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第一章:幸福の記憶
幸福の記憶 6
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「な……おい、二人とも。何なんだ、い、今のは? 変なトリックでも仕掛けて、せせ先生のことからか――」
「――ばぁ!!」
「うはぁぁぁぁ!?」
完全に上擦った声で必死に言葉を発っそうとする湯々織先生のすぐ眼前に、下へ隠れたばかりのマロンちゃんが飛び出してきて、先生は今まで生きてきて聞いたこともない程の情けない悲鳴をあげながら、腰を抜かしたようにその場へへたり込んでしまった。
「ナイス悲鳴です、先生。マロンちゃんも大喜びですよ」
「は……? は……は?」
息切れを起こしながら流空を見上げる湯々織先生は、すぐ側で嬉しそうにキャッキャと笑うマロンちゃんをブルブル震える指で指し示し、説明をしてくれと眼差しで訴える。
「あのですね、先生。この子はマロンちゃん……えっと、そのだくりこちゃんと言って、この旧校舎に住んでる……のかしら? とにかく、ここで遊んでいた幽霊です。私たちが作ったトリックなどではありません」
湯々織先生の胸中を読み取った流空が、あくまでも落ち着いた口調を崩すことなく、淡々とマロンちゃんについての説明と紹介をする。
「ゆ、幽霊って……そんな、本当にいるわけが……」
「いるわけが、と言われましても……実際ここにいるわけですし。ですが、そんなに恐がらないであげてください。マロンちゃん、悪い子ではありませんから」
「え……え?」
にこにこと無邪気に笑いながら先生を見ているマロンちゃんと、まるで自分の妹でも紹介するような軽い口調で状況の説明を図る流空を眺めてから、あたしは先生の頭へ問いかけを落とした。
「先生、今マロンちゃんが視えてるんですよね?」
幽霊が視えるってことは、即ち相応の霊感があるということになるはず。
「あ、ああ。すっごい笑ってこっち見てる。薄っすらだけど、輪郭は普通にわかる」
ガクガクと首を揺らしながら答える先生に、あたしは悩みながら首を傾げた。
「先生には霊感はなくて、でもマロンちゃんは視えて、でもあたしたちみたいにはっきりじゃなくて薄っすらと視えてる? 流空、これ先生に実は霊感があったってパターンとは違うの?」
「きっと、マロンちゃんの霊気が強いから普通の人にも視えやすいだけだと思うわ。事故物件とかで霊を視る人が多いのと、同じパターンね」
あたしの疑問にサラッと答え、流空は湯々織先生の前へ移動すると、膝に手を当てながら上体を折り曲げる体勢を作った。
「先生、マロンちゃんは人を呪ったり憑りついたりする悪い幽霊じゃありません。ただこの旧校舎で遊んでいるだけで、何も害はないんです。ですから、塩を撒くとか学校に相談して事を大きくするようなことはしないであげてくれませんか?」
「いや、でも……」
ペコリと頭を下げる流空へどう対応すべきか逡巡する様子をみせながら、湯々織先生は何をしてるんだろう? という顔で流空を見上げているマロンちゃんへ、硬い視線を向けゴクリと唾を飲み込んだ。
「マロンちゃん、もしここで遊ぶのはもう駄目だよって言われたら、どうする?」
「え? やだ」
首だけで振り返り訊ねた流空へ即答し、マロンちゃんははっきりと首を横へ振る。
「もっとここであそびたい!」
「それなら、悪いことをしないで良い子にして遊ぶって約束できる? これから毎日、あたしたちやここにいる先生がこのお部屋を使うことになったの。だから、あんまり悪いことをすると学校の先生たちにばれてここでは遊べなくなっちゃうかもしれないのよ。だから、良い子にするって約束できるかしら?」
「――ばぁ!!」
「うはぁぁぁぁ!?」
完全に上擦った声で必死に言葉を発っそうとする湯々織先生のすぐ眼前に、下へ隠れたばかりのマロンちゃんが飛び出してきて、先生は今まで生きてきて聞いたこともない程の情けない悲鳴をあげながら、腰を抜かしたようにその場へへたり込んでしまった。
「ナイス悲鳴です、先生。マロンちゃんも大喜びですよ」
「は……? は……は?」
息切れを起こしながら流空を見上げる湯々織先生は、すぐ側で嬉しそうにキャッキャと笑うマロンちゃんをブルブル震える指で指し示し、説明をしてくれと眼差しで訴える。
「あのですね、先生。この子はマロンちゃん……えっと、そのだくりこちゃんと言って、この旧校舎に住んでる……のかしら? とにかく、ここで遊んでいた幽霊です。私たちが作ったトリックなどではありません」
湯々織先生の胸中を読み取った流空が、あくまでも落ち着いた口調を崩すことなく、淡々とマロンちゃんについての説明と紹介をする。
「ゆ、幽霊って……そんな、本当にいるわけが……」
「いるわけが、と言われましても……実際ここにいるわけですし。ですが、そんなに恐がらないであげてください。マロンちゃん、悪い子ではありませんから」
「え……え?」
にこにこと無邪気に笑いながら先生を見ているマロンちゃんと、まるで自分の妹でも紹介するような軽い口調で状況の説明を図る流空を眺めてから、あたしは先生の頭へ問いかけを落とした。
「先生、今マロンちゃんが視えてるんですよね?」
幽霊が視えるってことは、即ち相応の霊感があるということになるはず。
「あ、ああ。すっごい笑ってこっち見てる。薄っすらだけど、輪郭は普通にわかる」
ガクガクと首を揺らしながら答える先生に、あたしは悩みながら首を傾げた。
「先生には霊感はなくて、でもマロンちゃんは視えて、でもあたしたちみたいにはっきりじゃなくて薄っすらと視えてる? 流空、これ先生に実は霊感があったってパターンとは違うの?」
「きっと、マロンちゃんの霊気が強いから普通の人にも視えやすいだけだと思うわ。事故物件とかで霊を視る人が多いのと、同じパターンね」
あたしの疑問にサラッと答え、流空は湯々織先生の前へ移動すると、膝に手を当てながら上体を折り曲げる体勢を作った。
「先生、マロンちゃんは人を呪ったり憑りついたりする悪い幽霊じゃありません。ただこの旧校舎で遊んでいるだけで、何も害はないんです。ですから、塩を撒くとか学校に相談して事を大きくするようなことはしないであげてくれませんか?」
「いや、でも……」
ペコリと頭を下げる流空へどう対応すべきか逡巡する様子をみせながら、湯々織先生は何をしてるんだろう? という顔で流空を見上げているマロンちゃんへ、硬い視線を向けゴクリと唾を飲み込んだ。
「マロンちゃん、もしここで遊ぶのはもう駄目だよって言われたら、どうする?」
「え? やだ」
首だけで振り返り訊ねた流空へ即答し、マロンちゃんははっきりと首を横へ振る。
「もっとここであそびたい!」
「それなら、悪いことをしないで良い子にして遊ぶって約束できる? これから毎日、あたしたちやここにいる先生がこのお部屋を使うことになったの。だから、あんまり悪いことをすると学校の先生たちにばれてここでは遊べなくなっちゃうかもしれないのよ。だから、良い子にするって約束できるかしら?」
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