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第一章:俺たちの日常
俺たちの日常 1
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学校に来る際、俺は弁当を持参することがほとんどない。
まず、俺自身が料理に疎いし早起きも苦手で、親も共働きのため朝は忙しそうに動き回っているから、弁当を作ってほしいなんてとてもじゃないがお願いできない。
本当なら、ネットで調べるか料理本でも買って実戦経験を積んで覚えるのが理想なのだが、それがわかっていてもなかなか腰を上げられないのが辛いところというか、自分の悪いところだと自覚はしている。
――色んな料理を作れるようになれば、調理の描写とかリアリティが出せるよなぁ。
登校途中、コンビニで買ったクリームパンをモソモソと咀嚼しながら、俺は机の上に置いたペットボトルのジュースを見つめそんなことを考えていた。
将来の夢は、小説家。
中学一年のときに初めて読んだ推理小説が衝撃的に面白く、自分もこんな話を書いてみたい! と、読了後すぐにそんな高揚感に包まれたのが、自分の人生に夢が生まれたきっかけだった。
最初は、人に読ませることもなく、ひたすら大学ノートに手書きで思いつく光景を書き殴って満足している程度から始まり、それを夢中で続けるうちに少しずつ物語として最低限読めるかなと思える形ができ始め、自分の作った世界を誰かに読んでもらいたいという欲求が芽生え始めた。
それがちょうど、高校に入学する直前の時期だった。
それ故に、俺がこの私立豊野塚高等学校に入学してすぐに《活字愛好倶楽部》に入部したのは、必然だったと言えるだろう。
人気がないのか、現在の部員は俺を含めて僅かに五人。俺が入部した時点では更に一人少ない四人しかおらず、その内の三人は俺と同じ新入部員だった。
つまり、それまでは一つ上の九条詩季という先輩一人しかいない、という状況だったわけで。
静かで良いとも受け取れるが、執筆という行為を理解し合える仲間が多くできると想像していた俺は、入部直後に少しだけがっかりしたのを今でも覚えている。
それでも、いざ活動を始めてみると、予想以上に楽しい充実した創作ライフを送ることができているのが事実だ。
「よ、才樹。お前菓子パンばっか食ってたら、栄養偏るぞ」
「ん? 仕方ないじゃん、あんまり金無いし。食費抑えて、できるだけ本代にまわしたいんだよ」
「はは、相変わらずだなぁ」
孤独に食事を楽しんでいた俺の元へやってきたのは、数少ない友達の一人安達響平だった。
髪は茶髪でピアスまで開けてる素行の悪そうな見た目のくせに、周りのクラスメイトに気配りができる優しい性格が女子たちの人気を集めている。
こんな陽キャ丸出しなタイプが、何故俺みたいな大人しい文系タイプとそりが合うのか、自分でも不思議だと常々思う。
「本って言えば、確かそろそろだったよな? 今月だっけ?」
「何が?」
「いやほら、春くらいに言ってただろ。小説応募するみたいなこと。結果発表は九月くらいになるって、教えてくれたじゃん」
「ああ……。え? 安達、そんなこと覚えてたのかよ」
「そりゃまぁ、友達が小説家目指してるなんて、なかなかない経験だからな。本当にデビューしたら自慢にもなるし」
にこりと白い歯を見せて笑う響平の顔を直視しながら、俺は苦笑いを返す。
「自慢って、周りに言いふらされてるの想像すると何だか抵抗あるな。別に俺、目立ったりしたくて作家目指してるわけでもないんだけど」
「マジかよ。そんだけ凄いこと成し遂げようとしてんだから、もっとこう胸張る感じで行こうぜ」
「やだよ」
自分の胸を親指で叩く仕草をして見せてくる響平へ首を振り、俺はふと思いついた質問を投げかける。
「て言うかさ、安達って将来の夢とかないのか?」
普段から他愛のない会話は交わしてきたが、よくよく思い返せば一度も訊ねたことがない。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、響平は「オレか?」と一瞬きょとんとした顔を見せてから、考え込むように天井へと視線をスライドさせた。
学校に来る際、俺は弁当を持参することがほとんどない。
まず、俺自身が料理に疎いし早起きも苦手で、親も共働きのため朝は忙しそうに動き回っているから、弁当を作ってほしいなんてとてもじゃないがお願いできない。
本当なら、ネットで調べるか料理本でも買って実戦経験を積んで覚えるのが理想なのだが、それがわかっていてもなかなか腰を上げられないのが辛いところというか、自分の悪いところだと自覚はしている。
――色んな料理を作れるようになれば、調理の描写とかリアリティが出せるよなぁ。
登校途中、コンビニで買ったクリームパンをモソモソと咀嚼しながら、俺は机の上に置いたペットボトルのジュースを見つめそんなことを考えていた。
将来の夢は、小説家。
中学一年のときに初めて読んだ推理小説が衝撃的に面白く、自分もこんな話を書いてみたい! と、読了後すぐにそんな高揚感に包まれたのが、自分の人生に夢が生まれたきっかけだった。
最初は、人に読ませることもなく、ひたすら大学ノートに手書きで思いつく光景を書き殴って満足している程度から始まり、それを夢中で続けるうちに少しずつ物語として最低限読めるかなと思える形ができ始め、自分の作った世界を誰かに読んでもらいたいという欲求が芽生え始めた。
それがちょうど、高校に入学する直前の時期だった。
それ故に、俺がこの私立豊野塚高等学校に入学してすぐに《活字愛好倶楽部》に入部したのは、必然だったと言えるだろう。
人気がないのか、現在の部員は俺を含めて僅かに五人。俺が入部した時点では更に一人少ない四人しかおらず、その内の三人は俺と同じ新入部員だった。
つまり、それまでは一つ上の九条詩季という先輩一人しかいない、という状況だったわけで。
静かで良いとも受け取れるが、執筆という行為を理解し合える仲間が多くできると想像していた俺は、入部直後に少しだけがっかりしたのを今でも覚えている。
それでも、いざ活動を始めてみると、予想以上に楽しい充実した創作ライフを送ることができているのが事実だ。
「よ、才樹。お前菓子パンばっか食ってたら、栄養偏るぞ」
「ん? 仕方ないじゃん、あんまり金無いし。食費抑えて、できるだけ本代にまわしたいんだよ」
「はは、相変わらずだなぁ」
孤独に食事を楽しんでいた俺の元へやってきたのは、数少ない友達の一人安達響平だった。
髪は茶髪でピアスまで開けてる素行の悪そうな見た目のくせに、周りのクラスメイトに気配りができる優しい性格が女子たちの人気を集めている。
こんな陽キャ丸出しなタイプが、何故俺みたいな大人しい文系タイプとそりが合うのか、自分でも不思議だと常々思う。
「本って言えば、確かそろそろだったよな? 今月だっけ?」
「何が?」
「いやほら、春くらいに言ってただろ。小説応募するみたいなこと。結果発表は九月くらいになるって、教えてくれたじゃん」
「ああ……。え? 安達、そんなこと覚えてたのかよ」
「そりゃまぁ、友達が小説家目指してるなんて、なかなかない経験だからな。本当にデビューしたら自慢にもなるし」
にこりと白い歯を見せて笑う響平の顔を直視しながら、俺は苦笑いを返す。
「自慢って、周りに言いふらされてるの想像すると何だか抵抗あるな。別に俺、目立ったりしたくて作家目指してるわけでもないんだけど」
「マジかよ。そんだけ凄いこと成し遂げようとしてんだから、もっとこう胸張る感じで行こうぜ」
「やだよ」
自分の胸を親指で叩く仕草をして見せてくる響平へ首を振り、俺はふと思いついた質問を投げかける。
「て言うかさ、安達って将来の夢とかないのか?」
普段から他愛のない会話は交わしてきたが、よくよく思い返せば一度も訊ねたことがない。
そんな思いで口にした俺の問いかけに、響平は「オレか?」と一瞬きょとんとした顔を見せてから、考え込むように天井へと視線をスライドさせた。
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