病み憑き

雪鳴月彦

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第三章:風岡夏純――①

風岡夏純――①

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「だとしたら静か過ぎないかしら? 笑い声も怒鳴り声もしないし、下りてくる気配すらないけど」

 守がつけっぱなしにしていったガスを止めるためキッチンへ向かいながら、すみれは言う。

「ちょっと、見に行ってみるか?」

「一人で行けば良いでしょう。どうしてあたしまで……」

 心細そうに自分を見つめてくる夫を突っぱねて、息子が用意していたコーヒーカップにお湯を注ぐ。

 どうせすぐ下りてくるだろうと思いまな板の上へカップを置くと同時に、案の定階段からドタドタと慌てたような足音が近づいてきた。

「た、大変だ!」

 リビングを出ていくときとは別人のような形相になり、守が二人の元へと駆け込んでくる。

「お、おいどうしたんだ、そんな血相変えて。今の悲鳴は――」

「愛が……、愛が部屋でおかしなことに……」

 息子が戻ってきたことに笑みを浮かべかけた夫だったが、その聞かされた言葉に怪訝そうな表情へと一変させた。
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