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九章 破邪と夢幻の街
呪い
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「ユーイオ!!」
「馬鹿! 感情に任せて前へ出るな!」
ユーイオが消えた場所へ走ろうとするリーエイの腕をリールが掴んで制止した。
「で、でも……!」
「俺たちだけはあの子を信じないと駄目だ」
「!」
ヴァクターは黙って頷きもしなかったが、首を横に振ることもなかった。
「世界から見放された子を必要とする意味は?」
ジンがゆっくりと歩いてくる。リーエイに訊いているらしい。
「……そんなの自己満だよ。色々な事情が重なって結婚出来ずにこんな異形になった野郎の、唯一の夢だった。子供を育てたい、自分にとっての本当の家族をもう一度探したいって夢さ」
「随分と身勝手だな。そんなお前の夢とかいう大層な名前がついたおままごとに付き合わされる不要な子も可哀想だ」
「それなら誰が必要か不要かを勝手に決めるのも身勝手じゃない?」
リーエイがやや怒りを見せた顔で言う。
「……は?」
ジンが何言ってんのお前、と機嫌の悪そうな顔でリーエイを見る。
「俺は別にいいよ。どう足掻いたって身勝手だ。身勝手に生きるからこんな異形なんだし」
「な……」
どすっ、とジンの両足に杭が刺さる。
「だからこうやって君を好きに痛みつけたって構わない」
みぞおちを狙ってナイフもオマケに刺してやる。赤い血が滲み出し、痛みが胴体全域に渡る。
「があぁっ……!」
──そうだ。リア、リアは何をしている? 俺の近くにいるならそもそもコイツが俺の目の前まで近寄ることすら禁止出来るはずなのに、どうしてコイツはこんなことが出来るんだ?
「ああ、あの子のことが気になる? あの子はね……」
その時、リアの髪が視界に映った。僅かに見える腕に黒い斑点はない。
「「隔離」……この子は一旦僕が預かっとく」
「や、やだ……病気が」
「そういうのからもここは隔離されてる」
「!」
ヴァクターは何かを護るための異能なら一通り扱える特殊な異形だ。
「……お前には殺意を感じられない。ユーイオを消したいわけじゃないんだろ」
リアは少し驚いたような顔をした後、小さく頷く。
ヴァクターにはリアのある程度の目的が察せていた。彼女自身はきっと無意味に争うことや、無差別に誰かを殺すことを良しとしていない。兄の障害になるものを殺すことは構わないのだろうが。だが、それでもユーイオを殺したがらないのは彼女に別の意図があるからだと見える。例えば──兄を殺したいが自分の手では殺せないので代わりに殺してくれ、だとか。
「あなたと地球儀の方の関係は……?」
「……実の親子。気持ちが全くわからないわけじゃないよ、家族が間違えた方向に行くのを阻止したい気持ちも、自分が望んでいないことを望んでいると勘違いして身を粉にする家族をなんとかしたいのも」
ヴァクターは警察帽に似たデザインのそれをきちっと被り直す動作をしつつ言った。
「兄は狂ってしまった……リアの、せいで」
「? お前が原因になるとは思えないんだけど」
リアはふるふると小さく首を横に振った。
「リアが元気なままだったら、こんなことにはきっとならなかった」
もしかして、とリールがリアに質問する。
「お前たちが生まれたのはもっと昔か?」
「………多分?」
「そうか」
自信ないけど、とリアが付け足す。だが、リールは構わないと言った。どういうつもりだろう。
「何がしたいんだよ、父さん」
「いや……なんでも」
体が黒くなり死に至る病は大昔に大流行した病と酷似している。もしも彼らが本当にその時代に生まれた子供たちだったとしたら、彼らはいつこの街に来て、異形としての生を始めたのだろう。
「………」
リアは縮こまるようにきゅっと足を閉じて座っている。何かに怯えているような、不安そうな顔をしてジンとリーエイの方を見ている。
「心配か?」
「え?」
「兄のことさ。……そもそも彼は元からああだったのか?」
「うーん……」
リアは目を瞑って考え始める。そこから数秒してでた答えは「わからない」だった。
「リアは確かにリアだけど…………今のリアはなんでもないの」
「え?」
ヴァクターがどういうことだと目を丸くすると、「……なかったことにして」とだけ返された。どういうことかと気になりつつヴァクターはそれ以上聞かないことにした。
「……リーエイって人」
「ん?」
「どんな人?」
「あー……」
ヴァクター自身リーエイと直接接触した経験はほとんどない。だが、父からよく話は聞いていたし、どんな人かもある程度誤解なくわかっているつもりだ。
「あの人は優しいよ。私利私欲のためだとか適当なことを抜かすけど、ちゃんと考えて行動してる。敢えてアホっぽい言動とってるんだと思う。……あの人がいなかったら父さんは人として壊れてたに違いないよ」
本音だった。父さんがあの人を光と捉えていたのは子供ながらに理解出来た。彼はあまりにも眩しい人だった。父さんには常に光だけを与え続けていた。
「……だから僕はあの人に感謝してもしきれない、と思う」
「そう、いい人なんだ……」
「?」
「リアも……リアたちもああいう人に会えてたら………」
今更そんなことを思ったって意味無いのにね、とリアは笑った。彼女は見ることしか出来ない。無力なのだという。
「……」
ヴァクターはそうは思えなかった。「破邪」の異能を持っておいて無力なんて冗談甚だしいからだ。だが、彼女自身に戦う意思も何も無かったら、確かに無力と思わざるを得ないのかもしれない。
「今も昔も、リアは兄の決めたことに従うだけ」
ぼそっ、とリアが呟く。昔も、ということはリアが自分の意思で何かを成し遂げたことは無いのだろうか。
「…………あの人たちに、勝って欲しいって思う?」
「そりゃあね」
「じゃあ真似して」
そう言って、リアは口元で小さく十字架のしるしを作りながら、「主よ、御許に召された人々に永遠の安らぎを与えあなたの光の中で憩わせてください……アーメン」と呟いた。僕は正直そちら側ではないのだが、彼女が真似をしろと言ったのでその通りにした。
「リアの祈りは絶対なの……リアが祈ったから兄がどれだけこんなリアに近付いても平気だったの………」
リアの手は震えていた。
「初めて……兄以外の人をお祈りした」
それも、兄を止めてくれるようにと強く祈ってしまった。リアはジンに何か咎められるのではないかと恐れていた。
「別に誰のことをどう祈ろうが自由だろ」
「……」
「それとも何だ? 兄の死を祈ることに対して罪悪感でもあるのか?」
ヴァクターがそう言うと、リアは俯いてしまった。
「……僕はお前の味方じゃないけど、お前が迷う気持ちはわかるよ」
リールは少女となにか会話を交わすヴァクターを見守るだけだった。生身同士の戦闘ならともかく、異能混じりの戦闘は自分に向いていない。今のところリーエイが優勢だし、自分がやるべきことは──
「ユーイオ」
十分以上経ってもユーイオは戻ってこない。「回帰」が発動していないため死んでいないのは確かだが、どこにいるのだろう。
「ヴァクター」
「ん?」
「ユーイオを探してくる」
「え、ちょ父さん」
ヴァクターが焦ってリアから目を離しそうになる。
「お前はここでその子とリーエイを見守ってろ。俺なら平気だ、気にするな」
そう言ってリールは広間の探索を始めた。
「……逃げないんだね」
「逃げてもリアひとりじゃ何も出来ない……」
「──本当に敵意がないんだ」
ヴァクターはリアという人物がわかってきたような気がした。敵意がないように繕っているのかとはじめは警戒していた。だが、ヴァクターの意識が父に向いた時でさえリアが異能を応用してヴァクターやリールを殺そうとすることは無かった。
「リアには……殺す趣味なんてないし」
ジンにはあるとでも言いたいのだろうか。
「リアがそういうの……全くない分、兄は………はぁ。リアが兄をああしたの……一番の罪人はリアなの」
ごめんなさい、とリアが呟く。
「リア……」
「そもそも家から捨てられたのもリアが生まれて余裕が無くなったから……リアが…………リアさえいなきゃ兄はこんなことに……………ああっ……あぁぁぁぁっ…………リアは……消えたらいいんだ……!!」
バチッ、とリアの髪から色素が抜けて白くなっていく。ヴァクターは自分の異能が拒絶されていく感覚に驚いた。護るという、敵意さえない異能さえも今の彼女は拒絶しているのだ。
「リア、落ち着いて」
「嫌だ……全部リアが………リアが悪いんだから……!! リアがいなくなれば…………っ!!」
「!」
どうやら彼女は自分で自分を拒絶しようとしているらしい。だが、「拒絶」の異能は彼女の身体そのものが持っている力で、それを拒絶するということは──
「やめろリア! いちばん悲惨なことになる!」
「構わないっ! リアはリアを許せない………許してはくれない!!」
バチバチッ、とさらに拒絶の力が増していく。ヴァクターの護る力が完全に拒まれ、拒絶する力の範囲がじわじわと広がっていく。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「! リア!?」
そこにやっと異変に気付いたジンがリアに近付こうとする。
「近付くな! お前までこの世から拒まれる!」
「!? リア……暴走しているのか!?」
ヴァクターは多分、と頷く。だが、絶対にその理由を言うつもりはなかった。言ってしまえば、ジンまでこうなりかねないと確信したからだ。
「じゃあお前はなんで……っ!」
「僕はあらゆる護りの異能に長けてるだけだ!! お前みたいな自己防衛手段が幻影しかない奴は幻影ごと力に呑まれる! だから来るな!!」
「っ…………お前ならリアを……その子を何とかできるのか?」
「………わからない、僕が確実に出来ることは拒絶の力をこれ以上広げないことだけだ」
ヴァクターがそう言うと、ジンは力なく膝をつく。諦めるのだろうか。ヴァクターがそう思った時、ジンは頭を深々と下げた。
「頼む……リアを落ち着かせるためなら……! 俺は亜空間に取り込んだ奴をここに戻せと言うなら戻すし、死ねと言われれば死ぬ!」
「そ、そこまではしなくていいよ。あー……でもユーイオは確かにいてくれた方が助かるかな」
「わかった。少し待ってくれ…………ん?」
「? どうした?」
世界が続いている限りあいつは死んでいないはずだが。しかし、ジンは青ざめた顔で言った。
「その子……ユーイオだっけ? が、見当たらないんだけど」
「馬鹿! 感情に任せて前へ出るな!」
ユーイオが消えた場所へ走ろうとするリーエイの腕をリールが掴んで制止した。
「で、でも……!」
「俺たちだけはあの子を信じないと駄目だ」
「!」
ヴァクターは黙って頷きもしなかったが、首を横に振ることもなかった。
「世界から見放された子を必要とする意味は?」
ジンがゆっくりと歩いてくる。リーエイに訊いているらしい。
「……そんなの自己満だよ。色々な事情が重なって結婚出来ずにこんな異形になった野郎の、唯一の夢だった。子供を育てたい、自分にとっての本当の家族をもう一度探したいって夢さ」
「随分と身勝手だな。そんなお前の夢とかいう大層な名前がついたおままごとに付き合わされる不要な子も可哀想だ」
「それなら誰が必要か不要かを勝手に決めるのも身勝手じゃない?」
リーエイがやや怒りを見せた顔で言う。
「……は?」
ジンが何言ってんのお前、と機嫌の悪そうな顔でリーエイを見る。
「俺は別にいいよ。どう足掻いたって身勝手だ。身勝手に生きるからこんな異形なんだし」
「な……」
どすっ、とジンの両足に杭が刺さる。
「だからこうやって君を好きに痛みつけたって構わない」
みぞおちを狙ってナイフもオマケに刺してやる。赤い血が滲み出し、痛みが胴体全域に渡る。
「があぁっ……!」
──そうだ。リア、リアは何をしている? 俺の近くにいるならそもそもコイツが俺の目の前まで近寄ることすら禁止出来るはずなのに、どうしてコイツはこんなことが出来るんだ?
「ああ、あの子のことが気になる? あの子はね……」
その時、リアの髪が視界に映った。僅かに見える腕に黒い斑点はない。
「「隔離」……この子は一旦僕が預かっとく」
「や、やだ……病気が」
「そういうのからもここは隔離されてる」
「!」
ヴァクターは何かを護るための異能なら一通り扱える特殊な異形だ。
「……お前には殺意を感じられない。ユーイオを消したいわけじゃないんだろ」
リアは少し驚いたような顔をした後、小さく頷く。
ヴァクターにはリアのある程度の目的が察せていた。彼女自身はきっと無意味に争うことや、無差別に誰かを殺すことを良しとしていない。兄の障害になるものを殺すことは構わないのだろうが。だが、それでもユーイオを殺したがらないのは彼女に別の意図があるからだと見える。例えば──兄を殺したいが自分の手では殺せないので代わりに殺してくれ、だとか。
「あなたと地球儀の方の関係は……?」
「……実の親子。気持ちが全くわからないわけじゃないよ、家族が間違えた方向に行くのを阻止したい気持ちも、自分が望んでいないことを望んでいると勘違いして身を粉にする家族をなんとかしたいのも」
ヴァクターは警察帽に似たデザインのそれをきちっと被り直す動作をしつつ言った。
「兄は狂ってしまった……リアの、せいで」
「? お前が原因になるとは思えないんだけど」
リアはふるふると小さく首を横に振った。
「リアが元気なままだったら、こんなことにはきっとならなかった」
もしかして、とリールがリアに質問する。
「お前たちが生まれたのはもっと昔か?」
「………多分?」
「そうか」
自信ないけど、とリアが付け足す。だが、リールは構わないと言った。どういうつもりだろう。
「何がしたいんだよ、父さん」
「いや……なんでも」
体が黒くなり死に至る病は大昔に大流行した病と酷似している。もしも彼らが本当にその時代に生まれた子供たちだったとしたら、彼らはいつこの街に来て、異形としての生を始めたのだろう。
「………」
リアは縮こまるようにきゅっと足を閉じて座っている。何かに怯えているような、不安そうな顔をしてジンとリーエイの方を見ている。
「心配か?」
「え?」
「兄のことさ。……そもそも彼は元からああだったのか?」
「うーん……」
リアは目を瞑って考え始める。そこから数秒してでた答えは「わからない」だった。
「リアは確かにリアだけど…………今のリアはなんでもないの」
「え?」
ヴァクターがどういうことだと目を丸くすると、「……なかったことにして」とだけ返された。どういうことかと気になりつつヴァクターはそれ以上聞かないことにした。
「……リーエイって人」
「ん?」
「どんな人?」
「あー……」
ヴァクター自身リーエイと直接接触した経験はほとんどない。だが、父からよく話は聞いていたし、どんな人かもある程度誤解なくわかっているつもりだ。
「あの人は優しいよ。私利私欲のためだとか適当なことを抜かすけど、ちゃんと考えて行動してる。敢えてアホっぽい言動とってるんだと思う。……あの人がいなかったら父さんは人として壊れてたに違いないよ」
本音だった。父さんがあの人を光と捉えていたのは子供ながらに理解出来た。彼はあまりにも眩しい人だった。父さんには常に光だけを与え続けていた。
「……だから僕はあの人に感謝してもしきれない、と思う」
「そう、いい人なんだ……」
「?」
「リアも……リアたちもああいう人に会えてたら………」
今更そんなことを思ったって意味無いのにね、とリアは笑った。彼女は見ることしか出来ない。無力なのだという。
「……」
ヴァクターはそうは思えなかった。「破邪」の異能を持っておいて無力なんて冗談甚だしいからだ。だが、彼女自身に戦う意思も何も無かったら、確かに無力と思わざるを得ないのかもしれない。
「今も昔も、リアは兄の決めたことに従うだけ」
ぼそっ、とリアが呟く。昔も、ということはリアが自分の意思で何かを成し遂げたことは無いのだろうか。
「…………あの人たちに、勝って欲しいって思う?」
「そりゃあね」
「じゃあ真似して」
そう言って、リアは口元で小さく十字架のしるしを作りながら、「主よ、御許に召された人々に永遠の安らぎを与えあなたの光の中で憩わせてください……アーメン」と呟いた。僕は正直そちら側ではないのだが、彼女が真似をしろと言ったのでその通りにした。
「リアの祈りは絶対なの……リアが祈ったから兄がどれだけこんなリアに近付いても平気だったの………」
リアの手は震えていた。
「初めて……兄以外の人をお祈りした」
それも、兄を止めてくれるようにと強く祈ってしまった。リアはジンに何か咎められるのではないかと恐れていた。
「別に誰のことをどう祈ろうが自由だろ」
「……」
「それとも何だ? 兄の死を祈ることに対して罪悪感でもあるのか?」
ヴァクターがそう言うと、リアは俯いてしまった。
「……僕はお前の味方じゃないけど、お前が迷う気持ちはわかるよ」
リールは少女となにか会話を交わすヴァクターを見守るだけだった。生身同士の戦闘ならともかく、異能混じりの戦闘は自分に向いていない。今のところリーエイが優勢だし、自分がやるべきことは──
「ユーイオ」
十分以上経ってもユーイオは戻ってこない。「回帰」が発動していないため死んでいないのは確かだが、どこにいるのだろう。
「ヴァクター」
「ん?」
「ユーイオを探してくる」
「え、ちょ父さん」
ヴァクターが焦ってリアから目を離しそうになる。
「お前はここでその子とリーエイを見守ってろ。俺なら平気だ、気にするな」
そう言ってリールは広間の探索を始めた。
「……逃げないんだね」
「逃げてもリアひとりじゃ何も出来ない……」
「──本当に敵意がないんだ」
ヴァクターはリアという人物がわかってきたような気がした。敵意がないように繕っているのかとはじめは警戒していた。だが、ヴァクターの意識が父に向いた時でさえリアが異能を応用してヴァクターやリールを殺そうとすることは無かった。
「リアには……殺す趣味なんてないし」
ジンにはあるとでも言いたいのだろうか。
「リアがそういうの……全くない分、兄は………はぁ。リアが兄をああしたの……一番の罪人はリアなの」
ごめんなさい、とリアが呟く。
「リア……」
「そもそも家から捨てられたのもリアが生まれて余裕が無くなったから……リアが…………リアさえいなきゃ兄はこんなことに……………ああっ……あぁぁぁぁっ…………リアは……消えたらいいんだ……!!」
バチッ、とリアの髪から色素が抜けて白くなっていく。ヴァクターは自分の異能が拒絶されていく感覚に驚いた。護るという、敵意さえない異能さえも今の彼女は拒絶しているのだ。
「リア、落ち着いて」
「嫌だ……全部リアが………リアが悪いんだから……!! リアがいなくなれば…………っ!!」
「!」
どうやら彼女は自分で自分を拒絶しようとしているらしい。だが、「拒絶」の異能は彼女の身体そのものが持っている力で、それを拒絶するということは──
「やめろリア! いちばん悲惨なことになる!」
「構わないっ! リアはリアを許せない………許してはくれない!!」
バチバチッ、とさらに拒絶の力が増していく。ヴァクターの護る力が完全に拒まれ、拒絶する力の範囲がじわじわと広がっていく。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「! リア!?」
そこにやっと異変に気付いたジンがリアに近付こうとする。
「近付くな! お前までこの世から拒まれる!」
「!? リア……暴走しているのか!?」
ヴァクターは多分、と頷く。だが、絶対にその理由を言うつもりはなかった。言ってしまえば、ジンまでこうなりかねないと確信したからだ。
「じゃあお前はなんで……っ!」
「僕はあらゆる護りの異能に長けてるだけだ!! お前みたいな自己防衛手段が幻影しかない奴は幻影ごと力に呑まれる! だから来るな!!」
「っ…………お前ならリアを……その子を何とかできるのか?」
「………わからない、僕が確実に出来ることは拒絶の力をこれ以上広げないことだけだ」
ヴァクターがそう言うと、ジンは力なく膝をつく。諦めるのだろうか。ヴァクターがそう思った時、ジンは頭を深々と下げた。
「頼む……リアを落ち着かせるためなら……! 俺は亜空間に取り込んだ奴をここに戻せと言うなら戻すし、死ねと言われれば死ぬ!」
「そ、そこまではしなくていいよ。あー……でもユーイオは確かにいてくれた方が助かるかな」
「わかった。少し待ってくれ…………ん?」
「? どうした?」
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