25 / 76
第三章:不鮮明な苦悩
不鮮明な苦悩 5
しおりを挟む
「悩みなんて、別にないわよ。強いて言えば、進路とかそういうのは人並みに考えているけれど、そんなの三年生にもなれば大抵は誰でも同じことだし」
貴女に嫉妬している自分が嫌で困っている……なんて言葉を吐けるわけもなく、私はありきたりな即席の返答を口にした。
「進路……確か、九条先輩って進学する予定でしたよね? 受ける大学も一応決めてあるって、だいぶ前に聞いた記憶がありますけど」
「そんな話したかしら?」
進路が決まっているのに、悩んでいるというのはおかしくないか。
星咲さんの言いたいことはそういうことだろうと解釈しつつ、私は素っ気ない風を装って会話を続ける。
「進路を既に決めているからって、悩みが消えるわけじゃないでしょう。推薦で受けるわけでもないから、勉強だっておろそかにできないし、落ちて留年するリスクもある。その上で小説も書き上げたいし、時間を捻出するの意外と苦労してるのよ?」
「ああ……確かに、そういうのはありますよね」
考えが至らなかったといった様子で、星咲さんは納得したように小さく頷く。
「それじゃあ、先輩は執筆と勉強のジレンマで悩んでたってことですか?」
「まぁ、端的に言ってしまえばそういうこと。私も人間だからストレスだって溜まっちゃうし、それがちょっと態度に出ちゃってたのかも。もし迷惑とかをかけていたのなら、ごめんなさい」
「あ、いえそんなことはないですけど。ただ、相談に乗れることがあったら言ってほしいなって、才樹と結衣ちゃんで話し合ってたんですよ。勉強は……あたしは力になれないかなぁって感じですけど、創作の話だったらいくらでも聞けますし、才樹たちもそれは同じだと思います。だから、何かあったときは遠慮なく声かけてください」
「ありがとう。でも大丈夫だから、あまり心配はしないで。それじゃ、私は帰るわね」
これ以上一緒にいて創作の話でも持ち出されたら、気落ちするだけ。
そうなれば、帰宅後も不安定になった情緒を引きずるし、執筆に大きな影響を及ぼしてしまう。
「はい、お疲れ様です。執筆、無理だけはし過ぎないように頑張ってくださいね」
適当に会話を切り上げて別れを告げる私に、星咲さんは特に引き留めることもせずに解放してくれた。
そこは有難いなと思いながら微笑と共に小さく頷きを返して、私は踵を返し星咲さんに背を向け歩きだした。
貴女に嫉妬している自分が嫌で困っている……なんて言葉を吐けるわけもなく、私はありきたりな即席の返答を口にした。
「進路……確か、九条先輩って進学する予定でしたよね? 受ける大学も一応決めてあるって、だいぶ前に聞いた記憶がありますけど」
「そんな話したかしら?」
進路が決まっているのに、悩んでいるというのはおかしくないか。
星咲さんの言いたいことはそういうことだろうと解釈しつつ、私は素っ気ない風を装って会話を続ける。
「進路を既に決めているからって、悩みが消えるわけじゃないでしょう。推薦で受けるわけでもないから、勉強だっておろそかにできないし、落ちて留年するリスクもある。その上で小説も書き上げたいし、時間を捻出するの意外と苦労してるのよ?」
「ああ……確かに、そういうのはありますよね」
考えが至らなかったといった様子で、星咲さんは納得したように小さく頷く。
「それじゃあ、先輩は執筆と勉強のジレンマで悩んでたってことですか?」
「まぁ、端的に言ってしまえばそういうこと。私も人間だからストレスだって溜まっちゃうし、それがちょっと態度に出ちゃってたのかも。もし迷惑とかをかけていたのなら、ごめんなさい」
「あ、いえそんなことはないですけど。ただ、相談に乗れることがあったら言ってほしいなって、才樹と結衣ちゃんで話し合ってたんですよ。勉強は……あたしは力になれないかなぁって感じですけど、創作の話だったらいくらでも聞けますし、才樹たちもそれは同じだと思います。だから、何かあったときは遠慮なく声かけてください」
「ありがとう。でも大丈夫だから、あまり心配はしないで。それじゃ、私は帰るわね」
これ以上一緒にいて創作の話でも持ち出されたら、気落ちするだけ。
そうなれば、帰宅後も不安定になった情緒を引きずるし、執筆に大きな影響を及ぼしてしまう。
「はい、お疲れ様です。執筆、無理だけはし過ぎないように頑張ってくださいね」
適当に会話を切り上げて別れを告げる私に、星咲さんは特に引き留めることもせずに解放してくれた。
そこは有難いなと思いながら微笑と共に小さく頷きを返して、私は踵を返し星咲さんに背を向け歩きだした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
だらく倶楽部
うつろふめい
青春
自称進学校・ウツミ高等学校は恐ろしいクラブが秘密裏に活動しているらしい。
曰く、怠惰を極めた人間の溜まり場。
曰く、落ちこぼれの寄せ集め。
それはまぁ良い噂の無いクラブである。そのクラブの名は、だらく倶楽部。……良い噂が無いのも、仕方ないといったところである。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる