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第2章  ダンジョンを知る

第35話  壁が燃えてます

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「ミズキ、なにいってんの? いっしょにはいったじゃん」

 ミアは1ミリたりとも忖度してくれなかった。

 その瞬間、アリシアの背後に、明らかな憎悪の炎がメラメラと燃え始めたように見えた。……俺はアリシアから目を逸らしているので、莫大な気配を感じた、というのが正確である。

「水城さん? どういうことでしょうか?」

 かろうじて敬語を使っているが、その声には、明らかな怒りの感情が込められていた。

 まあ、そうだよな。そうなる未来、見えてた。

「待ってください! アリシアさんは誤解をしていると思います」

「そうですか。『水城さんがミリアと一緒にお風呂に入った』という事実を聞いた私が、どのような誤解をしているというのですか?」

「まず、俺は、できるだけミリアさんの体を見ておりません!」

 俺の必死の弁明に対してアリシアは、

「何を言っているんですか? そんな言い訳が通用すると思っているんですか? 貴方が見ていないという証拠もないの言うのに。それに、まず、『一緒に入る』という事実が問題なんです」

 的確な指摘をしてくるアリシアに対して、弁明をすることが不利であると思った俺は、王様に目線で助けを求めた。
 すると、一度目が合ったものの、自然な感じに王様が目線をどこかへずらしていった。

 ――王様に見捨てられた!!

 こうなったら、自分でどうにかするしかないだろう。ミリアを頼ることもできるかもしれないが、彼女は失言が多いので、リスクが高すぎる。

「ミリアさんが一人でお風呂に入れないかもしれないので、一緒に入りました」

 嘘だ。だが、時には嘘でもつかないと生きていけない時もある。

「殺していいですか?」

「え――」

「炎弾!」

 ブォン!

 アリシアの詠唱に伴って、放たれた炎の弾が、俺の頭の左をかすめていった。
 その炎弾は、俺の後ろにあった壁を絶賛ぜっさん、黒げにしている。

 あ、俺、死ぬかも。

「ふざけないでください。あなたは先ほどまで、ミリアが一人でお風呂に入らないことを知らなかったはずです」

 まあ、気づくよな。『俺、実はいい人作戦』失敗だな。
 この状況にじょうじて、株上げしようと思ったんだけどな。やっぱ嘘はだめだな。

「バレましたか。実は、ミリアに一緒に入るように頼まれたのです」

 ブォン!

 今度は、詠唱無く炎弾が俺の頭の左をかすめていった。先程、発動石を起動させていたため、詠唱しなくても発動できるのは分かっているのだが、唐突とうとつに炎弾が左側をかすめると驚いてしまう。

「本当のことを話してください」

「ほとんど本当です。俺が一人で大浴場に入っていたら、ミリアが入ってきたんです」

 ゴォォォ……

「人に罪をなすり付けるんですか。それも、こんな小さな子供に」

 アリシアは両手を掲げて、巨大な炎弾を作りながらそう言った。

「本当です。だよね、ミリア。それと、知らんりをして、呑気のんきに朝食を食べないでください、王様!」

「うんうん、ミズキがいったとおり、ミズキがおふろにはいってるのをしって、ミーもはいったんだよ」

 その言葉を聞いたアリシアは、やっと怒りが収まったのか、作成していた炎弾が縮小していき……消えた。

「ミリア、それはどういうことなのですか? なぜ水城さんと入ったのですか?」

 うーーん、と考えた後でミアは言った。

「はいりたかった……から?」

 俺は唖然とし、王様はうんうん、と頷いており、アリシアは疑問符ぎもんふを浮かべていた。

「ミリア、何を言っているんですか?」

「だから、はいりたかったから、って」

「なぜ水城さんなのですか? 私でもいいではないですか」

「うーん、アリシアは真面目過ぎて面白くないの!」

「なっ……!」

 あー、かわいそう。たぶんだいぶ心に来ただろうな。
 俺としては、アリシアの矛先が変わったことに安堵あんどしているため、共感はしてやれない。……哀れには思うけど。

「あのー、すみませーん」

 そんな時、唐突に後ろから声が聞こえた。

 おう、嘘だろ。また後ろから女の人の声がするぞ。何度目だよ?

 振り向くと、そこには――


 ――水城と同じくらいの年齢の女の子が、扉から顔をのぞかせていた。



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