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【第3章】 最低の家畜たち

09 41人の選択肢⑥

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 ついに1人目が自分の選択をした。
 それからは今まで、岩か何かで勢いを止めていた川が一気に流れるように、次々と囚人たちは樽のようなカゴに腕を突っ込んでいく。

 ある男は剣を手に取ってマリアンヌを睨みつける。

「生きがいなんていらねーよ」

 ある女は微笑みながら矢を手に取って言った。

「うふ、私は矢を選ぼうかしら。こんなにかわいいご主人様の元で飼われるのら、ペット生活も悪くないわ」

 躊躇いながら刺す者もいれば、迷い無く涼しい顔で刺す者もいた。
 その一喜一憂を観察しながら興味深そうに眺めるマリアンヌ。

 その中で最後まで選択を渋っていたのはあの大量殺人犯の少年だった。
 少年は矢を手に持ってマリアンヌに向かって小さく手を挙げる。

「…軽くでいいですか? ぼく、痛いのは苦手で」

 マリアンヌは満面の笑みで答えた。

「骨に届くほどザクッとやれ」
「そんな…」
「俺がやってやろうか?」

 一番最初に矢を打ち込んだ男
 包帯で自らの傷を止血しながらその厳つい顔を緩ませて話しかけてくる。

 少年は思った。
 この人に任せたら骨が突き破られる、と。
 首を全力で振る。

「お気になさらず!!結構です!!」


              ×            × 


「カーナ、矢を取った人数は?」
「22名です」
「ふ~ん、半分てところか、予想よりも多かったな」

 いずれ裏切る人間は今から篩いに掛けたほうがいい
 不穏分子の除去、だからわざと自分に矢を刺せと無理難題を吹っ掛けた
 にも関わらず半数も残る

 こんなにも残るとは…

 予想に反した結果
 最初に矢を取った男に流し目を送る。

 この男はそれだけの統率力、カリスマ性みたいなものがあるということか?
 あまりそうは見えないが

 では我(われ)の言葉が心を突いたから?
 そうであって欲しいという願望はあるが真実はどうだか

「まぁ、よいだろう。カーナ」
「はい」

 マリアンヌはコロッと表情を変えてニコニコと微笑んで言った。

「カーナ、剣を手に取った者をすべて殺せ」

 カーナは静かに頷いた。

「はい、マリアンヌ様」
「矢を取った残りの家畜への見せしめの為にも派手にな」
「もちろんよろんで」

 その2人の話を聞きいていた全身傷の男
 助け舟を出すように話しかけた。

「おいおい姫さん、本気でそんな女にやらす気かよ?外にいる兵士を入れたくないなら俺が手伝ってやろうか?」

 男は残った半数の囚人を1人で相手にしても十分勝てると判断したのだろう
 手当てを終えた肩を準備運動がてら、グルグルと回しながら自信満々に言った。

 マリアンヌは今にも笑い出しそうな口を押さえる。
 押さえた手の上、指と指の隙間から見える目はニターと笑っていた。

「必要ない、お前も怪我人なのだからおとなしくしておけ」

 剣を握り締めてじりじりとマリアンヌとの間合いをつめてくる囚人たち
 マリアンヌは扉を背に立つ
 そしてその端整な顔からは想像できないような、どす黒い声で言う。

「お前たちは選択を間違えた。素直に我の物になっていればよかったものを、、」

 その言葉は囚人たちに確信を与える。

 この女は今から背後の扉を開けて兵士達をこの地下室に引き入れようとしている。
 そう思った勘と頭の切れる数人は足に力を入れて地面を大きく蹴ろうとした
 だが、その直進を防ぐように赤髪のメイドがマリアンヌと囚人たちの視線の間に割り込む。

「ゲス共が、誰に断わってマリアンヌ様に近づこうとしている?」

 カーナはそう言うとゆっくりち囚人たちに近づいていく
 そして大量の剣が入ったカゴの前まで行くと大きく上に蹴り上げた
 宙を舞う銅製のカゴと中に入っていた大量の剣
 飛び交う1本を一瞥もすることもなくバッと掴むと頭上から降ってくる大量の金属音が豪雨のように鳴り響く中、カーナはその無機質で抑揚の無い声で言った。

「マリアンヌ様の御前で死ねること、光栄に思え」

 そして静まり返った地下室で肩を慣らすように剣を2回、3回と腕の周りで転がすと感情の無い瞳が剣を持って構えている囚人たちを捕らえる。

「来い家畜ども」
「上等だ!!いくぞぉぉお前ら!!!」

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