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【第4章】 三日月峠の戦い

38 深緑からの襲撃者①

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 ―――2時間後のマリアンヌ本陣

 ……

 …


「あの、、マリアンヌ皇女殿下…あれから結構立つんですけど、メイド帰って来ませんね」

 気まずい空気が流れる中、ムンガルはそう口にした。
 その言葉と何ともいえない視線に、マリアンヌもこれまた気まずそうに視線を明後日の方向へ向ける。

「え、ああ…そうね」
「えっと、私はどうしましょう」
「そ、そうね~、と、とりあえず待機かな」
「了解いたしました」

 離れていくムンガルの後姿に我に対する疑念しか感じ取れない

「う~む、どうしたものか…」

 そういえば今日は太陽がまぶしいな

「直、昼時だな」

 ということは、またごはんのにおいが漂ってくるから離れないといけない
 いかに下賎な食べ物とはいえ、この飢餓状態にも近い我の状態を考えると手が出ないとも考えられぬ。
 あんな物を食べるぐらいなら死を選んだほうがマシだ

「空腹を紛らわすために少し昼寝でもするかな、夢の中にダ~イブ♪」

 って、おい!
 そんな現実逃避をしている場合ではないではないか!
 これだけカーナが遅いのはさすがにおかしい!

 まさか、カーナが負けたのか?
 あの戦闘能力を持っていて負けるものなのか?
 しかし相手が魔道具持ちだと考えると負けもありえる話か

「我はカーナを過大評価しすぎたのかもしれない」

 どうやら今回、我はミスをしたようだ。
 よし、カーナは死んだものとして考えよう。
 そして念のために用意しておいた第2、第3の策に移行しよう。

 そう考えて指示を出そうとムンガルのいる方向へ顔を向けた時であった

「っ!?」

 マリアンヌは急な音に驚いたかのように目を丸くして顔の向きを変える
 そして思考が追いついていない口で言った

「な…にが?」

 森の奥、カーナが向かった方向から魔道具が1つこちらに向かってきている
 それもすごい速度で

「カーナか?」

 いや、カーナだとするとなぜ2時間も帰って来なかった?
 帰って来なかったことに対する整合性がとれない、つまりは不自然すぎる、ということは向かってきているは敵か?
 敵だとするとなぜ敵がこの場所を特定できた?

「いや、落ち着け、可能性は2つある」

 マリアンヌは細くしなやかな指を少し噛んで無理やり脳に刺激を与える。
 そして思考を廻らす

 可能性①
 カーナが尋問を受けて喋った。
 しかしこの可能性は低い、というか0と言ってもいいだろう。
 やつが我を売るとは考えづらい、そんなことをするぐらいなら舌を噛んで死を選ぶだろうからな。

 可能性②
 カーナを尋問したが喋らなかった、もしくは魔道具使いとの戦闘で死んだ。
 その場合はもちろんカーナから情報は得られない。
 だが敵は何らかの方法を用いてこの場所を特定できた。
 この場合はどうやってというのが問題になるが
 ムンガルは敵が我らの進軍に気付くとは考えられないと言っていた
 ということは一体どうして…

「クソッ!考えが纏まらない!」

 マリアンヌは迫ってくる脅威を睨みつけるように先の見えない森の奥に視線をやる。

「チッ! 思ったよりも早いな」

 速度が速い、これが敵だとすると我が逃げる時間的余裕は無い
 おそらく3分とかからんうちにこの場に到着する
 とりあえずこの場をどうにかして凌がなければ、話はそれからだ

「ムンガル!至急森の中に防衛線を張れ!敵が来る!」
「なぜ敵がこちらの位置を把握できるのですか?」
「うるさい!今、説明している時間が無い!!ムンガル将軍、これは命令だ! マリアンヌ・ディ・ファンデシベル、プルート国・第一皇女として命じる。お前は直ちにこの場に陣を構えて、森から来る襲撃者を迎え撃つ準備をしろ、敵が来るタイミングは我が指示する」

 血相を変えて命令するマリアンヌにムンガルもこれはただ事ではないと感じ取った。
 背筋を正して周囲の兵士たちにも聞こえるように言った。

「了解しました、マリアンヌ皇女殿下!」

 そしてさすが歴戦の将とその部隊と言うべきか、ムンガルの指示によってものの2分ほどでマリアンヌの前方に放物線上の陣が出来た。
 前方には鋭利な有刺鉄線、その後ろには身体を隠すほどの盾を持つ兵を配置し、更に後ろには大量の弓兵。

「用意完了いたしました! これでいかなる敵が来ようが迎撃可能であります!」
「うむ、よくやった! ちなみに来るのはこちらの方向だ!」

 マリアンヌはコンパスのように敵の来る方向を指差すと、念のため…というか身の安全を最優先するために少し…いや、かなりその場から離れた。
 そして魔道具の反応が目の前に来ると、手で三角を作り、口の前に持ってきて最前線にいるムンガルに向かって言った。

「みなのものぉ~~! 来るぞ~!」

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