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【第3章】 最低の家畜たち

06 41人の選択肢③

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「さっきからコソコソ何、喋ってんだ」
「いやいや、大したことではないよ」

 先ほどからやたらマリアンヌに対して好戦的な揺すり男
 謝り続ける少年に言いたい事を全て言い終えたのか、一番最初にカゴの前に立った。
 男は迷い無く剣の入ったカゴに手に突っ込む。

「そんなのこっちを取るに決まってんじゃねーかよ。 やっと手に入った自由だ、誰が手放すかよ! 俺が手に入らなくて残念だったな、銀髪のネーちゃん」

 そう啖呵を切って揺すりで投獄されたドミニクは剣を手に取った。

「ああ、残念だな」

 そう言ってマリアンヌは涼しげに髪をさっと掻き上げた。
 木目細(きめこま)やかな銀色の髪がゆらりと揺れる。
 囚人たちは見惚れるかのようにその髪を見入る。

 そして訪れた沈黙
 次に動いたのは、またもや一際大きな筋肉で覆われた傷跡の目立つ男。

「1つ確認してぇんだけど、この矢を取った後にまた牢屋に戻されるのか?」
「いいや、まだこの地下室から出すわけにはいかんが、今後は牢屋は取っ払うつもりだ。つまりお前達が牢屋に戻ることは無い」

 それを聞いてカーナは目を丸くする。

「えっ、牢屋取っ払うんですか?」
「だっていらないだろ」
「あの、、デコレーションケーキの完成は…」
「それはお前が勝手にやっただけだ」

 作品の未完を寂しがるように肩をガクッと落とすカーナ。

 男はカーナのことをまったく気にする素振りも見せず、一番気になっていたことを口にする。

「もしもその扉から外に出たら?」

 ふふふ、と怪しく笑うマリアンヌ。
 囚人たちの注目を気持ちよさそうに浴びながら答えた。

「お前達はただの肉傀おとしてバラされた後、家畜の餌になる」

 息を飲む41人の囚人たち。
 やはりな、と全員が扉の方向を見た。
 しかし傷だらけの男だけは扉のほうは一切見ず、そのトラのような目を一層、鋭く尖らせる。

「その言い方だと扉の外には兵士達がわんさか控えているっていうことになるよなぁ?」
「なぜそうなる?」

 ハァ?この人数を殺すには大量の兵士がいるだろう、だからお前は余裕でそんな椅子に座っているんだろ。という表情をする男
 マリアンヌは少しグーと背筋を伸ばすと先ほどの言葉に付け加える。

「お前達を殺すためには大量の人間がいるとなぜそう思う? もしかしたらお前達全員を殺すのに大した労力はいらんかもしれないぞ、例えば…そこにいる赤髪のメイド、こいつ1人で十分かも」
「クッハッハ! あんな女に何が出来るつーんだ?せいぜいベッドの上でいい声で俺を楽しませてくれるぐらいしか能が無さそうな女。 でも面白い冗談だなお姫様、久々に笑わせてもらった」
「そりゃどうも」
「ということはこの地下室内での自由は約束されるわけか」
「お前達がそれを自由と言うのなら、そうだな」

 それを聞いた無数の傷のある男
 矢の入ったカゴのに足を向ける。
 そしてカゴの前に立つと後ろの囚人たちに向かって言った。

「じゃあ俺はこっちを取ろうじゃねーか」

 それを見て小太りの男、ドミニクが馬鹿にするように言う。

「おいおい、正気かよ? お前ともあろうやつが本気でこんな女に従う気かよ、そんな腰抜けだったとは知らなかったぜ」
「クハハハハ、まぁな」

 そう言った一際大きな男。
 ゴツく血管が浮き出ている手はカゴに入った矢に伸びる
 そしてその手が矢に触れようとすると誰にも聞こえないような小声で呟いた。

「バカはお前だ。十中八九あの扉の外には兵がいる、せっかくアンジェラが死んで出れたんだぞ、外に何人いるか分からない状況で喚いてんじゃねーよ。死ぬならてめぇ1人で死んでこい」

 絶対に聞こえない距離
 しかもその1人の小声の独り言、しかしマリアンヌはその囚人の心を読み取ったかのようにヒールのカカトを地面にコンコンと叩きつける。

「ああ、大事なことを言い忘れていた。 矢を手に取った人間は嘘偽り無い忠誠心を見せてもらう。詳しく何をしてもらうかというと…」

 そう言うとマリアンヌは大胆にもドレスの肩の部分をずらす。
 露になる透けるような白い肌。
 そしてその柔肌には似つかわしくないする矢の傷跡。
 囚人たちに見せ付けて、ここだと指差した。

「矢を手に取った人間は全員ココに自分で矢を刺せ、そうして初めて矢を手に取ったということになる。刺さなかった人間は須らく剣を取ったものと考えさせえもらう」

 そう言い終えると再びマリアンヌは暇を潰すために人間観察ならぬ、ゴキブリ観察を再開させるのであった。

「ふふふ、揉めろ♪揉めろ♪」
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