旧校舎のマロンちゃん

雪鳴月彦

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第四章:孤独な鏡

孤独な鏡 12

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 土曜日だというのに、あたしは平日よりも早い時間に目を覚ました。

 今日は学校はないし、流空と何か約束をしたといった用事もない。

 昨日の帰り道で週末の予定を打ち合わせをするのかと思ったりもしたが、特にそういった会話はなくいつも通りにいつもの場所で別れ、それっきりだった。

 今日と明日は、休日。

 その間、部活をやるといった話は聞いていない。

 そもそも、休日に部活をするには――要は旧校舎へ入るためには――事前に顧問である湯々織先生の許可が必要になるのだが、今回はそういった手続きもしていない。

 このまま月曜日まで、ソワソワしながらマロンちゃんを心配し続けていなくてはいけないのか。

「……はぁ」

 ベッドの上に座ったかたちで、小さなため息を一つこぼす。

 マロンちゃんの身に起こったことがどうしても気になってしまい、昨夜は何度も目を覚ましてしまった。

 そのせいか、いまいち脳がクリアになってはくれないが、不満を抱えていても何も始まらない。

 枕元で充電させていたスマホを掴み、すぐに流空へとメッセージを送信する。

 流空のことだから、何もせずに週末を過ごすとは思えない。

 きっと、マロンちゃんを助けるため、何かしらのアクションを起こすつもりでいるのだろうと憶測しながら送ったメッセージに返信がきたのは、僅か二分後のことだった。

〈おはよう、鈴。休みなのに早起きね。今日は午前中に学校へ行って高宮先生から話を聞いてくる予定でいたの。何が起きるかわからないし、休日に付き合わせるのも悪いと思ったから、鈴には秘密にしたまま出向こうかと考えていたのだけど、あっさり読まれちゃったわね〉

「やっぱりか……」

 書かれた文面を読んで、あたしはつい独り言を漏らす。

 流空の気遣いは嬉しいし、確かに何が起きるかわからない以上、あたしも今の旧校舎へ近づくのは少し恐い。

 だけど、だからと言って自分だけ安全な蚊帳の外で、のほほんと結果報告だけを待っているなんてしたくはない。

 あたしだって、せっかく仲良くなれたマロンちゃんを助けることに協力したい。

 黙って指を咥えてなんかいられない。

 あたしは即座に返信を入力し送信した。

 そして、スマホをパジャマのポケットへ突っ込むと、眠気の居座る身体を叱咤するように立ち上がり、リビングへと向かった。

「あら、今朝はずいぶん早起きね。何かある日だったっけ?」

 普段の休日ならまず姿を見せない時間帯に現れたあたしを見て、既に起きてくつろいでいた母親がきょとんとしながら声をかけてくる。

「別に何もないよ。ただちょっと用事があるから、早めに起きただけ」

 リビングを横切り真っ直ぐ台所へ移動しながら答えている間に、スマホが着信を知らせる音を鳴らすのを聞いて、すぐに確認。

〈わかったわ。それじゃあ、十時半くらいに学校へ集合しましょう〉

 あたしも一緒に手伝いたい。

 その旨を伝えた返信への反応が、これだった。

〈ありがとう。了解〉

 そう短い返事を送り、あたしは冷蔵庫から牛乳を取り出し温める準備を始める。

「あ、ついでにコーヒーも淹れてくれる?」

「はいはーい」

 母親のリクエストに適当な返事をしながら、あたしは朝食をとるため食パンをトーストへセットした。


             ◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そして、時刻は午前の十時になる少し手前。

 あたしは流空に指定された時間よりも少しだけ早く着くよう計算し、家を出た。

 恐らく流空のことだから、彼女だけ約束の時間より早く到着しているパターンが普通に考えられる。

 毎回自分ばかり待たせる側にいるのは申し訳ないという気持ちがあるし、仮に自分が先に着けたのなら、湯々織へ声をかけ――いなければ誰か他の先生だって問題はないけど――予め旧校舎の鍵を開けておいてあげよう。

 少しは対等に役立ちたい。

 そんな思惑を抱いて行動を起こした結果、学校へ到着したとき、まだ流空は姿を見せてはおらず、旧校舎も施錠されたままだった。

 ならばここはあたしが鍵開け担当をになわねばと、早速職員室へ向かい、何やらパソコンを叩いていた湯々織先生を発見し、そちらへ近づいていった。
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