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【第4章】 三日月峠の戦い
77 最高級の幕間劇②
しおりを挟む「マリアンヌ様、準備が整いました!」
「うむ!さてムンガル、今からお前に見せてやろう、我にとって城塞攻略など赤子の手を捻るのと大差ないという事を」
ムンガルに向かってそう口にすると、おもむろに立ち上がった
全兵士たちは一斉にマリアンヌへと視線を向ける
そして抜けるような青空の下、満員の観客に目の前を見よ!と砦を指差す
「お前たち、やつらの情けない姿を見てみよ。見ていて腹がたつほど情けない、少し自分達が劣勢だと思うや否や援軍到着まで亀のように引きこもって出てこようともしてこない、弓を構え、敵に矢を引く勇気はあれど、弓を向けられる覚悟が無い証拠だ、そのような腰抜け共と戦っていたかと思うと死んでいった者達が浮かばれようも無い。 だからこそ、そんなゴミ共の死は…誰よりも残酷でないといけない。そうだろう?お前たち」
背後の森から晴天の空の下に出てくる5台の投石機
その備え付けられた4つの車輪部分はガラガラと重圧な音を地面に響かせながらマリアンヌたちの横を通り過ぎていく
「さぁ~今からお前たちに最高級の幕間劇を見せてやろう~。そしてアトラス軍を処刑台へ誘い、やつらに教えてやる」
屈強な兵士たちが巨大なスプーンのような投石機の打ち出される部分に次々と大岩を積んでいく
それを横目で確認するマリアンヌ、城塞を背にするとゆっくり太陽が昇っていくような速度で片手を挙げると感情の欠落したような声で言った
「我に歯向かったら、どんな結末を迎えるのかをな」
その時、マリアンヌの整った顔つきは完全に狂気に染まっていた
「やれ」
「ハッ!!了解しました!!」
マリアンヌの指示を受けて動き出す投石機
どんどん大きくなる木製の歯車の不気味な音
そしていよいよと言わんばかりに動物の腱など利用したバネが力強くしなった。
カタパルトとも称されるそれは、強烈な風切り音を発しながら放物線を描きながら凄い勢いで岩石をダイアル城塞に向かって飛ばした。
正直、ここに居たほとんどのプルート兵にとってはまだ勝利に対して半信半疑といった心持があった。
しかしマリアンヌは、ただ1人確信を持っていた。
この後の惨劇すら「全て計算づく」と口角を上げる
時を置かず、次々と放たれる岩石群
1つ目の岩石はダイアル城塞下、数十メートルの岩壁に当たると力強く跳ね返った。
2つ目、3つ目と、岩石は同じような高度で近い場所へ、1つ目と同じように強く跳ね返り、大きな振動と共に地面に落下する。
4つ目、跳ね返り方は今までよりも弱く感じた。
それが続くこと数回
明らかな違いが生じたのは10を超えた辺りだった
投げ込んだ岩石の内の1つが壁面に沈み込むように衝撃を与えると目で見て分かるほどダイアル城塞が揺れた。
そして次の瞬間、皆呆気に取られた
衝撃が波打つように伝わっていくのが目で確認できるほどの揺れが起こり、三日月峠は重い荷物に押し潰されるようにその雄大な姿を崩壊させたのだ。
「「っ!?」」
かなり距離が離れているにも関わらず起こる大地震のような揺れ
素肌を通り越して骨に直接伝わるような振動
森の動物達が何事かと騒ぎだし、鳥達が森の木から慌てて飛び立つ
まるで大火事のように縦に舞い上がる土煙
鼓膜を破るような音
それがほぼ同時に目の前で起こったのだ
「………」
耳を塞ぐのも忘れて口をあんぐりと開けているムンガル
いや、ムンガルだけじゃない、このようなことが起こった理由をあらかた知っているヒナタ、カーナまでもが目の前で起こった現象に口をぽかんと開けて棒立つしかなかった。
息を飲む事さえ忘れるプルート軍の兵士たち
一面の視界が土煙で包まれ、ここまで土ぼこりが遅れて風圧と共にやってきた
突風のような向かい風に銀線の髪が舞い乱れる
その髪の主であるマリアンヌは時が静止した空間で1人ケラケラと笑った
「あははははは!皆の者、見てみろぉ!楽しいなぁ!!」
人の命が散っていくさまを心から悦ぶマリアンヌ
整った顔つきが狂気に染まり、らんらんと輝く目
そしてマリアンヌはまるで無邪気な子供のように口を大きく開けて、崩れ去るダイアル城塞に顔を向けた
「ざまぁ見ろ!愚かものどもがぁ!! これは神に逆らった罰だ!!!」
その日、マリアンヌは一生分とも思えるほど笑った
それはアトラス軍の兵士たちの死にゆく悲鳴は確かにマリアンヌの耳を通して心の奥深く刻み付けられたからに他ならない
そしてマリアンヌは心から思った
”世界はなんと美しいのだ”と
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