上 下
56 / 57
第2章  ダンジョンを知る

第54話  括りたがる生き物

しおりを挟む
 見た目は今までの層のゴブリンと何ら変わらないが、ナイフのような小型の剣を持ったゴブリンが歩いていた。

「ふっ!」

 次の瞬間、目の前の剣を持ったゴブリンの腕は、布で拘束されていた。

無詠唱むえいしょうもだいぶ上達してきたな」

 ヘラトリアが満足した様子で言った。

「後は先刻のように、『ふっ!』などと発さなくても発動できるようになれば、不意打ちにも対応できるようになると思うぞ」

 魔法は、発動石が発動――1度魔法名を唱えてさえいれば、次からは、無詠唱でも魔法を放つことができる。……ただし、別の魔法を使うときには、その魔法を唱えなおす必要があるが。
 この技術は、身につけてさえしまえばなんて事ないのだが、昨日きのう魔法を知った俺にとっては、少し難易度が高かった。

「もっと、イメージを大事にするんだ。地国民は発想力が豊かなんだから、コツさえつかめば簡単だぞ」

 『地国民』っていう、大枠で俺をくくらないでくれよ……。

 人間は括りたがる生き物である。男だから、女だから、外国人だから……。それが『地国民――地球人だから』というところに行き着いたとしても、何らおかしくはない。
 むしろ必然なのかもしれない。
 しかし、水城は、そんな『偏見』が、大嫌いだった。だから彼は心のどこかで、ほんの片隅かたすみで、ヘラトリアのことが嫌いになった気がした。

「フガッ! ガッ!!」

 腕を封じられたゴブリンは、状況を飲み込み、必死に剣で布を切ろうとしていた。

「悪いがかてになってくれ」

 そう言いながら俺が近づくと、布を切ることをあきらめたようで、拘束された状態のまま俺に剣を刺さんと走ってきた。

「ふっ!」

 先程同様、俺は力を込め、それと同時に布が今度はゴブリンの足を拘束した。

「ガァッ――!」

 唐突に足が動かせなくなったゴブリンは、つんのめって、見事な顔面ダイブを決めた。
 すかさず俺は前へ進み、背を上にして倒れているゴブリンの前に立った。そしてゴブリンの背中に、剣を深々と突き刺した。

「ガァァ――!!」

 先程までよりも大きな声を上げて、ゴブリンは息絶えた。少しすると、剣や周囲の地面を汚していた血とともに、体は消滅し、そこには、ゴブリンコイン1枚と、モンスターコイン3枚が落ちていた。

 それを見て俺が気になったのは――

「――剣はドロップしないんだな」

 ということである。モンスターの体が消滅するのは分かるが、装備もドロップしないということは少々意外だった。すると、俺の予想の範疇はんちゅうにあった仕組みをへラトリアが口にした。

「装備品はレアドロップとして手に入るものだ」

 まあ、そうだろうな。

「だが、運の悪い私は今まで一度もドロップしたことはない」

 あー、察し。
 やっぱ哀れだな。

 しかし、敵を倒すと消滅するとなると、倒していない状態で装備を奪い取ったらどうなるのだろうか。もし、倒さなければ消えないとすれば、わざと倒さずに強い武器を回収……なんてこともできるかもしれない。

 次の戦闘で試してみるか。

 そんなことを考えながらへラトリアの後ろを歩いていると、またへラトリアが止まった。

「これを見ろ」

 そう言ったへラトリアの指すほうを見ると、――


 ――そこには、いかにも怪しすぎる木の宝箱が置いてあった。



ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ

 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 よろしければ、『お気に入り』への追加、感想の投稿をよろしくお願いいたします。
 特に感想は、作品の向上や誤字脱字等の修正に役に立つので、どんなことでもいいので気になる点があれば是非お願いします。
 『お気に入り』への追加をしていただくと、作品を書く活力になります。

ΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔΔ
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

傭兵アルバの放浪記

有馬円
ファンタジー
変わり者の傭兵アルバ、誰も詳しくはこの人間のことを知りません。 アルバはずーっと傭兵で生きてきました。 あんまり考えたこともありません。 でも何をしても何をされても生き残ることが人生の目標です。 ただそれだけですがアルバはそれなりに必死に生きています。 そんな人生の一幕

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...