9 / 13
もう決めたことだ
しおりを挟む
「…………」
ルスタヴェリは、己の部屋にある窓辺で月を見上げていた。
(そろそろ、か)
約束の期限まであと少し。覚悟を決めなければ、と思う。
『お前の命が尽きるとき、また現れる』
これは、オリヴィエに言った言葉ではない。
『それまでに私のものになると誓え。そうしたら、私はお前の願いを聞き入れよう』
これは、己自身へかけた呪いの言葉だ。
(私の答えは決まっている)
オリヴィエを失うのは辛い。彼が自分から離れていくのは苦しい。
ルスタヴェリは自分がこれほどまで一人の人間に執着するとは思ってもみなかった。けれどどうしようもないのだ。自分でもなぜこんなにオリヴィエに惹かれるのか、逃したくないと願うのかはわからない。
こんな感情は間違いだと言われたほうがまだ納得できる。彼をヴァンパイアにして己のものにするということが、きっと正しいことではないのも理解している。
(……)
それでも、ルスタヴェリは諦められなかった。
ルスタヴェリは、己の欲望のままに動くことに決めたのだ。己の望みの為だけに、己の望みを叶える為に。
(これで、最後だ)
ルスタヴェリの望みは、オリヴィエだ。オリヴィエさえ生きていてくれるのなら、傍にいてくれるのなら、人間に対する恨みも憎しみも忘れることができる。
だから、オリヴィエが望むのなら封印されるくらい何てことはない。ルスタヴェリは不死なのだ。封印は永遠ではない。だがルスタヴェリは永遠を生きることができる。そして、オリヴィエを永遠とすることができる。たとえ何百、何千年経った後でも、封印が解けたときにオリヴィエが生きてさえいてくれるのならば……
その時こそは、共に生きられるかもしれない。
「……」
それは、ルスタヴェリにとって微かな希望だった。
けれど、もし、オリヴィエが己を選ばなかったら――。
その可能性を考えただけで、心は悲鳴を上げた。
ルスタヴェリは心臓を握り潰されたかのような痛みを感じ、思わず歯を食いしばる。
(……この世界は、こんなにも苦しかったのか)
ルスタヴェリは今まで自分の心を知らなかった。今までのルスタヴェリは、ただ人間を殺すことを楽しんでいるだけのヴァンパイアだった。
はるか昔受けた、人外だという迫害から人間を憎み、世界を憎み、すべてを恨んでいた。
だが、今ならわかる。
(これが、愛しいという気持ちか)
胸が痛くて張り裂けそうだ……。
ルスタヴェリは、オリヴィエが欲しくて堪らなかった。
己と対等に渡り合える唯一の相手。己と同じ景色を見れる唯一の相手。
彼を、手に入れたいと望んでしまった。
ルスタヴェリは、自分をまっすぐ見てくれるオリヴィエを知り、初めて独りは嫌だと思った。
(……だが、もう決めたことだ)
どんな結果になろうとも、ルスタヴェリは自分の選択を後悔しないだろう。
ルスタヴェリは、己の部屋にある窓辺で月を見上げていた。
(そろそろ、か)
約束の期限まであと少し。覚悟を決めなければ、と思う。
『お前の命が尽きるとき、また現れる』
これは、オリヴィエに言った言葉ではない。
『それまでに私のものになると誓え。そうしたら、私はお前の願いを聞き入れよう』
これは、己自身へかけた呪いの言葉だ。
(私の答えは決まっている)
オリヴィエを失うのは辛い。彼が自分から離れていくのは苦しい。
ルスタヴェリは自分がこれほどまで一人の人間に執着するとは思ってもみなかった。けれどどうしようもないのだ。自分でもなぜこんなにオリヴィエに惹かれるのか、逃したくないと願うのかはわからない。
こんな感情は間違いだと言われたほうがまだ納得できる。彼をヴァンパイアにして己のものにするということが、きっと正しいことではないのも理解している。
(……)
それでも、ルスタヴェリは諦められなかった。
ルスタヴェリは、己の欲望のままに動くことに決めたのだ。己の望みの為だけに、己の望みを叶える為に。
(これで、最後だ)
ルスタヴェリの望みは、オリヴィエだ。オリヴィエさえ生きていてくれるのなら、傍にいてくれるのなら、人間に対する恨みも憎しみも忘れることができる。
だから、オリヴィエが望むのなら封印されるくらい何てことはない。ルスタヴェリは不死なのだ。封印は永遠ではない。だがルスタヴェリは永遠を生きることができる。そして、オリヴィエを永遠とすることができる。たとえ何百、何千年経った後でも、封印が解けたときにオリヴィエが生きてさえいてくれるのならば……
その時こそは、共に生きられるかもしれない。
「……」
それは、ルスタヴェリにとって微かな希望だった。
けれど、もし、オリヴィエが己を選ばなかったら――。
その可能性を考えただけで、心は悲鳴を上げた。
ルスタヴェリは心臓を握り潰されたかのような痛みを感じ、思わず歯を食いしばる。
(……この世界は、こんなにも苦しかったのか)
ルスタヴェリは今まで自分の心を知らなかった。今までのルスタヴェリは、ただ人間を殺すことを楽しんでいるだけのヴァンパイアだった。
はるか昔受けた、人外だという迫害から人間を憎み、世界を憎み、すべてを恨んでいた。
だが、今ならわかる。
(これが、愛しいという気持ちか)
胸が痛くて張り裂けそうだ……。
ルスタヴェリは、オリヴィエが欲しくて堪らなかった。
己と対等に渡り合える唯一の相手。己と同じ景色を見れる唯一の相手。
彼を、手に入れたいと望んでしまった。
ルスタヴェリは、自分をまっすぐ見てくれるオリヴィエを知り、初めて独りは嫌だと思った。
(……だが、もう決めたことだ)
どんな結果になろうとも、ルスタヴェリは自分の選択を後悔しないだろう。
0
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【完結】終わりとはじまりの間
ビーバー父さん
BL
ノンフィクションとは言えない、フィクションです。
プロローグ的なお話として完結しました。
一生のパートナーと思っていた亮介に、子供がいると分かって別れることになった桂。
別れる理由も奇想天外なことながら、その行動も考えもおかしい亮介に心身ともに疲れるころ、
桂のクライアントである若狭に、亮介がおかしいということを同意してもらえたところから、始まりそうな関係に戸惑う桂。
この先があるのか、それとも……。
こんな思考回路と関係の奴らが実在するんですよ。
可愛い男の子が実はタチだった件について。
桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。
可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
君が好き過ぎてレイプした
眠りん
BL
ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。
放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。
これはチャンスです。
目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。
どうせ恋人同士になんてなれません。
この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。
それで君への恋心は忘れます。
でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?
不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。
「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」
ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。
その時、湊也君が衝撃発言をしました。
「柚月の事……本当はずっと好きだったから」
なんと告白されたのです。
ぼくと湊也君は両思いだったのです。
このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。
※誤字脱字があったらすみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる