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コケても歩く
閑話・優しい剣
しおりを挟むナージャとターシャが傭兵二人の見送りへと出ていってから、しばらく経つ。
「もう、行ってしまったかな」
誰よりも敬い慕う人から漏れた呟きに、ミランは少しの間を置いて、そうかもですね、と言った。
「あーあ。義兄上だってそんなに惜しむんなら、やっぱりこっちで雇えばよかったんですよ」
「そんなことできないさ。君は空を翔ける鳥の羽根を折って籠に入れて、それを眺めて楽しめる?」
「案外美しい声で歌ってくれるかもしれませんよ。それに見目も優れているし、利口だ。第二の人生として開き直っていけるくらいの能力はありますよ」
いやあれこそが第二の人生のようなものだと思う、とレオンハルトは内心で突っ込んだ。妖精姫と謳われておきながら、あの儚げの欠片もない天衣無縫っぷりはなんだ。
ナージャをシュバルツまで守り通してくれた傭兵の顔をよく見たら初恋の人だったとか。心臓がひっくり返るかと思うくらい驚いたのだ。あの少年のような身なりだと、ドレス姿とはまた違う華奢さが感じられてよい――いやそうじゃない。
でも、うん、似合っていた。髪を隠したことで際立つのがあの宝石のような瞳。全てをはね除けるような強固な意志そのもの。かつて一度だけ垣間見たリエン姫の本質が如実に現れていたが、あの軽い身なりだからこそ惜しげもなくさらけ出していたのだろう。
そして同時に察した。――この方は、剣をとって戦えるのだ。
隙がなく素早い身のこなしに加え、殺気を敏感に感じとり、瞬きの間にナージャを庇いその視線を受けようとまでした判断力。アロイスを倒したというのもそうだ。シュバルツ有数の戦士として名を馳せているあの異母弟をあっさり退けてしまうとは。
(惚れ直したって言ったらターシャが「なんで!?」って叫んでたなあ昨日)
でも、本当にそう思ったのだから仕方ない。多分、レオンハルトがあの姫に幻滅することなんて、きっとないのだ。元々は外見と内面のちぐはぐさに惹かれたようなものだったし――今さらだ。むしろ新たな一面をこうして見られて嬉しかった。一切レオンハルトがいいところを見せられなかったのが情けないところだけれども。不意打ちに打たれまくってしまった。まだまだ修行が足りない。
「ないものねだりをしてもどうしようもない。私たちは私たちでやっていくんだよ」
「諦めが早くないですかね」
「ミラン。君が仕込ませた彼女たちの食糧は、とっくにオイゲンがすり替えてるよ」
ブー垂れていたミランが黙った。
「検問にももう手を回したし、馬車の細工も一応確認させたけどこちらは大した問題はなかったみたいだね」
「……バレました?怒ります?」
「君の計画が成功して彼女たちがここに逆戻りしていたら、怒っていたよ。時間がなかったから選べる手が限られたお陰で、見当を付けやすかった」
ミランは首をすくめた。傭兵たちに軽微な毒を食わせて兵士に介抱の建前で連れてこさせようかと算段していたのだが、これは全部バレている。時間がもっとあれば色々でっち上げられたのに、義兄上の言う通りに時間がなさすぎた。
「彼女たちはまっすぐジヴェルナへ帰る。諦めなさい」
「……婚約者候補に狙われるアナスタシアの護衛にどうかなって思ったんですケド」
「私はね、彼女には自由に空を翔けていてもらいたいんだ」
妹を口実にしてもダメか。ミランはこっそり舌打ちした。
「わかりました、けど、二度と戻ってこなくても知りませんよ」
「巡り合わせの妙に期待する」
「とりつく島もないんだから」
「私としても君にそう言いたいんだけどね」
「はい?」
「君の独断専行はこの一度ではなかった、ということだよ」
「……何のことです?」
色々な人間から胡散臭いと呼ばれる表情で、ミランは笑った。自分でも胡散臭いと思ってるのでかなりの出来映えだろう。腹に一物あり、それをあえて隠さないように留めた笑み。完璧に取り繕うよりわずかに見え隠れさせた方が自分にはうまく物事が進みやすいとは、手痛い失敗をしたあとに学んだことだ。
あの時この義兄上に助けられていなければ学ぶこともなく、今頃、土の下、棺の中で眠っていた。
愚かなことを自覚していない、粋がったガキのままで。
☆☆☆
フリーセアの踊り子という異色の経歴をもつ母は、養父母となったシュバルツの伯爵家とともにその美貌と雅やかな芸技で虐殺王を虜にしようとして、虜になった。でもあの王が振り向くわけがない。王の通りは一度しかなかったし、正妃に繰り上げられることもなかったし、生まれたミランに一度だって会いに来ることはなかった。外戚は役立たずだと母を罵り、王をたらし込むはずが逆にたらし込まれた母は穏やかに狂っていき、他の人々はミランを異国の血の混じった王子だと嫌厭した。
ミランはその全てを素知らぬふりでやり過ごすすべを、いつの間にか身につけていた。
周囲が認めないというなら、相応の資格を持つ異母兄弟が王になればいい。興味だってない。それより図書館で一人きり、本に埋もれる方がよほど楽しい。
その楽しみを取り上げられるわけにはいかなかったので、母や外戚の求める最低限度の修練と人付き合いだけはこなしていった。武勇と治世に優れた父の血か、平民から妾妃に成り上がれるほど才能豊かな母の血か、「それなり」な才能はあったようで、ばれないように手抜きするのだけはミラン自身の手腕だった。
可もなく不可もなく、これといって目立った才覚のない凡庸な王子。それを維持すべくどこの派閥からも排除対象にならないすれすれを狙ったため、情報収集だけは念入りに。うまくいけばいくだけミランは慢心に浸った。楽でいいな、なんて思ったりしたのだ。
「こんなところでお会いするなんて奇遇ですね、レオンハルト義兄上」
その邂逅はミランの安穏とした日常に突然訪れた。今では四人残っているうちの二番目の兄。ミランが生まれた直後にはいた数日分歳上の兄は、一年も経たない間に「事故」で死んだ。そんな血生臭い絆しかない異母兄弟なのだ、自分たちは。世間話も雑談も一度だってしたことがない。する必要性も感じない。なのに一体、どうして話しかけてきたのか。
いつもの図書館の片隅、ミランが不満も疑問も隠した笑顔で見上げたのに対し、レオンハルトは慌てた様子でミランの両肩を掴んできたのだ。少し前にこの異母兄が母を亡くしたことは聞いていたが、やたらと余裕がなさそうだ。
「ミラン、君、いつもこの時間はここにいるの?」
「はい?」
「答えて」
「……さあ。教師と課題次第ですが。たまに教師の都合で武術指南もこの時間にずれ込んだりしますし」
「よかった、それなら、まだ……」
だから何の話なんだ、と痺れを切らしかけたとき、耳に囁かれたのは。
「……は?」
「デンケルの名は君も知ってるだろう。私のところの二人がその名乗りを許されていることも。お願いだ、頼むから。なんなれば信じなくてもいい。気まぐれに、偶然、君と君の母上がいつもと違うことをしたっていいんだから。――お願いだ」
なぜこの人は頭を下げているんだろう。こんな、意味不明な――ミランと母の命を長らえさせたいと思っているような、変なことまで言って。
レオンハルトは言いたいだけを言って、人目を気にしてか、すぐにどこかへ行き去った。
王冠の贈り主の名まで持ち出すなんてずいぶんな念の入りようだと首を捻った。その二人が、近々ミランとミランの母に命の危険があるという情報を掴んだということだろうが……むしろこれからレオンハルトが殺しに来たりするのだろうか。宣戦布告のような?
だって、ミランはそんな情報も、それをわざわざ教えに来るような情の動きかたも、なんにも知らない。「殺されるかもしれないから、絶対にここ数日は誰にも自分たちの行方を知らせちゃいけない」って、何の利益があってこんなこと言い出したんだろう。もし仮にこれが忠告だとしても、ミランの外戚は大した権勢もないし、恩を売って取り込むほどの魅力はない。警告でも……目障りな動きをした覚えはない。狂言とか?それなら、安易に乗せられるのは気に入らない。
鵜呑みにしてられないという結論の末に、ミランは形だけ、母に「いつも同じことの繰り返しで飽きましたね」とは言った。そのあとはいつも通り。挑戦的な気持ちでもあった。
――どういう目が出るのか見てやろうじゃないか。
今度は読書中、問答無用で禁書区間に引きずり込まれた。
「……!?」
「静かに。こっちだ」
レオンハルトはミランの手を引いて、王子たちの誰一人として通行を許可されたはずのない区域を小走りに進んでいった。まるで通い慣れたように迷いない足取りに呆気にとられ、そのわずかな差で、鎧の足音が追いかけてきた。
はっと振り返ったミランを叱るように手を握る力が強くなった。追っ手を撒くようにあちこちに方向を変えて突き進むが、物々しい足音はとっくに聞こえなくなっている。
立ち入りを厳しく制限される書架の最奥は夜のように暗く、とても埃っぽかった。突き当たりまで来ると、やっと手が離された。振り返るのが気配でなんとなくわかる。
「あと三時間はここに隠れていて。そのあとは西園に行くんだ。何を聞いても、知っても、絶対にそれ以外のところには行かないで。それまでに捕まっても駄目だ。いいね」
早口に囁いてどこかへ行こうとしたレオンハルトは、最後に一度、真摯にミランを見つめたのだ。
「私はマリナ妃が拘束されてるかもしれないから、止めに行ってくる」
ミランは自分が馬鹿になったようだと思った。もう去ってしまった異母兄の影を見つめて立ち尽くし、頭のなかには答えの与えられない問いが渦巻いていた。
「なんで、あなたが、何のために」
誰かの回答を待つだけで思考すらできないならば、それは愚鈍というのだと、ミランはこの時知らなかった。
命じられた通りに西園に行く途中、明らかにミランを探し回る兵士たちを何組も見た。それらの目を掻い潜って進んでいくことは愉快でもなんでもなく、ひたすらに怖かった。鎧の継ぎ目の擦れる音だけで飛び上がるほどに怯えたのなんて初めてだ。最後はどうやって西園に入り込めたのか覚えていない。誰に見つけられたのかも。ただ、ミランは、いつの間にか母の居室のど真ん中に立っていた。主が消えわずかな時間で荒れ果てた部屋を、月光が煌々と照らし出す。カーテンさえもズタボロだったのだ。
あんまりにも明るいから、床の黒々とした汚れもあっさり目についた。ミランはそれを見下ろして一晩を過ごした。
母が殺された。
どこかの要人の殺害に関与したかどで連行しようとすると抵抗されたのでやむなく武力行使すると死んでしまった。そういう、徹頭徹尾が嘘っぱちなあらましを、噂として聞いた。
殺したのは第一王子派。
理由は、存在そのものが目障りだったからだ。
それはどうしようもないな、と麻痺した頭で思ったことを覚えている。なにもしてなくても及ぶ悪意というものがあって、ミランはそれを知らなかったから、忠告を軽く受け止めて、母を見殺しにした。今までなんとも思ってなかった母の、あの美しい歌声や踊りが見聞きできないかと思うと、今さら惜しむ気持ちが湧いてくる。
自分が薄氷の上に立っていたことを自覚してなかったから、こうなった。もしミランが本当に賢ければ、今でもあの真珠を震わすような美しい声を聞けただろう。なんなら楽器をつま弾いて合奏だってできたかもしれない。唯一、母に直接手解きを受けた竪琴だってもっと真面目に取り組んでいれば。
母が大切に扱ったその楽器は、葬儀の時に母の棺に入れた。二度と音を鳴らすことはない。ミランができた弔いはその程度だった。
本当ならここで母と一緒に眠ったかもしれないのに、ミランは紙一重の結果で生き延びた。
その命の恩人だけだ、ミラン以外に母の死を本気で惜しみ、悔やんだのは。「ごめん、間に合わなかった」と、ミランを抱きしめて。なんであなたが背負うのだと、最近正常に戻りつつあった思考の中で思った。
胡散臭い笑みは、これ以上自分に慢心を許さないために身につけた。生き残るために生き方を少し変えるだけ、それだけで敵も味方も増えた。でも確実に生存競争ではかなりの優位に立つことができた。
(だけど、ねえ。限度があると思うんだけど)
優れた臣下に恵まれたあの二番目の兄はミランよりよほど安全なはずなのに、やたらと綱渡りな真似を繰り返していた。視野を広げただけで出るわ出るわ、いっそ宿命と呼べるほど血まみれな自分たち異母兄弟の日常なんて、歴史を見るに珍しいことでもなんでもない。だというのに、あの義兄上はどうやら繊細な質らしい。ミランの時のように弱者を見捨てることができず、取り零してしまえば自分を責める。お人好しの権化だ。最後には溜まり溜まった負荷に押し潰されそうになり、ジヴェルナへと療養に出た。
世話がないと呆れたが、仕方がないなあとも思った。自分が王になるつもりがない以上、いつかは異母兄弟の誰かを支持していかなければならない。
それならばあの人を王にしたい。あの人にならかしずいてもいい。そう思ったのだ。
利害も一致している。母の仇に仕えたいとは思わないし、第二王子派は他国の文化芸術にも好意的だ。異国の血が混じっているからか、ミランは外の知識にも関心があり、ちょうどいい。
「レオンハルト義兄上。末の弟を侍従に紛れ込ませるくらいなら、おれを連れていってくれてもよかったじゃないか」
帰って早々に真っ向から不満を垂れると、義兄上の口角が一瞬痙攣していた。義兄上とは違いあの弟は完全なる密出入国を果たしたことになる。公になればそれなりの罪だが、デンケル親子が極秘にレオンハルトのためにそう手配したことも知っていた。
とはいえ、自分を売り込む建前抜きにしてもけっこう本気でミランは「いいなぁずるいなぁ」と拗ねている。自由に異国文化を堪能できる機会だったのに!
「ねえねえ義兄上、おれを味方に入れてくれない?義兄上が王になったらおれが宰相になるからさ。他国との流通増やして文化取り入れて、仕事って名目でよその国にも行ける!最高でしょ」
「欲望丸出しだね……」
「腹を割って話してるだけだよ!利害の一致は協力関係に必要でしょう?今はまだ確実なものは差し出せないけど、おれは王位になんて一切興味ない。それにあなたはおれの命の恩人だもの、おれが恭順するのに一番最適だ」
こんな交渉でも、ミランとしては頑張って誠意を示している方なのだ。本当なら相手からミランを欲しがるように立ち回ることだってできるのに、そうはしない。この人にだけはそんなことしたくなかったので。
ミランが心の底から兄と呼べるのは、この人だけなのだ。
「別の意味で可愛くない弟に育ったね、君……」
「あれ、昔は可愛かったのおれ」
「昔は昔で可愛くなかった」
「なるほど、だから別の意味で。これって褒めてる?」
「ずる賢い弟に育ったなって褒めているよ。差し出す予定の確実なものってなんだい?」
「第五王子のおれの名前と命とおれの派閥を丸ごと。もちろん不純物は片付ける。でも義兄上、帰還したばかりで態勢が整ってないだろうし、まだおれが個人で動いた方があれこれできるから、今は無理」
「密約というわけか。いいだろう」
「仲間に入れてくれる?」
「どうぞ、よろしく頼む」
義兄上はしなやかに笑った。強く、柔らかく。これがこの義兄上の持ち味。療養はちゃんとできていたようで何よりだ。
「そういえばあっちの王女殿下に求婚したのって本当?しかも秒速でフラれたって」
「全部本当だよ」
将来、この素晴らしい義兄上を振った女の顔を拝みに行くのもいいかもしれない。
そうと決まれば不純物の処理から始めよう。どうせなら一石二鳥を目指すのもいいか。
(頑張ればクルト義兄上とフォルカー、二人落とせるかも)
☆☆☆
「私に黙っていることがあるね、ミラン」
「何のことです?」
ミランは義兄上がため息とともに言い換えても、同じ言葉を返した。だというのに、義兄上は揺るがぬ温厚な笑みでミランを見つめるのみだ。
(そういえば義兄上だけはおれのこと胡散臭いって言わないよなぁ)
今さらそんなことに気づいた。
「君は、私がなにも知らない方がいいと考えてくれてるようだけど、少し私を見くびりすぎてないかな」
「だから、何の話?」
「三日ほど前のことだよ。先に言ってくれればよかったのにって、私が言ったのは覚えてる?」
「……」
なるほどこれは本当に色々バレている。ミランがクルトを殺したことまで、全部。
直接手を下したのは、以前言ったように愚かな臣下だ。しかし、そうなるように念入りに状況を組み立てていったのがミランで、功を奏したからこそのあの結果だった。アナスタシアが――度胸だけはあるあの末妹が、ミランが整えた盤面を盛大にひっくり返してしまったけれど。
「ゲオルグも勘づいているようだったけど、君のことだから証拠はもう全て残ってないんだろうね」
「……先に知ってたら、止めたでしょ」
「それはそうだ。私はそのやり方しかできないから。でもね、だからって、できないことをなかったことするのだけは駄目なんだよ。君が推したのはそんな面倒な男なんだと、これからは肝に銘じておきなさい」
「……おれを切ったりしないんだ?」
「しない。君から切らないかぎり」
「そんなことしない!」
「そう、それはよかった」
義兄上が笑った。あのしなやかな笑い方だった。
これは勝てないなと内心でミランが脱帽した、その直後だった。
「オイゲン!逃げるなんて卑怯よ!覚悟を決めなさい!」
「レオンさま、ナージャさまを止めてください!」
二人きりだった後宮の一室の扉がぶち開けられて、賑やかな声とともに二人が駆け込んできた。そういえば昨日も一昨日も影も形も見なかったあの凶器が、今はアナスタシアの手の中にすっぽり収まっている。アナスタシオスが保管していたはずだが、返したのか。
オイゲンは義兄上の背後に逃げ込んだが、義兄上は全く庇わなかったし、止めなかった。にこにこ笑って「ナージャももう元気そうだね」とのんびり眺めているので、もう一回脱帽したくなってきたミランである。この身内に対する海のような許容範囲、一体なんなの?
「レオンさま!」
「私たちも一度はやられたんだから君も受けておかないと。ああ、ナージャ、じいやには勘弁してやってね」
「わかってます、お歳ですものね」
「そんな!」
今度は部屋の中を駆け回るオイゲンに、それを追いかけるアナスタシア。ミランは扉のところにアナスタシオスがいるのに気づいた。不意に眼前を通ったオイゲンをがしりと捕獲し、「諦めろ」と首を振っている。
「ナージャ、一応病み上がりなんだからあんまり暴れるなよ。ほら、さっさと殴れ」
「そんな、ターシャさままで!」
「拳骨食らったおれよりマシだろ。往生際が悪いぞ」
「ありがとうターシャ!」
二度と聞きたくなかったあの清々しい音が鳴り響き、せめてなんとか見なかったふりをしたミランだが、これで騒動は終わらなかった。「ナージャ、こちらも」となぜか背後から義兄上の声がしたと思ったら、ミランもまた、両肩をがっつり掴まれていたのである。
「え、えーと、義兄上?」
「ミランお義兄さまが何かなさったんですか?」
「ミランはね、君を救ってくれた恩人まで罠に嵌めようとしたんだ。食べ物に仕掛けを施していてね。ああ、慌てなくても、オイゲンが処理したから大丈夫だよ」
「……ミランお義兄さま……?」
「ミラン、お前」
こいつ碌なことしねえなとアナスタシオスの目が語っている、その隣のアナスタシアの方は怖くて視線をやれなかった。オイゲンなどはちゃっかり部屋から逃亡した。
「お仕置きしておかないとね?」
「ありがとうございます、レオン義兄上さま。――ミランお義兄さま、お覚悟!!」
ミランは改めて誓った。レオン義兄上には絶対逆らわないようにしよう。
あとこの無茶苦茶な異母妹も怒らせないようにしよう。うん。
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