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第三章:不鮮明な苦悩
不鮮明な苦悩 8
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「――って感じだったんだよね」
活字愛好倶楽部の部室には、有野先生を含めた九条先輩以外の全員が揃っていた。
まだ事情を知らずにいた守草にも、簡潔に九条先輩に関する経緯を説明し、その上で妃夏がみんなに九条先輩と交わしてきたばかりだという会話の内容を話して聞かせ、それを終えたのがたった今。
「そうなんだ。九条先輩も受験生だもんね。心労の一つや二つ、あってもおかしくないよ」
終始黙って話を聞いていた守草が、真面目な顔で腕を組みながらそんな言葉を呟いた。
「受験かぁ……わたし高校受験終えてまだ一年も経ってないですから、またいずれ受験を受けなきゃいけないのかと考えると、気が滅入りますね。推薦で行けるように頑張ろうかな……無理だなぁ」
泉もまた、まるで九条先輩の悩みが自分のことででもあるかのようにぼやき、何やら勝手に肩を落としている。
「泉さんはまだ一年生なんだし、推薦狙うチャンスは充分にあるよ」
「無理ですよ、頭悪いんですからわたし。もしわたしのテスト結果見たら、幻滅して絶句しちゃうと思いますよ?」
「……そんなに? 全教科赤点なんだね」
「そこまでは酷くないです。人を何だと思ってるんですか」
「えぇ……?」
ポツポツと会話をし始める守草と泉のやり取りを聞き流しながら、俺は意味もなく頭を掻きつつ妃夏へと声をかける。
「なぁ、妃夏。九条先輩の悩みが進路についてって言うんなら、俺らにできることなんて黙って見守るくらいのことしかないんじゃないのか? さすがに、三年の勉強を手伝うとか俺はできないぞ?」
自慢ではないが、俺もそこまで勉強は得意というわけではない。
成績だって真ん中より少し上くらいで、良くも悪くもないどっちつかずの位置を、ずっとキープしているような男だ。
まだ習ってもいない三年の授業なんて、サポートするどころか習いたくもないと脳が拒否反応を示してしまう。
「そうだよねぇ。創作の悩みだったらいくらでもって気持ちでいたけど、あたしも勉強はちょっとなぁ……ってのが正直なとこだよ。一年生のときに習った範囲なら、教科によっては助けれられるかもしれないけど、うーん……微妙だよね」
妃夏も、こんな展開は予想していなかったのか、割と本気で困った様子で口をへの字に曲げて唸っている。
「有野先生は、どう思います?」
生徒の俺らだけで悩むには些か経験不足だと判断し、俺は静かに成り行きを見守るようにして座っていた有野先生へ助言を求め声をかける。
「そうね。九条さんが勉強のことでピリピリしていたのなら、みんなじゃなくて私たち教師に相談してもらうのが一番だと思うけれど……」
「え? 先生、その言い方だと何かあたしたちじゃ当てにならないみたいな……」
「いえ、そんなことは思ってないわよ」
有野先生の返答に引っかかるものを感じ取ってしまったらしい妃夏が、少しばかりショックを受けた声を漏らす。
「ただね、教師としては誰だって教え子には頼ってほしいって思うから。それが大切な進路を決める勉強についてだって言うなら、尚更」
「――って感じだったんだよね」
活字愛好倶楽部の部室には、有野先生を含めた九条先輩以外の全員が揃っていた。
まだ事情を知らずにいた守草にも、簡潔に九条先輩に関する経緯を説明し、その上で妃夏がみんなに九条先輩と交わしてきたばかりだという会話の内容を話して聞かせ、それを終えたのがたった今。
「そうなんだ。九条先輩も受験生だもんね。心労の一つや二つ、あってもおかしくないよ」
終始黙って話を聞いていた守草が、真面目な顔で腕を組みながらそんな言葉を呟いた。
「受験かぁ……わたし高校受験終えてまだ一年も経ってないですから、またいずれ受験を受けなきゃいけないのかと考えると、気が滅入りますね。推薦で行けるように頑張ろうかな……無理だなぁ」
泉もまた、まるで九条先輩の悩みが自分のことででもあるかのようにぼやき、何やら勝手に肩を落としている。
「泉さんはまだ一年生なんだし、推薦狙うチャンスは充分にあるよ」
「無理ですよ、頭悪いんですからわたし。もしわたしのテスト結果見たら、幻滅して絶句しちゃうと思いますよ?」
「……そんなに? 全教科赤点なんだね」
「そこまでは酷くないです。人を何だと思ってるんですか」
「えぇ……?」
ポツポツと会話をし始める守草と泉のやり取りを聞き流しながら、俺は意味もなく頭を掻きつつ妃夏へと声をかける。
「なぁ、妃夏。九条先輩の悩みが進路についてって言うんなら、俺らにできることなんて黙って見守るくらいのことしかないんじゃないのか? さすがに、三年の勉強を手伝うとか俺はできないぞ?」
自慢ではないが、俺もそこまで勉強は得意というわけではない。
成績だって真ん中より少し上くらいで、良くも悪くもないどっちつかずの位置を、ずっとキープしているような男だ。
まだ習ってもいない三年の授業なんて、サポートするどころか習いたくもないと脳が拒否反応を示してしまう。
「そうだよねぇ。創作の悩みだったらいくらでもって気持ちでいたけど、あたしも勉強はちょっとなぁ……ってのが正直なとこだよ。一年生のときに習った範囲なら、教科によっては助けれられるかもしれないけど、うーん……微妙だよね」
妃夏も、こんな展開は予想していなかったのか、割と本気で困った様子で口をへの字に曲げて唸っている。
「有野先生は、どう思います?」
生徒の俺らだけで悩むには些か経験不足だと判断し、俺は静かに成り行きを見守るようにして座っていた有野先生へ助言を求め声をかける。
「そうね。九条さんが勉強のことでピリピリしていたのなら、みんなじゃなくて私たち教師に相談してもらうのが一番だと思うけれど……」
「え? 先生、その言い方だと何かあたしたちじゃ当てにならないみたいな……」
「いえ、そんなことは思ってないわよ」
有野先生の返答に引っかかるものを感じ取ってしまったらしい妃夏が、少しばかりショックを受けた声を漏らす。
「ただね、教師としては誰だって教え子には頼ってほしいって思うから。それが大切な進路を決める勉強についてだって言うなら、尚更」
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