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果樹園ダイエット
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営業部の佐藤です。商品開発部の佐山部長は釣りが趣味だったので、休日に港で釣り糸を垂らしているとよく一緒になりました。どちらの獲物が大きいか勝負は数え切れないほどしましたよ。
その日も一緒に呑みに行く約束をしていたので居酒屋の前で待ち合わせをしていると、シルクハットをかぶった小太りな若者を連れてきたのです。
「部長、その人は手品師か何かですか?」
「いや違うよ。こいつは同じ開発部の部下で、新商品のテストプレイをしているんだ。桜君、ちょっと帽子を取って見せてやってくれないか?」
桜君と呼ばれた部下がシルクハットを取ると、なんとその頭には盆栽をさらに小さくしたような木が生えていたのです。
「これが今開発中のダイエット用グッズなんだ。名付けて果樹園ダイエット」
「果汁ダイエット? ビタミンたっぷりのジュースだけ飲んで痩せるとかですか?」
「違う違う、果汁じゃなくて果樹園ダイエットだ。百聞は一見にしかず。桜君、実際にやって見せてくれ」
佐山部長に言われた桜君はポケットからドライフルーツの袋を取り出して中のドライミカンを一口で食べると、鼻をつまんでプッ! とほっぺたをふくらませました。するとどうでしょう、頭の木にポンポンポン! と甘そうなミカンが生りだしたのです。
「良かったら頭から収穫して食べてみたまえ。味も保証付きだよ」
佐山部長の言葉を受けて、桜君の頭からミカンをもぎ取って皮をむいて食べてみました。幻ではなく味も確かに本物のミカンです。
「この木はだね、人間の腹周りとか内蔵脂肪といった人体の余計な脂を養分にして実を付けるんだ」
そう言われて桜君を見ると、確かにお腹周りが少しスリムになったように見えました。
「食べた物が全部木に生る訳ではないのですか?」
「さっき桜君がやったように、何か食べた後に鼻をつまんでほっぺたをふくらませるのが木に実をつけさせるスイッチになっている。ミカン以外でもリンゴやマンゴーを食べてもいけるはずだ」
「実用化するには、頭の木が目立ちすぎだと思うのですが?」
「そうなんだ。目下の課題はいかにしてこの木を髪の毛ソックリに擬態させるかなんだ」
※
それからしばらくして佐山部長と桜君をさそって今度はお寿司を食べに行ったのですが、待ち合わせ場所に現れた佐山部長はなぜか携帯用の釣りセットを持っているし、桜君はシルクハットではなくカツラを被っていたのです。
「部長、これから釣りですか? それに桜君の頭はどうかしたのですか? あの頭の木を取り外し式に変更したのですか?」
「ちょっと違うんだな。桜君、見せてやってくれ」
桜君がカツラを外すと、そこには満々と水をたたえた小さな池があったのです。
「あの木が春になって花を咲かせたんだが、予想外に美しすぎる花だったんだ。外出した桜君が外で帽子を取って汗を拭いているところを女子高生に見つかってね。#一人花見男 #自分が花見会場男 というハッシュタグを付けられた写真をSNSに無断投稿されたら、高校生を中心にバズって(一つの話題に多くの人の注目が集まる)しまったんだ」
「それは大変でしたね」
「どこに行ってもシャッターチャンス狙いの高校生につけ回される生活で桜君の神経が参ってしまってね、やけになって自分で頭の木を引っこ抜いてしまったんだ。で、抜いた穴に雨水が貯まって池になったという訳だ」
「じゃあダイエット商品は開発中止ですか?」
「一生懸命考えた商品を否定されたショックで桜君が頭の池に身投げしようとした時はそれも真剣に考えたよ」
「頭の池に身投げ?」
「しかし捨てる神あれば拾う神ありだ。桜君の頭の池をよくよく眺めたら見えたんだ。大将、ちょっとイカを握ってくれないか?」
と言いながら須山部長は竿を使わない手釣りの仕掛けを取り出しました。
「へい、イカ一丁お待ち」
寿司職人の握ったイカを桜君が食べて、前のように鼻をつまんでほっぺたをプッ! とふくらませました。そうすると須山部長は手に持った仕掛けを桜君の頭の池に放り込んだのです。
「部長、店の中で何をやっているのですか?」
「ちょっと待て、今来ている……来ている……今だ!」
と叫んだ須山部長が釣り糸を手繰るとまるまると太ったイカが釣れたのです。
「イ、イカぁ?」
「木は抜けても、腹周りの脂を何かに変換するという性質は頭の池に引き継がれたんだ。見たまえ! 桜君の腹周りを!」
そう言われて見ると、確かに桜君はスリムになっていました。
「これぞ商品開発部の新製品、果樹園ダイエットならぬ釣り堀ダイエットだ。頭の池で魚を釣れば釣るほどドンドン痩せると言う訳だ」
「これは前のと違ってカツラさえ被れば目立ちませんね」
「そうだろうそうだろう! 大将、何か釣って欲しい魚があったらそいつをネタにして握ってくれないかな? どんな魚でも私が釣り上げて見せるから」
「何でも釣れるんなら……じゃあこれを」
と大将が握った寿司を桜君が食べ、鼻をつまんでプッ! とほっぺたをふくらませました。
「さぁて何が釣れるか……お! こりゃ大きい! 引きが、う、うわぁ!」
須山部長は仕掛けから手を放すヒマもなく桜君の頭の池に引きずり込まれてしまったのです。
「大将! 今何を握ったのですか?」
「へい、南太平洋産のクロマグロを」
その日も一緒に呑みに行く約束をしていたので居酒屋の前で待ち合わせをしていると、シルクハットをかぶった小太りな若者を連れてきたのです。
「部長、その人は手品師か何かですか?」
「いや違うよ。こいつは同じ開発部の部下で、新商品のテストプレイをしているんだ。桜君、ちょっと帽子を取って見せてやってくれないか?」
桜君と呼ばれた部下がシルクハットを取ると、なんとその頭には盆栽をさらに小さくしたような木が生えていたのです。
「これが今開発中のダイエット用グッズなんだ。名付けて果樹園ダイエット」
「果汁ダイエット? ビタミンたっぷりのジュースだけ飲んで痩せるとかですか?」
「違う違う、果汁じゃなくて果樹園ダイエットだ。百聞は一見にしかず。桜君、実際にやって見せてくれ」
佐山部長に言われた桜君はポケットからドライフルーツの袋を取り出して中のドライミカンを一口で食べると、鼻をつまんでプッ! とほっぺたをふくらませました。するとどうでしょう、頭の木にポンポンポン! と甘そうなミカンが生りだしたのです。
「良かったら頭から収穫して食べてみたまえ。味も保証付きだよ」
佐山部長の言葉を受けて、桜君の頭からミカンをもぎ取って皮をむいて食べてみました。幻ではなく味も確かに本物のミカンです。
「この木はだね、人間の腹周りとか内蔵脂肪といった人体の余計な脂を養分にして実を付けるんだ」
そう言われて桜君を見ると、確かにお腹周りが少しスリムになったように見えました。
「食べた物が全部木に生る訳ではないのですか?」
「さっき桜君がやったように、何か食べた後に鼻をつまんでほっぺたをふくらませるのが木に実をつけさせるスイッチになっている。ミカン以外でもリンゴやマンゴーを食べてもいけるはずだ」
「実用化するには、頭の木が目立ちすぎだと思うのですが?」
「そうなんだ。目下の課題はいかにしてこの木を髪の毛ソックリに擬態させるかなんだ」
※
それからしばらくして佐山部長と桜君をさそって今度はお寿司を食べに行ったのですが、待ち合わせ場所に現れた佐山部長はなぜか携帯用の釣りセットを持っているし、桜君はシルクハットではなくカツラを被っていたのです。
「部長、これから釣りですか? それに桜君の頭はどうかしたのですか? あの頭の木を取り外し式に変更したのですか?」
「ちょっと違うんだな。桜君、見せてやってくれ」
桜君がカツラを外すと、そこには満々と水をたたえた小さな池があったのです。
「あの木が春になって花を咲かせたんだが、予想外に美しすぎる花だったんだ。外出した桜君が外で帽子を取って汗を拭いているところを女子高生に見つかってね。#一人花見男 #自分が花見会場男 というハッシュタグを付けられた写真をSNSに無断投稿されたら、高校生を中心にバズって(一つの話題に多くの人の注目が集まる)しまったんだ」
「それは大変でしたね」
「どこに行ってもシャッターチャンス狙いの高校生につけ回される生活で桜君の神経が参ってしまってね、やけになって自分で頭の木を引っこ抜いてしまったんだ。で、抜いた穴に雨水が貯まって池になったという訳だ」
「じゃあダイエット商品は開発中止ですか?」
「一生懸命考えた商品を否定されたショックで桜君が頭の池に身投げしようとした時はそれも真剣に考えたよ」
「頭の池に身投げ?」
「しかし捨てる神あれば拾う神ありだ。桜君の頭の池をよくよく眺めたら見えたんだ。大将、ちょっとイカを握ってくれないか?」
と言いながら須山部長は竿を使わない手釣りの仕掛けを取り出しました。
「へい、イカ一丁お待ち」
寿司職人の握ったイカを桜君が食べて、前のように鼻をつまんでほっぺたをプッ! とふくらませました。そうすると須山部長は手に持った仕掛けを桜君の頭の池に放り込んだのです。
「部長、店の中で何をやっているのですか?」
「ちょっと待て、今来ている……来ている……今だ!」
と叫んだ須山部長が釣り糸を手繰るとまるまると太ったイカが釣れたのです。
「イ、イカぁ?」
「木は抜けても、腹周りの脂を何かに変換するという性質は頭の池に引き継がれたんだ。見たまえ! 桜君の腹周りを!」
そう言われて見ると、確かに桜君はスリムになっていました。
「これぞ商品開発部の新製品、果樹園ダイエットならぬ釣り堀ダイエットだ。頭の池で魚を釣れば釣るほどドンドン痩せると言う訳だ」
「これは前のと違ってカツラさえ被れば目立ちませんね」
「そうだろうそうだろう! 大将、何か釣って欲しい魚があったらそいつをネタにして握ってくれないかな? どんな魚でも私が釣り上げて見せるから」
「何でも釣れるんなら……じゃあこれを」
と大将が握った寿司を桜君が食べ、鼻をつまんでプッ! とほっぺたをふくらませました。
「さぁて何が釣れるか……お! こりゃ大きい! 引きが、う、うわぁ!」
須山部長は仕掛けから手を放すヒマもなく桜君の頭の池に引きずり込まれてしまったのです。
「大将! 今何を握ったのですか?」
「へい、南太平洋産のクロマグロを」
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