碧斗が走ることを辞めてしまったのにはある理由があった。 それは中学三年の大会で出会ったある才能の前に、碧斗は走ることを諦めてしまったからだった。中学を卒業し、祖父母の住む他県の高校を受験し、故郷の富山を離れた碧斗は無気力な日々を過ごす。 ある日、地元で深田碧斗が陸上の大会に出ていたということを知り、「何のことだ」と陸上雑誌を調べたところ、ある高校の深田碧斗が富山の大会に出場していた記録をみつけだした。 これは一体、どういうことなんだ? 碧斗は一路、富山へと帰り、事実を確かめることにした。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

処理中です...