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雨と秘密
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さあさあと雨の音が絶え間なく続いていて、その中で目覚めた。
「……汗が……」
リエンは寝起きから嫌な顔になって、寝間着を肌から引き離した。毛布がずり落ちて、剥き出しになった肩が寒さに直撃して慌ててまたかぶり直したが、濡れている寝間着の感触がそれにしても気持ち悪かった。ついでに気分も悪かった。なにもしたくない、というか……なんだか、心に重りが乗っかったようだった。低空飛行して、いつ不時着してもおかしくない。
(夢見が悪いものだから……)
げんなりとため息をついた。そもそもここ半年ほど、悪い夢を見ることが多かった。その原因に気づいたのは最近だが、どうやら、「奈積」の意識が混ざり始めたからのようだ。
「リエン」は半年よりももっと前、一応の復讐を終えて、誰にも気づかれないうちに今後の人生に悩んだことがあった。復讐のその先で、共に生きていく人を十歳に失くしていたから。
分かりやすい目標がなくなって、一瞬だけ戸惑った。でも弟やガルダや、周りの人とこれまでにない穏やかな交流をして、知られないように気持ちを建て直して、建国記念式典から再び戦いに臨むようになったのだ。それでもあの目標は、「奈積」の混ざらない一番純粋な「リエン」が何よりも望んだことだった。助けてと願っても与えてくれなかったから、腹いせのように願ったこと。誰もやらないなら私がやる、むしろやらないでくれ。そうして存在証明を目指した。それをようやっと果たした後は迷子のように存在が浮いて、その辺りから「奈積」が混ざるようになった。「リエン」と「奈積」の境界が曖昧になり、時折ひどく翻弄されたものだ。
そこで、一月前のあの誘拐事件だ。
悪夢は基本、前世で起きた悲惨な物事ばかりだ。それに今世のものが混じることもあるが、それはそれは寝起きが悪くなる。今日もそれだった。多分、十歳のあの時に受け入れていれば、そう悪いことにはならなかったはずだ。ナヅミ姉さまが、私を守るようにしてくれたはずだった。
(ツケが回った……って、この物言いも、王女さまがしたらいけないか)
ふと、誰かとの会話の最中に口が滑ることがある。怒ると簡単に口が悪くなる。みんなが驚いてようやく失言に気づいたり。調整期間と自分で決めているけれども、まさにその通りだった。
王女さまには許されない行為はいつくもあって、それは普通に教育されていれば知ることもなかったものだ。でも私は、――前世煤や埃にまみれて廃墟を駆け回ったがさつで傲慢で石頭な女は、今では王女さまなのだ。おとぎ話のように蝶よ花よと育てられ、虫も殺せず、血を見れば卒倒して、当然のように贅沢を享受しているお姫さまと、同じ身分なのだ。
奈音や悠が知ったら腹を抱えて笑うことは間違いない。「似っ合わねー!」とげらげらと。そこら辺遠慮がない人種だった、あの人たち。まあ私もそう思ってたから、ますます乖離していってたんだけど。
(私にとって、生き残るために前世の知識はとても役に立ったけど。死にかけたから記憶を取り戻したということなら、もっと他にもいてもおかしくないし……)
最近、意識の統合と共に、考えることが増えた。なぜ自分は前世の記憶を持っているのだろうかと。
輪廻転生という言葉こそあれど、全て寓話の中の話。異世界という言葉すらこの世界では未知のものだ。初見であっさり受け入れたベリオルにしても、「覚醒」に重きをおいて理解していただけのことだ。
ちなみに生まれ変わりが受け入れられている神聖王国では、それでも「巫」くらいしか許容されない。それ以外は一様に悪魔呼ばわりだから、おそらく違いは特殊能力の有無だろう。これもどこまで眉唾物かわかったものではないが……ああ、でも、簡単に笑い飛ばすことは、もうできなかった。自分以外の不思議を、この間の旅で、いくつか見つけてしまっていたので。
「……着替えよう」
重い気分を切り替えるように、嫌な気持ちを振り払うように毛布をはねのけた。今度は寒くても布団に入り直すことはしない。
とにかく、訳はわからないが、前世の記憶を持っていることは揺るぎない事実なのだ。そこに含まれる意味はわからないが、リエンは、リエン自身のために今まで活用してきたし、これからもしていくだけだ。
この調整期間で、リエンは、リエンという王女になることを目指していた。「深窓の令嬢」と気取ることは止め、この世界と真正面から向き合えるようになるのだ。
ガルダが見守ってくれるから、離宮というある意味隔絶された環境で、ゆっくりと「奈積」をこの世界に馴染ませていく。
悪夢も、いつか見なくなる時が来るだろう。
外では氷雨が相変わらず降り続けている。絶望だけではないものを呼ぶ音に、リエンは耳を傾けた。
雨は止む気配がなかった。空を見れば重い鈍色。この時期にまとまった雨が降るのは珍しいが、この様子だと、今日一日降りっぱなしになるかもしれない。
ジヴェルナ王国は四季の区別こそあれ、中央から南部は雪がほとんど降らない。王都ジーウェンも同じで、雪には慣れていないガルダには過ごしやすい場所だ。
ガルダはこの日のノルマを終えると途端に手持ち無沙汰になった。屋内で鍛練もいいが、今日はどこか主人が呆けた様子なので、なんとなく側を離れがたかった。
「リエンさま、大丈夫ですか?」
「なにが?」
主人は目の前で本を読んでいたはずのに、いつからか窓の外をぼんやり見つめていた。声をかけられるとぱちりと瞬いて振り返ったものの、やはり、顔色が悪いような気がする。
「体調が優れないのなら、お休みになった方がいいですよ」
「……そう見える?」
「はい」
ガルダはとりあえずの暇潰しにしていたかご編みを止めて、真正面から主人を見つめた。すると、主人は少し気まずげな顔になったあと、なら、と立ち上がった。そのままこちらの長椅子に近づいてくる。
「ガルダ、膝枕」
「えっ」
「言われた通りに休むから、いいでしょ?魘されてるようなら起こして」
「……よく魘されるんですか?」
「さあ、わからないけど、夢見はあまりよくない、かな」
「ヒュレム殿に相談して、安眠の香など調達しましょうか。匂い袋か薫物かどちらになさいますか?」
「また今度でいいよ。それに、人肌があった方が気持ち良さそう」
「ですから言い方!」
なんだかんだ言ったものの、強引に膝を枕にされ、ガルダはため息をついて受け入れた。
甘い雰囲気など望むべくもない。子どもらしい、というのも語弊がある。一番近い言葉で言うなら、野性動物に懐かれた気分だ。
淡い恋心が傷つかないわけではないが、それでもこの触れあい自体を嫌いになれないのが、救いようがないところだろう。
(でも、本当に、進歩はしてるよな。少しずつだけども)
ここは離宮にいくつかある居間の一つだ。主人が拠点とする寝室と続く居間やいくつかの部屋は、『鍵』によって本人以外の出入りは禁止にされているが、ここはそうではないからガルダがいることができる。
『鍵』で区切るのは、私生活と公の場。安らげるか常に気を張るか。ガルダはそう認識していたが、あながち間違いではないはずだ。そして、緊張感を保つはずの公の場で、主人はガルダに甘えてくれる。無防備な姿を晒してくれる。アルビオン領の時のは、何かに追い詰められ過ぎている様子だったからカウントしないにしても、ずいぶんとガルダの扱いがよくなってきたように思う。
むしろ嬉しさすら感じはじめている自分に気づいた。表情が崩れそうになっていて、慌てて引き締めて膝の上の主人の様子を見下ろす。
「って、もう寝てる」
すうすうという寝息に驚くが、それだけ夜中、眠りが浅かったということだろう。それから、この方は野宿を平気でこなすように、基本どんな場所でも寝ることができる。
暖炉の火はあるが、ガルダは上着を脱いで掛け布の代わりにした。
雨の日、街を出歩くものはぱったりと途絶える。離宮を訪ねる業者もほぼおらず、主人の格好はそこまで気合いが入ったものではない。髪も結われていない。膝の上から長椅子に広がる美しい金の髪に、ガルダはそっと手櫛を通した。さらさらと流れていく様に感嘆のため息をつく。かご編みを再開する気分ではなくなった。アルビオン領でのように、この方の寝顔ならいつまでも見ていられる。あの時は、アルブス夫人が様子を見に来てくれたので、後を託して退散したのだったか。扉が開いたと同時に物凄い顔が飛び込んできたことを思い出して、ひっそりと噴き出した。
なんとか笑いを噛み殺しつつ黙って見つめていると、ある時、主人がもぞりと身じろぎをして、長椅子の上で器用に寝返りを打った。よく落ちないものだ。上着の方が落ちかけて、さっと拾って掛け直す。頭を撫でて、背中を撫でた。無垢な寝顔の中で、唇がうっすらと弧を描いていた。なにかいい夢でも見れているなら膝枕冥利につきる。寝心地がいいとは言えないと思うが。
(よく眠るなあ……)
……別に、落ち込んでいる様子でも、追い詰められている様子でもなかったのだが、なにか心許ないようでいたのはどんな理由だろう。悪夢とはナオたちが見ていたようなものなのだろうか。尋ねることができないのがもどかしい。
雨垂れと暖炉の火の音がしんしんと部屋の中に響いていて、まるで二人きり、世界に取り残されたような気分になった。雨と言えば、あの鬼火の凍える夜が一番に思い出される。あのときもこんな気分を味わったように思う。おれしかいない、と思ったのだ。あの場で引き止められるのは。雨に溶けるこの方に人の形を忘れてもらわないようにしないと。
今はどうだろう。アルブス夫人の言を借りるなら、今でもおれだけなのだろうか。それは嬉しいが、寂しくもあるのは、自分がまだまともな神経を持っているからだろう。
二人きりなんて、そんなことは実際にはありえない。これまでの人生で積み上げたものが必ずあるはずで、誇りに思っているはずで。それを全部ひっくるめて衛る。それがガルダの役目だ。
(……来たな)
扉の向こうの気配にくすりと笑う。ユーフェだ。昼のおやつでも用意していたのだろう、呼びに来たところか。
ノックの音の後、開いた扉の向こうから返事がないのを訝しんで顔を覗かせたユーフェに、人指し指を口に当てて合図した。ユーフェは目を見開いた後、恐る恐る扉を閉めて、近づいてきた。
「…………」
驚きと、わずかな怯えでユーフェは硬直した。やはり誰にも貴重な光景に思えるものだろう。そもそも貴種の令嬢がこんなところで寝付いていいわけではないのだが、それとこれとは話が別だ。侍女長もいないし。
ユーフェは長椅子の前に膝をついて、まじまじと主人の寝顔を見つめていた。呼吸すら浅くする気遣い。
「……おやつか?」
「……はい。いつ、お休みに?」
「一時間くらい前だ」
「晩ごはんまでに、お目覚めになりますか?」
「さすがに起こさせてもらうさ、その時は」
「……あたし、うるさくしませんから、この部屋にいてもいいですか?」
眠りの妨げにならぬよう、慎重に、慎重に声量を絞って会話するのもなんだか面白いものだ。ユーフェの切実な願いを、ガルダは笑顔で受け入れた。多分、いやきっとおそらく、主人はユーフェなら見逃してくれるだろう。無自覚なだけで、その自覚を促すのが大変なだけなのだ。
「ついでに、本を見繕ってきてくれないか。君の勉強の教材でいい」
「わかりました」
ユーフェは入ってきたときのようにそっと部屋を出ていった。暫くして戻ってくると、茶器に勉強道具をまとめてトレーに載せて持っていた。出入りする回数を減らして、音を立てないようにということだろう。
主人が本を広げたままのテーブルのそばの一人がけの椅子にユーフェは座って、繕い物をするようだった。離宮では侍女の位階など存在しないし、なんなら宮の主が率先して裁縫までするものだから、ユーフェは負けないようにと必死の様子だった。できる主人を持つと苦労する、とはもっと別の状況で使われる言葉のような気がする。
本を受け取ったガルダも早速頁を捲る。気が利くどころか、こんなことまで教わっているのか。軍事関連の本だった。ついでに主人が読んでいた本はひと昔前の戦時記録とその考察書。城から借り出してきたものだ。
ここの娘たちは一体どこを目指しているのかひたすら謎に思いつつ、ガルダもユーフェのように追い詰められてるような気をひしひしと感じていた。
☆☆☆
「起きろ、おい」
「んー……」
ごん、と容赦なく頭にぶつけられた固い物体に、さすがに寝ぼけ眼を押し上げた。雨垂れの音がいい塩梅に子守唄になっていたのに……。
「仕事中に寝るな、馬鹿」
「いいだろう……ふぁ……昨日も徹夜だったんだし……」
「お前の副官がきりきり舞いしてるんだが」
「トルファンはやればできる男だから」
「……あいつに心底同情する。政変で首がすげ変わっていればよかったものを……」
「そんなこと、言ってもいいの?」
からかう色を宿した青い目で、法律辞典を携えている友人を見上げた。眉間のしわが物凄いことになっている。
「ぼくが推薦してあげたから君は法務大臣に出世できたんだよ、元は無名の官僚だったレイズ・テラー殿?」
「……まずお前をしょっぴくことから始めようか、給料泥棒に職権濫用の工務大臣テル・マン殿」
レイズはがしがしと頭を掻いて、大きなため息をついた。
「徹夜もどうせお前の趣味関連なんだろう。それより仕事をしろ。だいたい、人が話している最中に爆睡しやがって」
「ちゃんと後から役立つからいいんだよ……そうそう、王従医師団から面白いもの発注されてさー」
「おれの仕事の話が先だ馬鹿!」
「えーつまらない」
「は、た、ら、け!」
「いたたたたたた!痛い!痛いって!」
耳を思い切りつねられて、テルはさすがに音を上げた。痛いのは嫌だ。
しかし、働くにしても仕事は選びたい、とテルは耳をさすった。
「繁文縟礼にも限度があるだろうに、半年以上経つのにまだ片付かないってなに?」
「仕方ないだろう。これでも無能な書記官が消え去って、ましになった方だ」
「補充は追いついてないんでしょ」
「お前が王立学園からの応援に反対するからだ」
「だって使えないよ、彼ら。そもそも気に入らないんだよねーああいう人種。お高くとまってさ」
「好き嫌いにも限度があるぞ」
「少なくとも、ぼくの意見には陛下たちも耳を傾けてくださるから。ぼくだけの独断じゃないよ。だいたい、君もだろ。これといって人材に思いつく当てもないくせに」
「む……」
話は、ルシェル派が政治の中枢に食い込んでいたいた頃の負の遺産のことだった。レイズとは着任当初から――本当はそれ以前から、無駄に増えた意味のない法令や法律を適用する側の利得しか考えないようなクズな法令は、抹消するべきだと話していた。テルは前任法務大臣が大嫌いすぎて接触すら最低限しかしていなかったのだが、これ幸いと空席になってからはその友人を頭に据えてもらった。
レイズは土地を持たない下級貴族で、テルは才能を買われて一代貴族となった元平民だ。元々同じ工務省で研究や下働きをしていた頃からの付き合いの二人だが、テルが先に出世して身分の隔たりができても、友人関係は変わらなかった。眩しいくらいまっすぐな性格のわりに、人の世の汚い部分も確実に心得ている男で、気は利くし勉強熱心でもある。いつか上に登り詰めるだろうと思っていた。だからテルはレイズを自分の副官にはせず、芽を出すのを待って、政変でここぞとばかりに背中を押すことにしたのだ。お陰で敬語を使われない関係に戻って万々歳だ。
工務省と聞けば土木建築が真っ先に浮かぶだろうが、研究機関という側面も持つ組織であり、その対象は植物や歴史や天候、農業、経済、法律、医学などなど、多岐にわたる。だから法務省への異動と共に出世しても、法律を専門に研究していたレイズはすんなりと仕事を受け継ぐことができたのだ。もちろん引き継ぎなどあってないようなものだったが。
レイズは早速、新宰相と打ち合わせて、建国記念式典までに当面の法令の整理をして(ルシェル時代にあまりに乱立していて片付けすらされていなかった)、省内のがっつり減った官僚たちを掌握した。人材育成など望むべくもない忙しさで、それは内務省や式部省、財務省も同様だった。難を逃れた工務省から人員を応援に出し、新たに引き立てられた人材も容赦なくこき使ったが、追いつくものではない。だから、今になっても細かい法律の改廃に上から下までひいこら言っているし、大臣自らがその調整に訪ねてくるのだ。
「ここからここまでは廃止でいいでしょ。こっちは場合によっては使えるっちゃ使えるから置いておいて。にしてもルシェルも馬鹿やったねぇ。自分達で作った法律で殺された人、かなりの数だったよね」
「なら後で審議にかけるために分けておく。あれは天狗になってたツケが回っただけだろう。自分達でどんな物を作ったのかも覚えていない馬鹿どもだ。冤罪も多かったし、正直、もう後始末は勘弁してほしい。その辺り陛下たちはさすがだ。漏れなく利用して処されたからな」
「ん、じゃあその日程はトルファンがまとめておくから、項目だけ複写したものをちょうだい。……君はどう思う?幼い殿下方、本当に政変の時、なにもなさらなかったと思う?」
「後で届けさせる。――ないだろうな」
「やっぱり?」
「ベリオル殿下と同じだろう、あの方々は。ついでに言わせてもらうが、王女殿下の方だが、あの方、書記官にもなれるぞ」
「は?」
さすがに驚いて眼を丸くすると、レイズは肩を竦めていた。
「どこで学ばれたのやら、な」
「え……本当、それ?ユーリさまってそこまでなさってたの?」
「いや、陛下たちもご存知ないようだった。ご自分で身につけた可能性は大きい」
「うーわー……」
能ある鷹は爪を隠すというが、あの姉弟殿下はそれにしても鋭い爪を持っていたようだ。これまで頭角を示さなかったのはそれぞれ別の理由だが、原因は同じ。だから今さらになって目につくようになった。研究畑な一面を利用してテルと先代の工務大臣はルシェルの支配を逃れたが、本当に下手なことをしなくてよかったと思う。
「……それ、離宮の時の話かい?」
「そうだ。書記官顔負けの書類を提示されてな。訊けば殿下ご自身が作成されたと言うではないか。思わず出張を申し込みかけたぞ」
「思い止まれてよかったね。王女殿下を馬車馬のように働かせるなんておそれ多い真似をしなくて済んで」
「ああ。首が繋がってよかった」
「……陛下はどうなさるんだろうねぇ?」
王族の後継問題は微妙な話題だが、気になるのだから仕方ない。国が荒れれば一番にてんてこ舞いするのはテルやレイズたち官僚なのだ。
「王子殿下もねぇ……この間の視察でうちの部下を送り出したでしょ?報告書がこれまた奮っててさぁ。後宮の改築案も面白い。ちゃんと学んだことを消化して早速活用となさるんだから」
「……あまり、話さない方がいいだろう」
「わかってるよ、ここだけの話さ」
「それなら、おれもここだけの話のついでだ」
レイズが、知っているか、と問いかけてきた。
「殿下方がそれぞれ、宮にお手をつけるようになっただろう。後継争いが始まったのではと早とちりした貴族家が複数、まとまり始めている」
テルは表情を消した。レイズは真顔で手元の書類を捲っていたが、沈黙が彼の感情を伝えていた。官吏として長らく城に勤めてきた二人は一時期王族に失望していたが、今はそうでもない。
「……ふざけてるね」
「やはりお前もそう思うか」
「どうせ、燃え上がる前に消えるだろうけど。王女殿下が借用書をお作りになったのもその配慮の一つだろ?アルビオンも雌伏の時は過ぎた」
「むしろ、早急に潰れるだろうな。……他国が絡んでいなければ」
「は!?」
テルは文字通り飛び上がった。ぼそりと付け加えられた言葉だが、「他国」と、しっかりはっきり耳に届いた。その意味は考えずともわかる。
売国行為――いや、まだその段階ではないのかもしれない。だが確実に内政干渉があったことを示唆していた。
椅子に尻を落ち着けると同時に頭をかきむしった。聞きたくなかったよそんなもの!
「なにそれ!うーわーなにそれ!!全っ然笑えない!!待ってよ!君なんでそんなの知ってるの!?」
「この間、法務省の書庫を整理しているときに見つけたものがある。宰相閣下にはすでに奏上したが、なにかお考えがある様子だった。ただ、また近いうちに忙殺される物事が出てくる可能性がある」
友人の淡々とした声に、やっとテルは我を取り戻した。全く相手にされなかったことで気まずさがひとしおだ。レイズにはこういうところがある。ノリが悪いのではなくあえてスルーしてくるとか。
「……えー、やだよ。寝たい研究したい走り回りたくないー」
「覚悟だけはしておけ、元引きこもり。優秀な副官を過労死させる真似はするなよ」
「あーそうか……トルファンがいなくなったらぼく餓死する……」
「そういう意味で言ったんじゃないんだが、お前、副官をなんだと思ってるんだ?給仕係は別にいるだろうが」
「ここだけの話その二。十年くらい前の麻薬騒動あるじゃない、あの時に実は長官が給仕の下男に毒殺されかけたんだよ。隠滅を図ったコンティ家が買収しててさ。もみ消すついでに工務省を我が物にってね。幸い今の宰相閣下の機転のお陰で難は逃れたけど」
「――待て」
今度はレイズがはっきりと顔色を変えた。
「おれは知らないぞ、そんな話。長官が、そんな……」
「ぼくも出世して知ったんだよ。他の省に比べても工務省は強く中立を保たなきゃ国が回らなくなるけど、それにも苦労がたくさんあるわけ。今も政変が終わって一段落ついてるけど、油断はできない。うちは多くの専門家、技術者の宝庫だ。ぼくの推挙を陛下たちがあっさり受け入れてくださったように、重要性は分かる者にはわかるから、大変だよぉ」
「……お前も、まさか、殺されかけたり……したのか?」
「だからトルファンを副官につけたのさ」
トルファン・サルシエは伯爵家の三男坊で、医学畑から事務処理の能力と貴族らしからぬ性格を買われて工務省の副官に抜擢された男だ。テルは一代貴族なので後ろ楯は弱いし信用できる使用人とも縁がない。その分際で名門伯爵家縁の者を毒見に控えさせるとは、本来の身分で言えば許されないことだ。しかしトルファンもまた、他の省とは一線を画する工務省の重要性を正確に理解し、テルを生かすために手を貸してくれた。
長年の友人を自負していたしテルからもそうと認められていたはずのレイズは、呆然自失となっていた。
当時、レイズはテルの友人でありながら部下の一人だった。直接の上司ではなかったものの、テルを長官と仰いで働いていたのだ。そんな綱渡りのような危険を日常にしていたことに、ついぞ気づかなかった。
テルは溜飲を下げるどころではなくなり、その狼狽ぶりに苦笑した。
「陛下が毒に倒れられた時は、相当に慌てたよ。それに王女殿下も毒を与えられたことが何度もあったって知ったとき。もう、ね。情けないやらなにやらで……権力って怖いよね。ぼくは何もなかったんだからなおさら」
あの時は、滅多に怒らないテルでも激怒した。
元平民でさえ毒見役を得てうまく生き延びていたのに、王族のその任を負った者は何をしていたのだ。
その怒りには後ろめたさもあったし、同時にやりきれなさも感じていた。
至高の存在である王族直系というものが、まるで替えのきく存在のように扱われるのだ。本当なら逆で、下の者はそれを上のものへの不満とするはずのもので。いつから逆転したのかと言えば、十数年間が最悪な形で歪めていったのだ。ここまで常識が欠落できるとは、と戦慄したことも覚えている。革命、簒奪という手段でなく、あおがれる身分に据えたまま、ただひたすらに歪に扱う――そうなれば王女殿下の「侍女嫌い」は当然だとも思えた。
「手出しできないことがそれはそれは歯がゆくなってさ。筆頭王従医師殿を全面的に支援したし、いつくか毒に関する試案も提出させてもらった。あの嵐のような忙しさの中でだよ?そんなわけでぼくはもう働きすぎて疲れてるんだよ。もう隠居したいくらい」
ぐでーとテーブルに伸びると、レイズは衝撃から立ち直ったように、ため息を深甚とついていた。
「……でも、しないだろう、お前は」
レイズは言いながら、友人のつむじを黒い瞳でじっと見下ろしていた。だらしない男だが、それだけならレイズはテルと友人関係にはならなかったし、テルが工務大臣になるはずもなかった。
「どうしたってあと五年はなんだかんだで忙しいだろうが、全て見届けるつもりなんだろう」
「……」
「責任感が強くて結構なことだ」
「ねえ、誉めてる?その物言い誉めてるの?」
「さあな」
無駄話が過ぎた、とレイズは立ち上がった。そろそろ法務省に戻った方がいいだろう。
レイズは元来立ち直りが早い男だった。
問題に直面しても切り換えが早く、拘りなく解決策を模索する。その能力は、今現在、ごみの山である法務省で相当に役立っている。真面目で案外面倒見がいい性格も、部下から慕われる要素だ。テルと友人だったからこそ身につけたものが大半だった。なんといっても、かつてのテルは研究に傾きすぎるゆえに重度の生活不能者であったので。
うだうだしているテルを一人置いてさっさと法務省大臣の執務室を出たレイズは、回廊に出て、歩きながら窓の外の雨模様を眺めた。近習もいない人手不足ぶりなので、たった一人で動き回るしかないレイズだが、気楽と言えば気楽だった。そういえば、テルも近習をつけるのは苦手のようだった。
これが高位貴族の大臣になれば、自分の家から従者を連れてくるものだが。
(おれに手伝えと言いたいなら、そうはっきり言えばいいものを)
雨は降りしきる。しかしいつかは晴れるように、政変を過ぎてなお王国にかかりつつある暗雲も、いつかはどこかへ吹き飛ぶはずだ。
吹き飛ばすのは政治家たちだが、国の歯車である自分たち官僚が直接には動くことになる。
手足には、手足なりの矜持というものが存在する。ただ上命下達に働くばかりではない。陛下たちがそれをよくわかっていらっしゃる様子なのは、大臣になって直に接する機会を得て、人柄や能力に触れて知った。
だからテルは殺されかけても投げ出さないし、レイズも大出世に尻込みする気持ちを切り換えた。
(昼寝は、よく晴れたときにするのも乙なものだろう)
ーーー
長官、大臣の名前の使い分けについて
官僚機構において各省の長は大臣という名称であるが、これは対外的な体裁の面が強い。省内部の部下からは長官と呼ばれる。よその省の大臣は大臣と呼ぶ。
「……汗が……」
リエンは寝起きから嫌な顔になって、寝間着を肌から引き離した。毛布がずり落ちて、剥き出しになった肩が寒さに直撃して慌ててまたかぶり直したが、濡れている寝間着の感触がそれにしても気持ち悪かった。ついでに気分も悪かった。なにもしたくない、というか……なんだか、心に重りが乗っかったようだった。低空飛行して、いつ不時着してもおかしくない。
(夢見が悪いものだから……)
げんなりとため息をついた。そもそもここ半年ほど、悪い夢を見ることが多かった。その原因に気づいたのは最近だが、どうやら、「奈積」の意識が混ざり始めたからのようだ。
「リエン」は半年よりももっと前、一応の復讐を終えて、誰にも気づかれないうちに今後の人生に悩んだことがあった。復讐のその先で、共に生きていく人を十歳に失くしていたから。
分かりやすい目標がなくなって、一瞬だけ戸惑った。でも弟やガルダや、周りの人とこれまでにない穏やかな交流をして、知られないように気持ちを建て直して、建国記念式典から再び戦いに臨むようになったのだ。それでもあの目標は、「奈積」の混ざらない一番純粋な「リエン」が何よりも望んだことだった。助けてと願っても与えてくれなかったから、腹いせのように願ったこと。誰もやらないなら私がやる、むしろやらないでくれ。そうして存在証明を目指した。それをようやっと果たした後は迷子のように存在が浮いて、その辺りから「奈積」が混ざるようになった。「リエン」と「奈積」の境界が曖昧になり、時折ひどく翻弄されたものだ。
そこで、一月前のあの誘拐事件だ。
悪夢は基本、前世で起きた悲惨な物事ばかりだ。それに今世のものが混じることもあるが、それはそれは寝起きが悪くなる。今日もそれだった。多分、十歳のあの時に受け入れていれば、そう悪いことにはならなかったはずだ。ナヅミ姉さまが、私を守るようにしてくれたはずだった。
(ツケが回った……って、この物言いも、王女さまがしたらいけないか)
ふと、誰かとの会話の最中に口が滑ることがある。怒ると簡単に口が悪くなる。みんなが驚いてようやく失言に気づいたり。調整期間と自分で決めているけれども、まさにその通りだった。
王女さまには許されない行為はいつくもあって、それは普通に教育されていれば知ることもなかったものだ。でも私は、――前世煤や埃にまみれて廃墟を駆け回ったがさつで傲慢で石頭な女は、今では王女さまなのだ。おとぎ話のように蝶よ花よと育てられ、虫も殺せず、血を見れば卒倒して、当然のように贅沢を享受しているお姫さまと、同じ身分なのだ。
奈音や悠が知ったら腹を抱えて笑うことは間違いない。「似っ合わねー!」とげらげらと。そこら辺遠慮がない人種だった、あの人たち。まあ私もそう思ってたから、ますます乖離していってたんだけど。
(私にとって、生き残るために前世の知識はとても役に立ったけど。死にかけたから記憶を取り戻したということなら、もっと他にもいてもおかしくないし……)
最近、意識の統合と共に、考えることが増えた。なぜ自分は前世の記憶を持っているのだろうかと。
輪廻転生という言葉こそあれど、全て寓話の中の話。異世界という言葉すらこの世界では未知のものだ。初見であっさり受け入れたベリオルにしても、「覚醒」に重きをおいて理解していただけのことだ。
ちなみに生まれ変わりが受け入れられている神聖王国では、それでも「巫」くらいしか許容されない。それ以外は一様に悪魔呼ばわりだから、おそらく違いは特殊能力の有無だろう。これもどこまで眉唾物かわかったものではないが……ああ、でも、簡単に笑い飛ばすことは、もうできなかった。自分以外の不思議を、この間の旅で、いくつか見つけてしまっていたので。
「……着替えよう」
重い気分を切り替えるように、嫌な気持ちを振り払うように毛布をはねのけた。今度は寒くても布団に入り直すことはしない。
とにかく、訳はわからないが、前世の記憶を持っていることは揺るぎない事実なのだ。そこに含まれる意味はわからないが、リエンは、リエン自身のために今まで活用してきたし、これからもしていくだけだ。
この調整期間で、リエンは、リエンという王女になることを目指していた。「深窓の令嬢」と気取ることは止め、この世界と真正面から向き合えるようになるのだ。
ガルダが見守ってくれるから、離宮というある意味隔絶された環境で、ゆっくりと「奈積」をこの世界に馴染ませていく。
悪夢も、いつか見なくなる時が来るだろう。
外では氷雨が相変わらず降り続けている。絶望だけではないものを呼ぶ音に、リエンは耳を傾けた。
雨は止む気配がなかった。空を見れば重い鈍色。この時期にまとまった雨が降るのは珍しいが、この様子だと、今日一日降りっぱなしになるかもしれない。
ジヴェルナ王国は四季の区別こそあれ、中央から南部は雪がほとんど降らない。王都ジーウェンも同じで、雪には慣れていないガルダには過ごしやすい場所だ。
ガルダはこの日のノルマを終えると途端に手持ち無沙汰になった。屋内で鍛練もいいが、今日はどこか主人が呆けた様子なので、なんとなく側を離れがたかった。
「リエンさま、大丈夫ですか?」
「なにが?」
主人は目の前で本を読んでいたはずのに、いつからか窓の外をぼんやり見つめていた。声をかけられるとぱちりと瞬いて振り返ったものの、やはり、顔色が悪いような気がする。
「体調が優れないのなら、お休みになった方がいいですよ」
「……そう見える?」
「はい」
ガルダはとりあえずの暇潰しにしていたかご編みを止めて、真正面から主人を見つめた。すると、主人は少し気まずげな顔になったあと、なら、と立ち上がった。そのままこちらの長椅子に近づいてくる。
「ガルダ、膝枕」
「えっ」
「言われた通りに休むから、いいでしょ?魘されてるようなら起こして」
「……よく魘されるんですか?」
「さあ、わからないけど、夢見はあまりよくない、かな」
「ヒュレム殿に相談して、安眠の香など調達しましょうか。匂い袋か薫物かどちらになさいますか?」
「また今度でいいよ。それに、人肌があった方が気持ち良さそう」
「ですから言い方!」
なんだかんだ言ったものの、強引に膝を枕にされ、ガルダはため息をついて受け入れた。
甘い雰囲気など望むべくもない。子どもらしい、というのも語弊がある。一番近い言葉で言うなら、野性動物に懐かれた気分だ。
淡い恋心が傷つかないわけではないが、それでもこの触れあい自体を嫌いになれないのが、救いようがないところだろう。
(でも、本当に、進歩はしてるよな。少しずつだけども)
ここは離宮にいくつかある居間の一つだ。主人が拠点とする寝室と続く居間やいくつかの部屋は、『鍵』によって本人以外の出入りは禁止にされているが、ここはそうではないからガルダがいることができる。
『鍵』で区切るのは、私生活と公の場。安らげるか常に気を張るか。ガルダはそう認識していたが、あながち間違いではないはずだ。そして、緊張感を保つはずの公の場で、主人はガルダに甘えてくれる。無防備な姿を晒してくれる。アルビオン領の時のは、何かに追い詰められ過ぎている様子だったからカウントしないにしても、ずいぶんとガルダの扱いがよくなってきたように思う。
むしろ嬉しさすら感じはじめている自分に気づいた。表情が崩れそうになっていて、慌てて引き締めて膝の上の主人の様子を見下ろす。
「って、もう寝てる」
すうすうという寝息に驚くが、それだけ夜中、眠りが浅かったということだろう。それから、この方は野宿を平気でこなすように、基本どんな場所でも寝ることができる。
暖炉の火はあるが、ガルダは上着を脱いで掛け布の代わりにした。
雨の日、街を出歩くものはぱったりと途絶える。離宮を訪ねる業者もほぼおらず、主人の格好はそこまで気合いが入ったものではない。髪も結われていない。膝の上から長椅子に広がる美しい金の髪に、ガルダはそっと手櫛を通した。さらさらと流れていく様に感嘆のため息をつく。かご編みを再開する気分ではなくなった。アルビオン領でのように、この方の寝顔ならいつまでも見ていられる。あの時は、アルブス夫人が様子を見に来てくれたので、後を託して退散したのだったか。扉が開いたと同時に物凄い顔が飛び込んできたことを思い出して、ひっそりと噴き出した。
なんとか笑いを噛み殺しつつ黙って見つめていると、ある時、主人がもぞりと身じろぎをして、長椅子の上で器用に寝返りを打った。よく落ちないものだ。上着の方が落ちかけて、さっと拾って掛け直す。頭を撫でて、背中を撫でた。無垢な寝顔の中で、唇がうっすらと弧を描いていた。なにかいい夢でも見れているなら膝枕冥利につきる。寝心地がいいとは言えないと思うが。
(よく眠るなあ……)
……別に、落ち込んでいる様子でも、追い詰められている様子でもなかったのだが、なにか心許ないようでいたのはどんな理由だろう。悪夢とはナオたちが見ていたようなものなのだろうか。尋ねることができないのがもどかしい。
雨垂れと暖炉の火の音がしんしんと部屋の中に響いていて、まるで二人きり、世界に取り残されたような気分になった。雨と言えば、あの鬼火の凍える夜が一番に思い出される。あのときもこんな気分を味わったように思う。おれしかいない、と思ったのだ。あの場で引き止められるのは。雨に溶けるこの方に人の形を忘れてもらわないようにしないと。
今はどうだろう。アルブス夫人の言を借りるなら、今でもおれだけなのだろうか。それは嬉しいが、寂しくもあるのは、自分がまだまともな神経を持っているからだろう。
二人きりなんて、そんなことは実際にはありえない。これまでの人生で積み上げたものが必ずあるはずで、誇りに思っているはずで。それを全部ひっくるめて衛る。それがガルダの役目だ。
(……来たな)
扉の向こうの気配にくすりと笑う。ユーフェだ。昼のおやつでも用意していたのだろう、呼びに来たところか。
ノックの音の後、開いた扉の向こうから返事がないのを訝しんで顔を覗かせたユーフェに、人指し指を口に当てて合図した。ユーフェは目を見開いた後、恐る恐る扉を閉めて、近づいてきた。
「…………」
驚きと、わずかな怯えでユーフェは硬直した。やはり誰にも貴重な光景に思えるものだろう。そもそも貴種の令嬢がこんなところで寝付いていいわけではないのだが、それとこれとは話が別だ。侍女長もいないし。
ユーフェは長椅子の前に膝をついて、まじまじと主人の寝顔を見つめていた。呼吸すら浅くする気遣い。
「……おやつか?」
「……はい。いつ、お休みに?」
「一時間くらい前だ」
「晩ごはんまでに、お目覚めになりますか?」
「さすがに起こさせてもらうさ、その時は」
「……あたし、うるさくしませんから、この部屋にいてもいいですか?」
眠りの妨げにならぬよう、慎重に、慎重に声量を絞って会話するのもなんだか面白いものだ。ユーフェの切実な願いを、ガルダは笑顔で受け入れた。多分、いやきっとおそらく、主人はユーフェなら見逃してくれるだろう。無自覚なだけで、その自覚を促すのが大変なだけなのだ。
「ついでに、本を見繕ってきてくれないか。君の勉強の教材でいい」
「わかりました」
ユーフェは入ってきたときのようにそっと部屋を出ていった。暫くして戻ってくると、茶器に勉強道具をまとめてトレーに載せて持っていた。出入りする回数を減らして、音を立てないようにということだろう。
主人が本を広げたままのテーブルのそばの一人がけの椅子にユーフェは座って、繕い物をするようだった。離宮では侍女の位階など存在しないし、なんなら宮の主が率先して裁縫までするものだから、ユーフェは負けないようにと必死の様子だった。できる主人を持つと苦労する、とはもっと別の状況で使われる言葉のような気がする。
本を受け取ったガルダも早速頁を捲る。気が利くどころか、こんなことまで教わっているのか。軍事関連の本だった。ついでに主人が読んでいた本はひと昔前の戦時記録とその考察書。城から借り出してきたものだ。
ここの娘たちは一体どこを目指しているのかひたすら謎に思いつつ、ガルダもユーフェのように追い詰められてるような気をひしひしと感じていた。
☆☆☆
「起きろ、おい」
「んー……」
ごん、と容赦なく頭にぶつけられた固い物体に、さすがに寝ぼけ眼を押し上げた。雨垂れの音がいい塩梅に子守唄になっていたのに……。
「仕事中に寝るな、馬鹿」
「いいだろう……ふぁ……昨日も徹夜だったんだし……」
「お前の副官がきりきり舞いしてるんだが」
「トルファンはやればできる男だから」
「……あいつに心底同情する。政変で首がすげ変わっていればよかったものを……」
「そんなこと、言ってもいいの?」
からかう色を宿した青い目で、法律辞典を携えている友人を見上げた。眉間のしわが物凄いことになっている。
「ぼくが推薦してあげたから君は法務大臣に出世できたんだよ、元は無名の官僚だったレイズ・テラー殿?」
「……まずお前をしょっぴくことから始めようか、給料泥棒に職権濫用の工務大臣テル・マン殿」
レイズはがしがしと頭を掻いて、大きなため息をついた。
「徹夜もどうせお前の趣味関連なんだろう。それより仕事をしろ。だいたい、人が話している最中に爆睡しやがって」
「ちゃんと後から役立つからいいんだよ……そうそう、王従医師団から面白いもの発注されてさー」
「おれの仕事の話が先だ馬鹿!」
「えーつまらない」
「は、た、ら、け!」
「いたたたたたた!痛い!痛いって!」
耳を思い切りつねられて、テルはさすがに音を上げた。痛いのは嫌だ。
しかし、働くにしても仕事は選びたい、とテルは耳をさすった。
「繁文縟礼にも限度があるだろうに、半年以上経つのにまだ片付かないってなに?」
「仕方ないだろう。これでも無能な書記官が消え去って、ましになった方だ」
「補充は追いついてないんでしょ」
「お前が王立学園からの応援に反対するからだ」
「だって使えないよ、彼ら。そもそも気に入らないんだよねーああいう人種。お高くとまってさ」
「好き嫌いにも限度があるぞ」
「少なくとも、ぼくの意見には陛下たちも耳を傾けてくださるから。ぼくだけの独断じゃないよ。だいたい、君もだろ。これといって人材に思いつく当てもないくせに」
「む……」
話は、ルシェル派が政治の中枢に食い込んでいたいた頃の負の遺産のことだった。レイズとは着任当初から――本当はそれ以前から、無駄に増えた意味のない法令や法律を適用する側の利得しか考えないようなクズな法令は、抹消するべきだと話していた。テルは前任法務大臣が大嫌いすぎて接触すら最低限しかしていなかったのだが、これ幸いと空席になってからはその友人を頭に据えてもらった。
レイズは土地を持たない下級貴族で、テルは才能を買われて一代貴族となった元平民だ。元々同じ工務省で研究や下働きをしていた頃からの付き合いの二人だが、テルが先に出世して身分の隔たりができても、友人関係は変わらなかった。眩しいくらいまっすぐな性格のわりに、人の世の汚い部分も確実に心得ている男で、気は利くし勉強熱心でもある。いつか上に登り詰めるだろうと思っていた。だからテルはレイズを自分の副官にはせず、芽を出すのを待って、政変でここぞとばかりに背中を押すことにしたのだ。お陰で敬語を使われない関係に戻って万々歳だ。
工務省と聞けば土木建築が真っ先に浮かぶだろうが、研究機関という側面も持つ組織であり、その対象は植物や歴史や天候、農業、経済、法律、医学などなど、多岐にわたる。だから法務省への異動と共に出世しても、法律を専門に研究していたレイズはすんなりと仕事を受け継ぐことができたのだ。もちろん引き継ぎなどあってないようなものだったが。
レイズは早速、新宰相と打ち合わせて、建国記念式典までに当面の法令の整理をして(ルシェル時代にあまりに乱立していて片付けすらされていなかった)、省内のがっつり減った官僚たちを掌握した。人材育成など望むべくもない忙しさで、それは内務省や式部省、財務省も同様だった。難を逃れた工務省から人員を応援に出し、新たに引き立てられた人材も容赦なくこき使ったが、追いつくものではない。だから、今になっても細かい法律の改廃に上から下までひいこら言っているし、大臣自らがその調整に訪ねてくるのだ。
「ここからここまでは廃止でいいでしょ。こっちは場合によっては使えるっちゃ使えるから置いておいて。にしてもルシェルも馬鹿やったねぇ。自分達で作った法律で殺された人、かなりの数だったよね」
「なら後で審議にかけるために分けておく。あれは天狗になってたツケが回っただけだろう。自分達でどんな物を作ったのかも覚えていない馬鹿どもだ。冤罪も多かったし、正直、もう後始末は勘弁してほしい。その辺り陛下たちはさすがだ。漏れなく利用して処されたからな」
「ん、じゃあその日程はトルファンがまとめておくから、項目だけ複写したものをちょうだい。……君はどう思う?幼い殿下方、本当に政変の時、なにもなさらなかったと思う?」
「後で届けさせる。――ないだろうな」
「やっぱり?」
「ベリオル殿下と同じだろう、あの方々は。ついでに言わせてもらうが、王女殿下の方だが、あの方、書記官にもなれるぞ」
「は?」
さすがに驚いて眼を丸くすると、レイズは肩を竦めていた。
「どこで学ばれたのやら、な」
「え……本当、それ?ユーリさまってそこまでなさってたの?」
「いや、陛下たちもご存知ないようだった。ご自分で身につけた可能性は大きい」
「うーわー……」
能ある鷹は爪を隠すというが、あの姉弟殿下はそれにしても鋭い爪を持っていたようだ。これまで頭角を示さなかったのはそれぞれ別の理由だが、原因は同じ。だから今さらになって目につくようになった。研究畑な一面を利用してテルと先代の工務大臣はルシェルの支配を逃れたが、本当に下手なことをしなくてよかったと思う。
「……それ、離宮の時の話かい?」
「そうだ。書記官顔負けの書類を提示されてな。訊けば殿下ご自身が作成されたと言うではないか。思わず出張を申し込みかけたぞ」
「思い止まれてよかったね。王女殿下を馬車馬のように働かせるなんておそれ多い真似をしなくて済んで」
「ああ。首が繋がってよかった」
「……陛下はどうなさるんだろうねぇ?」
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「王子殿下もねぇ……この間の視察でうちの部下を送り出したでしょ?報告書がこれまた奮っててさぁ。後宮の改築案も面白い。ちゃんと学んだことを消化して早速活用となさるんだから」
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「は!?」
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椅子に尻を落ち着けると同時に頭をかきむしった。聞きたくなかったよそんなもの!
「なにそれ!うーわーなにそれ!!全っ然笑えない!!待ってよ!君なんでそんなの知ってるの!?」
「この間、法務省の書庫を整理しているときに見つけたものがある。宰相閣下にはすでに奏上したが、なにかお考えがある様子だった。ただ、また近いうちに忙殺される物事が出てくる可能性がある」
友人の淡々とした声に、やっとテルは我を取り戻した。全く相手にされなかったことで気まずさがひとしおだ。レイズにはこういうところがある。ノリが悪いのではなくあえてスルーしてくるとか。
「……えー、やだよ。寝たい研究したい走り回りたくないー」
「覚悟だけはしておけ、元引きこもり。優秀な副官を過労死させる真似はするなよ」
「あーそうか……トルファンがいなくなったらぼく餓死する……」
「そういう意味で言ったんじゃないんだが、お前、副官をなんだと思ってるんだ?給仕係は別にいるだろうが」
「ここだけの話その二。十年くらい前の麻薬騒動あるじゃない、あの時に実は長官が給仕の下男に毒殺されかけたんだよ。隠滅を図ったコンティ家が買収しててさ。もみ消すついでに工務省を我が物にってね。幸い今の宰相閣下の機転のお陰で難は逃れたけど」
「――待て」
今度はレイズがはっきりと顔色を変えた。
「おれは知らないぞ、そんな話。長官が、そんな……」
「ぼくも出世して知ったんだよ。他の省に比べても工務省は強く中立を保たなきゃ国が回らなくなるけど、それにも苦労がたくさんあるわけ。今も政変が終わって一段落ついてるけど、油断はできない。うちは多くの専門家、技術者の宝庫だ。ぼくの推挙を陛下たちがあっさり受け入れてくださったように、重要性は分かる者にはわかるから、大変だよぉ」
「……お前も、まさか、殺されかけたり……したのか?」
「だからトルファンを副官につけたのさ」
トルファン・サルシエは伯爵家の三男坊で、医学畑から事務処理の能力と貴族らしからぬ性格を買われて工務省の副官に抜擢された男だ。テルは一代貴族なので後ろ楯は弱いし信用できる使用人とも縁がない。その分際で名門伯爵家縁の者を毒見に控えさせるとは、本来の身分で言えば許されないことだ。しかしトルファンもまた、他の省とは一線を画する工務省の重要性を正確に理解し、テルを生かすために手を貸してくれた。
長年の友人を自負していたしテルからもそうと認められていたはずのレイズは、呆然自失となっていた。
当時、レイズはテルの友人でありながら部下の一人だった。直接の上司ではなかったものの、テルを長官と仰いで働いていたのだ。そんな綱渡りのような危険を日常にしていたことに、ついぞ気づかなかった。
テルは溜飲を下げるどころではなくなり、その狼狽ぶりに苦笑した。
「陛下が毒に倒れられた時は、相当に慌てたよ。それに王女殿下も毒を与えられたことが何度もあったって知ったとき。もう、ね。情けないやらなにやらで……権力って怖いよね。ぼくは何もなかったんだからなおさら」
あの時は、滅多に怒らないテルでも激怒した。
元平民でさえ毒見役を得てうまく生き延びていたのに、王族のその任を負った者は何をしていたのだ。
その怒りには後ろめたさもあったし、同時にやりきれなさも感じていた。
至高の存在である王族直系というものが、まるで替えのきく存在のように扱われるのだ。本当なら逆で、下の者はそれを上のものへの不満とするはずのもので。いつから逆転したのかと言えば、十数年間が最悪な形で歪めていったのだ。ここまで常識が欠落できるとは、と戦慄したことも覚えている。革命、簒奪という手段でなく、あおがれる身分に据えたまま、ただひたすらに歪に扱う――そうなれば王女殿下の「侍女嫌い」は当然だとも思えた。
「手出しできないことがそれはそれは歯がゆくなってさ。筆頭王従医師殿を全面的に支援したし、いつくか毒に関する試案も提出させてもらった。あの嵐のような忙しさの中でだよ?そんなわけでぼくはもう働きすぎて疲れてるんだよ。もう隠居したいくらい」
ぐでーとテーブルに伸びると、レイズは衝撃から立ち直ったように、ため息を深甚とついていた。
「……でも、しないだろう、お前は」
レイズは言いながら、友人のつむじを黒い瞳でじっと見下ろしていた。だらしない男だが、それだけならレイズはテルと友人関係にはならなかったし、テルが工務大臣になるはずもなかった。
「どうしたってあと五年はなんだかんだで忙しいだろうが、全て見届けるつもりなんだろう」
「……」
「責任感が強くて結構なことだ」
「ねえ、誉めてる?その物言い誉めてるの?」
「さあな」
無駄話が過ぎた、とレイズは立ち上がった。そろそろ法務省に戻った方がいいだろう。
レイズは元来立ち直りが早い男だった。
問題に直面しても切り換えが早く、拘りなく解決策を模索する。その能力は、今現在、ごみの山である法務省で相当に役立っている。真面目で案外面倒見がいい性格も、部下から慕われる要素だ。テルと友人だったからこそ身につけたものが大半だった。なんといっても、かつてのテルは研究に傾きすぎるゆえに重度の生活不能者であったので。
うだうだしているテルを一人置いてさっさと法務省大臣の執務室を出たレイズは、回廊に出て、歩きながら窓の外の雨模様を眺めた。近習もいない人手不足ぶりなので、たった一人で動き回るしかないレイズだが、気楽と言えば気楽だった。そういえば、テルも近習をつけるのは苦手のようだった。
これが高位貴族の大臣になれば、自分の家から従者を連れてくるものだが。
(おれに手伝えと言いたいなら、そうはっきり言えばいいものを)
雨は降りしきる。しかしいつかは晴れるように、政変を過ぎてなお王国にかかりつつある暗雲も、いつかはどこかへ吹き飛ぶはずだ。
吹き飛ばすのは政治家たちだが、国の歯車である自分たち官僚が直接には動くことになる。
手足には、手足なりの矜持というものが存在する。ただ上命下達に働くばかりではない。陛下たちがそれをよくわかっていらっしゃる様子なのは、大臣になって直に接する機会を得て、人柄や能力に触れて知った。
だからテルは殺されかけても投げ出さないし、レイズも大出世に尻込みする気持ちを切り換えた。
(昼寝は、よく晴れたときにするのも乙なものだろう)
ーーー
長官、大臣の名前の使い分けについて
官僚機構において各省の長は大臣という名称であるが、これは対外的な体裁の面が強い。省内部の部下からは長官と呼ばれる。よその省の大臣は大臣と呼ぶ。
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