孤独な王女

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コケても歩く

不良学生③

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 始業式の前日。夕方、やっとヴィオレットは入寮した。
 出迎えは王女の時で反省したのか最小限必要な人員のみで、野次馬は皆無だ。お陰で、ぎりぎりまで公務をしていてへとへとになっていたヴィオレットにとっては楽な顔合わせになった。
 しかし、それも男子寮に踏み込むまでのことだ。立太子こそされていないが、次期国王と目されているヴィオレットが現れて、学生が浮き足立たないわけがない。護衛のティオリア、侍従のワルター、侍女のナキアがお供である。彼らは王子の側付きである誇りを胸に堂々と付き従っていたので、ヴィオレットの容姿を抜きにしても目立つ一団だった。

 人がいいヴィオレットは、学生と目が合えばにこりと微笑み、年下の子どもが見えれば手も振った。元々の美貌に最近の疲労が陰を作り、ますます輝きを増しているので、道を進んだその背後には屍のように立ち尽くす少年たちが取り残されている。そんな単純な連中だけならよかったが、お近づきになろうとする者はやはり大勢いた。夕食を食堂で摂るときも、そこから部屋に帰ろうとするときも、ヴィオレットの周りに人がごった返した。笑顔で対応するのはいいが、次から次へと話しかけられてせっせと給仕するワルターはキレ気味だったし、ティオリアも牽制にてんやわんやして、せっかくの食事など味わえるものではなかった。
 寮のほぼ中心にある談話室や遊戯室に誘われたり、後日のお茶会やとにかく挨拶だけでもする輩が云々。
 弱味を見せられないヴィオレットにとっては苦行のような時間だった。
 部屋まで、まだ遠い。さすがに人酔いしはじめたところで、不意に廊下を涼やかな風が吹き抜けたように感じた。

「はーい皆さんどいてー。そのまま散ってー。日が暮れて長いのに騒ぐんじゃないぞー」
「イオンさま……と、リィ?」

 ヴィオレットは目を丸くして、その二人が近づいてくるのを見守った。
 二人とも楽な私服姿で、威厳もへったくれもない。しかし、この数日のうちに二人は、男子寮内でアルビオンに連なる者として一定の畏怖を得ていた。今や王子王女の後見人、この家に逆らってはいけないという理性だけは辛うじて残っていた様子で、生徒たちは二人のために道をあけ、そこをまず先に通過したのがリィだった。お会いできて嬉しいです、と他人行儀に挨拶するのは人前なので理解はできるが、他が理解できない。

「……ぼくも、会えて嬉しい、けど。リィ」
「部屋どこ?」
「もうすぐそこだよ。なんでここにいるの」
「イオンが最上級生なのはご存じですか?先輩だからってことで、たびたび色々教えてもらってたんです。今日は殿下がいらっしゃるのを待ってました」
「まさか……リィ一人でここまで来たわけじゃないよね?」

 追いついてきた前髪の長い少年にあらぬ疑惑をかけてしまったところ、リィはあっさりと首を振った。

「今は目立つから引っ込んでもらってるけどガルダも一緒」
「ならいいか…………ん、いいのかなこれって」

 普通こういうときは女性が同行するものではないのか。しかし男装している姉にそれを言っても始まらない。
 真剣に首を捻る弟の様子は無視して、リエンは、周りをティオリアと共に散らしにかかっていたイオンの腕を引っ張った。二人のお陰で、廊下に王子を中心とした異様な空白が作られている。

「ほら、挨拶するんでしょう」
「はーい、強引だなあもう。呼んでくれれば行きますよ……」

 ぼやきつつ、イオンは前髪の半分から右側の部分を耳にかけ、青い目を露にした。
 そして麗雅にお辞儀をした。

「お初にお目にかかります、ヴィオレット王子殿下。ワタシはイオン・アルブス。アルビオン領主エドガー・アルブスの三男です。この度学園の先達として、また恐れ多くもご学友として、殿下のお側に参ることとなりました。以後お見知りおきください」
「……学友?」
「やっぱり殿下もご存じなかったんですね」
「うん。え、リィには?」
「ないわよそんなの」

 さも当然のように言い切った姉にヴィオレットの目の色が深くなった。しかし声を出す前に、「本当なら明日、始業式の後のつもりだったんですが……」と言いつつ、イオンがつかつかと人だかりの方へ歩いていった。

「前日からこの騒ぎじゃ、鎮める意味も込めて今日のうちに済ませることにしたんだって。でも、もう帰るの、イオン」
「いやー、ちょっと待っててくださいね。えーと……この人数だと探すの面倒だな。――アルフィオ。ウェズ伯爵家のアルフィオ、いない?」

 ざわりと人だかりが揺れたし、王族姉弟も驚いた。別々の理由で。

「え?あの子も学園に来てるの?」
「アルがどうしたの?」
「アル!?そこまで仲良くなったの!?」
「そこまでってなに?」

 驚き冷めやらぬ姉弟の前に、イオンに連れられ現れたのは、照明に当てられ金に輝く薄茶色の髪に、青い瞳の少年だった。
 二人が旅行中に知り合った、アルフィオ・ウェズその人である。今この場の視線を一身に集めているが、本人はかなり居心地悪そうだった。

「ち、遅参いたしまして、誠に申し訳ありません」
「ほら、挨拶しときな。今しかないぞ」
「はい」

 アルフィオははじめぎくしゃくしていたが、イオンに背中を押されて気持ちを切り替えたのか、キリッと引き締まった顔になった。

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ヴィオレット王子殿下。ひと月ぶりでございます」
「うん。頻繁に手紙送ってくれて、ありがとう」
「いえ……。ぼくも、イオン殿と並び殿下のご学友としてお側に参ることとなりました。よろしくお願いいたします」
「それはぼくから言うことだよ。こちらこそよろしくお願いします。イオンさまも」
「恐れながら、殿下、ワタシのことはぜひイオンと呼び捨てにしていただけると……」
「わかりました」
「敬語も止めていただけませんか?」
「努力します。初めて面と顔を合わせましたが、やっぱりヘリオスさまやセレネスさまと似ていらっしゃいますね」
「…………」

 イオンは黙って頭を下げた。アルフィオも先輩に倣うように慌てて頭を下げ、さて、とその隣に視線を向けて――いたはずの人物を見つけられずに戸惑いの声を上げた。

「え、あれ?先ほどまでリィ殿がいらっしゃいませんでしたか?」
「ああ、アルフィオの挨拶中にこっそり帰っていったよ」
「以前ろくにお詫びもできなかったので、挨拶しておきたかったのですが……。彼も学生なのですよね?」
「あー、いや、あの方は外部からのお客サマ」
「そうですか。残念です」

 ヴィオレットとイオンはしょんぼりするアルフィオの肩越しに自然と視線を合わせていた。二人とも旅で何があったのかはアルフィオ本人やナキアから聞いている。かつて出会ったときは髪を染めていたはずだが、そこは照明で誤魔化されたのだろうか。
 愛する弟に挨拶もなく消え去ったその人を思い、二人は同じことを考えた。即ち。

 逃げたな。

「……まー、またワタシの部屋に来るかも知れないから。その時時間があればアルフィオのことは伝えるよ」
「お願いします!」
「眩しー……」

 幼い頃から暗い世界で生きてきたイオンには眩しすぎる少年だった。アルフィオだけではない。今回任務として与えられた、学友という地位。護衛のティオリア・ノーズリードや侍従のワルター・ディクセンの手が届かない学園生活という特殊な部分を見守る立場になるわけだが、肝心の王子サマとの対面は今が初めてだった。
 それが、影で見てきた以上に純真な王子サマであり、イオンは既に気疲れを感じはじめていた。それを表に出すことは絶対にしないが。

「殿下もお疲れでしょうし、明日は始業式もありますし。ワタシたちはここで退がりますので、ごゆっくりお休みください。よい日和になるといいですね」
「……ありがとうございます」

 ああほら眩しい。はにかみ笑顔。なんなの。さっきアルフィオもやってたけどなんなのこの年下たち。仕事じゃなきゃ関わりたくない無垢さなんだけど。

(あー、明日から気合い入れて頑張ろ……)

 王子ご一行を見送ったイオンは、前髪を戻しながら野次馬たちを振り返り、彼らが散り終わるまでその場で壁に寄りかかりながら待つことにした。アルブスの名は、かつてはともかく今はてきめんな効果を発揮する。さすがに睨まれるような愚行は避けたいのだろう、徐々に廊下から人の姿が消えていった。
 アルフィオは先に追い返しておいた。お前も寝て明日に備えとけ、と。

 こういう「影」にしてはやたらと面倒見がいい部分がサームやネフィルに評価されて王族姉弟付きにさせられているのだが、気づいていないのは本人ばかりである。














 弟たちの予想通り、アルフィオから逃げ出したリエンは、暗い道を灯りも持たず女子寮に向かいながら、ガルダに話しかけていた。

「アルフィオ、見た?」
「ええ。少しでしたが……。ここひと月でずいぶん成長したようですね。リエンさまの予定通り」
「ちょっと待った。人聞きの悪いこと言わないでよ。何も予定なんてしてなかったわよ。まさか愛称で呼ぶほどって。ティオリアでももう少し時間がかかってたのに。文通もかなりの頻度でしてたみたいだし」
「つまり仲良くなること自体は想定してたんですよね?というか、あなたがあえてそう仕向けたんでしょう。あれほどまでこてんぱんにしたのはやっぱりこのためでしたか」
「なんのこと?」

 笑みを含んだ声に、ガルダはわりと本気でため息をついた。

「同年代の騎士見習いにぼろ負けして王女に情けない醜態を晒して落ち込んだ少年が目の前にいたら、王子殿下の性格なら絶対に放置なんてしませんもんね」
「ふふふ」

 リエンは軽やかな笑い声を上げるのみで、最後まで明言はしなかった。

「校舎で出会ったら、アルフィオ、どんな顔するかな?逃げる?」
「向こうは謝罪しようとしてたのに……先にリィとして会うつもりはないんですか?」
「『リィ』は、徐々にみんなの前から消えていくよ」
「――え?」

 ガルダは思わず立ち止まった。
 ナオの話した通りなら、「リエン」と「リィ」の二面性はそれぞれ今世と前世の区切りを付けていたためだ。だから「リィ」はナヅミにそっくりなのだと言っていた。ぶっ飛び思考は除く。それが消えていくとは、一体……。

「リエンさま?」

 リエンは少し進んだ位置で振り返り、にこりと笑った。少女らしく、それでいて快活な笑み。

「ほら、こんな格好してるのに、あなたももう私を『リィ』とは呼ばない。気づいてなかった?」
「あ……」
のはやめて、今、緩やかに馴染ませていってるところ。……私はもう『リィ』になるつもりはないから」
「どうしてです?」
「――はあ?」

 リエンがことさら大きく上げた声には、驚きと不快感が滲んでいた。その剣幕に思わず直立したガルダに詰め寄ると、後退りされたのでまた一歩踏み込んで、下からぎろりと睨み上げた。

「あなたが言ったんでしょうが」
「え」
「いい。自力で思い出せばいい。教えてやらない」
「ええ、そんな」

 世にも情けない声が上がったが、拗ねるリエンは、ガルダを無視してすたすたと歩みを再開するのだった。










☆☆☆













 始業式と入学式は式典が前後するものの、同じく学園の中心に建つ大きな講堂で行われる。貴族の編入が珍しいこと、その編入生に王族や有力貴族の子女が含まれるために新たに編入式を設けようという話になったが、平民の編入は式典などないのにそれと差別するのは学園の理念に反するとして取り止めになった。もちろん当人もそんな特別待遇など望まないので文句など微塵もない。
 しかし王族への配慮が皆無なのも問題というか、先に顔を知らしめておくべきとのことで、編入生でも王族の二人だけが挨拶をすることになった。その護衛の顔も覚えてもらおうという事でティオリアやガルダも壇上に立ち、入学式の最後に行われたのだが……。

 リエンが官僚科に編入する、と宣言した瞬間、講堂がしん、と静まり返った。
 舞い降りた恐ろしいほどの沈黙は、すぐに動揺の嵐にさらわれていく。
 壇上の姉弟は一瞬でその驚愕の意味を察した。
 姉は目を据わらせ、弟はドン引いた。
 幸いと言っていいか、学園長や事務局の面々、あの日城に呼ばれた教師らは動揺を鎮めようとしてくれている。……いや、幸いではない。

「試験結果の開示もされたはずなんだけど。当事者以外に理解が及んでないなら、私が試験受けた意味ってなかったんじゃないの?」
「これ、みんな信じてなかったってことだよね……」

 動揺してない人を探す方が簡単だった。即席の篩だと思ってその者の顔を覚えていっていると、イオン以外に見覚えのある者が数人いた。中でも、特に意識を引いたのはリオールだ。実は初対面の日以来、ガルダやイオンに口々に「今はそっとしてあげてください」と言われて、会うことが一切なかったのだ。こぶはできなかったのか治ったのか。リエンの「官僚科」宣言に驚いてこそいたが、目をわずかに見開いていたのみで、醜態など晒すべくもない。冷静かつ判断力も高いと見た。イオンの評判通り優秀なんだなと思っていると、ばちりと目が合った。思わず微笑みかけたら、ぎこちない笑みが返される。どこか晴れ晴れとして見えたのは、やっと数日前の衝撃から抜け出せた証だろうか。

「リィ、どうしたの?」
「なんでもないわ。みどころがある人、何人か見つけられた?」
「リィって開き直りが早いよね……。見つけちゃったけどさ」
「気にしたってどうしようもないじゃない」
「まあそうだけど……ねえ、リィ」
「なに?」
「お手柔らかにね。みんなネフィルさまやベリオルさまみたいに強いわけじゃないんだから。手加減って大事だよ」
「それも私が気にすることじゃないわね」

 鼻で笑い飛ばした姉に、ヴィオレットは悪役顔だなあと思った。しかし全くもって反論はできない。
 ぶっ飛んだ結果が結果だからベリオルさまたちは認めてないが、物事において、リィはちゃんとぶっ飛ばないための回避策を取っているのだ。それを乗り越えてくる人たちが多いから、結果として被害が甚大になるわけで。
 せっかくできた年上の友人にそんなかわいそうな目に遭ってほしくはないので、後々ヴィオレットは、アルに忠告してやった。

「アル、あの人はあんな感じだからね。ないだろうけど変な風に絡んだらぼくでも庇えないからね」
「……一応、人を見た目で判断しないようにとは心がけるようになりました」
「いい心がけだな」

 イオンが横でうんうんと頷いていたのが、妙に印象的だった。















 前途多難にさらに難を足したような不穏さが漂う中、リエンの学園生活は幕を開けた。
 始業式のあとは校舎に移って、学級ごとで連絡事項を受け取り交流するという予定なので、みんなあらかじめ制服姿だった。腰より上くらいの長さの色とりどりのローブを羽織り、一部はバッジなどを着けている。まさかこの単純な装いの違いが、階級の差別化を図ったものだとイオンに知らされた時のリエンは、しばらく開いた口が塞がらない有り様だった。

「……いや、差別化って。それって制服の意味ないでしょ」
「ですねー」
「一応聞くけど、おしゃれじゃないのね?」
「ローブの色は、上位から赤、青、濃緑ですね」
「そんな明確に色分けされてるの!?」
「バッジは役職持ちです」
「……役職ってなんの?」
「その色組の統率的な仕事をするんです」
「はあ!?」

 なんだそのおままごとみたいな話は。ガルダが横から「色の上位下位のグループ分けの基準は」と問うと、イオンはからっと笑って答えた。

「おうちの権力でーす」
「始業式まだだけど、今から自主退学ってできるかな」

 表情筋が死に絶えたリエンは真顔で呟いた。

「学園の存在意義と平民にまで門戸を開いた意味、両方皆無じゃないの、これ」
「だから学園生について、城でほとんどいい話を聞かなかったのか……」
「いやー、早とちりとまでは言いませんけど、実際、うまくやれてる人はいるんですよ、これが。超少数派ですけど。まあ大抵は狭い箱庭での生活にどっぷり溺れてますけど」
「それフォローしてるつもりなの?」
「ちなみにこんな状態になったのは、ここ十五年くらいのものです」
「ルシェルの負の遺産ってわけね」
「そんな感じです」

 という事前情報をもらったリエンは今、ローブもなしにただの制服姿で歩いている。紺のジャンパースカートに上着を合わせ、胸のリボンもきっちり結んでいる。階級に険を示したのはヴィーも同じで、アルフィオもイオンもそれに従うように、ローブを羽織ってはいなかった。イオンに関しては必要ならば周囲に溶け込むために赤いローブでも着そうなものだが、今はヴィーの意向に沿うつもりらしかった。
 他の学生は、新入生も全員、ローブを着ている。しきたりを知らずに入寮してもそこで先輩方に「ご指導」頂いて用意したのだろう。十歳と幼いだけに、素直に従ってしまう。
 お陰で、ローブなしのリエンたちは人混みのなかでも壮絶に目立っていた。話しかける者がいないのは、始業式でのあれこれもあり、どう接していいかわからないからだ。リエンが分かれ道を淑女科のある棟に行かず官僚科の棟に進んだときはやたらと視線が集中した。
 そんな微妙な空気が霧散したのはやっと教室についてからだったが、話しかける者はみな赤ローブ、加えて話す内容は「王女殿下にもぜひ赤ローブを」ということのみ。

(これ、みんな私と同い年なんだよね?)

 思わず疑ったくらい、同じ話しかしない。収穫があったとすれば、色の差別化は教室内の序列にも影響していることと、同じ色の中でも序列競争のようなものがあることがわかったくらいだ。競うように勧めてくる赤ローブ。リエンが色分けの意味を知らないと思っているのか、「青や緑などよりとてもよくお似合いになると思います」とか言う者もいた。

(……本当に、同い年だよね?)

 なぜ誰も、リエンが色分けを知っていて無視しているとは考えないのか。あと二年で社会に出てやっていけるのだろうか、この子たち。そう思って途中までは生温い目で対応していたが、あまりにしつこいのではっきりと言うことにした。ガルダが先にキレそうになっていたが、そこは抑え、一歩進み出た。

「なぜ、私の着るものについてあなた方に指図されなくてはいけないの?」
「え?」
「そんな、指図などとは……」
「ではなんなの?私がどんな服を好もうが、どんな色を選ぼうが、あなた方に一切の関係はありません。そもそも、そんなに寒くもないのにローブを羽織ろうとも思ってない。あなた方は、今までの言動が僭越であると、自覚はしているの?」

 空気が凍てついた。
 リエンは、微動だにしない赤ローブの面々の一人一人と目を合わせていった。そこにあるのは驚愕と怖れだった。本当に、なにも疑わず、しきたりを正義と信じて生きてきたのだろう。なんとも馬鹿らしい。

「学園の規則にあるようなら、学生の私はそれに準じる義務があります。けれど、これは違うわよね?あなた方は何様のつもりなの」
「……!」

 お前たちが相手にしているのは王女だぞと暗に言っているのだが、これでも伝わっていない様子だった。いまだに謝罪もない。生温い気持ちになっている場合じゃなかった。
 ちらりと周囲を見渡せば、青や濃緑の少年たちは、これも驚くか、もしくはほの暗い笑みを浮かべて赤ローブたちを見ていた。明らかにあれは嘲りだ。引いた。

(うっわあ、ここで二年間?冗談じゃない)

 どいつもこいつも頭がおかしい。
 結局そのあと、担当の教師が来るまで、リエンは気味が悪い空気の中にガルダと共に突っ立っていたのだった。

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