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コケても歩く
打ち合わせ
しおりを挟む城にまず報せが入ったのは、東からだったらしい。エルサが早馬に託して届けさせた書状は、彼女のものと、シュバルツのレオンハルト第二王子からのものの二通。後者の宛先はヴィーだった。
ヴィーが入寮を遅らせたのは、それを受け取って対応していたためだという。
「亡命ってどういうこと?内乱が始まったの?王位継承戦争?」
「決定的な武力衝突は起こっていないが、緊張はかなり高まってるらしいな。二日遅れて内部の情報が来た。新年の宴席がきっかけだと」
「でも、それで王女が来るって……」
「第二王子派の姫なんだよ。特に最近は、その姫にザクセン王の寵愛が傾いていたらしいからな。第二王子派の力を削ぐには格好の的だ。そこで、レオンハルト王子が妹姫を強制的にこっちに送り出した」
「一人だけ?」
「腹心の部下が付き添ってる。その姫の安全が確保でき次第、国に帰るつもりだそうだ」
「ちょっと待って。国王の寵愛を受けてる王女を一人で異国に残すわけ?おかしくない?」
「だからこいつに、レオンハルト王子から手紙が来たんだよ」
こいつ、の部分で示されたのはヴィーだった。
ひくりと頬がひきつった。……まさか。
「……その王女って、歳はいくつ?」
「そなたと同年だ。名はアナスタシア。末妹の第六王女だ」
四歳差……十分に常識圏内だ。第六とはいえ王女で、国王の寵愛があるならその序列など意味をなさない。あの王子、ずいぶんと大胆な真似を――。
「リィ。待って。婚姻はしないから。ぼくがレオンハルト殿下に借りがあったから、それを返すためなんだけど、あくまでも保護だから。あの方にもそんな意図はないんだよ」
「あ、違うの?」
「うん。違う違う。だから暗雲消して」
なにか不穏なものが出ていたらしい。気分転換にお茶を飲んでソーサーにカップを戻すと、ベリオルとヴィーがほっとした顔をしていた。
「でも、ヴィーがアナスタシア王女に直接対応するなら、周りも同じように勘違いしそうなものだけど」
「亡命も寵愛の事実も一切を伏せて、この国に留学してきた、という形にする。バルフェにももう話を通してある。淑女科に席を設けさせる」
「……ああ、表立ってはヴィーが直接どうこうするわけじゃないってことね」
「働くのはそなただ」
「は?」
「学科は隔てられるが、一番に『友人』となるべきはこの国唯一の王女であるそなただと言っている。接点が皆無ならいざ知らず、そなたも今、学園におるからな。いかに不登校とはいえ身分としては同等。歳も同じなのだぞ」
「……その部下さん、無理にこの国に留めておくのは駄目なの?」
「レオンハルト王子の右腕をもいでどうするんだよ」
「うわ」
「時々顔を会わせるだけでよいのだからな。腹を括れ」
「……わかった」
仕方ない。これも「王女業」だ。
もてなさないといけないというなら、淑女科を実際に統括するマリアベルとも、応対の仕方を擦り合わせておく必要がありそうだ。実際の世話をする侍女の選別はタバサの管轄だろうか。
やるべきことが急に増えたが、さて。
「アナスタシア王女って、いつ頃から学園に来るの?」
「一ヶ月は先だ。西からの編入希望者もな」
西――つまり神聖王国から。シュバルツの情勢が気になるのに、こちらもこちらで無視できない。
「そっちも王族が来たりするわけ?なんで今さら編入希望なのよ」
「王族ではないが、神官として地位は相当に高い。準王族と見なした方がよいだろうな。神殿内ではほぼ最上位だ」
「――そんな位階の人が学生!?」
「これもそなたと同じ歳だそうだぞ」
「うっわあ!その人も私が接待するわけ!?というかなんで受け入れるのよ!?」
「神官の序列は基本的に、神殿に従事した年数と功績で決まる。そなたと同年で準王族になれる者など、そうそういるわけがないだろう。しかし、特例は存在する」
遠回しな物言いに、はっとした。
「まさか、嘘でしょ?『巫』が来るってこと?」
「推測だがな。あの国は、隠す気があるのかないのか曖昧でな。王から面倒を見てやってくれと親書が来た」
「それってほぼ確定ですよね……」
ヴィーが呆れつつ言い、ベリオルも大真面目に頷いていた。
「こっちが何をしたわけでもないのに、とうとう御大まで出てきたってわけだ。そろそろお前にちょっかいを出す理由くらい知りたいんだよ、こっちとしても。西のやつの接待は王子が中心だから、お前は自由にしてろ。ただし……」
「ユゥのことね。どうする?城にこのまま置いていこうか?」
「いいや。お前が侍女をシュバルツの姫に世話係として貸し出すことにする。あからさまに遠ざけると逆に相手の出方が読めないからな。学園内に絞っておけば、『影』の母子が常に目を光らせておける」
「王女殿下にはナキアも側におつけすることになってるよ。ユーフェさんはその補助ってことで、リィのお世話と両方できるようにしてるから。いい?」
「私の許可なんていらないわよ」
わりと万全の態勢で迎撃するつもりらしい。その時その時で咄嗟の判断は必要だが、最悪を回避する道だけは選んでいるようなのは安心だ。ならば、とソファの背もたれに背中を押しつけて、三人をまとめて視界に入れた。
「――それで、アルダは一切動きなし?」
「ない」
「……そう」
誰の表情にも動きがないところを見るに、どうやら嘘ではないらしい。リエンはそのまま立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ寝る。ヴィーも遅くまで起きていたら身長伸びないわよ」
「リィに言われたくないよ。壇に立ってるときはともかく、普段は学生の中に埋もれちゃってるんだから」
「反面教師にしなさいな」
「もう。……待って、ぼくも出る。父上、ベリオルさま、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
「よく寝ろよ」
「おやすみなさい」
最後にリエンが挨拶し、ヴィーと一緒に廊下に出た。さっとガルダとティオリアが側につく。
「リィ、明日、離宮に戻るの?」
「そう思っていたけど、このままここで調べものをしようかな。ヴィーは、王さまたちの手伝いでしょ?」
「うん、そのつもりだったけど……」
不意にヴィーが足を止めた。少し進んで振り返ると、変に底光りする瞳とかち合った。
「ヴィー?」
「リィ。あのお墓に暮らしてる人って、誰?」
リエンの表情が凍りついた。
「後宮がもう取り壊されてるのは知ってるよね?ティオと一緒に、街の方に向かう隠し通路を、最後に調べてみようと思ったの。東に進んで、途中から北に向かって……どうして、元ルシェル領のあんな山をくりぬいたようなおかしな場所まで繋がってるんだろう」
「……」
「仕掛けはいくつかあったけど、後宮のものと形が似てたから、あれこれ試して開けたよ。あの男の人、びっくりしてたみたいだけど……『姉に聞いたのか』なんて聞いてきたんだ。リィもあそこまで行ったってことだよね?」
「……よく、地理が把握できてるのね」
ここまで言われたら逃げようがない。観念したリエンのぼやきに、ヴィーは真面目に頷いた。
「歩数と曲がった道の向きを覚えてたから、後で地図で照らし合わせた」
「ほんとに実務向きだわね、その記憶能力」
「リィ」
ごまかすな、と藍色の目が訴えかけてくる。もちろんリエンは諸手を上げて降参した。頭上から感じるガルダの視線もやや怖いし。
「……私は、あの人の名前も素性も、聞いてないわ。聞かなくても十分だったんだもの」
「どうして?」
「彼が『賢者』だからよ。――あなたも聞いたことならあるんじゃない?」
今度はヴィーが驚く番だった。やはり聞き覚えはあるらしい。
「『賢者』って……あれ、符丁かなにかか、架空の人物かと思ってた。本人がそう言ったの?」
「そうよ。あと、私が賢者に会ったのは好奇心の延長線上だからね。あなたと同じように。――隠し通路は、もう塞いだの?」
「うん。……ハルさまはご存じなのかな」
「知ってて見張ってるんでしょうよ。地下通路から入れる方法は限られてるんだし、警戒するのは外から山に入り込む道だけだもの」
「リィは?」
「私も隠し通路からよ」
一つも嘘は言っていない。限りなく、聞く者が後宮の隠し通路からだと勘違いするような言い方でも、嘘ではないのだ。ヴィーは――いや、ガルダやティオリアも素直に騙されてくれたようで、張り詰めていた空気が弛む。
こっそりと肩の力を抜いた。明日はやっぱり離宮に戻って、口を滑らせた賢者に抗議しに行こう。午前に城での情報収集を済ませて離宮に持ち帰れば、一人になる時間が作れるはずだ。うむ、そうしよう。
☆☆☆
「それは確かに悪かった」
賢者は素直に謝ってきた。意外だったので瞬きを繰り返していると、「まさか、ここに自力で到達できると思っていなかったからな」と言い訳めいて言われた。
「……まあ、私も油断してたわ」
結局二人で反省会になった。数秒で終わったが。
「城からの通路は塞がれたからそこは安心できるわね。表から行くのはハロルドが目を光らせてるから無理だし、実質、ヴィーはもうここには来れない」
「……話を聞くに、ずいぶんと姉を信頼しているな」
「無意識だと思うわ。まだその辺りが甘いのよね……」
リエンの推測すら聞こうとしなかったのは、確かに甘い部分だ。賢者という名前に気を逸らされたことに、ヴィーは気づいていないだろう。
「賢者さんって、さすがに戦争は嫌なのよね?」
「他国の内乱なら放置する。侵略戦争なら話は別だ。長年の苦労が水の泡になっては困る」
「なるほどね。あ、今度はこっちの本、借りるわね」
「相変わらずの態度だな。聞きたいとは思わないのか」
「そんなに私に教えたいの?」
賢者はふっつりと黙った。そういえば、リエンがここが墓地なのだと知ったのは、三回目に訪ねた時だった。ヴィーは、そこにはあっさり気づいたのだ。賢者が教えたのだとしたら……いや、さすがにそれはないか。駆け引きの経験が甘くとも、ヴィーの観察眼は一流だ。こんなにものが雑多な中からでも、見てとれるものはあるのだ。
(……今思ったけど、罪人みたいな暮らしよね。客観的に)
墓地に一生引きこもって死体と一緒に生きていくとか、常人なら気が狂うはずの所業だ。賢者はその死者によほどの思い入れがあるのだろう。まあ、だからこそ賢者と名乗っているのだが。
「神聖王国とシュバルツが謀ったようなタイミングでこの国に要人を送り込んでくるのは、ほとんど偶然だろうけど、そうじゃない可能性もきちんと留意してる。それなら、あとは自力で調べられるもの。あなたに借りを作りたくはないし」
「……ではおれが借りにしているものを返す。昨年末の空き巣は、今度やってくる『巫』が首謀者だ」
「……ありがたく受け取るわ」
なんとなくそうだろうなと思っていたが、こうして聞くと、心構えが変わってくる。
これでヴィーやガルダに賢者との接触がバレた点を水に流すのは、リエンにとっても悪くない話だった。
「……疑わないのか」
賢者が変な顔でぼそっと呟くので首をかしげた。
「なにが?」
「……なんでもない。実に合理的かつ独善的な性格だと思っただけだ」
賢者としては、ここまで自分を「賢者」と扱わない王女の真意を見てみただけなのだが。賢者そのものに全く不信を覚えているわけではなく、むしろここまで素直に信じられれば拍子抜けするのも当然というものだろう。
賢者に知識と知恵を頼らないのは「借りを作りたくない」というものすごく個人的な意地の問題だと判明した。必要に迫られても、どれほど困っていても、その意地を通しつづける未来があっさり見えた。
「なによ、その馬鹿にしたような顔」
「して悪いか」
「うわ、開き直った。じゃあ、もう時間もないし、帰るね」
リエンはからっと笑って通路に向かった。
賢者は見送るのが癪なので、いつもは自分の読み物に視線を向けていたが、今回はなんとなく、その小さな背中を目で追った。
やがて仕掛けが動いて、その道が閉ざされる。それでもしばらくは目が離せなかった。ほんの数日前にそこに見た影を幻視した。
姿絵でなら知っていたが、実物はまた、印象が異なった。まだあんなに小さかったことに一番驚いた。
「…………」
読書する意欲もなくなって、臥所に横になった。二人の子どもの面影が閉じた瞼の奥に浮かぶ。生き方も性格も何もかも正反対のようでいて、確かにどこか「選び方」が似ている姉弟。賢者を賢者と認識せずに来ては去ってゆく者など、あの二人以外に出会ったことはない。
会わない方がよかったが、会えてよかったとも思った。一生に一度の機会だったのだろうから。このまま闇の中の廟で死にゆくのに、ちょうどいい冥土の土産ができたと、くすりと笑った。
人前で見せるような偉ぶったものではない、本来の性質を滲ませた素朴な笑みだった。
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