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第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 8
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「みんな、お疲れ様」
九条先輩が部室を後にしてそれほどの間を空けることなく、有野先生が俺たちの様子を見にやってきた。
「あ、先生。今日は今のとこ誰も部活らしい活動してませんから、ここには不真面目な生徒しかいませんよ」
泉と冗談を言って笑い合っていた妃夏が、中へ入ってきた有野先生へ手を上げながら上機嫌に言葉を返す。
「別にマイペースに頑張ることが方針の部なんだから、不真面目な日があったって構わないわよ」
優しく笑いそう答え、有野先生は何気ない風に室内を見回す。
今いるのは、俺と妃夏、そして泉の三人だけ。九条先輩は今しがた帰宅したばかりだし、守草は何か家の用事があるとかで、部活には顔を出すことなく直帰している。
「ねぇ、ここへ来る途中で九条さんと擦れ違ったんだけど……何かあったりした?」
「はい?」
彷徨わせていた視線を、最後にいつも九条先輩が座っている席へと向けてから放たれた有野先生の問いかけに、俺たちは疑問符を貼り付けたような顔でお互いを見つめ合う。
「何かって、どういうことですか? 別に、いつも通りだったと思いますけど……ね?」
代表して答えるかたちになった妃夏は、最後に自信無さげな声で俺と泉へ同意を求めてくる。
「はい。まぁ、何だかいつもよりも執筆に集中してるなって感じはしてましたけど、特に何かがあったわけではないですねぇ」
泉が頷き、どうしてそんなことを訊いてくるのだろうと言いたげに有野先生を見上げた。
「そう? それなら良いんだけど……」
「九条先輩のことで、何か気になるんですか?」
煮え切らない態度で話をする有野先生に、俺はストレートに疑問を口にする。
正直、俺も今日の九条先輩はどこかおかしいというか、妙にピリピリしている雰囲気を感じていた。
有野先生も同じ感覚を察したのであれば、自分の勘違いではなかったということになるし、何かしらの手助けができるのなら、みんなと問題を共有して手を差し伸べるべきだろう。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、有野先生は困った顔で首を僅かに傾げ、
「うん……。何だか、余裕がない様子だったわ。今月締め切りの小説賞に、長編を三作仕上げないといけないって」
「三作? 今月中にですか?」
「ええ。進捗状況はわからないけど、スケジュール的にはかなり厳しい内容でしょう?」
「そりゃあ、そうでしょうね。九条先輩の執筆速度なら、俺たちなんかよりは完成させる確率は高いかもしれませんけど、それでも三作はさすがに……」
相応の余裕を持って準備を始めていたというのなら何も心配はいらないだろうが、九条先輩ほどの人が今の時期に切羽詰まった心境に陥っているならば、かなりハードな作業になっているのではないのか。
――どう思う?
妃夏へ視線でそう問いかけると、彼女もまた硬い表情でこちらを見つめ返してくるだけで、口を開くことをしない。
「……執筆に行き詰ったりしてるってことは、あるかもしれないですよね?」
ポツリと、そう意見を出してきたのは泉だった。
「みんな、お疲れ様」
九条先輩が部室を後にしてそれほどの間を空けることなく、有野先生が俺たちの様子を見にやってきた。
「あ、先生。今日は今のとこ誰も部活らしい活動してませんから、ここには不真面目な生徒しかいませんよ」
泉と冗談を言って笑い合っていた妃夏が、中へ入ってきた有野先生へ手を上げながら上機嫌に言葉を返す。
「別にマイペースに頑張ることが方針の部なんだから、不真面目な日があったって構わないわよ」
優しく笑いそう答え、有野先生は何気ない風に室内を見回す。
今いるのは、俺と妃夏、そして泉の三人だけ。九条先輩は今しがた帰宅したばかりだし、守草は何か家の用事があるとかで、部活には顔を出すことなく直帰している。
「ねぇ、ここへ来る途中で九条さんと擦れ違ったんだけど……何かあったりした?」
「はい?」
彷徨わせていた視線を、最後にいつも九条先輩が座っている席へと向けてから放たれた有野先生の問いかけに、俺たちは疑問符を貼り付けたような顔でお互いを見つめ合う。
「何かって、どういうことですか? 別に、いつも通りだったと思いますけど……ね?」
代表して答えるかたちになった妃夏は、最後に自信無さげな声で俺と泉へ同意を求めてくる。
「はい。まぁ、何だかいつもよりも執筆に集中してるなって感じはしてましたけど、特に何かがあったわけではないですねぇ」
泉が頷き、どうしてそんなことを訊いてくるのだろうと言いたげに有野先生を見上げた。
「そう? それなら良いんだけど……」
「九条先輩のことで、何か気になるんですか?」
煮え切らない態度で話をする有野先生に、俺はストレートに疑問を口にする。
正直、俺も今日の九条先輩はどこかおかしいというか、妙にピリピリしている雰囲気を感じていた。
有野先生も同じ感覚を察したのであれば、自分の勘違いではなかったということになるし、何かしらの手助けができるのなら、みんなと問題を共有して手を差し伸べるべきだろう。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、有野先生は困った顔で首を僅かに傾げ、
「うん……。何だか、余裕がない様子だったわ。今月締め切りの小説賞に、長編を三作仕上げないといけないって」
「三作? 今月中にですか?」
「ええ。進捗状況はわからないけど、スケジュール的にはかなり厳しい内容でしょう?」
「そりゃあ、そうでしょうね。九条先輩の執筆速度なら、俺たちなんかよりは完成させる確率は高いかもしれませんけど、それでも三作はさすがに……」
相応の余裕を持って準備を始めていたというのなら何も心配はいらないだろうが、九条先輩ほどの人が今の時期に切羽詰まった心境に陥っているならば、かなりハードな作業になっているのではないのか。
――どう思う?
妃夏へ視線でそう問いかけると、彼女もまた硬い表情でこちらを見つめ返してくるだけで、口を開くことをしない。
「……執筆に行き詰ったりしてるってことは、あるかもしれないですよね?」
ポツリと、そう意見を出してきたのは泉だった。
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